ワクチン受診が増えてきた。世間的には「今年は早く流行るらしい」と噂が流れており、早めの注射を希望する人が多い。小児も診察数をこなした分、接種にも慣れてきた。

 が・・・親は子供をちゃんと押さえててくれ!危なくてたまらん!

 そこの職員!<もむな>といっただろうが!
 予想したように、上記の言葉がメディアに飛び込んできた。これから流行るものと思われる。

 僕のこれまでの経験では・・・

・ 歩行も普通で働く能力もあるのに、何故か生活保護を受けてる患者 → 介護タクシーを使いまくったり、もらえる薬をどんどんもらう

・ アルコールで酔っては、毎度のように点滴を受けにくる患者、それを注意せず病院へ運ぶ家族

・ 結核菌でガフキー強陽性なのに(つまり強い感染力がある)、入院勧めたとたん怒り出し院外へと消えた患者

・ せっかく大がかりな検査・オペの準備をしたのに直前に電話1本で(理由・謝罪なく)断った患者

・ 初診。受付時間終了直前。かかりつけの薬なく、入院の準備までしてやってきた患者

・ 倦怠感で精査、異常ないとの説明後クレームを出し現金返還を迫る患者

・ 仕事優先でムンテラは日曜日しか来れないという患者家族

・ 絶食でいきなり来院し、胃カメラしてくれと要求する患者

・ <たけしの医学>を教科書に、挑戦してくる患者

・ ペンタジン中毒

・ 患者家族がナースで、何故か自分の病院に入院させず他院に入院させた上クレームばかりつける人。

・ 説明しても途中で何度も大声で腰を折る、患者・家族(聞く耳持たず)。

・ <お偉いさん>を重要参考人のように連れてくる家族。

・ 入院日数、指定してくる人。

・ 厚生省への不満、スタッフにそのままぶつけてくる人々。

・ 数少ない休暇、休んだスタッフを恨めしむ人々。

 文がだんだん、渡辺美里の歌詞みたいになってきたな・・!

例)非常階段 急ぐくつ音
  眠る世界に 響かせたい
  空地のすみに 倒れたバイク
  壁の落書き 見上げてるよ

 
 ブルーレイレコーダーが年末商戦に控えている。4倍録画とか謳い文句もあるが、互換性の問題があるし圧縮の弊害など、いくつか疑問がある(つまり見切り発進的)。だが何よりも、レコーダー使うくらいならダブルチューナーでないと・・・。録りたい番組というのはゴールデンタイムなど同時刻に放送されることが多いからだ。

 自分は1週間にハイビジョン映画など平均16時間見ている(パッケージソフトを除いて)。2時間25Gバイトとして、ということは200Gバイト。1週間に予約する番組数もこれくらい。余裕を考えると500Gモデルで十分ということになる。一生のうちに見られるコンテンツは、意外なほど少ないかもしれない。

 で、あの作品がブルーレイで来年2月に発売される。

 バブルの真っ最中、公開。特筆すべきは、無駄なく飛び交う名言の数々、カメラワークのような画面の動き(左右、斜めを駆使)、カタルシスを感じる音楽。医局では「あれ、両方とも死んだんだよ」という噂だが、明白な根拠はない。

 「地球の人間は、大地に魂を縛られた人々だ!私がそれを粛清しようというのだ!」(シャア)

 「だからこそ人類に、希望の光を見せなくちゃいけないだろ?」(アムロ)

 もっともらしいアムロの言葉。しかし今となっては虚しい。

 こういうセリフが浮かんだ。

「大学病院の人間は、教授に魂を奪われた人々だ!私がマッチング制度でそれを粛清しようというのだ!」(国)
「ふざけるな!たかが研修医などいらん!中堅だけで戦ってやる!」(大学病院側)
「医療の崩壊はもう始まっているんだぞ?」(国)

 新制度は、伊達じゃない!(皮肉)

追記)

 「早く民間で第一線に立たせてください!そのために研修病院もあちこち回ったんだ!」

 「そんなことじゃあ、ハサウェイも大学に引っ張られるぞ!」

 スタローンさんは、どう思われますか?

「アムロもシャアも、信念のある人間だ。しかし指導する人間が私念で動いちゃいけない。下の大勢が迷惑するからな。俺も這い上がるまではずっと下で働いた。命ずるままにな。でもそのうち見てろと目論んだ。だから俺はシャアの気持ちが分かる。だが上司に復讐はしなかった。むしろ敬意を払った。お前もこれから命ずる立場の人間だ。だが下の人間のことを考えろ。お前1人の独断で、数百人が助かるかもしれない。事務をジム扱いするようなことはするな!ただしコアなファイターなら歓迎だ!ジークジオン!」

 あなたは医者に、向いてない(殴)!←こういうセリフ、ありげだな。
11月03日付 朝日新聞の報道「開業医の診察料分減額 夜間は増やす 厚労省検討」へのコメント:

 基本的に開業医は、毎日働かないとやっていけない。僕の知り合いも夜間外来の方向に考えがシフトしてきているが、悩みはやはり<人件費><睡眠時間>だそう。

 夜間だとスタッフの時給を数百円上乗せする必要があり、その分回収する覚悟が必要だ。夜に来る患者というのはホントに調子が悪い人が多いので、時間もかかり単価が安くなる(緊急採血の結果がその日に出ないのが痛い)。点滴も必要になったりしてベッドが占領される。午前は定期患者でハイ!ハイ!と流れていくのだが・・・。

 人件費の悩みもある。事務員やナースらは自分らが希少価値だと分かると徒党を組んでギリギリの交渉を持ちかけるのが珍しくない。「そりゃ明日から夜残りますけど、現時点の時給なら私達全員休みますが何か?」とかいう風に。篠原涼子も真っ青だ。

 ともあれ友人の独身開業医によると、おおよそ以下の生活になっていくという。朝8時半から診療開始→午前診2時終了→昼ごはん(早食い)→往診→夜診(9〜10時)→病名チェック・書類→晩ごはん→0時帰宅。趣味などできない。平日休診日は大事な臨時収入(寝当直)なので外せない(この日は返済ローン日みたいなものなんだよ)。

 対策として、午前・夜診療受付の早期終了、それと事務員・ナースの残業外し(定時で帰らせ、あとは院長がやる!)。あとバイト医師を安く?雇う手もある。

 また現状など分かればここで報告していきたい(←伊関さん?)。

 ではスタローンさん。勇気づけてあげてください。

「新規の開業医が増えている。お前もその1つだ。診療報酬が下がる?それがどうした。患者が増えないことへの言い訳だ。賑やか開業医はそんな体制にはビクともしない。その動じない姿勢に患者はついてくるんだ。体制につられてコロコロ変えてみろ?この医者へタレか?って思われる。大事なのは君が患者を磁石のごとく引っ張ることだ。誠意を尽くせ。苦しい時こそ笑顔を見せろ。待たせたら謝れ。無理なことは悔しがれ。開業医らしくなるな。こいつは違うと思わせろ。すると患者はその日の晩餐で君の感動話を持ち出すさ。次も行こうと思う。すると家族も行く。近所の住民も。彼らが君に根ざしていく!」

 ドラえもん、こういうのが欲しいよ・・・。


 

昭和ブーム

2007年11月5日 映画
 ノスタルジックな家族愛を、人はみな<昭和>に求める。だが自分にとって、昭和は受験戦争そのものだった。

 世間は平和な年功序列モードで、電気・電子工学科など理数系がかなり持ち上げられていた。自分も、模試の時は医学部の滑り止めとしてその科を選んだ(邪道だが)。科によっては将来性まで透けて見通せたほどだ。

 結局予備校に行ったんだが、当時は「今 予備校が面白い」と言われたくらい活気があって人気講師の教室に<親衛隊>まで現れた。「冬物語」が一部予備校生のバイブルに。寮では<しおりちゃん症候群>なる者まで現れた。

 すでに大学生になった友人の下宿でファミコン。そいつは合コン。河合塾のチューターは<C判定>でも気軽に受験を勧めた。予備校は成功者になるための、休憩地点にも思えた。

 このように自分なりの昭和を振り返ると、雰囲気自体が前向きだったように思える。そこで浮かぶのが、ミスチルのあの歌・・・「未来」。

 ♪
  生まれたての僕らの前にはただ 果てしない未来があって
  それを信じていれば 何も恐れずにいられた
  そして今僕の目の前に横たわる 先の知れた未来を
  信じたくなくて 目を閉じて過ごしている

 目を閉じたところ・・・そこ(昭和)で人々は、子供に帰ることを許される。

 ただ、ノスタルジーはある意味危険だ。

 <ニューシネマ・パラダイス>にて。

 「郷愁に惑わされるな。自分のすることを愛せ。かつて映写室を愛したように。我慢できずに帰ってきても私の家には迎えてやらない。 わかったか?」

 このじいさんの言葉の意味が、ようやく分かってきた。

 スタローンさんは、どう思われますか?

「昭和を懐かしむのはいい。俺は責めない。感傷は必要だ。人生の栄養だ。だが今過ぎ去る時間も、やがて振り返るためにある。誰がって?もちろん年老いた君がだ。その時君は、廃墟の未来の子孫に何て話す?俺なら苦労話がいい。<俺はあのときこういう苦労をして、そのお陰でお前が生まれた。だからお前に会えた。愛してるぞ>そう言え。だからお前も今の苦労を拒むな。むしろ感謝しろ。振り返るたび1秒1秒は掌の砂のように逃げて戻らない。大切なのは思い出になる<今>なんだ」

 な、なんかやれそうな気がしてきたよ・・・!

寒プライムの余波

2007年11月11日 読書
 
 ふだんから病院に不動産関係者が頻繁に出入りしている場合、今回サブプライムの余波で(その業者にとって)悪影響を受ける可能性が高い。

 病院は建物あってのものなので、改築、増設、はたまた関連施設の建設(高齢者向けマンションなど)にまでその業者に頼むことになる。

 特に歴史の長い病院は、繁盛はしてても安全強度の関係から建て直しが必須であり、建築基準改正にいちはやく気づいたクレバーな病院・業者は、新基準前に素早く再建手続きを行っている(結構知られていない)。

 ちなみに言っとくが実際に仕事をするのは工務店であって、彼ら建設業者は主に設計だけ行い予算を限定、その厳しい予算内で工務店を働かせ中間マージンを頂くのが目的だ。

 サブプライム+新基準で施工自体が難しくなると、病院にもリフォーム・増築のプッシュをかけてくる。これから不動産は、実に巧みな方法で売買を仕掛けてくる(エコがらみとかありそう)。

 大きな病院で忘年会がある場合、不動産業者は(上層部へのアピールのため)紛れてやってきていることが多い。いろいろ話が聞けると面白い(他人事だからか?)。

 さてテレビでは、こういう業者が<困ってる>ことは絶対言わない。あ、でもスポンサーのないNHKは別。

 そういう意味で、NHKを見ることが多くなってきた(ただし政党びいきには注意)。

 なので開業の夢は置いといて、屋根の上での高見の見物としたい。ガラガラうわっ(耐震不足)!
 結局、ゆとり世代は何だったのか・・・。ゆとりは、そもそも多忙・努力したあとの褒美として重宝されるべきものだろう(そう簡単に手に入らぬ)。ゆとりから経験させちゃダメだ。

 医者の師弟関係もかなり変わってきている。最初から甘えさせられた(安心感を植え付けられた)医者は、自己主張が平気=兵器になりその後ロクな奴にならない。まず周囲の空気に気付かない。まず自分を軸に考えるからだ。思いどおりにいかない→みんななぜ?という公式が出来てしまっている。

 新制度以降も、「どうせ医療は崩壊してるから」という妙な<後ろ盾>があるため「あ、だから頑張らなくていいんだ」的な発想に安易に陥らないでほしい。

 スタローンさんも、何か言ってください。

「今の若者は、ユトリというぬるま湯に漬かり過ぎてフニャフニャだ。ぬるい風呂に長時間つかってるとシワシワになるだろう?俺はユトリは否定しない。だが世の中というリングは厳しい。容赦などない。では大人と戦えって?それは無理だろう。オーケイ、俺ならこう考える。まず同世代といると安心感を感じるか?流れに身を任すな。任せた流れは、重力で下に流れるだけだからな。待ってるのは無気力だ。人生の意味がない。流れに任せてる多くの若者に、真の生きる姿を見せてやれ!」

 医療に結びつけてください。

「医療は人と人とのぶつかり合いだ。美化するな。お互い傷つくこともある。だがな。避ければ相手もお前を避ける。つながるはずの絆が永遠に失われる。何かを感じるか?その思いを大事にしろ。だが思うだけでは何も伝わらない。あいにく俺らは人間だ超能力はないしな。医者として向き合うなよ人間としてだ。技術という前に相手の話を聞け。もうお前は必要とされてんだ。それに感謝しろ。したなら次のステップだ。医者としての医療で返せ。正しい羅針盤でこそ正しい技術が備わる。医療が崩壊だって?患者はそこにいるんだぞ。君の目の前にな。システムが何だ?惑わされるな。迷わず助けていけ!お前の役目だ!奇跡を起こせ!」

 さ、最後の1人になってでも戦えそうな気がするよ・・・!
 
 「ザ・ロック」を見た人は読んでください。

 昔。好景気下で、大学病院への支援を強気で断った自治体病院・・・復讐に燃える大学出身のハメル。忌わしい過去。

「(交信)こちら大学は入局者が足りません!・・・お前ら。世話した大学を見放すのか?」

(炎)

 ハメル一行の大学部隊に、あっという間に占拠される、田舎の自治体病院。常勤医師全員が人質に。新制度のもと助けに来た研修医の力も叶わず。

「常勤の医師7名は確保した。民間病院で苦労した医師への未払い給料を自治体が支払わない限り、この自治体病院の医師は1人ずつ大学へ引き上げさせる」

 悩む自治体。苦心の末、主役の開業医・パート勤務医が派遣。開業医コネリーは山奥で幽閉されていたのを無理矢理。だがコネリーは夜這いの経験で侵入路を知っていた。パート医ケイジが従う。

 途中、何度も逃げようとするコネリー。
 「アイホウプ!エンシュア!じゃないエンショア(保険で修理を)!」

 でもなんとか到着。

 「ウェルカム・トゥ・ザ・ジッツ!(ジッツへようこそ!)」

 奮闘むなしく、1人ずつ大学へ戻されていく常勤医師たち。ついに全部送られ、ケイジがとどまる決意をする。しかし、自治体は決意。

「医師は全て引き揚げた。残ったのは不良債権となる病院だけ。苦しい決断だが破壊は止むをえまい。不動産を向かわせろ」

「うわああ!」(両手で合図するケイジ。硫アトで頻脈)
「しまった医師がいました!ジーザスクライ・・」

 不動産の鉄球でドカーン!と病院が一部大破。しかしかすり傷。ハメルは大学の名義貸しがバれ、逮捕。

 コネリー開業医、病院を去ろうとする。
「ここで開業するのか?今どき開業は難しいぞ?私は去る」
「あんたは死んだことにしとく。ゆっくり休んでくれ。1人ででも、きっといい病院にする」
「医者だったんでありがとうを言わなかったが。ありがとう」 

 去るコネリー。残るケイジ。

 自治体が到着したとき、ケイジはおらず。その代わり・・・

「私です」NHK<ハゲタカ>の鷲津。「ケイジ先生より、我々がこの病院を買い取りました。あとは我々が全てやりますので。どうしようと私達の勝手ですから。金儲けの何が悪いんですか?それで医療が続くなら」

 後ろでほほ笑むケイジ。すべては計算だった・・・!

 ハゲタカ一派の奴ら・・・!
 
「マンスター?ミー?(モンスター?俺がか?)」←トム・クルーズ風・ひきつった上目遣いで。

 モンスター・・と言うと患者が一方的に悪い印象になるのでそう表現せず、<サーガ>は全部ひっくるめて「モンスター話」とさせてもらう。

 モンスター話の種はあちこちにある。怒りは抑えてても、何かの拍子で爆発する。そのキッカケに注目したい。

 以下は、いろんな患者・スタッフらの話を参考にした。まずは外来編といこう。

□ 駐車場 ・・ キャパが少なく止めようにも止めれない(満車)。特に大学病院など。駐車場を管理する天下りオッサンがうるさい(融通がきかない)。

□ 受付(事務員) ・・ 対応が素人(頼りない)。傍若無人(投げやり)。謝らない(その素振りがない)。向こうで喋ってる(異様なテンション)。声かけても無視(あるいは鈍感なのか)。

□ 診察前検査 ・・ 行先の順路が分かりにくい。何故か割り込まれた、その説明がない。どこで待っていいか分からず、知らない間に呼ばれてた(徹底してるとこはポケベル持たせたりする)。トイレが満員。

□ 診察 ・・ 数時間待った割にたったの数分。主治医が説明なしに代わってる(張り紙なしに辞めてる)。その結果ストレスで上がった血圧で評価されてる。時間外の対応法(受診先など)を教えてくれない。家族の仕事など無視した付添い依頼(命令形なのが気に食わない)。 

□ 薬受取り ・・ 主治医と違う内容説明(でしゃばり薬局の場合特に)。数が足りなかった苦情への謝り一言がない(真偽が判明しにくいことが多い)。

□ 支払い窓口 ・・ 大声・平気で高額をのたまう(周りに聞こえてるよ!)。指導されてないのに取られる<指導料>。

 これらの是非はケースバイケースなので、一般的に論じることはできない。でもこれで何か参考になった場合は有難い。

 確かなのは、ストレスというのは地震のようにプレートが引っ張られ引っ張られやがて・・・カクン!と戻されたはずみ(キッカケ)で一気に噴き出すものって事だ。

 うちの病院ではひどい苦情は寄せられておらず、せいぜい<ポケットモンスター>どまりだ。

 「行け!皮下注(ヒカチュウ)!ワクチン攻撃だ!」

 「ヒ〜カ〜!」←いちいちこう反応するスタッフが寒い。
11月16日付 朝日新聞の報道「請求遅れで時効の年金、8年間で2041億円」へのコメント:

 国家詐欺だと言われてもおかしくない。時効も計算済みだったものと思われる。

 ただ大阪に住んでると、こういった考えを目論んでる連中が特に多いのに気付く。もちろん経営者の側の人間の話だ。不経済教科書としては最適な街だ。

 「サーガ」を立ち上げるに従って<調査>をするに従い、様々なコネを作ってきた(リスク・犠牲もあった)。ポーカーフェイスでの付き合いを何とか保ちながら。

 コネが出来ると経営者の考え方に触れる機会が多くなる。だがそれらは、結局同じ所(個人の利益)に向かって収束していくように思える。個人の利益から逆にたどれば、それは一族経営や人件費削減など今日のテーマが浮かび上がる。トピックス的には前者は吉兆、後者はトヨタだ(カニの産地偽装や農協の混ぜ米も明らかになるんだろうか?)。

 経営者でなくとも、診療以外で医師にできることは何か?それは、騙されている患者を1人でも導くことだろう。年金の次は医療費が狙われると(自分は)見ている。

 騙されるにはいろいろあるが、例えばそれは間違った診療であったり中間マージンを漁る人間(健康器具販売など)、テレビ報道(情報操作)に、それと・・・間接的なものとして医師自身の苦手意識と妙なプライドなどが患者の不利益につながる。

 これからは<病気を治したい>という考え方だけでは、足りないかもしれない。

 
 最近、いつになくNHKの番組に注目することが多い。民放はふざけた番組が多く、生放送では途中で(問題発言があると)いきなりCMが入ったりして不快(でも「ガイヤの夜明け」は良い)。

 NHKもそれなりに偏りはあるようだが、難解な要点を分かりやすく(低次元でなく)まとめているという点で好感が持てる。

 で、11/20 クローズアップ現代 ADR(裁判外紛争解決)の特集http://www.nhk.or.jp/gendai/

 血の通った話し合い。医療側と患者側の歩み寄りがいかに大事か。お互いの意見を尊重した上で自分の意見を伝え、誤解ないよう理性的にまとめていく。

 交通事故でもそうだが、顔合わせのない話し合いだと不必要な感情だけが込み上げたり、妙な家族が知恵を吹き込んだりということがあって却って悲惨な結果を生みかねない。ここでお互いの言い分を聞く第三者の存在が貴重となる。

 これは普段の人間関係と同じで、ちょっと小さな争いがあったとしてその後お互いの出方次第によってその後が変わってくる。無視したらお互い無視したままになったり、冷静な話し合いですぐ片付くケースもありうる。これは恋人・夫婦関係などでもあてはまりそうだ。

 日本は徐々にアメリカ化してきているが、日本人特有の歩み寄りの精神を失いたくない。

 君の周りにそういう人(先に歩み寄ってくれる人)はいるか?その人を謙遜すべきだ。今の時代、そういるものではない。

「先生。スロット負けたんだろ?もっと金、貸してやるぞ。だが返してもらう。それがこの業界の掟だ」

 お前は<ウシジマくん>か!
 
「ああ〜月曜日か!だるる!」

 電車通勤で駅を降りて、歩くこと15分。

「ラビザミ〜ステリ〜・・・フフフフよ〜フフ〜」
時々、耳からこぼれおちるイヤホン。
「ラビザミ〜ステリ〜・・・」

 やっと病院が見えてきた。巨大な駐車場はまだ空っぽ。おっとその前に、大通りの赤信号を待たねばならない。

「・・・・・」

 日曜日は起こされずに済んだ。それがラッキーだ。人手が少なく、大学は人手をなかなか寄越さない。どこかで名義貸しの事件があって、それ以後渋ることが多くなっていた。

 ピッポー!ピッポー!と青信号。気が遠くなる距離を焦って歩く。

 大きなゴミも目につくが、拾う気力がない。私の仕事ではない、と今思ったのは自分か?

「トシを取ると、言い訳ばかりが口を突くものだよ・・・」

やっとエレベーターへ。受付けはシャッターしたまま。

 忙しい冬だったが、なんとか早朝出勤は守っていた。2002年1月。

 エレベーターを閉めようとしたら・・・

 タタタ・・・!誰かが思いっきり駆けて来る。殺意を感じ何度も「閉」を連打。

 しかし手が入れられ、ドアは開いた。
「うわっ!」
「いひひ」

そうじのオバサンだ。茶色いグラサンをしている。

「おはようございます」
「・・・悪い患者さん、いますんかい?」
「いや。いつもこれが日課で」
「沢田さんは、あれ以上治療するんかいな?」
「ちょ、何を・・」
「いやいや。気になってな。家族の人が知りたいって」
「やめてくださいよ・・・沢田さんはトシ坊の患者さんで。わぺっ!」

オバサンの持ち上げたモップが口に当たった。

「ぺっ!ぺっ!」
「おっとと!言うこときかんかいオラオラ!」
オバサンはわざとらしく、モップのせいにした。

「どある・・・!」

 医局をガラッと開ける。テーブルの上に、散らかったお菓子の袋に出前のラーメンの器など。
「食べすぎだろ・・この当直医」

 ソファの真下に、ペンやポテトチップ、ティッシュ箱が落ちている。
「てことは。呼ばれたか?」

 医局内には当直医が見当たらず、当直室の内線も不在。トイレも電気がついてない。どうやら病棟などに呼ばれているとみえる。本来、ここで申し送りを行うんだが。

 仕方なく、病棟へ降りることに。

 詰所は・・・ピロピロというモニター音のみ。モニターの脈はマラソンのようにやや速いが通常通り。モニター画面に反射する人影。しかしそれはスタッフではない。

「・・・・・」

 シローの受け持ち患者のじいさんだ。車いすに座ってる。脳梗塞後遺症で今回狭心症。カテーテル検査をではあちこちに病変があり、主要なとこだけ拡げた。ふだんの安静度(車いすまで)も考慮し最小限の処置となっていた。

 僕をずっと見つめている。点滴がつってある。

「そっか・・じいさん、また暴れたんだな。でももうすぐ退院だろう?」
 看護記録をサラッと見る。

<0時 不穏あり。当直医に連絡。「主治医へ連絡を」。主治医にTEL、鎮静剤の指示>
<1時 注射全く効かず。不穏強く抑制。30分後外れている>
<1時半 主治医に報告。つながらず。当直医に連絡。つながらず>

 おいおい・・なんで当直医が<つながらず>なんだよ・・・。主治医のシローも災難だな。

<2時 家族に電話。留守電。同室者より苦情あり。詰所へ連行>

連行とは何だ。連行とは・・・。

「あ、来た」
詰所の奥より、寝ボケた若ナースが1人。化粧が落ちて、まるで少年のようだ。
「来た来た。ヒーッ(あくび)。はっ!はっ!はっ!はは・・・!」
「どある。最後までアクビしやがって!」

ヒタヒタ、音が聞こえる。すると・・

「ああっ?おい!」
「へっ?」

気づいたとき、じいさんの下は小さな血の池だった。
「ば!ばかやろ!」
僕は思わず、じいさんの点滴の入ってるであろう腕をつかんだ。
「あ、ごめん。コイツにです!」

そのナースは他人事のように落ちついていた。

「何してんの先生」
「し、止血を!ひっこ抜いたんだろ多分!」
「点滴、足やで先生」
「なっ・・・!」

  ナースは脚の出血部位をしっかり押さえた。

「目を離したら、いかんだろが!」
「あ〜焦った焦った」
「もっと出血してたかもしれんだろ!」
「・・・・・」

 内容が内容だけに怒って当然だが・・・しかしこの頃、僕はかなり怒りやすくなっていた。僕らが僻地から戻ってここでの勤務を再開したとき驚いたのは・・・入れ替わってたナースら面々の、非情なほどの非常識さだった。

 当院の再出発にあたって給与面など待遇面が大幅に見直され、事務長の提示した条件に反対するナースが続出。下がった給料と今後の激務(それまで割とヒマだったらしい)との割が合わないというのが本音らしい。

 医療従事者のサラリーは、(今のところ)世の流れにそれほど左右されない。しかしプライドがみな高い分、<割に合う>以上の額を要求してくるのが常。事務長はうつ傾向になり、頭に円形(脱毛)が出来ていた。

 それなりに能力のあるナースらが、みな転職してしまった。ガサツな非常識ナース、オークナースらは皆残った。性格に問題ありのナースは、仕事面でもそれが顕著だった。

 それにしても・・・こんなに性格が出る仕事(医療従事者全般)なんて、ほかにない。

「主治医のシローが来たら報告して、家族に説明するよう段取りしなよ!」

 じいさんのバイタルを確認し、カルテを閉じた。

 すると、奥から出てきたのは・・・白衣の男。当直医だった。

「おはようございます!サンダル先生っすよね!光栄です!」
アカぬけたジャニーズ中年。僕より年下のはずだが・・無礼者。何度か話したことはある。彼はどこかガニマタで、僕らは陰で「ガニーズ」と呼んでいた。
「なんか、色々あったみたいだね〜!」

 当直医によくある、疲れを通り越したハイな状態。しかしこの男はコールにまともに対処せず寝ていたようだ。寝ぐせで分かる。

「ちゃんと電話!出ろ!」

 なんて言えない言えない。彼は僕が所属してた大学医局から来てもらってる。もちろん患者への不利益は注意すべきだが、結果を考えるとどうしても。

「夜中は変わりは・・」
「いや別に。呼ばれなかったっす!」
「詰所からコールを何度か?」
「いや。なかったっす」
「してたようだけど」
「あ、風呂入ってたかな・・・自分、風呂は夜中なんっすよ!」
「あっそ・・・」

 僕はカルテを確認。重症患者の情報確認。
しかし、ガニーズは横にくっついてくる。

「サンダ・・ユウキ先生。大学、おれもうイヤっすよ・・・」
「あっそ。熱が39.5・・・」
「あそこはもう暗黒ですよ。暗黒」
「ほう。バイオプシーはやっぱGroup Vか・・・」
「暗黒大将軍っすよ。中堅ばっか働かされて。先生。ここ来ていいっすか?先生のコネってことで」
「にゃおう。CTは・・ほんとだ。放射線科のコメントでは膵臓に・・」
「ネコじゃないっすよ先生?コネですよ?あ、もう帰ろっと」

 鳴った腕時計をソデ伸ばして隠し、ガニーズはガニマタで医局へと戻っていった。

 奇妙な一句が浮かんだ。

< いつまでも いると思うな 明けの医者 >

 淡々と過ぎていく時間。カチッ、カチッと進んでいく。耳を澄ますと、ちょっと開いた窓の外に自転車のブレーキ音や挨拶の声。

 「あと30分で外来か・・・ちょっと回る!出るぞ!」

 誰もいない詰所をズドーン、と出て廊下へ。
 
重症部屋。

 67歳の女性。薬剤性の間質性肺炎。原因薬剤は伏せておく。

「・・・おはようございます」
「よっこらせっと」
「あああ!起きんでいいです起きんで!」

 酸素吸入中。口から痰のバリバリした音が聞こえている。感染症の併発もあるが炎症反応自体は小さい。しかしこれから上がってくるかもしれん。大学で抗癌剤での治療後に間質性肺炎を発症、<長期になった>という理由で当院へ紹介されたばかりだ。

 あそことは関連病院になったから、むやみに断れない。

「(在院日数が問題なんだろうけど、責任取れよなあいつら・・・!)」

「昨日と比べてどうです?」
「あ、ちょっとマシです」
「同じくらいかな?でも特に苦しかったは夜中?」
「そうですな〜」
「痰が出しにくかった?」
「ええ」
「それはやっぱり苦しかったな〜」
「それはもう!」

 日増しに苦しくなってるのが分かる。この人は気を遣いすぎて病状を小さく伝える傾向がある。

 ふと、近くのガラスに自分が映る。僕のほうに問題はないか・・・?

「うおっと!」
「どした・・・?」
「いやいや」振り向き、チャックを閉めた。何て事だ・・・

手洗い後、出直し。

54歳男性の肺気腫。3日前は呼吸が浅く、トシ坊が挿管してくれた。ところが駆けつけた家族が呼吸器を望まず、Tチューブだけが伸びていた。これでは貯留した二酸化炭素が出て行かず、痰が取りやすくなっただけだ。

 「・・・眠ってる。でも呼吸はマシか。痰が出て少しは」
 モニターでアシドーシスなど、心停止につながりそうな所見はない。

 ここの家族は決めていたことを直前にいきなり変えてくる傾向がある。背後に何か、口添えしてくる人間がいるような気もする。

 68歳の大柄男性。不安定狭心症。ステントが何本も入ってる(レントゲンで冠動脈の走行が分かるほど)。バイパス手術を10年ほど前に受けてたがバイパスはすでに閉塞し、適宜拡張を続けてきた。今回、心不全の治療中。酸素吸入。血圧が低く、利尿はハンプを使用。長期戦となっている。

「眠ってるか・・・」

 聴診を終えて廊下へ。正直、自分の受け持ち患者で精一杯だ。次にすべき事が山ほどある。

 各部屋を流れるように回る。時計との睨めっこが続く。

 すると、夜勤ナースが個室で若い女性患者とヒソヒソ話している。

「師長。おはよう」
「あ。はーい」ミチルは、さっと身を引いた。
「で・・・?」

ミチルが見張る中、腹部を診察。骨盤腹膜炎を心配してたが。

「抗生剤で高熱はおさまってきたが、炎症反応を確認しないと」
「いつ分かんの?」金髪の専門学校生はガムを噛んでいた。
「昼前かな」
「そしたら帰れる?なー、婦長さん」

ミチルは後ろで小さく頷いた・・はずだ。

「もうちょっとここで療養したほうがいいよ」
「ヤダ!帰るから!」
「なっ・・?」
「帰る帰る!今日帰る!病院いやや〜!キレイやないし!病人だらけ!」
「く・・・でも。中途な治療だとまた」
「出戻り?」

 後ろのミチルが、ピクッとうろたえた。この師長は出戻りの形で帰ってきていた。あの時は驚いた。2カ月前。

 医局に朝現れた、長身の女性。みな見覚えがあった。
そのときの、彼女のあの言葉。

「おはよーございまーす!でもどりでーす!」

 あの開き直った表情。

 恐らく・・・(前の職場で)何かつらいことがあったんだろう。

 
 
 廊下を出ると、ミチルはついてきた。

「あ〜だるいわ。あたしまで」
「あう?」
「深夜勤務からこのまま日勤よ。誰も夜勤、やってくれんかったし!」
「災難だな・・・さっきおい。点滴漏れがあって」
「それは別のナースの担当の話?」
「し、師長だろ?」
「夜勤のときは、あくまでも夜勤に徹しております」
「どういう理論だ?」
「当事者と先生での直接解決をお願いいたします」
「ドライだな・・・」
「人任せにしないようお願いいたします」
「くっ・・・!いちいち、ありがとう」

 こう答えるのが精一杯だ。

 ま、この女は怒らさんほうがええよな・・・。女を怒らしたら、手におえん。

 朝の8時40分。申し送り開始が近づく。師長はカブトのようにキャップを正面見据えた。
「さっ!師長タイムや!がんばろか!」
「どある。ついてけんわ・・・!」

廊下で、ずっと待ってる家族がこちらを見ている。

「あのう、ユウキ先生」
「あ。おはようございます!」確か夜にムンテラ(説明)予定だった家族・・
だがもう6人ほど揃ってる。

「さっきから、待ちくたびれとるんですが」
「え?あのたしか夜・・」
「9時って」
「夜9時?」
「はあ」
「ほお」
「ふん?」
「う?」
「は」
「ん」

 ミチルが腕組みした。

「先生。夜の9時と先生が伝えたはずが、朝の9時と伝わったということですか?」
「みたいだな・・俺はちゃんと」
「さあそれは、先生がきちんと伝えてなかったからじゃないですか?」
「なに・・・!」
「あたしに怒っても。さ、ご家族の皆さん。こ・ち・ら・へ」

 ミーティングルームにゾロゾロ入っていく家族たち。
詰所ではすでに申し送りが始まり、シローやトシ坊らドクターが勢ぞろい。

 多忙な外来を控えてはいるが、さきほどの間質性肺炎の方の家族だ。時間違いでも、せっかく揃ったなら説明すべきだ。

 ただ、ふと思った。キーパーソンにあたる中年女性は娘さんと思われたが、初回に説明した人と違う。

「あの・・・この間の方?」
「あ、あれは別の娘。あたしはその妹です。付き合いはありませんが」
「あ・・」
「それが何か」
「いえ」

 シーンと、真っ白な部屋が静まり返った。

 僕は怒りっぽくも、世の中には妙なあきらめムードが漂い始めていた。

  その前日、ツタヤで借りたミスチルの「優しい歌」。

 ♪しらけムードの僕等は 胸の中の洞窟に
  住みつく魔物と対峙していけるかな・・・
 
 さきほどの間質性肺炎で入院中の患者さんの、病状報告だ。

「薬剤を中止して間もなくですが・・・」
CTをシャーカステンに次々かけていく。
「先週と比べますと。あの、こちらのほうへ」

誰も出てこない。

「症状、動脈中の酸素データ(圧較差など)、生化学検査(LDHやKL-6など)を参考に画像でも経過を追ってます・・・大学からはステロイド剤の内服を継続してるんですが」
「良くなった?悪くなった?」娘が遮る。
「自分の印象では、全体的には横ばいですが画像では一部悪化の所見が」

ごく小さい範囲だが、うっすらと白くなってる肺野がある。

「これは、肺が新たに線維化に向かって炎症を起こしていると思われ・・?」

ふと遠くを見ると、誰かがドアをスライドして閉めた。外来ナースだ。カルテを割り込ませている。

「そこで、パルス療法・・ステロイド注射剤の3日間大量投与を」
「それは他の先生も了解を?」
「う?」
「上の先生の了解も?」
「う、うえ・・・」

僕が一番、上だった。
「他の了解ですか・・・データが揃ったばかりなんで」
「はあ」

ミチルがカルテを刑事のように取り調べ中。

「結論は同じかと思われますし」
「はあ」

 いや・・・ステロイドパルスに関してはどの治療に関しても意見が別れることはある。諸刃の刃(もろはのやいば)的治療だからだ。炎症を強く抑えもするが、抵抗力の低下も招きうる。

 ミチルは冷静にうつむいていた・・やがてこっちを見上げた。
「(トシキ先生らも通して・・皆で結論したらどうですか?)」
「(なんでトシ坊に?主治医の意見だ!)」
「(・・・・・)」
「(わかったよ。わかった・・)」
全て、目の合図で交わされた。

 この仕事に慣れたと思う時期には、いろんな落とし穴がある。そりゃ世間は<そんな医者怖い>で終わりだろうが・・・。最初は誰しも地獄の修行から始まる。経験がないから手取り足取りなのが当然だ。

 だがそのうち面倒見のドクターも離れていき、現場での即戦力となる。大学のカンファレンスのようなある意味恵まれた時間などなくなる。いろんなタイミングで<余裕>というものを失っていく。自分の限界を知りつつ、キャパの範囲で仕事を処理する。主治医としてのやりがいは増えていくが、スパイダーマン同様にそれには大いなる責任が伴う。

 プライドが傷ついたが、改めて相談の方針とした。だがそのモヤモヤは・・そんなに引っ張らない。次にすることが待っている。でもそこでそれなりに飲みこんでないとストレスとなって我が足を引っ張る。

 次の日に余韻を残しながら、その日の晩には残さない(休養に差し支える)。そういう奇妙な心理状態が求められた。

 「じゃ、今日の晩にまた・・・」

 家族はぞろぞろと引き上げた。

 聴診器を首にクルッと巻く。
「じゃ!気を取り直して!」

 さっき、師長と目と目で会話した。
「そ〜いう仲に・・なりたかねえや!」

 ズドーン!と廊下へ。今、一瞬見えたのは外来ナースの後姿。エレベーターが閉まった。

「さては撤退したか・・・先回りしてやる!」

 いつものように、手すりに飛び乗った。
「すんません!」「おはよう」「ざいます」「はよう」「ざいます!」

 病院の設計上、患者待合室の前を横切る。痛々しい視線が突き刺さる。9時をもう15分は上回っている。

 内科のもう1診では大学からの派遣が1人。彼は再診専門。しかし再診のほとんどは自分希望だ。そりゃ週1回の先生より常勤に受診したいのは当然だ。で結局時間もたてば、<もうそこでいいから>と徐々に非常勤へと流れていくのだが。

 再診外来の島、というひとつ年下の男は・・・ガニーズ同様どことなくデリカシーがなくガサツな奴だった。以前、共に戦ったことがある。

「島。すまんな!」
 ちょっと覗くと彼は・・・小説を読んでいる。

「・・・・・」
「すげえ集中してやがる・・・!」

 机に座り、横のオークナースに一礼。
「じゃ!ネクスト!」

 80歳女性。体重が120kgほどある。ゆっくりとした足取りで。糖尿病ありインスリン拒否。来る時間がマチマチで、主治医が固定してなかった。これは良くない。整形で腰椎圧迫骨折あり。

「あ〜やっとやっと・・・日が暮れるかと」
「どうも。では・・・」
 診察。カルテは整形のじじい先生の字。

 読めない。

「えっと・・・整形では特に何か」
「カルテに書いとるでしょ」
「(わからん・・・)」

「どこも、異常ないです」
「両脚が腫れていると思いますが・・」光沢、指によるへこみ。
「ああ、これ最近ですなあ。特に」
「採血はしてるんだな・・・」

 整形のじじい先生が採血したとこによると、腎機能がやや低下、BNPも一応測定してるが80程度(やや高いが)。

「変形性の膝関節症も関係あるかもだが。腫れは大腿部から下までずっと。左右差は・・・ハッキリせんな」
横を向くと、オークナースはボケッとつっ立っている。

「おい」
「!はい?」
「手伝え!」
「はい」

 脱がせた服を着る介助をさせ・・・僕はカルテに書き綴った。

「ふだんは何を?」
「テレビばっか見ております」
「どこで?」
「家で」
「そこのどこで?」
「部屋で」
「く・・座って?」
「はい」ばあさんは床に座ろうとした。
「ちょっ?ごめんごめん・・・座りこんでテレビ見てる?」
「ソファに腰かけてそのまま」
「座ったままずっとか・・・」

 失禁がよくあるそうで、オムツ使用。トイレに行く必要がない。するとけっこう長い間・・・

「ナース・これの採血をこちらで。Dダイマー、TAT・・・ほい!」
「ブヒ!」
「結果はあす!」

 ばあさんは、ゆっくりズン、ズンと退室していった。消毒瓶の水平線が波打つ。

 医事課が、心なく積み重ねるカルテ。

「田中くん。落ちるだろ?」
「あ、持っときます!」上から手をかざす。
「あのな・・・」
「頑張りましょう先生!」
「もう1診にもっと回してくれよ・・・あっちはヒマなんだし」
「怒るんですよあの先生」
「俺にシワ寄せは困るんだよ!おい次呼ばないか!」

37歳男性。高熱。

「インフルエンザ、調べるか!」
「ええーっ!」
「そんなに驚くか・・・」

 綿棒を鼻の奥へ・・・ゴシゴシ前後に。

「うおっと」思わずのけぞった。巨大なハナ○○がボコッと!

「ふへ!くしょい!」
「うわっ!」鼻水を浴びた。オークは奥へ逃げた。
「あ〜くしゃみ出た!プルプル!びっくりした!」
「こっちもや・・・」

結果は陰性。
 53歳女性。うつ・イライラ症状で再診。

「この前の血液検査はと」オークに促す。
「出てまへん」
「ホンマか?1週間したらもう出てるだろ?」
「カルテにはないけど」
「聞けよ!」検査室に電話。

 僕は受話器を置いた。
「あっちにある。取ってき・・あれ?」

 ナースはいない。自分で。

 検査室に入ると、技師長ではない女性2人の甲高い声。

「えっらそうになあ!」「そうや!」
「あのう・・」
「取りに来いって言うたった!」「せや!」
「結果・・」
「電話するくらいなら来いや!」「来いや!」
「けっか・・」

「(2人)ひっ!」

 伝票を持ち、診察室へ。

「結果は甲状腺も含め異常なしか。その症状はこう・・」
「更年期か自律神経でっか」
「なっ・・!」
「よかったよかった。癌はないっちゅうことやな」
「待って。そこまで言ってない・・・!」
「あんがと」

 満足した表情で出ていった。

 73歳女性。息子に肩を抱えられている。

「先生!うちの母!お願いします!この前、もう1人の先生にかかったんだけど!」
「あっち・・・もう1診の?だったらそっちで!」
「いやいや!あの先生はあかん!」
「いやしかし・・・前回も彼だったら今回も」

「・・と私も申したのですが」
 事務の田中くんがすまなさそうに立っている。
「長男さん!主治医の先生と!よく話合って!」
 彼はうまく逃げた。

 採血し、僕は島に声をかけた。

「今、横になってるんだけど・・・」
「あ。今度は先生んとこ来たんっすか?」
「何度か診てるよな?」
「ですけど。そこに来たのならそこで診てもらわないと」
「倦怠感で何度か来ている。表紙には不安神経症。抗不安剤が処方されてるけどいくつか・・・効きすぎなんじゃないか?」
「あーもしもし!」

 彼は携帯を持ち上げた。

 どうも携帯電話が登場して・・・パーソナルな会話がまともにできなくなった。

 ナースがデータを持参。

「ブヒブヒ。悪いです」
「なにぃ?かせ!うっ?二酸化炭素が・・・」
 かなり高い。微量の酸素を流し、そこの超音波を当てる。

「鎮静剤が効きすぎて呼吸が・・じゃないな。心臓がこんなとこ(みぞおち)にある。COPD(肺気腫など)がもともとあるんじゃないか?息子さん。この人タバコ・・」
「いや吸ってない!」
「以前は?」
「昨日までは吸ってた!1日3箱!」
「どあ・・いやいや。ニップネーザルをつけよう!うわあっ?」

 ばあさんはいきなり暴れ出した。皆で押さえる。息が荒くなる。痰も多くからんでそうだ。

 僕は周囲になるべくと救援を頼んだ。

「島!おい!手伝え!」
「(電話中)えーわかりました!3本ほどあればいいですか?」
「なにが毛が3本だ!おい挿管しよう!今ここで!」

 鎮静剤を筋注、アンビューを受け取る。
「おいナース!どこ行く?」
遠ざかるナースらを引き留め、点滴・吸痰の処置など命じる。しかしほとんどの処置は駆けつけのドクターに依存した。

 そのくらい、当院の残存ナースのレベルは低くなっていた。

 ・・・あっという間の出来事で、周囲の机や台などが外にはみ出ていた。
 主治医はトシ坊。呼吸器が接続されたあと、島は後ろから覗いてきた。

「はい?」
「どある。もう処置は落ち着いたよ・・・!」
「大学からの大事な用で」
「こっちも大事なんだよ!」
「カリカリせんでも・・・」
「非常勤でもな。気を抜くんじゃないんだよ!」
「どうしても要望がおありなら、医長先生を通してからでお願いできませんか?」
「くっ・・!」

 僕は、もう医長ではなかった。
「でもやっぱ腹立つ!おめえ!」

 島は振り向いた。
「(toナース)あ。次の人。入ってもらって」無視し、リセット。
「どあ・・!」

 この世界。怒りにそのまま任せたら、自分まで潰れる。それが患者にプラスになることは、決してない。
 次は初診23歳男性。2メートルくらいある。丸坊主で不機嫌っぽい。

「入院させてくださいや!おれもうしんどいねん!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
バイタル、診察。別に緊急性はなさそうだが・・。

「これは・・ペースメーカーが入ってる?」
左胸の表面、ポコンと盛り上がる。
「これはどこで?」

「北摂の真珠会病院。ここのライバルやってな。松田すこやかクリニックの紹介でね!」

どある・・・またあそこか。ホントの診断なのか・・・?

「入院してた?」
「わけわからんっすよ。真珠会に入院してペースメーカーを入れられて。半年したら、もう出て行けって」
「・・・・・」

外来カルテ表紙の右上は<0>。若くて生活保護・・の割に歩行はふつうのようだ。仕事ができないような印象じゃないが。

「入院がどうとかいう前に、まず一通りの検査を」
「うっそ!入院だよ入院!」
「アカンって!」

 なんとか廊下へ。車椅子で検査へ。

 一方、隣の島は罵声に手こずっていた。しかしそれもおとなしくなった。

「は〜。ふ〜」
真っ赤になった顔に手をかざし、彼は指示を書いていた。

 数人診たあと、僕は椅子をずっと後ずさって声でうかがった。

「何、叫んでたんだ?」
「あ。入院です。TIA」
「一過性の・・?頭部CTは何も?」
「CTはあとで」
「CTもとらずに、何で診断できんだよ?」
「もう任せましたから!医長先生通して主治医は決まったんです!」
「誰だ?」
「先生」彼は僕を指さした。

こいつ・・・!

引き続き、事務長がやってきた。相変わらず、人の顔色をうかがうようなナメた表情だ。

「先生!こま・・・あ。おはようございます」
「とって付けたふうに言うな・・・」
「ははっ」
「で?お前が来たってことは・・・かなり無理な相談とみた」
「さようで」
「で?」
「は?」
「はよ言え!」
「さきほど入院がありまして」
「島から聞いた。一過性に意識を」
「事務もうっかりしてました。この中年男性はこれまで色々もめてて」
「ブラックリスト・・?」
「盗みの疑い、セクハラ、暴言、それと転倒もかな」
「最後のは違うだろ?」
「島先生が、入院とさせてしまったみたいで。これまで同じケースで入院しましたが、どれも無症状のまま居座って」
「でも今回、ホントの病気かもしれんし。とりあえず証明しないと」

 島が書いた指示をすべてバツ印し、改めて別の指示。

「ったく・・・!」

 この前の入院はもう4年ほど前・・・僕がここに来る前の話だ。
 
 60歳男性。糖尿病腎症が進行し、透析導入前。

「先生こんばんは!」
「おはよう。ちょっと顔が腫れてるな・・・」
「安静は守っとります!」
「山仕事は?」
「今日はもう終わりました!」
「診察に合わせて?どある・・・」

 早朝の採血ではクレアチニンがやや悪化。レントゲンもうっ血著明。

「こりゃまた入院だな・・・月曜日って入院多いよな」

説得の上、自分が主治医で入院。

 若年男性。いつもの喘息の人だ。

「スー!ハー!」
「あ。無理に喋らんでいい!」聴診するまでもないほどのの喘鳴。
「2日前からしんどかヒー!でも先生のヒー!診察まで待とうとヒー!ちなみに昨日ヒー!電話したらヒー!」
「点滴、行こ!話はあとで!」
「当直の先生ヒー!今日はあかん明日来いヒー!」
「・・って言われたの?」

 次の患者の鼻から綿棒を抜き、僕は事務長を呼びとめた。

「おい事務長!」
「はいな!」
「昨日の当直日誌あるか?」
「はいよ手配します!」
 「あっ」

 手元から、綿棒が落ちコロコロ・・向こうから走ってくる事務員。

 ニコラス・ケイジのように飛びかかり、鼻水ごとつかんだ。

 当直日誌はドクターが直接書くものもあれば、事務当直が書くものもある。事務当直が書くものには、さらに<ウラ日誌>が存在する場合もある。ウラ版には、実際断ったりトラブったケースが書いてある。

 僕は、ウラ版を見つめた。
「・・・救急を4件断ってる。事情はあろうが・・・」
「喘息の方まで断ってましたね」事務長が腕組みしていた。
「初診は仕方なくとも、うちでのかかりつけまで断るとは・・ベッドは十分空いてたぜ?」
「まー、大学からの派遣なので。うちがそこを突つくわけには・・・」

 この男。遠まわしに<面倒は起こすな>と言ってるようなものだ。

「ガニーズの野郎・・・!何が著変なしだ!」
「ナースも大変ですしねえ」
「だいたい経営側にも問題あるだろ?夜間ナース当直を省いたろうが!」
「わ、わたしに言われても・・」
「一般病棟の詰所は3つ。療養が2つ。ナースは2名ずつの2交代。どこも手一杯。その勤務の中、夜間外来を手伝わせる。ここのナースの能力も評価せず、それまで通りの働きは期待できないぞ!」

 だがそれは珍しいケースではなかった。今や病院あちこち、そういうキリキリの体制でやってるとこは多い。

 経営者側は、切羽詰まる危機感を常に持っている。ローコスト・ハイリターンが切なる願い。文句・事故さえ出なければ知らん振り・・の面はある。スタッフ側はたいてい火事場の力で乗り切る。あるいは・・・ガニーズのような怠慢がそれを<支える>。

 これ以上、不満は漏らせなかった。だからといって自分が週にもう1回当直するなど・・・。

 HEROにはなれない・・・。

 ♪例えば誰か一人の泊まり(当直)と
  引き換えに病院を救えるとして
  僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ・・・

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