< フィフス・レジデント 2 死闘!循環器外来! >
2004年5月11日 連載ピピピ・・・
「鳴ったか!院内ポケベルだ・・・・外来だ!もしもし!ええ。外来始まってるのは分かってますが・・・」
「キーッ!どうなってんの先生!」
自分の外来担当のキンキン声だ。
「ダメだ、今は救急が・・・」
「早く終わらせて!カルテがもう20冊!」
「ひえっ!」
「澤田先生、すみませんが自分、今からルーチンの外来が・・」
「ああん?」
「腹部CTの伝票は書きましたので・・」
「で?あとで返事したらええのか?」
「・・・申し訳ないのですが・・」
「・・・・・」
「し、失礼します!」
駆け足で外来へ。待合室はもうごった返している。みんなが僕の顔を仮面様顔貌で睨む。
テレビの音がやかましく響く。
「すまない!」
外来の3診に座る。1・2診は既に始まっている。キンキン声は怒りの峠を越したようだ。
「いーえ!はい、この人から!・・・・ヨシダさーーーーーん!!」
耳をつんざくような声だ。早朝にはキツい。
超高齢で小柄女性のヨシダさんは杖をついて入ってきたが、ナースの迅速強引な介助で瞬く間に丸イスに座らされた。
この人が1人目か。話が長いんだ、これが・・・。
「変わりないですか?」
「変わった事はないんですがな、先生、最近この左のわき腹のほうが・・・」
変わったこと、あるじゃないか。
「・・・皮疹はないな。でも既往にヘルペスがあったら別かな・・」
「年が年じゃけえ」
「いや、そうではないと」
「癌じゃろか」
「いや、そうでもないと思いますが・・・。圧痛はない、と」
と言いつつ、なるほどとカルテには採血項目が付け足されていった。総蛋白、カルシウム、CBC・・・。何か引っかかれば一般内科へ
廻したらいい。
「最近はなあ先生、孫がもうやんちゃしてやんちゃして・・・」
話が長くなる・・・。いつものようにナースに目配せした。キンキンはすぐに対応した。
「ハイ!じゃあ終わりましたからね!外へ出て待っててください!」
「それと先生。血圧はどうやったら下がるんかいな」
「今日の血圧は140/76mmHg。まあまあいいと思います!」
「やっぱ薬飲まんといかんですかいな」
「飲んで、この数値ですからね」
「いや、実はわざとここ1ヶ月、止めてみたんじゃわ」
なんだと・・・?
「そ、それは困ります。また上がってくるかもしれないし」
「いや、ナンかその、薬ばっかり飲みよったら頭がパーになるって近所のオバサンが言うし」
「・・・・・ナンですか、それは」
「ハッハッハ・・・」
キンキンが無理矢理手を引っ張った。
「はいはい!もう終わりですよ!くすりは!続けてください!やめないで!」
そう、止めないで・・・これ以上・・・。
「センセ!この人!かなり急ぐらしいんで!」
「若干34歳で心筋梗塞の・・・ああ、この人か」
「写真がこれ!心電図がこれ!ミヨシさーーーーーーーーん!ミヨシさーーーーーーーーん!」
「・・・・・」
「いません」
「なんだよオイ!」
「次は70歳おじいちゃんね、afの人」
「ああ、どうぞ」
「カワイさーーーーーーん!」
「ウルサイな。ここにおるがな」
患者は彼女のすぐ後ろに立っていた。
「キャッ?さ、どうぞ!」
その隙にカルテを確認。ワーファリンコントロール中だ。今日のTTは21%。高齢にしては効きすぎだ。
「河合さん。以前のように鼻血出たりとかは・・」
「ああ、全然ございません。健康そのものです!」
「じゃ、診察を・・・」
河合さんはいきなり立ち上がり、シャツごと上半身裸になり、下も脱ごうとした。
「し、下はいいですよ!」
キンキンが止めにかかったが、患者はグンゼ1枚になった。
「聴診では・・・ラ音なし、と・・・脈は・・・イレギュラー・・・54/分くらいかな。心電図のHRは・・・78/分のaf」
触診の脈と心電図の脈の数は異なる。この差が「脈拍欠損」だ。afの特徴。ナースもここまで注意できたら
大したもんだが。
「ちょっと薬が効きすぎみたいなんで、少し減らしますね」
「先生、わしの病名ってなんでっしゃろか」
「?もう14年ほどずっと同じ病名ですが・・・心房細動」
「しんぞうさいぼう?」
「しんぼうさいどう」
「しんどうさいのう?」
「しん!ぼう!さい!どう!」
「えらいスンマセンな。補聴器忘れてもうたから」
「次は忘れんといてね」
「え?なんて?」
キンキンがまた飛びついては抱き起こす。
「ハイ!じゃあ外で待っといてください!」
「外?こっち?」
「ハイ!」
「急ぎましょうセンセ!はい、40代の尿酸高い人!」
「はいどうぞ。背中の痛みはもう?」
「ああ、ないよ。あのときは痛かったー」
「石はもう流れてたみたいだけどね。また出来たらいけないから・・。今日の尿酸値は11.0か。高いなあ。薬は飲んでますよね」
「ああもちろん。欠かさずにね」
「お酒も飲んでますよね?」
「ああ・・・・うっ!」
シマッタ、という表情だ。いつもの誘導尋問で判明。
「どれくらい飲みます?日本酒3合くらい?」
アルコール常用者は通常の1/3くらいの量で自己申告してくると言われているので、こうやって多めに聞くのがいい。
「ああ、まあそのヘンかな」
「そうですか。辞める予定は・・・」
「ま、ボチボチ」
「じゃ、仕方がないですね。もう1剤、追加しましょう。痛風と尿路結石はイヤでしょう」
「センセ!58歳女性の弁膜症!」
「大動脈弁閉鎖不全、といってもエコーで2度か・・・どうぞ」
「おはようございます、先生」
「ああどうぞ」
「そろそろエコーをしてもらおうかと思いまして」
「そうですね。予約は・・来月あたりに」
「あれ、そこにエコーあるのとちゃいますの?」
「ああ、これね。今は診療中だから・・・」
しかしナースは単刀直入だった。
「今はね!ケンサしているどころじゃないの!忙しいから!」
「はいはいはいはい」
「センセ、産婦人科からの紹介!」
「妊婦?」
「4ヶ月みたいです。紹介状はこれ」
「・・・なんだこの字は。しかし読めるのがコワイ」
「すごい先生。こんな字を?」
「もっとすごい字のオーベンがいたからね」
「じゃ、入ってもらいます」
「失礼します・・・」
「確かにレントゲン見ると、大きめですね、心臓は」
「胸水がたまってないか、CTを・・・」
キンキンが患者の後ろから小さく怒鳴る。
「センセ!この人妊婦!」
「え?」
「(いいんですか?)」
「(被曝の影響・・・?)」
「(そう!)」
僕は患者へ向き直った。
「では超音波を予約して・・」
「あの、今日してくださると婦人科の先生が」
「今日?今はちょっと・・・」
ナースは少し思いつめた表情でこちらへ近づいた。
「センセ、してあげましょうよ」
「今ここで?」
「妊婦ですよ、先生」
「いや、そうだけど」
「今検査して、すぐに返事できるじゃないですか」
「それはそうだが・・」
結論待つことなく、キンキンは患者をベッドに寝かせた。電源もセット。消灯。
しかし・・・患者は頑なにシャツで胸をガードしている。
「あ、あの・・・すみませんが。もう少し上に・・」
キンキンがおもむろにバッとシャツを捲り上げた。
「・・・・HCMかな。これは・・・?壁が厚い。高血圧の既往なし。収縮力はいいが」
キンキンは横から僕と患者を交互に見ている。まるで僕を監視しているようだ・・。
「胸水はない。心不全ってわけではなさそうだな。終わります!」
キンキンは素早く後片付けに入った。紹介状の返事を・・と。
「鳴ったか!院内ポケベルだ・・・・外来だ!もしもし!ええ。外来始まってるのは分かってますが・・・」
「キーッ!どうなってんの先生!」
自分の外来担当のキンキン声だ。
「ダメだ、今は救急が・・・」
「早く終わらせて!カルテがもう20冊!」
「ひえっ!」
「澤田先生、すみませんが自分、今からルーチンの外来が・・」
「ああん?」
「腹部CTの伝票は書きましたので・・」
「で?あとで返事したらええのか?」
「・・・申し訳ないのですが・・」
「・・・・・」
「し、失礼します!」
駆け足で外来へ。待合室はもうごった返している。みんなが僕の顔を仮面様顔貌で睨む。
テレビの音がやかましく響く。
「すまない!」
外来の3診に座る。1・2診は既に始まっている。キンキン声は怒りの峠を越したようだ。
「いーえ!はい、この人から!・・・・ヨシダさーーーーーん!!」
耳をつんざくような声だ。早朝にはキツい。
超高齢で小柄女性のヨシダさんは杖をついて入ってきたが、ナースの迅速強引な介助で瞬く間に丸イスに座らされた。
この人が1人目か。話が長いんだ、これが・・・。
「変わりないですか?」
「変わった事はないんですがな、先生、最近この左のわき腹のほうが・・・」
変わったこと、あるじゃないか。
「・・・皮疹はないな。でも既往にヘルペスがあったら別かな・・」
「年が年じゃけえ」
「いや、そうではないと」
「癌じゃろか」
「いや、そうでもないと思いますが・・・。圧痛はない、と」
と言いつつ、なるほどとカルテには採血項目が付け足されていった。総蛋白、カルシウム、CBC・・・。何か引っかかれば一般内科へ
廻したらいい。
「最近はなあ先生、孫がもうやんちゃしてやんちゃして・・・」
話が長くなる・・・。いつものようにナースに目配せした。キンキンはすぐに対応した。
「ハイ!じゃあ終わりましたからね!外へ出て待っててください!」
「それと先生。血圧はどうやったら下がるんかいな」
「今日の血圧は140/76mmHg。まあまあいいと思います!」
「やっぱ薬飲まんといかんですかいな」
「飲んで、この数値ですからね」
「いや、実はわざとここ1ヶ月、止めてみたんじゃわ」
なんだと・・・?
「そ、それは困ります。また上がってくるかもしれないし」
「いや、ナンかその、薬ばっかり飲みよったら頭がパーになるって近所のオバサンが言うし」
「・・・・・ナンですか、それは」
「ハッハッハ・・・」
キンキンが無理矢理手を引っ張った。
「はいはい!もう終わりですよ!くすりは!続けてください!やめないで!」
そう、止めないで・・・これ以上・・・。
「センセ!この人!かなり急ぐらしいんで!」
「若干34歳で心筋梗塞の・・・ああ、この人か」
「写真がこれ!心電図がこれ!ミヨシさーーーーーーーーん!ミヨシさーーーーーーーーん!」
「・・・・・」
「いません」
「なんだよオイ!」
「次は70歳おじいちゃんね、afの人」
「ああ、どうぞ」
「カワイさーーーーーーん!」
「ウルサイな。ここにおるがな」
患者は彼女のすぐ後ろに立っていた。
「キャッ?さ、どうぞ!」
その隙にカルテを確認。ワーファリンコントロール中だ。今日のTTは21%。高齢にしては効きすぎだ。
「河合さん。以前のように鼻血出たりとかは・・」
「ああ、全然ございません。健康そのものです!」
「じゃ、診察を・・・」
河合さんはいきなり立ち上がり、シャツごと上半身裸になり、下も脱ごうとした。
「し、下はいいですよ!」
キンキンが止めにかかったが、患者はグンゼ1枚になった。
「聴診では・・・ラ音なし、と・・・脈は・・・イレギュラー・・・54/分くらいかな。心電図のHRは・・・78/分のaf」
触診の脈と心電図の脈の数は異なる。この差が「脈拍欠損」だ。afの特徴。ナースもここまで注意できたら
大したもんだが。
「ちょっと薬が効きすぎみたいなんで、少し減らしますね」
「先生、わしの病名ってなんでっしゃろか」
「?もう14年ほどずっと同じ病名ですが・・・心房細動」
「しんぞうさいぼう?」
「しんぼうさいどう」
「しんどうさいのう?」
「しん!ぼう!さい!どう!」
「えらいスンマセンな。補聴器忘れてもうたから」
「次は忘れんといてね」
「え?なんて?」
キンキンがまた飛びついては抱き起こす。
「ハイ!じゃあ外で待っといてください!」
「外?こっち?」
「ハイ!」
「急ぎましょうセンセ!はい、40代の尿酸高い人!」
「はいどうぞ。背中の痛みはもう?」
「ああ、ないよ。あのときは痛かったー」
「石はもう流れてたみたいだけどね。また出来たらいけないから・・。今日の尿酸値は11.0か。高いなあ。薬は飲んでますよね」
「ああもちろん。欠かさずにね」
「お酒も飲んでますよね?」
「ああ・・・・うっ!」
シマッタ、という表情だ。いつもの誘導尋問で判明。
「どれくらい飲みます?日本酒3合くらい?」
アルコール常用者は通常の1/3くらいの量で自己申告してくると言われているので、こうやって多めに聞くのがいい。
「ああ、まあそのヘンかな」
「そうですか。辞める予定は・・・」
「ま、ボチボチ」
「じゃ、仕方がないですね。もう1剤、追加しましょう。痛風と尿路結石はイヤでしょう」
「センセ!58歳女性の弁膜症!」
「大動脈弁閉鎖不全、といってもエコーで2度か・・・どうぞ」
「おはようございます、先生」
「ああどうぞ」
「そろそろエコーをしてもらおうかと思いまして」
「そうですね。予約は・・来月あたりに」
「あれ、そこにエコーあるのとちゃいますの?」
「ああ、これね。今は診療中だから・・・」
しかしナースは単刀直入だった。
「今はね!ケンサしているどころじゃないの!忙しいから!」
「はいはいはいはい」
「センセ、産婦人科からの紹介!」
「妊婦?」
「4ヶ月みたいです。紹介状はこれ」
「・・・なんだこの字は。しかし読めるのがコワイ」
「すごい先生。こんな字を?」
「もっとすごい字のオーベンがいたからね」
「じゃ、入ってもらいます」
「失礼します・・・」
「確かにレントゲン見ると、大きめですね、心臓は」
「胸水がたまってないか、CTを・・・」
キンキンが患者の後ろから小さく怒鳴る。
「センセ!この人妊婦!」
「え?」
「(いいんですか?)」
「(被曝の影響・・・?)」
「(そう!)」
僕は患者へ向き直った。
「では超音波を予約して・・」
「あの、今日してくださると婦人科の先生が」
「今日?今はちょっと・・・」
ナースは少し思いつめた表情でこちらへ近づいた。
「センセ、してあげましょうよ」
「今ここで?」
「妊婦ですよ、先生」
「いや、そうだけど」
「今検査して、すぐに返事できるじゃないですか」
「それはそうだが・・」
結論待つことなく、キンキンは患者をベッドに寝かせた。電源もセット。消灯。
しかし・・・患者は頑なにシャツで胸をガードしている。
「あ、あの・・・すみませんが。もう少し上に・・」
キンキンがおもむろにバッとシャツを捲り上げた。
「・・・・HCMかな。これは・・・?壁が厚い。高血圧の既往なし。収縮力はいいが」
キンキンは横から僕と患者を交互に見ている。まるで僕を監視しているようだ・・。
「胸水はない。心不全ってわけではなさそうだな。終わります!」
キンキンは素早く後片付けに入った。紹介状の返事を・・と。
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