< レジデンツ・フォース 5 新EMERGENCY ? >
2004年4月9日事務が電話を切り、こちらへ向いた。
「88歳男性!モチを喉に詰まらせて・・救急車であと1分!」
看護婦たちが驚いた顔をしながら、救急のドアをゆっくり開けにかかる。
「え?まだ正月になってないのに?」
「餅つきして食べたくなったんでしょ!」
「明日だったらいいのに!」
僕はめまいの患者のデータを見ていた。
「佐々木先生・・頭部CTは異常なし・・血液検査もです・・心電図も。自律神経か、メニエルですかね」
「ふだん飲んでる薬は?」
「ふだんの・・・?」
「調べなかったのか」
看護婦が振り向いた。
「飲んでるけど持ってきてないって」
あとは佐々木先生の指示だ。
「・・・メイロン入れてポタコール・・ユウキ先生、心不全はないんだな?じゃ、ポタでいいや」
救急隊が到着した。やせ細った老人に、心マッサージ、アンビューバッグが被せられている。
佐々木先生は患者の頭側についた。
「ボケッとするな!吸引吸引!」
看護婦はすぐさま吸引チューブを取り出し、口腔内を吸引した。佐々木先生は喉頭鏡で覗いた。
「おいこれ!ランプ点かないぞ!」
看護婦は救急カートから3つほど新たに取り出すが・・・どれも点かないようだ。ルートは入ったようだ。
ボスミンが入る。
「こらっ!早く!ユウキ!心マ!」
「は、はい」
僕は心マッサージにとりかかった。佐々木先生はカンシで除去しようとしているが・・
「よく分からんな。直視下では大きなものは見当たらん。ユウキ先生!気管支鏡で挿管!できるか!」
「え?僕はまだ・・」
「レジデントだったな、くそっ」
「・・・・・」
「じゃ、ふつうに挿管する。7.5Frをくれ!」
チューブは・・・なんとか挿入できたようだ。
「よし、アンビューと吸引を・・おい!」
3人の看護婦は知らん間に持ち場を離れていた。
「こら!こっちへ来ないか!ユウキ!呼んでこい!」
2つ隣のベッドへ僕は飛んだ。看護婦3人は1人の患者を囲んでいる。
「手伝ってくださいよ!」
「さっきの過換気の子がまた発作を!息が切迫してるんです!」
「こっちは息が止まりそうなんだよ!」
1人を無理矢理引っ張り、窒息の患者のとこへ連れて行った。佐々木先生はカンカンだ。
「バカ野郎!介助もろくにせずにどっか行きやがって!」
「2人いれば何とかなるかと・・」
「ざけんなコラァ!」
佐々木先生は怒りまくり、足を床にドンドン叩きつけた。
その看護婦はびびりまくって吸引チューブを取り出した。
「それはもうやったんだよコラァ!オレのマッサージを・・代われ!」
佐々木先生は汗だくで、やっとマッサージを交代した。
「ユウキ先生、カルテ30冊あるらしい。お前はそれ、片付けろ。重症はオレが診る」
「は、はい」
「コラァ!そんなマッサージで・・!」
僕は避難するように診察室へ戻った。知らない間に看護婦も1人戻っている。
「鬼のようにたまってますよ」
「何がだよ?はい、次!」
「30歳のカゼ!かなりお怒りです」
「はあ?」
「待たされてかなりお怒りのようです」
「それがどうした?こんな人数、能力のスタッフで廻るかよ!」
患者が入ってきた。ヤンキー風の兄ちゃんだ。
「何しとんや、おう!」
「咳・痰ですか。いつから・・」
「すんませんの一言くらい言えや!お前ら中心に振り回されとんやぞ!しばくぞ!」
患者はゴミ箱を蹴落とした。
心のオーベンからのフォースが聞こえた。
『怒りには・・・怒るな。冷めて中和しろ』
「・・じゃ、薬出しておきます」
「21歳女性です。下腹部痛」
「妊娠じゃないだろうな」
これまたヤンキー風の子だ。華奢で、元はかわいいと思うのだが。
「確認ですが、妊娠は・・」
「してないです・・たぶん!」
「た、たぶん・・・・」
「熱が高いのよー、とりあえず下げてよ。それとすごく痛い」
「39度も・・」
「アイタタタ・・・」
「妊娠反応を。れ、レントゲンも・・」
看護婦がキッと睨んだ。
「先生、若い女の子ですよ!」
「あ、ああ・・妊娠反応と・・血液検査」
「どうしますか、超音波は!」
「無理だよ。婦人科のドクターは?」
「うちの病院では救急体制とってません!」
「あのテでいくか・・」
「先生またあ・・!この前の小児科の先生すごく怒ってましたよ!」
「結果が出たら、報告を・・次!」
佐々木先生は一段落ついたようだ。
「一応、バイタルは戻った・・・!一般内科へ入院だ」
看護婦が待ったをかけた。
「先生、一般内科は重症部屋は満床です!」
「なに?」
「空いているのは、呼吸器科と循環器科です」
つるしてあるレントゲンでは右肺が真っ白。無気肺なのだろう。
呼吸器科でいいだろう。肺炎もあるだろうし。
「看護婦さんよ、安部先生は冬休みか?」
「はい。代理はレジデントが。でも1年目なんですよ」
「ううむ・・・」
流れは読めた。
「ユウキ先生」
きたか。
「部長には僕から言っとくから、主治医をお願いできないか」
「・・・・・」
「さっき取った心電図でも、広範にST低下があるようだし」
「先生、これは虚血というより・・循環不全そのものの・・」
「よし決まり!入院は呼吸器科病棟で、主治医はユウキ先生!」
「・・・・・」
「すまんが、正月も休めそうにないな」
「・・・・・」
僕の年末年始は、これで決まった・・・。
「先生早く!」
看護婦が診察室へ連れ戻す。
「45冊に増えてます!」
「何だこれ?」
「これって・・わたしゃあ知りませんよ」
「あああ・・・混乱してくる・・」
『先生、1個1個ずつ片付ければいい。そしたら終わる』
「そうだな・・次!」
「42歳女性、じんましん」
「強ミノ点滴!リンデロン処方、明日皮膚科受診」
「70歳男性、喘息かかりつけ、今回も発作」
「ソルメド点滴、SpO2モニターチェックを!点滴終了前にコールください!」
「27歳女性。眠れず安定剤希望」
「レンドルミンを!」
「強いのを欲しいと」
「だからそれを!」
「もっと強いのをと」
「それでいいと言ってよ!」
「ハルシオンにしてと」
「結局指定すんのかよ!」
「13歳。咽頭痛」
「小児か・・イヤだなあ。アーンして・・抗生剤、いつもセフゾンなのもなあ。クラビット!」
佐々木先生が横槍。
「小児はおい、ニューキノロンは禁忌だぞ」
「そうだったのか、知らなかった・・」
「58歳女性、しゃっくり」
「?どうしよう・・さ、佐々木先生!」
「こっちはDOAが来て大変なんだよ!」
「DOA?」
「Death On Arrival。到着時死亡」
「死んでるんですか?」
「今は・・生かそうとしてるよ!」
佐々木先生は一生懸命心マッサージを、ナースは挿管チューブにアンビューしている。
「だがな、腹部がかなりパンパンで・・・腹部大動脈瘤破裂かもな・・!くそ、全然反応がない!」
先生は再び汗だくだ。手袋の中も大汗かいている。
「看護婦さん、もうどれくらい経つ?」
「・・・45分です」
「そうか・・・ボスミンは合計?」
「12アンプルです。カルチコール6アンプル、メイロン8アンプル」
「DCもダメだった・・・対光反射も、なしか・・・マッサージ、一時止めるぞ」
モニターはフラットだ。
「ダメだな・・・看護婦さん、家族の方を」
「呼んできます」
「先生!しゃっくりの人!」
しゃっくりの患者は診察室で待っていた。
「どうもヒック・・・ぜんぜヒック・・・止まらんねヒック・・・」
『アレを注射したらどうだ・・・』
「88歳男性!モチを喉に詰まらせて・・救急車であと1分!」
看護婦たちが驚いた顔をしながら、救急のドアをゆっくり開けにかかる。
「え?まだ正月になってないのに?」
「餅つきして食べたくなったんでしょ!」
「明日だったらいいのに!」
僕はめまいの患者のデータを見ていた。
「佐々木先生・・頭部CTは異常なし・・血液検査もです・・心電図も。自律神経か、メニエルですかね」
「ふだん飲んでる薬は?」
「ふだんの・・・?」
「調べなかったのか」
看護婦が振り向いた。
「飲んでるけど持ってきてないって」
あとは佐々木先生の指示だ。
「・・・メイロン入れてポタコール・・ユウキ先生、心不全はないんだな?じゃ、ポタでいいや」
救急隊が到着した。やせ細った老人に、心マッサージ、アンビューバッグが被せられている。
佐々木先生は患者の頭側についた。
「ボケッとするな!吸引吸引!」
看護婦はすぐさま吸引チューブを取り出し、口腔内を吸引した。佐々木先生は喉頭鏡で覗いた。
「おいこれ!ランプ点かないぞ!」
看護婦は救急カートから3つほど新たに取り出すが・・・どれも点かないようだ。ルートは入ったようだ。
ボスミンが入る。
「こらっ!早く!ユウキ!心マ!」
「は、はい」
僕は心マッサージにとりかかった。佐々木先生はカンシで除去しようとしているが・・
「よく分からんな。直視下では大きなものは見当たらん。ユウキ先生!気管支鏡で挿管!できるか!」
「え?僕はまだ・・」
「レジデントだったな、くそっ」
「・・・・・」
「じゃ、ふつうに挿管する。7.5Frをくれ!」
チューブは・・・なんとか挿入できたようだ。
「よし、アンビューと吸引を・・おい!」
3人の看護婦は知らん間に持ち場を離れていた。
「こら!こっちへ来ないか!ユウキ!呼んでこい!」
2つ隣のベッドへ僕は飛んだ。看護婦3人は1人の患者を囲んでいる。
「手伝ってくださいよ!」
「さっきの過換気の子がまた発作を!息が切迫してるんです!」
「こっちは息が止まりそうなんだよ!」
1人を無理矢理引っ張り、窒息の患者のとこへ連れて行った。佐々木先生はカンカンだ。
「バカ野郎!介助もろくにせずにどっか行きやがって!」
「2人いれば何とかなるかと・・」
「ざけんなコラァ!」
佐々木先生は怒りまくり、足を床にドンドン叩きつけた。
その看護婦はびびりまくって吸引チューブを取り出した。
「それはもうやったんだよコラァ!オレのマッサージを・・代われ!」
佐々木先生は汗だくで、やっとマッサージを交代した。
「ユウキ先生、カルテ30冊あるらしい。お前はそれ、片付けろ。重症はオレが診る」
「は、はい」
「コラァ!そんなマッサージで・・!」
僕は避難するように診察室へ戻った。知らない間に看護婦も1人戻っている。
「鬼のようにたまってますよ」
「何がだよ?はい、次!」
「30歳のカゼ!かなりお怒りです」
「はあ?」
「待たされてかなりお怒りのようです」
「それがどうした?こんな人数、能力のスタッフで廻るかよ!」
患者が入ってきた。ヤンキー風の兄ちゃんだ。
「何しとんや、おう!」
「咳・痰ですか。いつから・・」
「すんませんの一言くらい言えや!お前ら中心に振り回されとんやぞ!しばくぞ!」
患者はゴミ箱を蹴落とした。
心のオーベンからのフォースが聞こえた。
『怒りには・・・怒るな。冷めて中和しろ』
「・・じゃ、薬出しておきます」
「21歳女性です。下腹部痛」
「妊娠じゃないだろうな」
これまたヤンキー風の子だ。華奢で、元はかわいいと思うのだが。
「確認ですが、妊娠は・・」
「してないです・・たぶん!」
「た、たぶん・・・・」
「熱が高いのよー、とりあえず下げてよ。それとすごく痛い」
「39度も・・」
「アイタタタ・・・」
「妊娠反応を。れ、レントゲンも・・」
看護婦がキッと睨んだ。
「先生、若い女の子ですよ!」
「あ、ああ・・妊娠反応と・・血液検査」
「どうしますか、超音波は!」
「無理だよ。婦人科のドクターは?」
「うちの病院では救急体制とってません!」
「あのテでいくか・・」
「先生またあ・・!この前の小児科の先生すごく怒ってましたよ!」
「結果が出たら、報告を・・次!」
佐々木先生は一段落ついたようだ。
「一応、バイタルは戻った・・・!一般内科へ入院だ」
看護婦が待ったをかけた。
「先生、一般内科は重症部屋は満床です!」
「なに?」
「空いているのは、呼吸器科と循環器科です」
つるしてあるレントゲンでは右肺が真っ白。無気肺なのだろう。
呼吸器科でいいだろう。肺炎もあるだろうし。
「看護婦さんよ、安部先生は冬休みか?」
「はい。代理はレジデントが。でも1年目なんですよ」
「ううむ・・・」
流れは読めた。
「ユウキ先生」
きたか。
「部長には僕から言っとくから、主治医をお願いできないか」
「・・・・・」
「さっき取った心電図でも、広範にST低下があるようだし」
「先生、これは虚血というより・・循環不全そのものの・・」
「よし決まり!入院は呼吸器科病棟で、主治医はユウキ先生!」
「・・・・・」
「すまんが、正月も休めそうにないな」
「・・・・・」
僕の年末年始は、これで決まった・・・。
「先生早く!」
看護婦が診察室へ連れ戻す。
「45冊に増えてます!」
「何だこれ?」
「これって・・わたしゃあ知りませんよ」
「あああ・・・混乱してくる・・」
『先生、1個1個ずつ片付ければいい。そしたら終わる』
「そうだな・・次!」
「42歳女性、じんましん」
「強ミノ点滴!リンデロン処方、明日皮膚科受診」
「70歳男性、喘息かかりつけ、今回も発作」
「ソルメド点滴、SpO2モニターチェックを!点滴終了前にコールください!」
「27歳女性。眠れず安定剤希望」
「レンドルミンを!」
「強いのを欲しいと」
「だからそれを!」
「もっと強いのをと」
「それでいいと言ってよ!」
「ハルシオンにしてと」
「結局指定すんのかよ!」
「13歳。咽頭痛」
「小児か・・イヤだなあ。アーンして・・抗生剤、いつもセフゾンなのもなあ。クラビット!」
佐々木先生が横槍。
「小児はおい、ニューキノロンは禁忌だぞ」
「そうだったのか、知らなかった・・」
「58歳女性、しゃっくり」
「?どうしよう・・さ、佐々木先生!」
「こっちはDOAが来て大変なんだよ!」
「DOA?」
「Death On Arrival。到着時死亡」
「死んでるんですか?」
「今は・・生かそうとしてるよ!」
佐々木先生は一生懸命心マッサージを、ナースは挿管チューブにアンビューしている。
「だがな、腹部がかなりパンパンで・・・腹部大動脈瘤破裂かもな・・!くそ、全然反応がない!」
先生は再び汗だくだ。手袋の中も大汗かいている。
「看護婦さん、もうどれくらい経つ?」
「・・・45分です」
「そうか・・・ボスミンは合計?」
「12アンプルです。カルチコール6アンプル、メイロン8アンプル」
「DCもダメだった・・・対光反射も、なしか・・・マッサージ、一時止めるぞ」
モニターはフラットだ。
「ダメだな・・・看護婦さん、家族の方を」
「呼んできます」
「先生!しゃっくりの人!」
しゃっくりの患者は診察室で待っていた。
「どうもヒック・・・ぜんぜヒック・・・止まらんねヒック・・・」
『アレを注射したらどうだ・・・』
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