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2004年4月9日 連載「じゃ、順番に」
「もう横になってます」
「この人?」
「老人ホームからです。熱発」
「ホームってこういうのばかりか?」
「SpO2 80%。酸素はさせてもらってます。誤嚥性肺炎ですかね、先生」
「ああ、レントゲン撮らないと」
「その写真!」
「え?ああ、影は・・ハッキリしないな。誤嚥性肺炎の場合は、影はすぐには出ないからな」
「上げますか?病棟に?」
「そうしよう」
いかん。完全に彼女らのペースだ。自分のペースに追い込まないと・・・。
「入院時指示はこれ。抗生剤はダラシンSで」
「抗生剤はなるべく皮内反応のないもので」
「だからダラSでいいだろ!」
「はあ」
なめられてる・・・。
「先生次、カゼです」
「先に診断するなよ!」
「しっ先生、患者さんはそこ」
「あ、ああ・・すんません」
若年女性がコンコン咳こんでる。いつものように誘導尋問だ。
「喉が痛いんですね?」
「痛くはないけど、イガイガします。エヘン虫みたいな」
「なんか懐かしいな・・・で、痰は?」
「痰はちょっぴり」
「熱は・・看護婦さん!」
「そこに書いてるでしょ。39度!」
「インフルエンザかな・・吐き気は?」
「あります」
「あちこち痛いですか?」
「そりゃもう」
「インフルエンザかな・・・」
当時は診断のキットもなく、タミフルもない。
「シンメトレル処方、点滴・・・と。しかしやっぱり処方してしまう、抗生剤・・セフゾン!やっぱセフェム系好きなのは、大学の名残りかなあ?」
「何ブツブツしゃべってんの先生?次!」
この急かし方・・○○予防会の健診よりも、徹底している。
「44歳男性、胸痛か・・よし!」
「この方です」
「胸のどこが?」
「なんか全体的にもやっとするんですわあ」
「聴診を・・」
これといった印象はない。
「じゃ、検査を・・待って!血圧・・」
210/122mmHg。
「ちょっと高めですね。検査は車椅子で行きましょう」
看護婦が至近距離でつぶやく。
「先生、処置は?」
「そうだな・・」
「アダラートの舌下?」
「いや、それは却って血圧上げるような・・・ぺルジピンの内服を。で、安静30分後に再検」
「先生がしてください」
「はあ・・」
「7歳男性、鼻水!」
「だ、男性って、子供じゃないか」
「前みたいに小児科の先生はダメですよ」
「・・・で、熱は?ああ、38度・・」
男の子は口で息している。苦しそうだ。
「ぼく、喉を・・・」
「イヤだ」
「は?」
「見せない」
「こ、困るな。これだから、子供は・・看護婦さん、親は?」
「呼びます・・・ささ、こちらです」
母親は頼りなさげに、子供を説得しはじめた。
「たくと、口を開いて、ねえ、たくと・・・」
子供は全く動じてない。
「イヤだ。絶対イヤだ!」
僕は舌圧子とペンライトを持ったまま構えていた。
しかしこのときの対策を、以前オーベンから教わっていた。
「じゃ、いいよ、もう見ないから・・・・・ハイ!11たす22は?」
子供は反射的に答えた。
「33」
「もっと大きい声でゆっくりと!ハイ!」
「さんじゅうさ・・!・・・・うわあ!」
そのスキをついて、僕は舌圧子とペンライトを突っ込んだ。
「発赤なし。鼻カゼか鼻炎で処方します」
「70歳女性。糖尿あるそうです。体がだるいと」
「デキスターは・・」
「もう測りました。544です」
「そんなの、平気で言うなよ」
「症状はありません。かなりボケてます」
「入ってもらってよ・・・おばあちゃん、いや・・・大隅さん?」
これもオーベンから注意されたが、患者を「おじいちゃん・おばあちゃん」呼ばわりしてはいけない。個人名で呼ぶのだ。
「なんか、返事、ないなあ・・」
大隅さんはニコニコしながら頷いている。
「困ったな・・家の人は?」
「荷物を取りに帰ると」
「入院決まったのかよ?」
「はあ、多分そうなると」
「看護婦さんの判断?そこまでやっても・・」
「いいえ、ちゃんと佐々木先生に問い合わせました!」
「診てるのは、僕なんだけど・・」
「佐々木先生は車の渋滞のため、少し遅れるとのことです」
「・・・インスリンの指示、これね。じゃ、一般病棟へ。一般内科のドクターを主治医に」
「50歳男性。喀血です」
「Tbじゃないだろうな」
「レントゲン撮りますか」
「ああ、CTも」
「心電図も?」
「そうだな・・肺梗塞ってこともあるな。さっき本読んでてよかった」
「32歳、喘息です」
「よし!」
「先生、自分の専門のときは調子いいですね」
「大きなお世話。入って入って!」
聴診でwheeze著明。喘息はふだんの内服が重要だ。テオフィリンを点滴に入れるかどうかの判断のとき。
「薬ですか?テオドールと・・・」
「看護婦さん点滴!生食とサクシゾンのみで!」
看護婦はメガネの上から覗いた。
「ネオフィリンは入れないんですか?」
「中毒にしたらいかんでしょうが・・はい次!」
「59歳女性。めまい」
「さ、どうぞ」
血圧・脈は正常・・・。50代以上の女性なら、更年期の自律神経症状か、メニエルか。
しかしルールアウトはしておく義務がある。
「頭部CTと心電図、採血・・ついでにレントゲンも。心エコーは僕がします」
1人の看護婦が感心してくれた。
「先生、肺も心臓も診れるの・・珍しいわね・・」
「37歳女性、ひどい咳」
「熱はなし・・か」
聴診は正常。咳以外あまり特徴がない。SpO2も正常。
「動物飼ってます?」
「・・いいえ」
「家族の人は?」
「独身です」
「う・・じゃ、職場の人は?」
「みんな咳き込んでます」
たぶんマイコプラズマの類だ。
「クラリス処方!あ、時間あります?・・ミノマイシンの点滴を。あ、レントゲンは・・・」
オーベンから注意されたのを思い出した。若年女性、独身女性への被曝はなるべく避けてあげろ。
「明日、また昼間の外来に来てください」
「22歳の過換気が今から救急で来ます」
「またか、イヤだな・・・佐々木先生は?」
「まだのようですね」
「ったく・・・!」
救急車は到着した。バイタル自体は・・正常のようだ。
看護婦は袋を用意した。
「先生、ここは私たちでやりますので」
「任せます・・次の人!」
「動悸です」
「よし!」
「なんで、よしなんですか?」
「心電図を!」
12誘導ではaf。既往はないらしい。
「pafだ。ルート取ったらジギラノゲンを!」
「ご苦労さん」
佐々木先生が後ろから肩を叩いた。
「さっきの喀血は肺癌じゃないかな・・CTで肺門部に腫瘤がある」
「・・・リンパ節と融合している・・それにデカイ」
「となると?俺は専門じゃないから分からないが」
「small cellじゃないでしょうか」
「そ、そうか。ま、呼吸器科へ入院かな」
確かに・・大学病院でも教わったが、『全ての喀血は入院・気管支鏡の適応』だ!
看護婦から。
「さっきの血圧高い人、再検で170/80mmHg!帰ってもらいますね!」
「そうだな・・ベッドも埋まるし。今日は安静にってことで。明日受診してくれと」
「はい!で、ジギラノゲンの用意できましたのでお願いします!」
佐々木先生が間に入った。
「オレがやろう。でもこれも専門でないなぁ・・。ジギ1Aと生食20ml・・・これを何分でいくんだ?」
「5分で!」
「血圧測定しながらか?」
「モニター見ながら!」
「そ、そうか・・」
<つづく>
「もう横になってます」
「この人?」
「老人ホームからです。熱発」
「ホームってこういうのばかりか?」
「SpO2 80%。酸素はさせてもらってます。誤嚥性肺炎ですかね、先生」
「ああ、レントゲン撮らないと」
「その写真!」
「え?ああ、影は・・ハッキリしないな。誤嚥性肺炎の場合は、影はすぐには出ないからな」
「上げますか?病棟に?」
「そうしよう」
いかん。完全に彼女らのペースだ。自分のペースに追い込まないと・・・。
「入院時指示はこれ。抗生剤はダラシンSで」
「抗生剤はなるべく皮内反応のないもので」
「だからダラSでいいだろ!」
「はあ」
なめられてる・・・。
「先生次、カゼです」
「先に診断するなよ!」
「しっ先生、患者さんはそこ」
「あ、ああ・・すんません」
若年女性がコンコン咳こんでる。いつものように誘導尋問だ。
「喉が痛いんですね?」
「痛くはないけど、イガイガします。エヘン虫みたいな」
「なんか懐かしいな・・・で、痰は?」
「痰はちょっぴり」
「熱は・・看護婦さん!」
「そこに書いてるでしょ。39度!」
「インフルエンザかな・・吐き気は?」
「あります」
「あちこち痛いですか?」
「そりゃもう」
「インフルエンザかな・・・」
当時は診断のキットもなく、タミフルもない。
「シンメトレル処方、点滴・・・と。しかしやっぱり処方してしまう、抗生剤・・セフゾン!やっぱセフェム系好きなのは、大学の名残りかなあ?」
「何ブツブツしゃべってんの先生?次!」
この急かし方・・○○予防会の健診よりも、徹底している。
「44歳男性、胸痛か・・よし!」
「この方です」
「胸のどこが?」
「なんか全体的にもやっとするんですわあ」
「聴診を・・」
これといった印象はない。
「じゃ、検査を・・待って!血圧・・」
210/122mmHg。
「ちょっと高めですね。検査は車椅子で行きましょう」
看護婦が至近距離でつぶやく。
「先生、処置は?」
「そうだな・・」
「アダラートの舌下?」
「いや、それは却って血圧上げるような・・・ぺルジピンの内服を。で、安静30分後に再検」
「先生がしてください」
「はあ・・」
「7歳男性、鼻水!」
「だ、男性って、子供じゃないか」
「前みたいに小児科の先生はダメですよ」
「・・・で、熱は?ああ、38度・・」
男の子は口で息している。苦しそうだ。
「ぼく、喉を・・・」
「イヤだ」
「は?」
「見せない」
「こ、困るな。これだから、子供は・・看護婦さん、親は?」
「呼びます・・・ささ、こちらです」
母親は頼りなさげに、子供を説得しはじめた。
「たくと、口を開いて、ねえ、たくと・・・」
子供は全く動じてない。
「イヤだ。絶対イヤだ!」
僕は舌圧子とペンライトを持ったまま構えていた。
しかしこのときの対策を、以前オーベンから教わっていた。
「じゃ、いいよ、もう見ないから・・・・・ハイ!11たす22は?」
子供は反射的に答えた。
「33」
「もっと大きい声でゆっくりと!ハイ!」
「さんじゅうさ・・!・・・・うわあ!」
そのスキをついて、僕は舌圧子とペンライトを突っ込んだ。
「発赤なし。鼻カゼか鼻炎で処方します」
「70歳女性。糖尿あるそうです。体がだるいと」
「デキスターは・・」
「もう測りました。544です」
「そんなの、平気で言うなよ」
「症状はありません。かなりボケてます」
「入ってもらってよ・・・おばあちゃん、いや・・・大隅さん?」
これもオーベンから注意されたが、患者を「おじいちゃん・おばあちゃん」呼ばわりしてはいけない。個人名で呼ぶのだ。
「なんか、返事、ないなあ・・」
大隅さんはニコニコしながら頷いている。
「困ったな・・家の人は?」
「荷物を取りに帰ると」
「入院決まったのかよ?」
「はあ、多分そうなると」
「看護婦さんの判断?そこまでやっても・・」
「いいえ、ちゃんと佐々木先生に問い合わせました!」
「診てるのは、僕なんだけど・・」
「佐々木先生は車の渋滞のため、少し遅れるとのことです」
「・・・インスリンの指示、これね。じゃ、一般病棟へ。一般内科のドクターを主治医に」
「50歳男性。喀血です」
「Tbじゃないだろうな」
「レントゲン撮りますか」
「ああ、CTも」
「心電図も?」
「そうだな・・肺梗塞ってこともあるな。さっき本読んでてよかった」
「32歳、喘息です」
「よし!」
「先生、自分の専門のときは調子いいですね」
「大きなお世話。入って入って!」
聴診でwheeze著明。喘息はふだんの内服が重要だ。テオフィリンを点滴に入れるかどうかの判断のとき。
「薬ですか?テオドールと・・・」
「看護婦さん点滴!生食とサクシゾンのみで!」
看護婦はメガネの上から覗いた。
「ネオフィリンは入れないんですか?」
「中毒にしたらいかんでしょうが・・はい次!」
「59歳女性。めまい」
「さ、どうぞ」
血圧・脈は正常・・・。50代以上の女性なら、更年期の自律神経症状か、メニエルか。
しかしルールアウトはしておく義務がある。
「頭部CTと心電図、採血・・ついでにレントゲンも。心エコーは僕がします」
1人の看護婦が感心してくれた。
「先生、肺も心臓も診れるの・・珍しいわね・・」
「37歳女性、ひどい咳」
「熱はなし・・か」
聴診は正常。咳以外あまり特徴がない。SpO2も正常。
「動物飼ってます?」
「・・いいえ」
「家族の人は?」
「独身です」
「う・・じゃ、職場の人は?」
「みんな咳き込んでます」
たぶんマイコプラズマの類だ。
「クラリス処方!あ、時間あります?・・ミノマイシンの点滴を。あ、レントゲンは・・・」
オーベンから注意されたのを思い出した。若年女性、独身女性への被曝はなるべく避けてあげろ。
「明日、また昼間の外来に来てください」
「22歳の過換気が今から救急で来ます」
「またか、イヤだな・・・佐々木先生は?」
「まだのようですね」
「ったく・・・!」
救急車は到着した。バイタル自体は・・正常のようだ。
看護婦は袋を用意した。
「先生、ここは私たちでやりますので」
「任せます・・次の人!」
「動悸です」
「よし!」
「なんで、よしなんですか?」
「心電図を!」
12誘導ではaf。既往はないらしい。
「pafだ。ルート取ったらジギラノゲンを!」
「ご苦労さん」
佐々木先生が後ろから肩を叩いた。
「さっきの喀血は肺癌じゃないかな・・CTで肺門部に腫瘤がある」
「・・・リンパ節と融合している・・それにデカイ」
「となると?俺は専門じゃないから分からないが」
「small cellじゃないでしょうか」
「そ、そうか。ま、呼吸器科へ入院かな」
確かに・・大学病院でも教わったが、『全ての喀血は入院・気管支鏡の適応』だ!
看護婦から。
「さっきの血圧高い人、再検で170/80mmHg!帰ってもらいますね!」
「そうだな・・ベッドも埋まるし。今日は安静にってことで。明日受診してくれと」
「はい!で、ジギラノゲンの用意できましたのでお願いします!」
佐々木先生が間に入った。
「オレがやろう。でもこれも専門でないなぁ・・。ジギ1Aと生食20ml・・・これを何分でいくんだ?」
「5分で!」
「血圧測定しながらか?」
「モニター見ながら!」
「そ、そうか・・」
<つづく>
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