僕はVf寸前だった。

『最悪の事態は、身内の内容で切り抜けろ』

「・・・両親です」
「あにぃ?」
「両親と新大阪で合流するんです。彼らの旅行をかねて今回の学会に」
「親?そんなん勝手に行かせたらいいだろがぁ!」
「あ、あまり体調が好ましくなくて・・・」
 畑先生が早足で近づいてきた。
「おまえなあ、天下の山城先生がいっしょに行こうって言ってくださってるのに!」
 山城先生は目を細め、サングラスをかけた。
「ネズミよ、まあいいわ。こいつは言ってもきかんようだし」
 他のドクターも諦めたようで、山城先生が振り向くと同時に後ろへ振り向いた。

一応外まで見送ることにした。山城先生はずっと後姿だ。

「でも・・・携帯は絶えず出れるようにしとけよな」
「は、はい。そうします。来週からは宜しくおねが・・・」
「おいネズミ!早く車出せ!」
 すぐそこに止めてあった大型ベンツは急発進し、あっという間に駅前を去った。

5時半過ぎ。しかしまだ間に合う!

改札へと急いだ。
「クソッ・・・さっきの電話。たぶん彼女だったんだ・・・!」

7番乗り場下の階段まで来た。大勢が降りてくる。
たぶん・・今ちょうど電車が来たところだ。
掻き分けながら止まってる電車のところへ。

なんとか乗れた。携帯はあれから鳴ってないが・・・
「なっ?」
電源が切れている。そうなんだ。当時の充電時間は相当短いものだった。
充電器は持ってきてはいるが。
「どうしよう・・どうしよう」
電車は大きな川を渡り始めた。夕日は地平線に隠れてしまった。

「・・・しかし、間に合いそうだから、いいか・・・」

 電車はゆっくりと新大阪に到着した。
「しん、おおさか、です・・・」

 再び人ごみを掻き分け、階段を登った。

登り終わったあと、ふと気づいた。
「・・・どこで待ち合わせを?」

 そうだよ。新大阪駅、そこまではよかったが。この駅のどこで?

 あまり考えてる時間はない。

 そこらの係員に聞く。
「あの、新幹線の乗り場は?」
「あああんた、そりゃあっちだ。逆方向!」
「ひえっ・・・」

足がもつれながらも、階段を歩き続けた。
 あれが改札だ。くぐるため、入場券を・・・。しかし列ができている。

前のオバさんがモタモタ1万円札を取り出している。横の列も同様だ。
「はやく!はやく!」
 足早に足踏みするが、オバさんの動きはとろい。こうしている間にも
時間は過ぎていく。
「もう何だよ!」
 オバサンはムスッとした表情でチケットを取り出したようだ。

しかしまだ前に2人いる。
「ダメだ・・・間に合わない」
 僕は肩を落とした。しかし最後の手段に出た。
「すみません。どうしても乗らないと」
 非常識にも先頭のおじさんに頭を下げ、割り込んだ。
チケットを持って改札の中へ。目前の階段を、一気に駆け上がった。

もう時計なんて見てる場合じゃない。

「行かないで・・・これ以上!」
 呑気にも頭の中では光ゲンジの歌が33回転で廻っていた。

 階段を登りきって、強くステップ・・・しかし、もう遅かった。

新幹線はゆっくりと加速していた。
「ああ・・・」
 客席を覗くにもよく分からない。どうしようもなく、客席の顔をただただ眺めた。

ファーン・・・と、新幹線はホームを離れていった。

 ドラマだったら、ホームにポツンと彼女が1人立ってたりするはずだが・・・そんなわけもなかった。

「寝台車の券ももうないし・・・どうしよう」
 このままホームに立っても時間が過ぎるだけだし。

 僕はトボトボと梅田の改札を出た。全ての列車に乗り遅れた・・・。車で行くにも無理があるし、金も足りない。
高速道路をフルに走ると片道2万はする。ガソリンでも片道2万。ヒッチハイクで横断、など電波少年での話だ。

 ある考えが浮かび、足早に歩き始めた。足はどんどん速くなり・・・・・。


 暗くなったころ、ガガガ、ガルーン・・・と1台の大きなバスが駅前に止まった。

その最後尾・左に僕は腰掛けた。両足を伸ばし、寝る体勢に。夜行バスだ。早朝には東京へ着く。

「絶対、出席するぜ!」




<つづく>

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