<注>
 平成9年あたりの内科学会が舞台となっておりますが、日記閲覧の普遍性・エンターテイメント性を持続させるため、公演の内容は平成15年以降の現代的な内容としており、ごく最近の公演などを意識・総合した内容としております。したがって実際の学会の公演内容とは異なります。


 多目的ホールといった感じの中で主催された。会場は大から小まで無限にあるようだ。
受付は何箇所もあり、そのために雇われたお姉さんたちが上品に愛想を振りまいている。
時間より少し遅れてロビーへ到着。

「ありがとうございました。ではこれが名札です。胸ポケットへ」
名札をポケットに刺し、大会場へと向った。彼女が発表する会場・時間も確認した。山城先生らに見つからぬよう・・・。
しかし心配なのは、宿泊先だ。今日から2連泊するホテルはMRの方が取ってくれた。このホテルは彼らにばれてないか?

超巨大な会場にたどり着いた。おそらく数万人が入れるのではないか。会場のちょうど真ん中に出てきたわけだが、最前列の人間は米粒に近い。
後ろは何層にもなっていて、どこもかしこも人、人でひしめき合っている。その間が廊下で何箇所も仕切られていて、いたるところにマイクが置いてある。

日本の頭脳が、いま、ここに結集している。

どこを見回しても初めて見る顔。当然だ。しかしどこか恥ずかしい僕は、会場の隅っこに腰掛けた。途中で迷惑なく退出できるからだ。
後ろのドクターは早くもグーグー寝ている。僕はカバンからプログラムと学会誌を取り出した。

間もなく前置きが終わり、教育講演が始まった。

「死因別死亡率のグラフです。一位が悪性新生物つまり癌、二位が心疾患、3位が脳血管障害、そして4位に位置するのが・・これからお話しする肺炎です
。最近は高齢化が謳われておりまして、今後も増加の一途をたどるものと思われます。
大まかには

? 市中肺炎 ? 院内肺炎  とに分けられます。

? 市中肺炎。
 病院を受診されて、肺炎と診断。ここまではいいが肺炎の起炎菌がすぐに同定できない。そういうことで悩んでらっしゃる先生方も多いと思われます。
しかし大まかに菌を推定することはできますね、はい。昔ながらの方法ですが、グラム染色。それが、その判定に有用です。しかし技術そのものに手間がかかったりで、実際
されているところはほとんどないのが現状のようですね。はい、次いきましょ。」

 グラム染色はレジデントのしょっぱなに何度か実習した。1つするのに30分はかかったな。手は紫色になるし。その割に病院への利益は少ない。
だからあまり推奨する医者はいない。呼吸器オタクには多いが・・。

「実際に顕微鏡で見えた菌が犯人とは限りません。ならどういうのが理想的か?どんな像を出したらいいのか?といいますと・・・
このように、好中球に喰われている、まさにこういった像をつかまえないことには、自信もってハイこれが起炎菌ですね、とは言いにくいのです。はい、次いきましょ。
行きすぎましたね。1個戻って・・はい。

 市中肺炎の原因菌として多いのは肺炎球菌、それとインフルエンザ桿菌ですね。肺炎球菌は周囲にキョウ膜といううすい膜を持ちますのが特徴です。
一番頻度の多い肺炎球菌。以前はすぐペニシリン系、使ってました。私も使ってました。でも最近あまり聞かないという声もある。なぜか。どうやら彼らは
私らの知らないうちに、防衛能力を高めたみたいですね。それが・・耐性、これですね。はい、次」

 思えばMRSAだって、こういう奴らが薬使え使えっていってたあげく生み出されたものじゃないか。反省会はちゃんと開いたのか?ホテルでよく
開催されてるメーカー協賛の講演会では、結局は薬の宣伝になってしまうもんなあ・・・。本音と反省が混じった講演会が聞きたい・聞きたい。

「あ、これは私がユニバーサルスタジオの時計台で撮影した写真ですね。日本でも近々できますね。はい、次。

 耐性の菌っていうのを拾い集めまして統計にしますと、なんと全体の半分くらいっていうからオドロキモモの木ですね。あ、ペニシリン系だけじゃないですね。
セフェム系も耐性示します。じゃあ何がいいのか。何が効くのか。アメリカでははい、呼吸器系ニューキノロンを推奨してますね。日本でも薦めたいですが、
この薬、大事に取っておきたい。ですので日本ではあえて第一選択とはしておりません。しかしついつい手が出てしまう人もおられるかも」

 遅かれ早かれ、みんな先走って、耐性ができてしまうんだ。ならば早い者勝ちってわけだ。僕はそう解釈した。
しかしPRSPに効くのは結局カルバペネムと記憶している。

「?の院内肺炎。院内感染違います、院内肺炎。入院して48時間たってからの感染ね。それ以内のは違います。さてさて院内ということですから病人が多い
。?の市中肺炎は健康人が比較的多いわけですね。だが院内は病人。病の人。抵抗力弱い。日和見感染。するとさきほどのグラム陽性球菌よりも
むしろ・・・陰性桿菌、それとMRSAや真菌の合併も多いですね。

 ですから市中肺炎は健康人、グラム陽性球菌、ペニシリン系。耐性あったら別。院内肺炎はグラム陰性桿菌、セフェム3世代・4世代といったふうに
覚えましょう。健康人は陽気なので陽性菌、院内患者は陰気なので陰性菌!」

 きわどい表現だな。

しかしソファーの居心地があまりにもよく、僕は次第に眠りについていった。会場でナマで聞くより、離れたテレビ会場で気楽にジュース飲みながら観戦したほうが
よかったかもしれない。

 

 目が覚めると、会場は人の出入りが盛んになっていた。講演がたぶん一段落ついたのだろう。昼をもう過ぎている。
できればいったん宿泊先のほうで受付して食事に行きたい。せっかく東京に来たから。だが何の下調べもなしなので、身動きができない。

 会場に近いワシントンホテルへ向った。受付ホールはかなりの人間でごった返していて、あちこちでエキサイティングな会話が繰り広げられている。
これだけの医者が集まれば、経済効果はかなりのものなのだろう。書籍コーナーも設けられていて、見たことのない本がたくさん置いてある。
 よく見ると今回の学会の先生の本が主体だったりする。金をあまり持ち合わせてない自分は指をくわえてただ見ているだけだ・・・。

 ワシントンホテルへ着いた。宿泊はMRの方に肩代わりしてもらって助かっている。
「えー、予約の方ですね。ユウキ様。7階です。カギを」
「はい。ありがとうございます」
「ああ、あの!電話にてのご伝言が届いております」
「伝言?MRの方?」
「・・・このようなものですが」
 受付がメモ用紙を渡してくれた。
「今日の夜は新宿までパンしゃぶを食べに・・・・パンしゃぶ?」
 これって・・・?続きを読む。
「学会が終わったら受付の出入り口で立って待ってる。絶対に合流するように。携帯番号は・・・。以上。山城より」

あいつか!
冗談じゃない。夕方にはグッチのポスターセッションに行く。彼女に会った後、あいつ等に捕まったら・・最悪だ。

携帯がかかってきても、意地でもでるもんか。


<つづく>

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