< レジデント・ファースト 12 ハイパーテンス >
2004年1月31日高血圧の患者は3種類くらいの内服で血圧が落ち着いているようだった。
「先生、いったい何が原因やったのかの?」
「この前も言いましたように・・、高血圧の9割は原因が分からないんですよ」
「じゃ、癌?」
「なんでなんで・・そうなるの?2次性のものは調べましたが、腹部超音波、腹部CT、ホルモン検査でも異常がなかったんです。貧血もなし、心臓超音波は・・壁が厚いだけ。これは血圧そのものの影響らしいです」
まあ確かに、副腎癌というのもありうる。良性ならアルドステロン症とか。
「壁が厚い?厚くなって、動きにくうなったら・・先生、先生」
左心室の壁の厚さは左右対称1センチ前後だ。高血圧の心臓は「拡張不全」を呈する。拡張不全のひどいのがタンポナーデと拘束型心筋症だ。収縮不全は虚血性心疾患が中心だ。
「大丈夫ですって!」
「ああ、大丈夫なんや、よかったよかった・・で、先生、いつになったらこれらの薬は止めれるんかいの」
「いえ。一生です」
「?一生縛られないかんの?なら高血圧って・・治らん病気なの?」
「治るとか、そういうものではないんです。共存・・」
「やっぱ死ぬんやわ・・脳出血で」
「あのなあ・・・」
オーベンのところへ。
「先生、2次性のもの疑い検査しましたが、どれも異常ないようです」
「・・・じゃあなんだ、この人はもう退院か」
「もういいと思います」
「高血圧は、冠動脈疾患・・つまり狭心症・心筋梗塞の危険因子:リスクファクターだな、それは知ってるだろうな」
3K、つまり高血圧・喫煙・高脂血症、それとDM=糖尿病だ。
「はい」
「他にないのか。リスクファクターは」
「タバコは吸いません、糖尿病もないです。コレステロール・中性脂肪も高くないです」
「お前、患者と話してんのか、ちゃんと」
「は、はい」
「・・・この人、近くの医者で治療してんだよ」
「え?でも入院時の問診では・・」
「ホントに聞いたのかどうかは知らんが、患者は俺には話してくれたぞ」
「・・・」
「お前はまだ信用されてないんだよ。心を開いてない。患者はかかりつけがあって他の病院に入院すると、けっこう気を使うものなんだ」
「・・・」
「以前から、糖尿病、高脂血症の治療をやってる。薬飲んでるんだよ。この人はこれだけリスクがあるんだ。心臓超音波検査で異常なくとも、それは安静時の検査だ。運動負荷したら、何か出てくるかもしれん。開業医では運動負荷なんかめったにしないからな」!
手間がかかるし、その割にお金が取れないのだ。
「・・・」
「冠動脈に狭窄がある可能性が高い。運動負荷心電図をすることで、冠動脈の狭窄のあるなしがある程度推定できる。心電図に変化があった場合、その病名は?」
「ろ、労作性狭心症です」
「それをしてから退院させろ。ひっかかったらカテーテル検査へもっていく。データを集めれる。勝手に退院させるな」!
今日はオーベンの機嫌が比較的良く、助かった・・。
医局を逃れ、2階の食堂でわずかなひととき。
「ここ、座るよ」
野中だ。I型アレルギーが働いた。
「ごちそうさん」
「ちょっと待てよ。せっかく話せるんだから、ちょっとだけいようぜ」
「夕方のカンファレンスの準備があるんで」
「今から準備?もうみんな昨日で終わらせてるぞ」
「今からでもいいだろうが?」
「みんなと相談しながらやったほうがいいって」
「うるさいんだって・・お前は」
「先生、浮いてるって噂だよ」
「俺は自分の時間が欲しいんだよ」
「僕らはレジデントだろ。時間がなくて当たり前じゃないか。患者さんのことだけ考えてりゃいいんだよ」
なんだコイツ。
「とにかく、バイバイ」
居場所がない。
夕方、たしかに自由参加のカンファレンスがあるが、出るつもりはない。よそから来た教授が出席するから全員来いというものだ。
テーマは「私が経験した●●型心室性不整脈」。あんただけ経験したのが、そんなに自慢なのかよ?
図書館は静かでいい。時間を忘れる。
医学書のコーナーへ。なんか古い本、多いなあ・・。
消化器病の本だ。腸閉塞のページ・・。
分類は、機械的腸閉塞 ・・ 物理的な閉塞がある。このうち不完全な閉塞の場合をサブイレウスという。開腹手術後の癒着に伴うもの多い。
機能的腸閉塞 ・・ 腸管運動そのものの障害がある。
これらを起こすと腸管に多量の水分・ガスが2リットルー8リットル溜まったりする。結果的に血管の中は水分が不足し脱水となり、ショック状態になることもある。なので輸液は十分に。
<<治療は・・・原因に基づく>>
ええ?これだけ?
なんかどの本も、「オーベンに聞いてください」って言ってるような気がするなー・・。
学生の購買へ行ってみた。CD売り場などがある。DEENの「瞳そらさないで」が売ってある。購入。千円。駐車場へ行き、車のチェンジャーにセット。
帰りに聞こう。
しばらく車に乗ったままだった・・。疲れたし、もう少しいるか。大学病院の駐車場は広いから、職員には見つかりっこないしな。しかし、時は許してくれなかった。
ピーピーピー・・・。ポケベルの音が大きくなっていく。公衆電話まで行く。
「はい?呼ばれましたか」
「ああ、君、今どこ?医局もいないし、病棟もいないし」
病棟医長だ。
「いえ、トイレです」
「便秘?ウンコは病院外でしてくるように。ペーパーも無駄になるから。ああところで、今から入院が病棟まで上がるんだが。外来の方へ行ってくれないか。呼吸器疾患だと思う。プロフェッサー=教授からなんだが」
「病名は不明ですか」
「教授の字は分からんからねえ」
「・・・」
よく試験、通ったな。裏口か?
外来の外の部屋へ、病棟医長が入ってくる。
「やあ、よろしくね、主治医を頼む。あれ?患者はどこ?」
「今採血検査に行ってます。レントゲンは・・これです。胸のCTが、これ」
「胸のレントゲン・・これ、横になって撮ってるのか。水がたまってるかどうか分からん。まあCT見りゃいいな。うん、CTでは溜まってないな。肺の影も・・肺炎とかはないなあ」
「入院のきっかけはなんでしょうか」
「さあ、しゅしょ、いや、主訴が呼吸困難ということらしいが」
「肺も・・心臓も異常ないわけですかね」
「そんなハズないだろう、君」
「心電図、これですが」
「むう、胸部誘導のT波がひっくりかえっている。これ・・心筋梗塞じゃないのか?こりゃけっこう時間経ってるぞ」
「え?」
しっかりしろよ、外来主治医・・!
ノックなしで間宮が入ってきた。
「病棟医長!呼吸が促迫してます!血液の酸素分圧も低いです!」
「数値でいくらだ」
「80くらいです」
「酸素マスクいっぱいで・・?」
「はい、もうこれで限界です」
はじめての、アコム・・いや、急変!
コメント