< フィフス・レジデント 5 OCCLUSION >
2004年5月13日 連載 僕は早歩きでカテ室へ。
カテ室ではみんなが貧乏ゆすり状態で待っていた。
技師長は画面の前でふんぞりかえっている。
「やっと来た来た!」
「すみません。準備します」
知らない間に小杉がガウン着て物品を準備している。
「君こそ何人いるの?」
「・・・・・」
小杉は無視し、冷淡な表情で注射器、カテーテルをこちらに次々と手渡していった。
「一とおり、揃えました。フラッシュも。ではお願いします。横田先生、芝先生!」
2人は自動ドアから術衣・防護服で現れた。
「遅い!」
「タコ!」
この2人はいつもセットだ。
「じゃ、病棟へ戻っても・・・」
「ならん!」
横田先生はキッとにらみ付けた。
「お前が主治医だろ!」
「ええ。そうなんですが、急変がありまして」
「急変?お前が対応できるのか?」
「ハハハ」
芝先生が余裕の笑い。
「イレウスの人ですが、pHが低くて」
「静脈取ったんだろ?」
「ハハハ」
「いえ。あれは動脈です」
「ホントかー?」
「ハハハ」
「過換気で代償しているようで・・」
「アシドーシス・・・血糖は高くなかったよな」
「はい」
「腎不全もな?」
「はい」
「あとは・・・CPKも?」
「え?CPK・・・若干高かったと思いますが」
「若干?いいわけみたいな表現だな」
「400台だったと思いますが・・とにかく全検査、再検に出します」
「じゃ、そのことを山城先生に伝えて、許可をもらって来い」
やっとこさ病棟へ戻った。
片山さんがしかめっ面で待っていた。
「あ、来た」
「なんだよ?」
「しんどそうなんです。患者さんが」
「しんどいって、どんな?」
「さあ。とにかくしんどそうなんです」
「・・・?バイタルに変化が?」
重症部屋からカナさんが出てきた。
「努力様の呼吸ね。SpO2は99あるけど」
「採血の再検はいつ出る?」
「ICUに移したほうがいいんじゃないの?」
「そ、そうだな」
「うちは循環器病棟だしね。消化器自体、見るのは向いてないのよ!見るのなら先生が1人で診て」
「わあったよ。ICUにお願いする・・・もしもし・・・・カナさん、満床だ。ダメだ」
カナさんは腕組みし始めた。
片山さんが入ってきた。
「一般内科の先生、来られました」
「神よ、感謝します。ああ、先生!お忙しいところ!」
「データは見ました」
患者、はよ診てくれよ。
「・・・ふーん・・・」
気まずい沈黙が続く。
「・・・ふーん・・・採血の2回目分見ましたら、CPK増えてますね。2066」
「に、2066?」
「溶血ですかね?」
「いえ・・その割にGOTやLDHは上がってないし・・・」
「組織の壊死という可能性が高いですね」
「壊死?たしかに四肢の循環は悪そうですが・・」
「腸管の、ですよ」
「腸管の壊死・・・腸間膜動脈の・・」
「閉塞ですね」
「・・・大変だ。僕はてっきり精神疾患の関連かと・・薬剤の内服状況もいいかげんだったみたいだし」
「澤田先生に電話してください。これは外科でしょう」
「もしもし。澤田先生ですか」
「またお前か。患者は?」
「例の方ですが、どうやら腸間膜の動脈の閉塞が疑わしいと」
「なぜに?」
「アシドーシスがあるのと、CPKが上がってきてるのと。イレウスは2次的なものと」
「・・・オレな、夕方から講演会があるんや。もう時間がないからな」
「先生、一度診察を」
「診察はしただろが。それにオイ、精神疾患あるって話だろ?そっちの薬で上がってるんじゃないのか?」
「上がってるとは・・?」
「CPKだ。syndrome malineじゃないのか?」
「え?シンドローム・・・」
「アホ!悪性症候群だろが!」
「ああ、確かに・・・ありえますかね」
「もうちょっと教科書見てから人に相談しろ!」
電話は切られた。
「ユウキ先生!どうなったんですか!」
カナさんがかなり苛立って聞いてきた。
「もう申し送りもしないといけないし・・・!転院しかないでしょ!」
「転院だと?」
「ここでは見れませんよ!こんな重症!」
「シッ!聞こえるじゃないか・・・」
患者はペンタジンが効いているのか、うつろうつろしている。
「じゃあICUを空けてもらうよう、先生が直接頼んでください!」
「あれ?一般内科の先生は?」
「帰られました!」
「ちょっと待てよ・・・」
片山さんが叫んだ。
「SpO2・・・測定できません!血圧も・・触診で70mmHg!かなりの頻脈です!」
「そこの点滴・・・ポタを全開!プラズマネートカッターも!あれ?」
カナさんはガラス越しの向こうの廊下でかなり慌てふためいている。どうやら誰かに熱弁をふるっているようだ。
やがてドアが開いた。
「バカ野郎!」
山城先生だ。声が一瞬両耳に突き刺さった。
「カテの患者も見に来ずに、こんなとこで休憩か!」
「休憩?ち、違います」
「さっさと診断してもらったら、病棟移してもらえ!」
「それが・・意見が分かれてまして」
「何ィ?」
「一般内科の先生は腸間膜動脈閉塞、外科側は悪性症候群・・・」
「・・・で?お前の考えは?」
「・・・僕の?」
「お前が主治医だろ。他人に押し付けるな!」
「自分は・・・やはり試験開腹をお願いしたいと」
「で?外科はする必要がないって?」
「いえ、その・・・そこまでは聞いてなくて」
「どういうことなんや?クソ、この・・・」
山城先生はズンズンと歩み寄り、カルテ・写真を確認していった。
「これはまあ、少なくとも循環器は関係ない!」
「・・・・・」
「うちで診る必要はない!」
「では・・・一般内科で」
「しかないだろ。その先生にはお願いしたんだろうな?」
「いえ、それが・・・」
「もう夕方の5時だぞ!ドクターはどんどん着替えして帰ってるぞ!」
「ええ」
「早く追っかんかい!ボケ!」
急な階段を駆け下りて・・・医局は誰もいない。さっきの先生の白衣もすでにぶら下がっている。
「なんて速さだ・・・?」
<つづく>
カテ室ではみんなが貧乏ゆすり状態で待っていた。
技師長は画面の前でふんぞりかえっている。
「やっと来た来た!」
「すみません。準備します」
知らない間に小杉がガウン着て物品を準備している。
「君こそ何人いるの?」
「・・・・・」
小杉は無視し、冷淡な表情で注射器、カテーテルをこちらに次々と手渡していった。
「一とおり、揃えました。フラッシュも。ではお願いします。横田先生、芝先生!」
2人は自動ドアから術衣・防護服で現れた。
「遅い!」
「タコ!」
この2人はいつもセットだ。
「じゃ、病棟へ戻っても・・・」
「ならん!」
横田先生はキッとにらみ付けた。
「お前が主治医だろ!」
「ええ。そうなんですが、急変がありまして」
「急変?お前が対応できるのか?」
「ハハハ」
芝先生が余裕の笑い。
「イレウスの人ですが、pHが低くて」
「静脈取ったんだろ?」
「ハハハ」
「いえ。あれは動脈です」
「ホントかー?」
「ハハハ」
「過換気で代償しているようで・・」
「アシドーシス・・・血糖は高くなかったよな」
「はい」
「腎不全もな?」
「はい」
「あとは・・・CPKも?」
「え?CPK・・・若干高かったと思いますが」
「若干?いいわけみたいな表現だな」
「400台だったと思いますが・・とにかく全検査、再検に出します」
「じゃ、そのことを山城先生に伝えて、許可をもらって来い」
やっとこさ病棟へ戻った。
片山さんがしかめっ面で待っていた。
「あ、来た」
「なんだよ?」
「しんどそうなんです。患者さんが」
「しんどいって、どんな?」
「さあ。とにかくしんどそうなんです」
「・・・?バイタルに変化が?」
重症部屋からカナさんが出てきた。
「努力様の呼吸ね。SpO2は99あるけど」
「採血の再検はいつ出る?」
「ICUに移したほうがいいんじゃないの?」
「そ、そうだな」
「うちは循環器病棟だしね。消化器自体、見るのは向いてないのよ!見るのなら先生が1人で診て」
「わあったよ。ICUにお願いする・・・もしもし・・・・カナさん、満床だ。ダメだ」
カナさんは腕組みし始めた。
片山さんが入ってきた。
「一般内科の先生、来られました」
「神よ、感謝します。ああ、先生!お忙しいところ!」
「データは見ました」
患者、はよ診てくれよ。
「・・・ふーん・・・」
気まずい沈黙が続く。
「・・・ふーん・・・採血の2回目分見ましたら、CPK増えてますね。2066」
「に、2066?」
「溶血ですかね?」
「いえ・・その割にGOTやLDHは上がってないし・・・」
「組織の壊死という可能性が高いですね」
「壊死?たしかに四肢の循環は悪そうですが・・」
「腸管の、ですよ」
「腸管の壊死・・・腸間膜動脈の・・」
「閉塞ですね」
「・・・大変だ。僕はてっきり精神疾患の関連かと・・薬剤の内服状況もいいかげんだったみたいだし」
「澤田先生に電話してください。これは外科でしょう」
「もしもし。澤田先生ですか」
「またお前か。患者は?」
「例の方ですが、どうやら腸間膜の動脈の閉塞が疑わしいと」
「なぜに?」
「アシドーシスがあるのと、CPKが上がってきてるのと。イレウスは2次的なものと」
「・・・オレな、夕方から講演会があるんや。もう時間がないからな」
「先生、一度診察を」
「診察はしただろが。それにオイ、精神疾患あるって話だろ?そっちの薬で上がってるんじゃないのか?」
「上がってるとは・・?」
「CPKだ。syndrome malineじゃないのか?」
「え?シンドローム・・・」
「アホ!悪性症候群だろが!」
「ああ、確かに・・・ありえますかね」
「もうちょっと教科書見てから人に相談しろ!」
電話は切られた。
「ユウキ先生!どうなったんですか!」
カナさんがかなり苛立って聞いてきた。
「もう申し送りもしないといけないし・・・!転院しかないでしょ!」
「転院だと?」
「ここでは見れませんよ!こんな重症!」
「シッ!聞こえるじゃないか・・・」
患者はペンタジンが効いているのか、うつろうつろしている。
「じゃあICUを空けてもらうよう、先生が直接頼んでください!」
「あれ?一般内科の先生は?」
「帰られました!」
「ちょっと待てよ・・・」
片山さんが叫んだ。
「SpO2・・・測定できません!血圧も・・触診で70mmHg!かなりの頻脈です!」
「そこの点滴・・・ポタを全開!プラズマネートカッターも!あれ?」
カナさんはガラス越しの向こうの廊下でかなり慌てふためいている。どうやら誰かに熱弁をふるっているようだ。
やがてドアが開いた。
「バカ野郎!」
山城先生だ。声が一瞬両耳に突き刺さった。
「カテの患者も見に来ずに、こんなとこで休憩か!」
「休憩?ち、違います」
「さっさと診断してもらったら、病棟移してもらえ!」
「それが・・意見が分かれてまして」
「何ィ?」
「一般内科の先生は腸間膜動脈閉塞、外科側は悪性症候群・・・」
「・・・で?お前の考えは?」
「・・・僕の?」
「お前が主治医だろ。他人に押し付けるな!」
「自分は・・・やはり試験開腹をお願いしたいと」
「で?外科はする必要がないって?」
「いえ、その・・・そこまでは聞いてなくて」
「どういうことなんや?クソ、この・・・」
山城先生はズンズンと歩み寄り、カルテ・写真を確認していった。
「これはまあ、少なくとも循環器は関係ない!」
「・・・・・」
「うちで診る必要はない!」
「では・・・一般内科で」
「しかないだろ。その先生にはお願いしたんだろうな?」
「いえ、それが・・・」
「もう夕方の5時だぞ!ドクターはどんどん着替えして帰ってるぞ!」
「ええ」
「早く追っかんかい!ボケ!」
急な階段を駆け下りて・・・医局は誰もいない。さっきの先生の白衣もすでにぶら下がっている。
「なんて速さだ・・・?」
<つづく>
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