患者のたらいまわし、モンスターとか今年はいろんな流行語が生まれた。だが、いずれも具体的な対策は立てられていない。

 田舎はますます僻地化している。というより高齢化がますます進む。今さら後期高齢者制度の見直しとかいってるが、これは単に選挙前の(いつもの)アピールだろう。

 大学が敬遠される理由の1つに、記事にあるような<雑用>がある。僕らは我慢してこなしてきたが(助手時代)、思い出しただけでもかなりある。

□ 学生講義(授業)の準備 ・・ 授業に向けての資料準備。教官に目を通してもらい、訂正してもらったり。

□ 病院実習の定期的な講義 ・・ 各助手は持ち時間(ノルマ)が課せられ、それぞれの時間で、とにかくテーマを絞って教えないといけない。

□ 検体の整理 ・・ プレパラートなどの整理。手書き帳面からパソコンへの保存。パソコンができる人間ほど、任される。

□ カルテ庫の過去のデータ整理 ・・ 倉庫に眠る分厚いカルテの山の中に入り、まるで宝探しのようにデータを<発掘>。

□ 学生の接待 ・・ 医局費より出た費用で学生を接待。ピエロだろうがドナルドだろうが、なりきる。

□ 病棟での雑用(注射当番、ラベル貼りなど)・・これを雑用と呼ぶのは抵抗があるが、多くの時間を取られるという意味ではそれに近い。

□ 回診・カンファレンスの準備 ・・ これも実用的なものなので本来雑用とは呼べないが、教授ら目上に向けたものであることを考えると雑用的な意味もある。

 つまり大きく分けると、学生向けの準備、教授のためのデータ整理、病棟残業的なもの。すべてが、<みんなが嫌がる仕事>の集大成だ。

 だがそれでも、先人は文句を言わず(いや言ってた言ってた)やってきた。確かにかなりの時間を割いたが、<みなやってきたのだから>、と自分に言い聞かせた。ある意味、雑用は<裏方>的な意味もある。

 ただ、大学にはそれを出世コースへの代償、と勘違いする輩が増えてきた。そういう意味では、大学の悪しき官僚制度は転機を迎えているのかもしれない(←クローズアップ現代か?)。

 

 

 




  

投資はするなよ。

2008年10月20日 連載

 前にも言及したかもしれないが、自分の周囲の医者の多くが泣きを見ている。株価の暴落がまさにそうだ。

 外来診療中、トイレによく行ったり携帯見続けている医者も、株価が気になってしょうがないケースが多い。

 最近の民間病院の医局というのは、9時になってもなかなかエンジン始動しない。テレビのチャンネルが株価の動向に向けられることが多いからだ。数か月前までは皆いろいろ予測して楽しんでいたようだが、最近は

「・・・・・」

 と無言のことが多いと聞く。

 投資(パチンコを含む)をした人間が大損をした時の表情は特有のものがある。ただ、それに走る前の輝きも凄いものがある。彼らがそれを繰り返すのは、おいしかったときの快感が忘れられないからだという。

 自分に入る情報が末端のものなら、それは篩(ふるい)にかけられた後のものだ。強運でしか勝算がない。サイコロの目ですら予測できないなら、もはや素人には賭けなど向いてない。


自炊

2008年10月20日 連載

 金融恐慌とやらで外食⇒自炊への切りかえが進んでいるらしいが、自分もその流れだ。大阪市のど真ん中に住んでいるが、不思議と<ホントにおいしい店>がないのだ。確かに女どもが喜びそうな店は、山ほどある。

 そりゃステーキだとか美味なのはあっても、それらは定期的に食べたいものではない。濃い、高くて割に合わない。客がうるさい。胃がもたれる。などの理由もあって、自分でいろいろやってみた。

 もやし1袋+玉ねぎ3個+カットねぎ+キャベツ+卵+ハム+ウインナー2袋+ピーマン+天かす+うどん・そば麺(合計1000円ほど)

 これらを使いまわすことで、

□ 焼飯
□ 野菜炒め
□ 焼きそば
□ ハムエッグ
□ 野菜ラーメン
□ (種々の)うどん

 くらいは作れた。ご飯は3合⇒1食後ただちにパック分割。男でもここまでするのは大変なのだ。

 これを毎週のうち5日間ほど続け、たまに肉を追加。魚は臭いの問題があるので、<○○食堂>みたいなとこでの外食で補給する。

 皿洗いは食洗器。

 2か月ほど続けているが、以後体調が良くなってきた。





休憩中

2008年10月20日 連載

 あれから体調を崩し(正確にはもう崩していた)、通勤しつつ前線復帰に2週間・・・。そして現在。

 ある日からパソコンをちっとも開かなくなり、アナログ的な日々を3ヶ月間ほど過ごした。

 本格的な再開の前に、この数カ月間、自分が思ったしょうもないことなど書き連ねてみようと思う。
 
 診察。診察。診察。内視鏡。診察。診察。トイレ。(手を洗ったのち)診察。時間が過ぎていく。

 内視鏡や超音波は暗室でするので、時間の経過も外の天気も分からない。しかし、日の光をあびるときが来た。

「ちょっと病棟、行って来る!」パルス療法中の患者を診察するためだ。

 一瞬だが、光を浴びた。

「きれい・・・」トリニティの言葉を思い出す。

 再び暗い病棟へ。

 妙な予感は的中しなかった。患者は久方ぶりに笑顔で座っている。酸素マスクも鼻カニューラでいけてる。

「音も良くなってる。少しだが」
「は・・・は・・・・」
「いやいや。今は喋らなくても!」

 このとき、ばあさんが礼を言おうとしていると思ったのだが・・・。彼女の言いたいことは違っていた。

ミチル師長が執拗というほど、ずっとそばについている。

「パルスが予想外に効いた。俺は今。ものすごく感動している」
「・・・・・」彼女の表情は硬かった。
「今日で3日目投与。感染症の予防は大事よな!」
「・・・・・」
「あ。朝の件か。俺もちょっと熱かった。大学も採血検体が欲しいなら、前もって言えばいいのに」

つい、許すようなことを軽く口走ってしまった。

「家族にも、知らせなきゃな」
「・・・・・・」師長はどこか一点を見ていた。

みな、心があちこちにワープしてるのか。医療スタッフにはあるまじき行為だろうがな。

医長は詰所で腕組みしている。
「先輩」
「おう。医長」
「パルス療法の人は、だいぶいいですね」
「ちっ!俺が先に言おうとしたのに!」
「でも油断は禁物ですよ」
「わかってら!で。お前は点滴入ったのか?」
「・・・・・」

どうやら、今日は撤退のようだ。

「そっか。俺がしようか?午後から」
「患者さんに負担ですので」
「え?今いける?」

向こうのナースの合図でわかった。

病室に入ると、患者の右鎖骨下あたりは・・・血が散乱。
「トシ坊。気胸はないだろな?」
「肺に刺してはいません」
「こんだけ刺して。何でわかるんだよ」

聴診は問題なさげだ。
「おい。ろくぶて(手袋)!」
ナースがさっと手渡す。

「すみませーん。ここからしまーす。チクッと・・・はい今ので終わりー」

医長がのぞきこむ。
「医長。近すぎだよ」
「・・・・・」

「検査のほう、行ってくれんか?」
「検査?」
「終わりかけのがちょっとあるんだ」
「先輩がIVHと格闘する間、自分は検査だけでいいので?」
「かくとう?ちっ・・ああ。いいんだよ。後輩」
「じゃ、すぐ終わらせて戻ってきます」

 医長は消えた。たぶん、しばらく戻ってこないだろう。

「お。戻った。血液が」
いとも簡単に、挿入は完了した。
「点滴よこせ!おい!ボケっとすんな!」

こうやって怒鳴ることが多くなった。
「おい!」

後ろから、いきなり両肩を押し込まれた。

「たたっ!だけどちょっと気持ちええ?」振り向くと・・・先日入院した若者だ。

「先生!ちっとも俺を見にきてくれんがな!」
「てて・・・なんでここに?」

近くで別の若いナースが立っていた。彼女が招いたようだ。

「患者さんが、どうしてもお会いになりたいと」
「診察中に入れるな!」
「はあ」

「先生先生!」若者はのぞきこんだ。ヤニの匂いがする。

「病室へは行くって。あとで行くから!」
「病棟の患者さんらは、みなカンカンや。医長先生らは、早朝だったら6時くらいにでも来るって」

「そ!それはな!当直明けについでに(眠れず)回診してるだけだ!」とは言えなかった。

別の患者の診察中でも、若者はあちこち触りまくった。
「へ〜。このボタン、足で押すんかいな〜」

 靴底でポン、と押すと丸い大きな床が、ウイ―ンと90度回った。彼は真中でクルッと一瞬踊った。

「お!すげえすげえ!パチパチパチ!」

 正直、目障りだった。

「触ったらあかん!ベッドを回転させるものだ!それは!」
「ええっ?ベッドが回転?先生。やらしぃなあ〜」
「おい!なんとかしろ!」近くの内視鏡ナースを呼んだ。しかし・・・

「わたくしは内視鏡が管轄でして、救急室の担当ではありません」
「ちっ!」

「救急室担当のほうに、先生が直接ご相談お願いいたします」
「ちちっ!エレベーターガールみたいに!」

「先生。内視鏡が3名。追加が2名入りました超音波もついでにとのことです」
「うそ?どこからのオーダー?」

「他院からですので。拒否はできません」
「今日は勘弁しろよ。で、受ける人らは?」
「そこにおられます」
「げっ!」

ちょうど目の前に座っている。

「あ〜あ。待たされて明日になるかと思った」ばあさんが不機嫌だ。
「朝は食べてないよね?」
「そりゃそうや!だから腹減ったっちゅうんじゃ!カメラ食うたるぞ!」
「ひ!」

患者は内視鏡室へ移動。ドルミカムで鎮静。ウトウトしだす。
「そうだな。それでいんだ・・・」

何度か行き来し、内視鏡。

「紹介状によると、胸やけ・・・おっと。大きなヘルニアだな。食道・・」

「私語は謹んでお願いいたします」ナースは相変わらず冷ややかだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 時間が淡々と過ぎていく。カーテンから外来オークナースがのぞく。

「あとどのくらい?」
「・・・・・」
「なあ。あとどのくらい?時間。おーい!」

内視鏡ナースが<シー>と合図。

「今度は、ここ連れてきたから。6人おるから。10分したらまたまとめて来るんで。そのあと検診12名。あと新患。それといろいろエトセトラ」

「・・・・・」無言でカメラを引き抜き、所見。

「医長先生はIVHが入らん入らんって難儀してるし。ザッキー先生はよそに出ておらへんし。シロー先生は無断欠勤でけえへんし!」

 自分はピクッと反応した。

「おい。俺の仲間のこと(そんなふうに)言うな・・・」
「とにかくはよ!診てあげてなー。患者さまらが待ってまっせー!」
「ちっ!」

 事務長。早くここの医者を増やしてくれ・・・!何かのクローンでもええから・・・!
 救急室に行くと、ベッドが3つ並んでいた。救急担当のピートが、床にうずくまりゼーゼーうつむいている。

「どうした?処置は・・・」
「ゼー!ゼー!」彼は、震える手で指さす。

「あ?うん。1人は呼吸器がついたのか・・・モニター、脈速いが幅は広くないな。病棟に上げるか!病名は?」
「ゼー!・・ゼー!3人とも身寄りがない。呼吸器の50代男性は、脳卒中か何かの後遺症っぽい」

「再発か?」

 頭部CTでは新たな出血はないが・・・

「延髄の上部、ポンス(橋)が怪しい。黒い点・・・古いのか今回のものか。体動で分かりにくいな」
「し、シー!カン!コンコン!」
「ピート。お前。風邪ひいてんのか?」

 残りの2人は重症の腸炎、うち1人はイレウス状態。

「腹膜炎の所見はないな。入院だ。みんな。とりあえず」

 近くでナースが3人固まっている。

「おい。ボケッとすんな!」

 勢いよすぎたのか、みなビクッと飛び上がった。

 「動くんだよ!」

 患者の正面に横揺れしたペンライトが消えた。

「眼球偏位は何ともいえない。教科書みたいに所見は揃わんな」
「フー。俺1人でやったようなもんだぜ」
「ここのナースらは。使えんか?」聞こえないのをよそにつぶやいた。
「質の悪いスタッフを仕入れられたら、救急掲げるのはリスクだぜ!」

ピートはようやく姿勢を取り戻し、患者を1人ずつ手配した。

「そっか。1人でこれだけ。アイツよくやったな・・・人工呼吸器のセッティング、中心静脈ルート3つに・・・ま。相応か」

開きっぱなしのドアの外を眺めた。

「救急隊はもう帰ったのか?」
「はい」若いナースが1人立っていた。
「ガラの悪い救急隊か?」
「色が浅黒くて、ヤクザみたいな人でした」
「すると、以前ここへ団体搬送してきた奴らか・・・」

 他院からの転院ということらしいが、紹介状がない。以前のケースと同じだ。

 外来のオークナースが、患者を入れてきた。

「どうもすんまへーん。薬だけでええっちゅうに」じいさんが入る。
「えっ?ナース。ここは場所が違うだろ?」

オークナースはピースした。

「ブヒ!アンタが来ないなら、こっちから行くまででヒ!」
「どある・・・」

 救急室の隅っこで診察。近くで検査のひょろひょろナースが、教育ママのように待つ。

「ま、変わりないね!次!」
「いやいや。それがあるんでな」とじいさん。
「うっ・・・」
「朝のNHK見たらな。動脈瘤が頭にある人は、いつ裂けるか分からんって。怖いでんなあ先生」
「ええ」
「検診ではそんなの全然調べんでしょが。わしにもあったら、どないしょ」
「ええ」
「ちょっと聞いとんのですか先生?」
「ええ」

 実は意識が別に向かっていた。緊急入院患者のことが気にかかていた。病棟の患者のことも頭をよぎる。

 医者の頭の中は、24時間いつも何かが<よぎって>いる。
 3台の救急車は、そのまま長方形の救急入口へと向かった。救急担当のピート(日系人)が、ガム噛みながら走ってきた。

「うーん。ナントカいけそうだ!」数人の医師を従えている。
「そっか。じゃ、オレは外来の続きを・・・」

 いきなり腕をつかまれた。

「てえっ!」
「検査担当のナースです」デキる中年ナースだ。内視鏡のようにスリム。

「検査の担当が何で?」
「だって。先生。胃カメラの患者さんが口をあんぐり開けてお待ちです」
「クールだけど、ブラックだな」

 そういや検査も俺がしないと・・・2人で足早に走った。しかしオークナースに見つかった。

「ブヒヒ!外来患者さんらがお待ちやで!」
「検査があるんだよ!しょうがないだろ!」
「カルテがもう15冊、積んである!」
「キリのいいとこで行くから!」

 外来のオークナースは、検査担当のひょろひょろナースの細い腕をつかんだ。

「検査は延期すりゃええだろが!」
「患者さまは時間どおりに来られていますので」
「グァァ!」

 クマと、竜の取っ組み合いが始まった。

 自分は内視鏡室に入り、カルテを確認。暗い部屋の中、<患者様>を覗き込む。

「誠に申し訳ありません。これより・・・」
「グオオオオオ!」

 イビキか・・・。

 了解を得て、カメラ挿入。食道→胃。反転。水を吸い出し。胃角をなめるように観察。十二指腸。ポリープもどきを生検。食道に戻り声帯。

「よし!」

 もう1人内視鏡。カメラ挿入食道胃反転吸い出し十二指腸戻ってピロリの生検す。

「よし!」

 また1人しかし今度は変形でどうやら潰瘍繰り返し歴あり。なんとか進めて十二指腸。前庭部に発赤あり生検(これで悪性が出たことがあった)。ナースの介助が心地いいくらいに速く色っぽい。

「で?」

 心臓超音波。左側臥位。脳梗塞歴あり。左心房は血栓モヤモヤなく壁運動は正常エコー中不整脈なし。

「できた!」パリッと長い巻物記録を手渡す。

 新幹線に間に合わせるため食道エコーの前倒し。近くで視界を遮る眼科医(見習い中)。

「どけオマエ!あ、患者さまではありません。へへ」

 血栓ができやすい心耳を観察。ドプラも施行。

「サー!(卓球?)」

 外来オークナースの声が外から。

「時間やで。約束の」
「もうちょっとーかかりますー」検査ナースがクールに洗浄中。
「あと1分!あと1分!」

 僕は検査記録を筆記体で書き流す。
「約束って。お前らどんな約束してんだよ〜!」

 記録を書き終わると、検査ナースが伝票をヒョイと持ち上げた。

「只今電話が入りまして。救急を手伝ってくださいとのことです」
「ピートからか?急変か?」
「さあそこまでは聞いておりませんので」
「ちっ!」

 外来オークナースは叫んだ。
「おいっ!医者を取るな!」
「ソーリー!」

 外来ナースをすり抜け、非常階段へ。

「目を通してもらわな!」
オークナースはカルテを数冊横で見せた。

「ふんふんふん!ふんふんふん!この4人はあさって来てもらって!」
「怒られるんは、わしらでよ!」

「わっ!(2人)」

 なんと水鳥拳、階段はすでに終わっていた。気まずいステップが床を叩きつけ、僕らはよろめいた。

「(スロー→)ウオオオオオオオ〜ン・・・」

(ハン・ソロ)「その階段!チューイ!」

もう1回。

「(スロー→)ウオオオオオオオ〜ン・・・」
 外来の椅子にドカッと座ったら、車輪が出入り口へと走った。

「ぎゃああ!」

 バン!と鈍い音を立て、首がそのまま真左に向いた。

「いってえなぁ!」
「・・・・・」オークナースは半笑いで見ている。
「てってっ!てっ」
「患者さんたち。かなり怒って待ってるんですけど」
「わかってらい・・・!」

 68歳女性。腹部超音波・CTの説明。当院は患者がかなり増えてきたため、検査→即日説明というスタンスをやめ、検査→後日説明という流れになりつつあった。

「先週の検査結果ですね・・・」
「は〜あ。もう先生来んのかと」今で言うメタボの傾向。
「すんません」

 フィルムを一覧。チラッ、と放射線科医のコメントを見る。相変わらずポイントが分からない文章が羅列してある。<以前はどうだったのでしょうか?>とか何とか大きなお世話だ。

「脂肪肝にヘマンジオーマ(肝血管腫)・・・」
「ガンとは違いまっか?」
「自分の印象では、これは悪性ではないと思います。え〜と。以前はどうだったのかな?」

 と結局言及す。

「変化ないな!」
「脂肪肝やったら、悪さはないな?」
「いやその。それが・・・」
「はい?」
「最近、脂肪肝でも放っておくと肝炎・肝硬変とかに発展するリスクがあるって」
「なに?以前、言ってたことと違う!」
「最近の学会ではそういう認識になってて」
「あ〜あ!主治医によって言うことが!コロコロ変わって困りますわ!」
「ちょ待っ・・・!あああ・・・」

 カルテを書こうとしたら、オークナースが引っ張った。

「おい!まだ書いてる!」
「ブヒヒン!」
「何がブヒヒンだ!」

40歳男性。血痰。この人は話が長い・・・

「画像では強いていうなら慢性の炎症によるものかと・・・局所での慢性気管支炎。炎症がきか・・」
「炎症起こして、それで気管支に傷ができたんやね?」
「ま、はい・・・」
「先週出した痰。結核は出てない?」
「今回の培養でも結果は出てません」
「でも先生。合計2か月待たんと、何とも言えんやろ?」
「あ、うん。今回はガフキーが出てないって意味で・・」
「素人も最近はネットがあるからな。油断せられんで。わっは!」

 確かにこの頃、ネットで検索して<試してくる>患者も登場してきた。一方お年寄りは膨大な人脈があるからネットは不要だが、様々な尾ひれ・背びれがついて回る。悩みは尽きなかった。

「先生ちょっと待って。病名思い出す。ちゅうよう・・」
「中葉しょう・・」
「待ってってな!」
「ちっ・・・!」

 僕は立ち上がり、手洗いし始めた。
「痰の検査→採血→画像検査と繰り返しましょう。今後も。(小声でジェスチャー→)おい。ナース。なんとかしてくれ。外へ!」

「ブヒ?」

 どうやらボケッとしていたらしい。

 僕はドカンと座った。
「中葉症候群!ああっ(同時)」

「ブヒ。息ピッタリや。お似合いやでブヒッ!」

 女どもの、好奇の目が次々と現れる。エロ本を読む男の表情に似る。

 思えば新しい女性スタッフらが入ってガラが悪くなり、事務や技師に偏る男性陣は押されていた。これは事務長や僕らが放任主義だったことも関係している。今の時代、甘やかしたら<おっしゃ。セーフや>と都合良く思われる。

「ん。あ、ごめん!」自分がボケッとしていた。53歳男性右腰部痛。

「押しても痛くは・・・」
「ないですな」横になっている。
「写真をとりましょう。尿検査も」
「尿は、してきました」
「(どあるう!)」
「腹部の超音波とCT・・食事は?」
「今食べたとこ」
「えっ?なんで?」
「絶食で来たんだけど。あんまり待ち時間長いから。受付の品川って人が<つらそうだから、ちょっと食べてもいいよ>って」
「あの野郎!」

 バン!と事務室へひとっ飛び。するが田中事務員がとおせんぼ。

「どけ田中!」
「待ってください何があったんです?」
「あったんだよ!あいつはどこだ!また?」

 奥のドアが開いた。事務長が出たとこだ。

「逃がすか!」タックルし、閉まりかけたドアを叩き開いた。

 とたん、顔に膨大な排気ガスが浴びせられた。

「ぎゃあああ!げほっ!げほっ!」

 スー、と外車のドアが下へスライド。事務長が振り向く。

「何、遊んでるんですか。忙しくなるんですよ」
「急変でもない限り、コツコツやってら仕事は終わらあ!」
「じゃ!自分は警察へ行くので」
「けいさつ?」

 ドオオン!とリンカーンは光速に移るかのように飛び去った。
そうじのオバサンが、モップで埃を払う。

「おとろし。警察行くんやって?」
「ああ。自首でもするのかな?」
「何の罪?」
「国家反逆罪だろ?」
「こっか・・・?書いとこ」

「書くな!」

 と、いきなりサイレンなしの救急車が3台バウンドしつつ、左右にふらつきバックしてきた。

「なんだ?予告もなしか?」

 これがアニメなら、静止画になって<ピキュイイイイイン>って効果音で締めるんだろうな!

 
 事務長は白衣を脱ぎ、スーツ姿に戻った。ネクタイを締め直す。

「そこのソファーへ」
「ああ。お菓子はこれ・・全部中身がないぞ?」

 どうでもいいことを呟きつつ、ソファに沈んだ。

「事務長。品川。実はもうだいたい分かってんだよ。毎日あの患者は採血されて、その入った検体が・・つまりお前が今も大事そうに持ってるやつ」

「だ、大学も研究とかあるんで」
「それを、なんで主治医の俺の断りもなしにしたんだよ?」
「は・・では今」ペコリとおじぎ。
「おいおい。今更やっても遅いって」
「では・・どのように?」

 僕は手を額に当てた。

「なんだ?どうしたんだお前?なんか以前と違うぞ・・・もっとオープンだっただろ?」
「ええ。しかし今回のは軽率でした」

「俺はね。ここの大学の奴らが嫌いなんだ。関連病院になって植民地扱いになるのは仕方ないが、長期になった患者を送るだけ送って、データだけは取ろうっていうコンタンが」

「先生。使い走りの彼らも彼らなりに大変みたいですよ」
「新薬剤の副作用で苦しんだ患者だぞ?予測不可能だったとはいえ・・・その後に敬意が見られんだろ?」

「ですから先生。派遣されるのは末端のスタッフであって。それを言うならもっと上層部の」
「それを何だお前は。加担しやがって。俺に内緒どころか、患者・家族にも内緒だろ?」

「・・・・・」
「俺が当人だったらな。訴えるよマジで」

女事務員が入ってきた。

「先生。患者さんたちがもう」
「出てろ!」
「ひっ!」反射的に引っ込んだ。

 僕は仕方なく、出る準備をした。

「どうした?何も言えないのか?事務長」
「先生。自分だって好きで了解したことではないんです。ただ先生には周囲がかなり気を遣いまして」

「そりゃ許すかよ」

「当院は大学と連携が持てて、やっと黒字に転化できそうなんです」
「?赤字だったのか?」

「ですから。どうか・・・」彼はうつむいたままだった。

「要はコソコソすんなってことだよ。でも俺、ガニーズらには一言言ってやるからな!」

 ズドンと飛び出す直前、後ろからつままれた。

「いた!なんだよ!」
「大学への悪印象は困ります。そうなりそうな場合は・・・」
「実力行使か?あそこの講師は実力ないぜ」

「すみませんが。先生はかなり苦労されることになるかも」
ビクッとするような声だった。

「脅しか?お前・・・何かあるのか?」

 自分は眼前の広い外来空間を見渡した。

「苦労はな。もう充分してるってよ!」

 最大出力で飛び出した。
詰所に入ったとたん、一斉に睨まれた。のはよくあること。

「ふ〜!医長は?トシ坊医長は?」
「・・・・」師長は無言で重症部屋を指差した。
「あそっか。入院が入ったもんな」

気を取り直したかのように、夜勤ナースが読み上げる。

「えー今そこに主治医が来ましたので、あとでご報告をお願いします」
「あのな。パルス療法の人。採血は結局」
「・・・・・」

中年ナースは固まった。

「カルテ見ても、そういう指示は出してない。当直医の指示だったのか?」
「はあ・・・まあ」
 
 師長の細いが遮った。

「アンタが突っ込んだら面倒くさくなるから」
「い?」
「あとはあたしが聞いとく」
「はあ・・・まあ」

申し送りが終了。みな散らばった。そういや他の医者が来てないな・・・。

「師長。他の医者は?シローもサボリくん(ザッキー)も来ていない」
「シロー先生は連絡なし。サボリくんは事務員とイチャイチャしてるみたいやで」
「なんでそんなことまで?」

廊下を向くと、そうじのオバサンがピースしている。

「情報屋が・・・シローが休み?」
「そうなんですよぉ〜」事務長が後ろにいた。
「その弱気な態度は。俺にこれから無理をお願いするつもりだろ?」
「おお!よくご存じで!」
「病院の事務長ってそんなもんだろ」
「いえいえ。先生は貴重な」
「商品だろ?」
「とんでもない!」
「将棋の<歩>だから。どうせ」
「いやいや」
「寝返ったりしてな!」
「やめてくださいよ〜!」
「で!はよ言え!要件を!」
「ははっ。シロー先生に連絡がつきませんで・・・このままですと外来診療が」
「俺は各種検査の担当だ。外来診療するヒマなんかないんだよ」
「ではどのように?」
「事務長だろ!しっかりしろ!」

僕は廊下へ出ようとしたが、モップで遮られた。

「ぺぺっ!きたね!何すんだ!いじわるバ・・・」
「あっ!今<いじわるババア>と言いかけた!」ばあさんはブンブン振り回した。
「どいてくれ!」

しかし事務長が背中から呟いた。

「外来はもう患者さんが溢れています・・・」
「俺の頭にも、怒りが溢れてる」
「ではどのように?」
「サボリくんに頼めよ。おいそれに医長は?」
「医長はこれですから・・・」

事務長は前にならえの仕草。視野が狭い、という意味で。

「トシ坊は一度集中したら、何も見えなくなるからな」
「サボリ先生は健診出張でして」
「医師会の?」
「医師会とのつきあい上、それはどうしても」
「医師会なんてな。付き合ってどんなメリットがあるんだ?わからん。ん?」

思わず、事務長の腕をとった。

「(一同)うわ!キモ!」
「おい事務長、手に血が・・・」
「はっ?」

事務長の右手は頑なに握りしめられていた。

「なんかはみ出してるぞ・・・?わかった!」
「やめてくださいよぉ!」

事務長の腕は反対にねじられ、反射的に手が開いた。
ポトン、と落ちたのは採血スピッツのゴム巻きだった。

「はれまあ?」
僕はサッと拾い上げた。
「・・・・・大学病院あて?って書いてるが?」

「・・・・・」事務長はたじろいだ。
「何やってんのお前?」
「な、何って。息・・・」
「ユーサノバ!正直に答えんか!さもないとアンモナイト!」
「これにはいろいろ事情が」
「とりあえず事務室へ行こう。事情聴取だ。仕事はそれからだ」

僕は事務長を犯人のように引っ張り、ゾロゾロ騒がしい外来待合を横切った。

みなの不機嫌な目が矢のように降り注ぐ。

「どうも最近、腑に落ちないことが続いてたんだ」
「先生。患者さんたちが」
「だから。はよ吐け。ただしカツドンは出んからな!」

バタン!と事務の奥部屋が閉められた。

思えばこれが、その後の自分の運命を変えたキッカケかもしれん・・・。
「ちわっす!」当直医が激しく激励。
「お?おう・・・?」
「ちわっす!(2回目)」
「お?おう・・・?(2回目)」

 パルス療法(本日3日目)をする予定の患者の横に、彼は立っている。反対側に中年ナース。何やら固まっている様子。

「(ガニーズ)先生。処置を、何か?」
「い、いや。今は。今は落ち着いてますわ!」
「?ナース。バイタルが何か?」

 近くの画面にはバイタルの折れ線が。嘘のように安定化している。

「むしろ良好だな?」
「はい・・・」ナースはまだ固まっている。
「おい?それは・・・」

 ナースは血液入り注射器を持っている。

「採血したのか?」
「と、採りにくくて」
「今日って、そんな予定あったか?確か、家族の意向で採血は本日見合わせだったろ?」

 患者の前での会話が続くので、いったん詰所へ。

「ああ!ここにおったおった!」そうじのオバサンが叫ぶ。
「びっくりしたな。なんだよ・・・」
「廊下を勝手に走りおって!」モップを振り回す。
「ててて!急変だと思ったんだよ!」

 当直医とナースはモニターに見入ってる。

「おい。(ガニーズ)先生。もう時間・・・」
「あ?ああはい?お!もう行かきゃカンファが(←わざとらしい)!そうですね。お疲れー!」
「夜間の入院はあった?」
「あーあったあった!胸痛がさっき入って」
「なに?所見は・・・」
「しょけん?しょけんと!」

 どうしたんだ。この男・・すっかり狼狽しきって。
それにしても不自然な奴らだな・・・

「ユウキ先生。所見は・・・これから?」
「俺に聞かれても・・・」

 入院カルテの番号をあてに、個室へ。

「おはようご・・・あれ?」
いない。

「ナース。新入院の人は・・・トイレにでも?」
「あっ」
ナースは階段へ向かった。

「待ってくれよ!どこへ?」
「まだ下です!」
「下?」
「救急外来の部屋!入院の部屋は確保したんですが!」
「なっ?」

 何アベコベやってんだ?それにしても総入れ替え後のうちの職員と来たら。
 駆け足がいっそう速くなった。

 救急部屋にまさか1人で・・・。

実はその通りだった。中年男性患者は眠っている。のか。

「おはようございます!」
「うっ?おはよ」
「痛みは今は?」
「よくなった。さっきは地獄かと思ったが」
「よくなった?ホンマ?」

それも考えものだが。私服に着替えたガニーズが降りてきた。

「じゃ!自分。帰りますんで!やあ表情、いいね!」
「あ。どうも先生。さっきは」患者は頭を少し持ち上げた。

「じゃユウキ先生!いい病院紹介してよ!」
「ここでそれやめろってんだよ・・・」

 調子に乗りやがって・・・!明けの当直のせいかハイぎみになってる。

「ナース。検査はホントに何もしてないのか?」
「心電図はさっきとったような・・・」
「なんだよそれ。しっかりしろよ!」

心電図を記録。

「酸素飽和度は低下。心不全状態じゃないだろうな?くっ!」
「はあ?」中年ナースはわざとらしく驚いた。

「QSパターンだよこれ!心筋梗塞の過去形だ!前壁の・・・!」
「カテーテル、しますか?」
「気軽に言うな!」

 超音波では、古い梗塞のさらにその上に梗塞・・といった印象だ。

「胸水も多い。心不全治療が優先だ。高熱も?」ピピッと体温計が見えた。38.7℃ある。
「肺炎?」ナースがつぶやく。
「アンタに聞いてないんだよ!」

「先生!暴言!イエローカードですよ!」救急入口が開いていたそこには、事務長が立っていた。

「事務長!当直医はもう帰ったか?」
「あ。あれそうです」

ベンツがブルルー、と余裕で道路へ飛び出した。

「あいつの携帯、鳴らせ!」
「無茶言わんでください!大事なお客様なのに!」
「あそっか!採血したから、これ出してくれ!」
「はいな」
「それと!」
「ほい?」
「はよ行け!」

 事務長はコートのまま走って行った。次々とやってくる職員たち。見物人と変わらない。

「なに?」「どうして?」「あれ?」「うわ・・」
「とっとと着替えてこいよ!」

 朝っぱらから怒り心頭だ。心臓に良くない。

<神経を集中。集中・・・・怒りは患者のプラスにならない・・・それがどんな理由でもだ>
自己暗示でなんとか平常心へ。

 医長が出勤。最初から相手を見下したような風格が漂う。

「おはようございます。救急?」
「見りゃわかるだろ。トシ坊」
「原因は?バイタルは?」
「教授回診かいな。自分で見てみろ」
「荒っぽいですね」
「ちっ・・・!」
「ユウキ先生じゃありませんよ。心電図のつけ方がです」
「余計ちちっ!!」

 検査の結果待ち時間は、なんともいえん。どうとも言えない時間っていうのは。

「そうだ。おい事務長!」
「はいただいま!」事務長は片膝ついた。
「ちょっと調べてくれ。病棟の俺の患者、勝手に採血された疑いがある」
「そういうのは、看護師長のほうへ・・・」
「怪しいものを感じたんだよ」
「怪しいのは、お互い様じゃないですか?」
「ちっ・・・」

 心不全の患者は医長に割り当てられ、みな救急外来を出た。

「おい!ここちゃんと拭いとけよ!」
救急待機の麻酔科医、ピートがぞうきんで拭いている。
「オレはここの番人だぜ!何なら自費でリフォームさせるぜ!」

 再び詰所へ。師長が腕組みしている。申し送りが始まったようだ。
「ああ〜水曜日か!」

 電車通勤で駅を降りて、歩くこと15分。
 やっと病院が見えてきた。巨大な駐車場はまだ空っぽ。おっとその前に、大通りの赤信号を待たねばならない。

「・・・・・」

 昨日は情けないことにバテてしまい、帰ったら速効寝た。しかしそのあと何度かコールがあった。確かまともに答えたと思う。

 最近眠りが浅く、コール→レム睡眠→コール→レム睡眠→・・・と最悪の連鎖が続く。あちこちで医師の過労が叫ばれ始めたが、マスコミ同様それは生もののニュース扱いだ。飽きられたら見向きもされない。

 ピッポー!ピッポー!と青信号。気が遠くなる距離を焦って歩く。

 車のない生活はつらい。もっと大事に扱うべきだった。ろくに点検もせず、ついに動かぬ人に。修理に出したいが、ディーラーと自分の営業時間が全く同じで出す暇もない。

「ひ〜ふ〜!さぶさぶ!」(冬)

 受け持ち患者の状態をあれこれ予測しながら、タヌキの置物の横を通り過ぎる。

 今日は(も?)、<早出>といって、いつもより早めに出勤する役回りだ。臨時で頼まれた。当直のドクターが早めに医大に帰るらしい。朝のカンファレンスに間に合わせるためだという。

「ふ〜!おはよ!」ぶっ飛んだ頭で挨拶。外で喫煙に励む若者。
「あ!来た来た!」先日受け持った若い男性患者だ。若い女性患者と話していたようだ。

「あ!また行くから!」
「おいおい。ちょっと待ってえな先生!」
「先に用が!」
「重症の人、どうなったんかいな?え?」
「は?」
「今日で3日目だろ?ステロイドのパルス療法とかいうの!」

何で知ってるんだ・・・。

「それ、誰から・・・」
「あ、ホンマや。ホンマなんや!ウワサ通りや!」
「やめなよ。そういう・・・」
「んーまーそれはいいとして!で、先生。俺の病名は?」
「あとで行くから!」
「焦らずとも早起きせな先生!」
「(喫煙一同)わっはっはっは!」

 事務長がどんどん入院入れて、ガラが悪くなったな。経営のためなら仕方ないんだけども。

1階のエレベーターがやっと開く。
「あかん!小銭ねえ!(コーヒー買うための)あっ?」

 向こうから、ハァハァと息切れが近づく。

「えっ?だれ?」<開>を押すと間に合い開くドア。
「まてっ!まてい!」

 掃除のオバサンじゃないか・・・。またも茶色いグラサン。ストーカーか?この人は。

 オバサンは大汗で飛び込んだ。勢いあまって大鏡に肩を打った。
「げえ!」
「そんな急がんでも・・・」

エレベーターはゆっくり昇り始めた。

「おばさん。大変だな・・・」
「はっ!はっ!なんでまた今日ははっ!」
「早いかって?頼まれたんだよ。今日は早めに来いって」

と、病棟のバタバタ足音を感じ、即ボタンを押した。
「なんか、だる!いや、ある!」
特有のカンだった。しかし1階分出遅れた。

「しまった。1階下だ。まええか」
「医局行くのとちがうの?え?」

 ドバン!と一気に階段へ出て駆け降りる。ただならぬ雰囲気を感じた場合は駆けつける。自分の経験では3つに1つは予測が当たる。

「たた・・・何かあったんか?」

詰所へ入ったものの、誰もいない。

「どこの部屋?おーい!」廊下に向かって叫ぶが反応なし。
「重症部屋か!」

 詰所近くの重症患者部屋に入る。あちこちカーテンがしてあるので把握は困難。

「あそこか!」

 かすかな揺れでわかった。近づくと・・・カーテンが向こうから開いた。

「ちわっす!」

 ジャニーズ系の院生、ガニーズだ。またこいつが当直か。これで日・月・火の3連直だ。何でそこまでするのか・・・

 彼は大学の院生だが、珍しいことではない。実験が数日ない場合などでもデータ整理のため当直時間を有効に利用、生活費をコツコツ稼いでいく。

 単発バイトの集積が彼らの貴重な収入源である。だが寝当直になるかどうかは誰にも分らない。

 しかし3連直はやりすぎだ。

 だからといって、代わってやる気は毛頭ありませんが。
 イギリスからの独立は、嫌がらせからの脱却だった。キッカケになったのは課税。イギリスはアメリカ北部に対してあらゆるものに税金をかけまくり、東インド会社の売れ残り紅茶まで買い取らせようとした。アメリカ側の代表者はイギリス行きを断られ、<代表なくして課税なし>という名言が生まれた。増長していたイギリスはわが利益のために、アメリカを遠隔操作しようとした。搾取を恐れたアメリカは独立宣言を採択し、それを認めぬイギリスと独立戦争を開始した。実際に独立が公式に認められたのは戦争開始8年後のパリ条約。

 アメリカが、この搾取する国に勝てたのはその広大な大地。はるばる海からやってきたことによる支配は限定的で、結果的に分散した兵団は1つずつ潰された。思えばベトナム戦争で、逆の目に遭ったわけだが・・・。 
 
 何が言いたいのか。つまり、7月4日にはこう言う奴が必ずいる。

「アメリカが実際に独立した日は、違うんだよ!」

※ パリ条約の日(実際の独立日):1783年の9月3日。

 
 このネタに戻るが、周囲でのこの映画の評判があまりよろしくない。「面白くなかった」という人が大半だ。

 思うのだが、ルーカス・スピルバーグはいい意味で現在の流行にとらわれてない貴重な存在だ。やたらド派手な演出を狙わず、先進技術なものでなく、限られた普遍の材料でものを考える。そこが老若男女関係なくした娯楽の鉄則なんでしょう(←水野晴男?)。

 映画を<面白く>することはできたはずだ。物量を増やしテーマを壮大にして派手なジョン・ウー的演出をすれば、今の観客はとりあえず満足する。しかしあえてしなかった。ひょっとしたら、彼らなりの主張かもしれない。

 君らの周りでも、流行に左右されてない人間がいるはずだ。ヒッピー風であったり、髪型がテクノだったりウォークマンCDだったりカーステ曲がおニャン子だったり車がMR2だったり・・・。それはそれで立派な主張だ。  

 変わらないものもあれば・・・

 (ニヤリ)変わるものもある。

(↑先日・地デジのマトリックス放送で再影響)  

 拾う神もあれば・・・

 捨てる神もある。

(↑関係なし)   

 (話変わるが)診療でも先進治療に影響され続けると、医療の概念を独自で打ち出す人間が出てきて(そこでは<斬新>と言われる)、自分が医療そのものを操ってると勘違いするようになる。勢いだけの情熱は長続きせず、後に冷めて評価されているものが多い(これまでのステント治療とか!)。

 かといって保守的になっていいわけではない。そうならないためにはルーカスらを見習って、老若男女誰でも馴染める病院作りをし、市民と隔てのない病院を目指すのだ!

 ・・・とか言うから、<軽症の救急搬送依頼>が増えるんだよなあ。

 まあいい。インディは製品化されたら、もう1回見直してみよう。

「火曜日編」で更新が止まってるサンダル先生も、そろそろダークな水曜日編で再出発(最初から暗い話になります)!

ダビング10

2008年7月3日 趣味
 ダビング10がちょっとしたニュースになっている。これまでハードからディスクへのコピーが1回限りだったのが、10回までいけるようになった。なんともチマチマとした仕様ではないか。

 10回もコピーするとしたら、おすすめ番組をディスクで周囲にあちこち配るような、よほど気前のよい人間なんだろうな?

 日本は相変わらずの<コンテンツ鎖国>だ。映画・音楽などのメディアは一見軽量化・ファイル化が進んで一見便利なように思える。しかし、実はその過程で(削除不可能な)コピー信号を組み込むのが目的だと思われる。

 この間、プレステ3からPSPへゲームをコピーした。で、違うプレステ3から別のゲームを同じくPSPへコピーしたところ・・・。なんと最初のプレステ3からコピーしたゲームが使用できない。1台のプレステ3につき1台のPSPで使えってことか。

 PSPはメモリースティックで、動画も入れるならデジカメムービーもソニーにせないかんし、でもレコーダーでの再生はパナソニックなのでSDカードやないといかんし・・ああ!

 

お中元

2008年7月3日 趣味
 ・・がそろそろ届くようになってきた。独身だと、実はつらいものがある。不在伝票が来たあとの手続きだ。毎日夜遅いので(飲み会含め)、帰宅したら郵便受けに入ってるタイミングとなる。

 同じ病院に何年も勤めると、なぜか個人情報があちこちに流れ、患者家族からダイレクト郵便も来るようになった。

 さて不在票が来たら仕方がない。ドライバー・集配所へ連絡。名前、伝票番号、電話番号など・・恥ずかしいくらい根掘り葉掘り聞かれ、預かり期間の期限前に配達してもらおうとはするが・・・なかなか(待機できる)確実な時間が指定できない。

 親戚に田舎者が多いんだが、彼らのメッセージまで電話に届いている。さあその内容が・・・

「おい!届いたか!どうなんや?おい?おーい!(ピー)」

 この時期は、帰宅しても落ち着かん。

 
 老人がキレたニュースがあった。特殊なケースだとは思うが、今の50-60代はかなり元気で好戦的だ。金をもってるだけに余計。

 さて。いま、認知症は大きく2つのタイプがあり、

? アルツハイマー ・・ 天然っぽい痴呆。平気で大胆なミスをすることがあり、付添い人は目を離せない。CTで脳の委縮。まんが日本昔話に登場する老キャラが印象に近い。

? 動脈硬化性 ・・ 高血圧や喫煙などメタボ因子が背景。MRIで細かい脳梗塞が多数(脳の小さい動脈が多数つまっている)。怒りっぽいのが特徴で、付添い人は身体的・精神的の両面で苦労する。水島伸司のマンガの<野球に偏執的な老人キャラ>の印象に近い。

 メタボ的な世の現状からすると、今後この?がますます増えてくるのは確実。じいちゃんは怒りっぽいから魚を食え、というのは気休めでしかない。

 将来のキャラクター予後のためにも、少なくとも禁煙は徹底しなければいけない。
 ・・の1つとして、<謙遜>が挙げられる。

 仕事仲間、あるいは患者・家族でときに物凄く腰の低い人に出会う。そうか頭を下げたか。なら少々いいよな・・・?とウワテに出てくる人間が多いと思うこの頃。意外と病院スタッフにも多い。それは・・・

 同じ建物にありながら、部署同士のプライドが乱立する職場だからだ。自分のテリトリーへの過剰意識が背景。だが患者・家族相手にその上で(自分が偉くもないのに)こっそりアグラをかく態度は良くない。

 だがそういう時こそ、むしろその(礼儀正しい)人に畏敬の念をより抱き、こちらはさらにへりくだる・・・そう感じる心を大切にしたい。

 というのは自分の言葉ではない。何かの本で読んだ。その作者の名は<中谷彰宏>。バブル期の僕らの文芸アイドルだ。

http://www.oscarpro.co.jp/profile/nakatani/

 うなぎ偽装の社長の名前(同姓同名)で思い出した。人違いだとは思うが。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080626-00000006-maip-soci

 ああ。身と皮が一体の、食べたらサクッと香ばしそうな大きなウナギを。食べたい(お吸い物と交互で)。
 大阪の現状はだいたい分かるが、介護ビジネスと称しているものの実態はすさまじいものがある。中でも介護マンション系統は特に。<グループホーム>などというオシャレな名称や、気の利いた広告・看板はすべてプロが生み出した<パッケージ>にすぎない。

 被介護者への扱いが悪いというのではなく、末端で働いているスタッフらへの(業者による)扱いが問題だ。介護ビジネスをやってるのは不動産関係が多く(建物持ってるから)、この手の業者はまずロクな人間がいない。当然ハゲタカのように施設の進出が増えすぎて患者の取り合いとなる。結果的には、徐々に自然淘汰されつつある。

 スタッフはたいてい年俸契約で、契約されればそれこそサービス残業の嵐で泣かされる。仕事上のケータイ・ガソリン自費、呼び出し受付24時間は当たり前。当直業務も強制的。当然、自主退職も多くなる。

 つまりこれは・・・ハゲタカ業者が寄ってたかって食い荒らそうとした、その結果起こったことだ。グッドウィルはその拡大図(縮図の逆)にすぎない。

< 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 >

 

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