北新地の料亭。4人がけのテーブルに、院長と若ナース、老若事務員(医者以外女性)。
いつものように、お手ふきで顔を拭く院長。

「な。ま、本音でいこうや!本音で!わはは!」
「何か、あったのですか・・・?」老事務員が少しのけぞる。
「いやいや。うちの業績が最近、ふるわんのはむしろワシのほうにも問題があるのかもと・・そういう指摘を受けてな」
「先生のほうには、何も落ち度はございません」
「(よく言うわ、サノバビッチ・・・)」

酒が運ばれ乾杯。みな、少しずつ酔ってくる。
若いナースの表情が少し緩くなる。
「ねえ先生。今のホントですか?」
「うむ?」
「本音で話しても、ええの?給料引かれたり、クビにしたり・・」
「あ、それはないない!シックスティーン!」
「そっか。うーん・・・」

ナースは、院長をまるで品定めするように見つめた。

「患者さんから苦情があるんですけど」
「ほ、ほお・・・い、いきなりだな」
「検査のあと、ろくに説明しないって」
「く。ま、そんなときもあるかな」
「みんな言うてるよ。50人くらいかな」
「わ、わしは説明してると思うぞ?」
「つもり、だけなんちゃう?」

(沈黙)

ナースは淡々と続ける。
「ああそんでな。20くらいのパートの子が来たときな。可愛い子」
「う、うむ。今も時々は来てるが」
「先生、セクハラしたやろ?タバコ吸っていい?」
「う、むあ・・・」

事実を否定できない院長。3人はためらいもなくタバコに火。
ナースは携帯をチェックしながら続けた。
「あたし知ってるよ。その子がDSやってるって言ってたら先生、その子にこっそりDSソフトをプレゼントしてたよな?あたしが点滴に行ってて何も知らんと思ったら大きな間違いやで」
「ぐうう・・・」図星だった。
「そこら通る患者さんらも見てるんやで。先生には何も言わんけど」
「くう・・」
「で、先生その子にアタックしとるやろ最近。食事誘ったりメールしたり。あの子、彼氏おるんやで元ホストの。目と目の間、ちょっと離れてるけど」
「ほ、ほすと・・・」
「先生がいつも言うてる、感染しやすいホストとは違うで」
「それはコンプロマイズド・ホストだろうが」
「あ、でも性病もちやろうから感染しやすいか。しょうもな!あーあ」
「しかし君はよく・・」
「辞められたらこっちが困るんで、ちょっかい出さんといてな。ジャニーズのコンサート行けなくなるし。あーそんでな」女の話はキョロキョロ変わる。

2人の事務員は、淡々と食べてはいるがアンテナはフルで伸ばしている。

「そんでな・・・出るの?ボーナス」
「いや、それは今後の業績次第で」
「どうせ寸志やろ?でも先生、この前、あたしが辞めるって騒いだ時言うたよな。そのうちボーナス出すから、頼むから辞めんといてくれって。事務員より給料出すからって」

事務員の2人のドンブリに、噛まれたばかりの麺がドドッと落ちた。
院長は青ざめた。
「こ、ここで言うなよ君ぃ・・」
「先生。どういうことでしょうか」老事務員が下を見つめていた。
「あわわ」
「先生。あたしらにもそうおっしゃってたと思うんですが」

(沈黙)

ナースは料理をあちこち中途半端に食い漁り、追加の注文を。
「舟盛り。デザート。酒の追加。みんな、何かいる?」
ブスッとしていた事務員も、なんだかんだ頼む。

老事務員は若いほうに耳打ち。そして・・
「あたしたち、明日はもう来れないかも・・」
開業医スタッフの殺し文句だ。

「はは・・・いやいや。そ、そうだな・・」
院長はポケットをまさぐった。
「臨時ボーナスだそっか。今な、今!」
テーブルに、しわくちゃ万札が数枚。

3人は、凝視。

「す、寸志やけど、とっとけい!ワハハ。今日はここで許して・・」

若い事務員は、数を数えた。
「ひい、ふう、みい・・・」
ご丁寧に、重複してないか札を1枚1枚こする。
「全部で8枚?」
「うあ?寸志だからこれで勘弁をば!」
「困ります・・・」
「なぬ?」

3人は、往年のNHKクイズ番組のように一斉に叫んだ。

「(3人)均等にしてもらわないと!困ります!」
拍手は起きなかった。

1枚足して、1人3万円。

ゲップしたナースは後ろに倒れた。
「あ〜あ!今度は肉、食べたくなった〜肉!」
「おいまだ、料理は残ってるだろうが。舟盛りも残っておる」
「あ。魚はもういい。あたし、もともと魚系好きじゃないし」
「ぬう・・・!肉とは!」

院長は財布を見た。カラだ。その上、肉ときたもんだ。

「肉・・・肉・・・肉!」
「どしたの?先生。ヒック。靴下破れてんでいつもそうやけど」老事務員が酒をグビグビ飲み干した。

院長はテーブルをガシッとつかんだ。

「にく・・・にく!たいた!にーく!」
ドカン、と星一徹ライクにテーブルをひっくり返した。

「(3人)きゃああああ!」

舟は・・・見事に沈没していた。
しかし、ナースはうまく交わして隅にいる。

「先生。この服高いんやで?弁償してもろたら廃業せないかんかもやで!」
「(事務2人)♪しーらんぞしーらんぞ!」

一夜にして、立場が逆転していた。
外来業務中。

相変わらず少ない外来。診察室から外を見る院長。
「むう〜。それにしても、患者が来んな・・・!」

若事務員の声が聞こえる。
「あ〜あ。ねむ。ひょっとして、このままお開き?」
「も、閉めよか!ギャハハ!」老事務員。
「おのれ・・あいつら好きなこと言いおって!」

と、若事務員のトーンが変わる。
「おはようございまーす!」どうやら患者が来たようだ。
「点滴してほしくて・・」中年男性の声。初診。
「あのね、それは・・」老事務員がしゃしゃり出る。
「え?いけませんか?」患者は不満がった。
「昼前なんですよね。今から点滴というのは・・」

「かまわんかまわん!どうぞどうぞ!」
院長が飛び出し、誘導。
「表では12時で終了って書いてはありますが、その範囲にあらず!」
「すんまへんなあ・・」申し訳なさげに患者は横に。
「どうぞ、ごゆるりと!ついでに検査など」
「いや、それはいい」

診察室へ戻る。
「クソ〜。肝心な出費は抑えるときたか・・・!」
「先生」老事務員が、壁にもたれて斜めに立っていた。
「お?」
「点滴終わったら12時半くらいになるんですが」
「ああ、そ、そうだな。うん」
「あたしたち3人、レストランに12時すぎ予約してるんですけど」
「そ、それは電話で融通利かして・・」
「時間外は、出るんですか?」
「時間外?いつも出して・・なかったな。はあはあ」

若ナースがやってきた。
「先生。患者さんがもう点滴いらないって」
「うそ?さっきは・・」
「だから帰ってもらって、今度は朝早く出直し・・」
「のけのけ!そこのけ!のかんかい!」

遮るナースを押しのけ、待合室へ。

「あのう!点滴はもうよろしいので?」
「いや。なんか看護婦さんが。先生がやっぱしなくていいって言ったって」
「はは、は・・・」
後ろのナースに振り向き、睨みをきかす。
「おい!わしはそんなこと、言うてないぞ!はは。すんません・・・」

患者の前で言われたせいか、ナースはダッシュで休憩室へ。

「おいナース!点滴してくれよ!はよう!」
休憩室ドア(スライド式)を開けようとするが・・・
「なにっ?開かずの間?」

中から鍵が閉められている。
「こりは・・・いかに?」
何度ガタガタ引っ張っても同じ。

「すんませーん」
引き続き、外来患者。本来なら受付終了時間だが、その締め切りのカードが外に出ていない。シャッターも開いたまま。

「これ!事務員ちゃんと閉めとかんか!ああ、いらっしゃい・・」
事務員は忙しそうにパソコンをたたいている。
「ささ、診察室へ・・」
診察、超音波をするため真っ暗に。

「お腹が痛い、か・・・胆石はないね」
「そうでっか」

すると、外から叫びが聞こえた。
「おーい!おーい!」
「は、はい!」
超音波の写真を抜き取り、急いでベッドへ。さきほどの患者が・・・まだ点滴してない!
ナースは引きこもったまま。

「ああすんまへん!今すぐ!」
呼びにいく間もなく、点滴をつめていく。
「自分で点滴なんて、ここ数十年してないな・・」

患者の横で、血管探し。すると・・・
事務員2人が顔を出す。
「先生。患者さん、どんどん来てるんですけど」
「まま、まてい!集中しとるとこじゃ!」
「なるべく早くお願いします」

なかなか入らない。しかし、なんとか・・・

「はああ!入ったあ!よっしゃ!」
「先生。汗だらけですな」逆に患者に心配された。

診察室では、超音波した患者が暗闇で寝ている。
「さ!さ!終わった終わった!薬出しとく!」
「食べてないんですよね数日。よかったら点滴を・・」
「くっく!了解!ちょっと待ってて!」

出たあと、中年女性が赤ん坊を抱えて入室。
「おいカルテ早く!・・・で、この子は今日どうしました?」
「いえ。この子でなくあたしです」
「すんまへん・・・」
「吐いて吐いて、下痢して下痢して・・点滴してください。もう歩けない」
「わかりました!点滴しますので!赤ん坊は・・」

2人の点滴を入れ、母親から赤ん坊を取り上げた。
「わしらが、だきます!おい、抱いとけ!」
「ええっ?もしもの労災は?」老事務員が受け取る。

院長は若事務員に指図。
「おいおまえ!早く受付終了せよ!はようはよう!」
患者がどんどん入ってくる。
「ドア開けとったら、どんどん入ってくるだろが!」
若事務員は、下を向いて風船ガムをプ〜と膨らませた。

引きこもりナースのとこへ。
「おい!こら!出ろ!処置や点滴!たのむ!」
長い物差しを、隙間に入れて・・・
「でやあ!」
ズバーン!とドアが開いた。すると・・・

「な、なにい?」
ナースは三角座りしたまま、シュンシュンと泣いていた。
外の開いた小窓から、バイクのエンジン音とくさいガス臭。

「ひとみィー!」(←ナースの名前)
ボンボンボンボン、マフラーの外れた不快な音。
「ひとみィー!何泣いとんやー!呼んだん、お前やろうがー!」

このナース。彼氏に助けを求めたか・・・。彼氏かどうかは分らんが。仕事してないのか?

「すまんが、点滴患者が複数名・・」
「シュン、シュン」
「わしが悪かったな。はいはい。だからその」
「シュンシュン。先生があたしを嘘つき呼ばわりした。恥かかせた」
「どうしたらええんじゃ・・・」

老事務員がガラッと戸をあけた。
「先生!患者さんがたくさん、待ってるんですけど!」
「今、説得中」
「受け付けは、とっくに済んでるんですが!」
「薬の処方だけにできんか?」
「みんな、点滴希望です!暑いからって!」
「暑いだけで、点滴を?」
「だって先生が言ってたじゃないですか!患者さん集めのために!」

そういや、熱中症予防のために点滴に来てくれってアピールしてたな、このわし・・・。

婆さんが手押し車で喜んでいた。
「いやあ。受付時間過ぎてもやっとる、こういう病院を待っておったんや」
「あのすんません、今日はちょっと・・」
「なんですの?」
「今日は看護婦さんが体調悪くて」
「そこにおるがね」
「は?」

泣き腫らしたナースが、後ろで仁王立ち。
「先生。あたしは体調悪くないです!いい加減なこと言わないでください!」
「お。よくなったようです。ささ・・」
3人の患者をベッドへ。
「じゃ、看護婦さん。たのんます」

引き上げようとしたら・・・

「先生!点滴するのは先生の仕事ですよ!」ナースは狂ったように叫んだ。
「い?」
「医者でしょう?そもそも先生の仕事じゃないですか!」
「わ、わしは院長として、その」
「医療行為なんだから、先生がしてください!」
わけの分らない理屈で、院長がする羽目に。

みな、早くしてくれという表情で待つ。
「うわ。この婆さん、血管ない・・・」
よく考えてみれば、こういった人もなんとか毎回してくれていたのだった。
「うう・・・」

後ろで老事務員が立って囁いてくる。
「あ〜あ。早くやってくださいよ先生。患者さんが帰れませんよ。いつまでたっても」
「残業代はきちんともらいますので」(←若事務員)
「さ。暇だな〜何しよっかな〜」(←老事務員)
2人は控室へ引き揚げた。ナースは蛇のように睨む。

すると・・・

「ひとみ!ひとみィィィ!」
荒げた声が、部屋の中まで入ってきた。ヘルメットをした男。さっきのバイク男だ。
「大丈夫かひとみィ!」

泣き腫れた顔のナースを見て、男はあちこち見まわした。
「お前らコラ、ひとみに何してんねん何を!」
メットを叩きつけ、みな飛び上がった。
「(一同)うわああああ!」
「誰が泣かしたんやコラ!ひとみ泣かしたんはどいつや!お前か!」
ベッドの中年が指さされた。
「ちゃ、ちゃいます!」

私服の院長は、ゆっくり忍び寄った。
「あの〜」
「はあ?はたまたお前か!院長どこやねん!院長は!」

院長は、男を玄関まで連れて行った。事務員は休憩室。ナースも奥。
「あそこを・・曲がって・・・行きました。30分先の吉野屋まで」
「おし!吉野屋やな!今、行ったんやな?おし!ボコボコにしたる!」
「お気をつけて・・」

男が出て行ったのを見届けて・・・

「おらあ!柔道一直線!」そこらの本を床に投げつけた。
奥で、患者らのどよめき。
「逃げるなこら!あああ、行ってもうた・・・」
 と、芝居してベッドのほうへ。ナースはビビっていた。
「先生が、倒した・・?」
「いやあ、わし実は格闘好きやねん。ほな点滴してもらおか!」

ナースはそそくさと点滴に取りかかった。
事務員が驚いて出てきた。
「なんか、すごい音がしたんですが・・」
「ああ、あの男。わしが倒した」

事務員らも、顔が青ざめた。

「点滴はな、そうやな・・・あの男が帰ってきたらいかんから・・・早めで落とせ!」
「はい!」ナースはもとの従順に戻った。事務員もかしこまる。
「これにて閉廷!ザコとは違うのだよ!ザコとは!わっはっはっは!」

若事務員が、時計を見ていた。
「あ〜あ。関ジャニのチケット電話するの、忘れてた・・」

院長はビシッと指さした。事務員は飛び上がった。
「わ!すみません!」

以下、芳忠で。

「わあしに謝るな関ジャニ謝れ!くわぁめんライダアデンオウ絶賛上映中!」(寒)

(終)

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