< レジデント・ファースト 3 コベンたちの沈黙 >
2004年1月11日患者の急変に出くわした。腹痛。どうしたらいいか分からない。頭はパニック、真っ白だ。
「ちょっと、待っててください。すぐ戻りますから」
正確には逃げた、ということになるか。
廊下を走ってナースステーション近くの当直室へ。講師クラスの人がいるはずだ。
が、そこはもぬけのカラで、ベッドの上にエロ本が1冊置いてあるだけだ。
「関東の風俗雑誌・・?」
ここは関西ですけど。
ところどころに◎を入れてある。
「さては・・学会出張か、近々?」
当直医は救急外来に呼ばれて、病棟にはいないということだった。夜の8時。医局に電話するが、誰も出ない。そういや野田先生が夜8時に帰ると言ってたな・・ひょっとしたら、医局から自宅へ帰る寸前かもしれないな。
「ダッシュだ!ダッシュ、ダッシュ、バンバンババン!」
渡り廊下を走って医局へ。研究室に1人、院生らしき人間が一人。マスクをしており、目しかわからない。
「僕は先生のオーベンとはグループが違うんでね、助けるわけにはいかないよ、悪いけど。ちゃんとオーベンの許可をもらってなら分かるけど。え?野田を探してる?ああ、今出ていったのがそうと違う?」
その存在感の全くない院生は引き続きガスバーナーをラットに噴射していた。ラットは既に焼け死んでいた。
こいつは何をしているのだ?のだ?そうだ・・野田!
「させるか!(?)」
全速力で走った。エレベーターがチンと閉まる音。ここは7階。エレベーターはすでに下へ向かってる。
「階段だ!」
レクター博士じゃあるまいし・・!
『クンクン。エンジンの匂いがするな。車は目覚めたか?』
などと言ってる場合ではない。
途中でコケながらもなんとか1階へ。人の気配はない。耳を澄ますと・・エンジン音がする。急発進でセダンが出て行く。
「あ、ちょっと待って・・!プレイバック!プレイバック!」
振り切るようにその車は出て行った・・。
バカにしないでよ・・!
しばらく途方に暮れていた。しかし患者は今も腹痛を訴えている。どうすればいい?
医局へ戻ると、誰もいない・・。みんな帰ってしまった。当直医も不在。実験室ではラットの死骸。
タイミングは最悪だ。
そこへ呼び出しのポケベル。今日で鳴るの7回目。音からバイブに切り替えることにした。
ナースからの催促だ。
結局様子見でその日は過ぎていった・・。患者さんもなんとか3時くらいには寝た。鎮静剤で痛みをごまかしながら・・。
僕も帰宅・・。
しかし、7時には出勤しよう。と思った・・。思ったが・・・・。部屋に着いたとたん、それは襲ってきたのだ・・。
睡魔。
グウ。散らかった部屋。
オーベンが帰ってきたのは、次の朝一の飛行機だった。初めて会うオーベン・・。最初の洗礼を受けるまで、あと数時間・・。
天にまします、我らのオーベンよ・・!
病院の朝。コベンは目覚めたか?
<つづく>
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