< レジデント・サード 13 形勢逆転 >
2004年3月20日 連載< レジデント・サード 13 形勢逆転 >
高齢のナース3人に囲まれた。退職金目当てめ・・・。
「患者さんの名前は・・三上さんですか。胸の痛みは、一番痛いのが10なら・・」
「そうやな・・10ありますわ・・イタタタ」
「看護婦さん、t-PAはありますか?」
「そんな薬あるんですか?さあ、私ら救急はしたことないし。分かりかねます!先生、そういった指示は病棟に上げてからしてください」
一般内科で初老の松本部長が戻って来た。
「AMIですな、先生。病棟でt-PAを用意してもらったらいいでしょう。ドクターも揃ってないのに、direct PTCAというわけにもいきませんね。ハハハ・・・」
「既往に胃潰瘍があるので、それは使えないと・・」
「ム?じゃあ何だ!君が1人でカテでもするか?」
「・・・・・・」
「まあそれか転院だな。悪いが先生、ワシはそっちの専門ではないから、自分で紹介先を探してだな、家族の合意のもとで決めたまえ。こういうプロセスも、レジデントの研修の一環として重要なんだ」
専門じゃない、か。ドイツもコイツも。だから「一般」内科は嫌いなんだ。
そのとき、パタパタパタと外来の待合室からクツの鳴り響く音が聞こえてきた。かなり大勢のようだ。こちらへ走っているようで、大きさも次第に増してきた。
僕は思わず叫んだ。
「来た!」
マトリックスのスミスばりに、スーツ姿の長身が何人も外来へ押し寄せてきた。
循環器部長を先頭に、ドタバタ進んでくる。その大群は午前診察の未処理カルテを大量に置いてある机にぶつかり、カルテがドタバタ倒されていった。
部長は患者の横、吉本先生はカルテを、他の医局員はデータ・レントゲンを確認にかかった。
助かった・・・。
部長が次々と指揮していく。
「看護婦さん、何やっとんだ?さっさと右誘導、取りなさい。酸素。ルートも取ってない。やる気あるの?あんた、TZ用意してよ。あんたはキシロカイン、吸っておいて。何か分かるね?」
吉本先生がカルテから顔を上げた。
「発症から3時間か。ここで1時間も足止めしてるな・・」
「おい、松本君!」部長が叫んだ。辺りが静まり返った。
隅っこにいた松本部長がハッとこちらを伺った。態度が一変した。彼らはほぼ同期らしい。
「お帰りなさい、先生。出張のお疲れのところを」
「それはいいんだよ。先生、君も内科医なんだったらAMIのプライマリケアくらいきちっとしなさい!うちの大事なレジデントを呼びつけといて!」
「今日は循環器科の患者が来るとは、思っても・・」
「循環器閉めたからって、循環器の患者が来ないと思うのがバカだと思わんのかね」
「え、ええ」
後で聞いた話だが、当院の一般内科と循環器科の中は以前から犬猿のそれらしい。
部長が指示を続けた。
「山根くん!家族へカテの説明・同意書を!泉さん!みんなでストレッチャーを運んで、モニターごと!伊藤君!輸液は全部セットしたな?放射線スタッフは揃えたか?」
「捕まえました、部長」
部長は伊藤の肩をパシパシ叩いた。
「よし、そのままカテ室へ搬入しろ!」
ベッドの両側の柵がガチン、ガチンと閉められ、両端2人ずつ、先頭1人、後ろ1人の計6人体制で、ストレッチャーは加速していった。
ベッドの両側を固めた医局員は、またもやそこら中の机、カルテ、点滴台などを次々と何台もなぎ倒し、ドミノ倒しになった点滴台は、救急カートの上に倒れこんでいった。
バキバキバキバキ・・・・・
さらに始末できてなかったカート上の医療器具を四散させた。
ガジャガジャジャジャジャ・・・注射器やイソジンなどが床一面に拡がった。
看護婦・松本部長は圧倒されてしまい言葉もない様子だ。
割れたガラスや液体を一足一足ゆっくり交わしながら、僕は外来を出た。
患者・医局員は去ってしまい辺りはまたシーンとなっている。まるで台風が去ったようだ。
「ユウキ先生、これ、おみやげ」
オーベンが医局員数人と外で待っていてくれた。
「ああ、先生・・ありがとうございます」
「今日の朝、向こうを出たんだよ。そっちも大変だと思ってね」
「みなさん、病院へダイレクトに寄っていただいて・・有難うございます。先生、心筋炎の方はおそらく、もう・・」
「わかっている。しかしよく頑張った。今日はもう休んでくれ」
「しかし」
「そんな体調じゃミスが起こってもいかんしな。今日の晩から明日の朝は僕が診る」
「・・・」
「みんなバスから解散するとこだったんだが、連絡が僕の携帯に入ってね。それでみんなをここへ向かわせた」
「連絡・・・先生の携帯に直接ですか?」
ドクターの携帯の連絡先は詰所は控えてないハズだ。一体誰が・・・・。まあいいか。
歩いて去っていくオーベン。カッコいい。エレベーターを待つオーベン。僕は遠くから見送った。
と、横のエレベーターの数字が下りてきて、開いた。須藤ナースだ。患者を迎えに来たつもりなのか?
彼女がオーベンに頭を下げている?喜んでるのか?泣いてるのか?慌てふためいて、今にも抱きつきそうな素振りだ。彼女がはしゃぎながらオーベンの両腕にしがみついている。
「親子?いや、違う・・・」
そして・・彼らは同じエレベーターに乗った。閉まるまで目で追ったが・・彼女は横顔、上目遣いでずっとオーベンに見とれているようだった。
数字は上がっていった。
オーベン、やるな・・・・!
高齢のナース3人に囲まれた。退職金目当てめ・・・。
「患者さんの名前は・・三上さんですか。胸の痛みは、一番痛いのが10なら・・」
「そうやな・・10ありますわ・・イタタタ」
「看護婦さん、t-PAはありますか?」
「そんな薬あるんですか?さあ、私ら救急はしたことないし。分かりかねます!先生、そういった指示は病棟に上げてからしてください」
一般内科で初老の松本部長が戻って来た。
「AMIですな、先生。病棟でt-PAを用意してもらったらいいでしょう。ドクターも揃ってないのに、direct PTCAというわけにもいきませんね。ハハハ・・・」
「既往に胃潰瘍があるので、それは使えないと・・」
「ム?じゃあ何だ!君が1人でカテでもするか?」
「・・・・・・」
「まあそれか転院だな。悪いが先生、ワシはそっちの専門ではないから、自分で紹介先を探してだな、家族の合意のもとで決めたまえ。こういうプロセスも、レジデントの研修の一環として重要なんだ」
専門じゃない、か。ドイツもコイツも。だから「一般」内科は嫌いなんだ。
そのとき、パタパタパタと外来の待合室からクツの鳴り響く音が聞こえてきた。かなり大勢のようだ。こちらへ走っているようで、大きさも次第に増してきた。
僕は思わず叫んだ。
「来た!」
マトリックスのスミスばりに、スーツ姿の長身が何人も外来へ押し寄せてきた。
循環器部長を先頭に、ドタバタ進んでくる。その大群は午前診察の未処理カルテを大量に置いてある机にぶつかり、カルテがドタバタ倒されていった。
部長は患者の横、吉本先生はカルテを、他の医局員はデータ・レントゲンを確認にかかった。
助かった・・・。
部長が次々と指揮していく。
「看護婦さん、何やっとんだ?さっさと右誘導、取りなさい。酸素。ルートも取ってない。やる気あるの?あんた、TZ用意してよ。あんたはキシロカイン、吸っておいて。何か分かるね?」
吉本先生がカルテから顔を上げた。
「発症から3時間か。ここで1時間も足止めしてるな・・」
「おい、松本君!」部長が叫んだ。辺りが静まり返った。
隅っこにいた松本部長がハッとこちらを伺った。態度が一変した。彼らはほぼ同期らしい。
「お帰りなさい、先生。出張のお疲れのところを」
「それはいいんだよ。先生、君も内科医なんだったらAMIのプライマリケアくらいきちっとしなさい!うちの大事なレジデントを呼びつけといて!」
「今日は循環器科の患者が来るとは、思っても・・」
「循環器閉めたからって、循環器の患者が来ないと思うのがバカだと思わんのかね」
「え、ええ」
後で聞いた話だが、当院の一般内科と循環器科の中は以前から犬猿のそれらしい。
部長が指示を続けた。
「山根くん!家族へカテの説明・同意書を!泉さん!みんなでストレッチャーを運んで、モニターごと!伊藤君!輸液は全部セットしたな?放射線スタッフは揃えたか?」
「捕まえました、部長」
部長は伊藤の肩をパシパシ叩いた。
「よし、そのままカテ室へ搬入しろ!」
ベッドの両側の柵がガチン、ガチンと閉められ、両端2人ずつ、先頭1人、後ろ1人の計6人体制で、ストレッチャーは加速していった。
ベッドの両側を固めた医局員は、またもやそこら中の机、カルテ、点滴台などを次々と何台もなぎ倒し、ドミノ倒しになった点滴台は、救急カートの上に倒れこんでいった。
バキバキバキバキ・・・・・
さらに始末できてなかったカート上の医療器具を四散させた。
ガジャガジャジャジャジャ・・・注射器やイソジンなどが床一面に拡がった。
看護婦・松本部長は圧倒されてしまい言葉もない様子だ。
割れたガラスや液体を一足一足ゆっくり交わしながら、僕は外来を出た。
患者・医局員は去ってしまい辺りはまたシーンとなっている。まるで台風が去ったようだ。
「ユウキ先生、これ、おみやげ」
オーベンが医局員数人と外で待っていてくれた。
「ああ、先生・・ありがとうございます」
「今日の朝、向こうを出たんだよ。そっちも大変だと思ってね」
「みなさん、病院へダイレクトに寄っていただいて・・有難うございます。先生、心筋炎の方はおそらく、もう・・」
「わかっている。しかしよく頑張った。今日はもう休んでくれ」
「しかし」
「そんな体調じゃミスが起こってもいかんしな。今日の晩から明日の朝は僕が診る」
「・・・」
「みんなバスから解散するとこだったんだが、連絡が僕の携帯に入ってね。それでみんなをここへ向かわせた」
「連絡・・・先生の携帯に直接ですか?」
ドクターの携帯の連絡先は詰所は控えてないハズだ。一体誰が・・・・。まあいいか。
歩いて去っていくオーベン。カッコいい。エレベーターを待つオーベン。僕は遠くから見送った。
と、横のエレベーターの数字が下りてきて、開いた。須藤ナースだ。患者を迎えに来たつもりなのか?
彼女がオーベンに頭を下げている?喜んでるのか?泣いてるのか?慌てふためいて、今にも抱きつきそうな素振りだ。彼女がはしゃぎながらオーベンの両腕にしがみついている。
「親子?いや、違う・・・」
そして・・彼らは同じエレベーターに乗った。閉まるまで目で追ったが・・彼女は横顔、上目遣いでずっとオーベンに見とれているようだった。
数字は上がっていった。
オーベン、やるな・・・・!
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