< レジデント・ファースト 4 洗礼 >
2004年1月18日 医局で待つこと2時間。こんなに待たせるなんて、いったいどんな奴なんだ?僕の指導医=オーベンの先生っていうのは。講師とはいうけども!
僕の心配は怒りに変わっていた。睡眠不足で緊張感が途切れていく・・。
カチャ。
ゆっくりとした面持ちの大男が黒ぶちメガネで入ってきた。一昔、60年代の人間といった感じ。何かつぶやいている。
「ナッツが来るぅ・・ナッツが来るぅ・・ナッツが来るぅ・・」
はやりの大黒摩季の歌だ。だが同じフレーズばかり。
「・・おい、お前か」
「はい?ええ・・そうです」
「そこ、座れ、そこは僕が座るから・・。研修医がソファに座ったらいかんよ。そこの丸イスへ、さあ!はようはよう!」
せっかちそうな奴だなあ。
とたん、近くで喋って盛り上がっていた大学院生が1人、また1人と医局を早足で去っていった。逃げるかのように。
「・・で?その患者の病名は?」
「はい、腸閉塞です」
「・・何でそう診断できた?」
「そ、それは・・レントゲンの所見が」
「検査の所見じゃなくて・・じゃあなんでレントゲン撮ったんだよ。そもそも、なんで病院に来た?」
「・・カルテが病棟にあるので、取って来ます・・」
「おいおい。カルテは病棟から持ち出したらいかんだろ、なあ!おい!前向け!」
「・・・・」
「どんな症状があったから来たんだ?」
「腹痛です」
「それだけか?他にあっただろ!俺はちゃんとカルテに、目ェ通してきたんだぞ!」
なんだ。遅いと思ったら、病棟に行ってたのか。
「腸閉塞の初発症状とは何だ」
「?・・腹痛ですか?」
「違う!何やっとんだ、お前!夜になったらスタコラ家に帰ってるって聞いたぞ!他の研修医はほとんど泊り込みでやってるというのに!情けない奴だなお前は!」
「・・・・・」
「嘔吐だろう!嘔吐!オウト!それが初発症状!この人もそうだったんだよ!で・・何が原因なんだ?」
「それはまだ・・」
「まだ何だよ?原因も考えずにお前、腸閉塞の治療だけしてどうすんだよ!せめて、大まかな分類くらいできるだろが!」
腸閉塞には機械性と麻痺性がある。機械性は腸がせまいためで、大腸がんだったり腹部手術後の癒着だったりする。麻痺性は先天性であったりして頻度は少ない。
「手術はしたことがないと聞いてます。でもお腹の音は亢進しています。機械性の所見に合うので、機械性のイレウスだと思います」
「・・それだけで根拠にするな!まあいい、日が暮れる。腹痛には何で対処する?」
「鎮静剤を・・」
「そんなもんからいきなり使うな!たまったガスを出さんといかんだろ!経鼻チューブをなぜ入れてない?」
ああ、そうか・・。でも自分の独断ではできないよ。誰もいなかったし。
「貴様を指導するよう他の医者に頼んでたんだが・・そいつには厳しく言っておくからな。野田だな。ま、オレから言わせてもらうとアイツは医者ではない。浮浪者だ。あとで他の先生と一緒にチューブ入れろ。今日は死ぬ気でやれ。絶対に帰るな」
「・・・・」
オーベンは人差し指を立てた。小指も立ってる。
「いいか!家に帰るな!あとでチェックしに来るぞ!」
・・オーベンは結局その日病棟には来ず、早くも教授回診の日が迫っていた・・。
<つづく>
僕の心配は怒りに変わっていた。睡眠不足で緊張感が途切れていく・・。
カチャ。
ゆっくりとした面持ちの大男が黒ぶちメガネで入ってきた。一昔、60年代の人間といった感じ。何かつぶやいている。
「ナッツが来るぅ・・ナッツが来るぅ・・ナッツが来るぅ・・」
はやりの大黒摩季の歌だ。だが同じフレーズばかり。
「・・おい、お前か」
「はい?ええ・・そうです」
「そこ、座れ、そこは僕が座るから・・。研修医がソファに座ったらいかんよ。そこの丸イスへ、さあ!はようはよう!」
せっかちそうな奴だなあ。
とたん、近くで喋って盛り上がっていた大学院生が1人、また1人と医局を早足で去っていった。逃げるかのように。
「・・で?その患者の病名は?」
「はい、腸閉塞です」
「・・何でそう診断できた?」
「そ、それは・・レントゲンの所見が」
「検査の所見じゃなくて・・じゃあなんでレントゲン撮ったんだよ。そもそも、なんで病院に来た?」
「・・カルテが病棟にあるので、取って来ます・・」
「おいおい。カルテは病棟から持ち出したらいかんだろ、なあ!おい!前向け!」
「・・・・」
「どんな症状があったから来たんだ?」
「腹痛です」
「それだけか?他にあっただろ!俺はちゃんとカルテに、目ェ通してきたんだぞ!」
なんだ。遅いと思ったら、病棟に行ってたのか。
「腸閉塞の初発症状とは何だ」
「?・・腹痛ですか?」
「違う!何やっとんだ、お前!夜になったらスタコラ家に帰ってるって聞いたぞ!他の研修医はほとんど泊り込みでやってるというのに!情けない奴だなお前は!」
「・・・・・」
「嘔吐だろう!嘔吐!オウト!それが初発症状!この人もそうだったんだよ!で・・何が原因なんだ?」
「それはまだ・・」
「まだ何だよ?原因も考えずにお前、腸閉塞の治療だけしてどうすんだよ!せめて、大まかな分類くらいできるだろが!」
腸閉塞には機械性と麻痺性がある。機械性は腸がせまいためで、大腸がんだったり腹部手術後の癒着だったりする。麻痺性は先天性であったりして頻度は少ない。
「手術はしたことがないと聞いてます。でもお腹の音は亢進しています。機械性の所見に合うので、機械性のイレウスだと思います」
「・・それだけで根拠にするな!まあいい、日が暮れる。腹痛には何で対処する?」
「鎮静剤を・・」
「そんなもんからいきなり使うな!たまったガスを出さんといかんだろ!経鼻チューブをなぜ入れてない?」
ああ、そうか・・。でも自分の独断ではできないよ。誰もいなかったし。
「貴様を指導するよう他の医者に頼んでたんだが・・そいつには厳しく言っておくからな。野田だな。ま、オレから言わせてもらうとアイツは医者ではない。浮浪者だ。あとで他の先生と一緒にチューブ入れろ。今日は死ぬ気でやれ。絶対に帰るな」
「・・・・」
オーベンは人差し指を立てた。小指も立ってる。
「いいか!家に帰るな!あとでチェックしに来るぞ!」
・・オーベンは結局その日病棟には来ず、早くも教授回診の日が迫っていた・・。
<つづく>
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