交換に電話。
「もしもし。一般内科の先生の携帯番号を・・・はい」
 ダイヤル押すが・・・
「出ろ、出ろ・・・・ダメだ!」
 病棟へ戻ろうとしたところ、CCUのナースに出くわした。手にメモしてた子だ。
「先生、ちょうどよかった」
「な、なに?今は・・」
「PTCA終わりました。その後の指示を・・・」
「今は無理だよ。他の先生に」
「他の先生方は飲み会に出かけました」
「そうか。今日は院長らと・・」
「まさか先生は行きませんよね」
「行けるわけないだろ?」
「さあ、CCUで指示を」
「ダメダメ!わっ?」
 彼女は細い腕ながら僕の腕を引っ張っていった。
「私はいいのですが、患者様にご迷惑がかかりますので」
「もっと優先すべきことが・・」
「ICU・CCUが最優先です」
「あ、あまり時間ないんだよ」

「さ、これに書いてください」
「尿量指示・・・不整脈指示・・・」
「裏面もあります」
「はいはい・・・」
 僕のポケベルが鳴った。
「あたしが出ます。病棟のようですね」
「おい、君が出て・・」
「ユウキ先生は処置中です。ご用件は・・・?・・・・・・・・・」
 彼女の眼球が微妙に動いている。情報を解析しているようだ。
「・・・・・なるほど。でね、カナさん。聞いてよ。確かにICUはいっぱいだけど・・いつまであんたんとこの患者、うちで寝かせるつもりなの?」
 しばらく沈黙があった。
「・・・その患者一般病棟へ戻します。その患者をここに移して。見殺しはイヤだしね。あたしが納得できない。管理?あなたのとこで?無理でしょ」
 なんか、かなりヤばそうな雰囲気。

 彼女は電話を切った。話の途中だったようだが。

「腹痛の患者さんをこっちへ移します」
「ほ、ほんとに?あ、ありがとう・・・」
「患者さんのためです」
「あ、ああ」
「澤田先生は診察を?」
「いや、それが・・」
「やっぱりな・・あいつ!」
 彼女は暗記した番号を連打した。
「あたしだけど!先生!きちんと診て診断して!飲み会に行きたいのは分かるけど!外科部長に報告してもいいんですか!」
 物凄い迫力だ。若干20代のこの華奢な子が・・・。
「ダメ!今すぐ!患者さんは急変してますよ!」
「・・・」
「これでよし。帰ってくる。じゃ先生、あとはお願いします。私は引継ぎがありますので」

 か、かっこええ・・・。

 やがて患者はICUへ転送された。夜勤は2人。2人で16人を診ている・・・。そのうち人工呼吸器は7台。一部は電気が消えた
部屋で、まるで都会のジャングルのように無数の光が点等し続けている。

 澤田先生が走ってやってきた。
「・・・循環不全っぽいな。試験開腹しようにも、オペの適応自体、難しいな」
 こいつ・・・!
そのとき、外から家族が入ってきた。患者のご主人だ。
「オイ!あんた外科の先生やってな!」
 澤田先生はサッと身をかわした。
「ちょっと、勝手に入らないで下さい!」
「内科の先生も困っとるやないか!いったい腹んなかで何が起きてんねん!」
「そ、それはまだ分かってないんだから・・精神科の病気かもしれないし」
「精神科?腹はどうすんねや、ハラは!あんた外科なんやったら、腹開けて、病気見つけて取ってえな!それが仕事ちゃうんか?」
「手術自体、そう簡単にできる状態では・・・」
「家族の希望や。家族がそう言うてるやないか!」
「あなたね、そう言うけど・・・」
 しかし澤田先生の言葉は詰まった。
「じゃあ、試験開腹・・いいでしょう。ただし、危険はかなり大きいですよ」
「わかっとるわ。アイツが危ないのは前からやねん。死んでもおかしないねん」
「い、いいんですかそんなこと」
「あいつの残した借金とか、オレが背負ったりとか、その後のことが問題やねん。さ、ハッキリさせてえや!」

 オペ室の「手術中」が点灯した。

僕はCCUのAMIの患者のベッドサイドにいた。どうやら完全な右室梗塞にはいたってなかったようだ。処置が早くてよかった。
あとはカルテの記入。
「バルーンで右冠動脈の起始部を拡張・・・3回目で、狭窄率・・25%。今後は再狭窄予防で、ACEIも追加、と」

 時計をみると、もう晩の11時だ。0時には指示済みの心電図を確認しないといけない。6時間ごとの指示が多いから、寝れるのはその間の時間
ということになる。だから循環器の医者は、いつでもどこでも寝れる医者でないと勤まらない。

「しまった。一般内科の病棟の回診も・・・」
 立ち上がり、エレベーターへ向った。
一般内科の詰所はモニター音だけ。ナースは部屋回りだ。
患者はもう寝ている。とりあえず、今日オーダーの検査結果をチェックする。
「血糖が433mg/dl・・?しまった。指示を・・・」
高血圧精査で入院した患者が、高血糖。予測してなかった。ここまで高いとインスリンか、せめて内服の指示がいる。しかし患者は寝ている。
どうしたら・・・。カルテを覗くと、今日の日付が記入してある。
「山城先生の字・・・」
 彼のチェックはすでに入っていた。
〔 BS 433mg/dl  ← こんな高血糖をほおっておくな!スケール指示出しておく。 by YAMASHIRO 〕

 やられた。

『しかし、患者には有益でした・・・。先生はもう限界なのでは?』

「いいや、わしが診る!」

<つづく>

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