< フィフス・レジデント 6 いいや、わしが診る! >
2004年5月13日 連載 交換に電話。
「もしもし。一般内科の先生の携帯番号を・・・はい」
ダイヤル押すが・・・
「出ろ、出ろ・・・・ダメだ!」
病棟へ戻ろうとしたところ、CCUのナースに出くわした。手にメモしてた子だ。
「先生、ちょうどよかった」
「な、なに?今は・・」
「PTCA終わりました。その後の指示を・・・」
「今は無理だよ。他の先生に」
「他の先生方は飲み会に出かけました」
「そうか。今日は院長らと・・」
「まさか先生は行きませんよね」
「行けるわけないだろ?」
「さあ、CCUで指示を」
「ダメダメ!わっ?」
彼女は細い腕ながら僕の腕を引っ張っていった。
「私はいいのですが、患者様にご迷惑がかかりますので」
「もっと優先すべきことが・・」
「ICU・CCUが最優先です」
「あ、あまり時間ないんだよ」
「さ、これに書いてください」
「尿量指示・・・不整脈指示・・・」
「裏面もあります」
「はいはい・・・」
僕のポケベルが鳴った。
「あたしが出ます。病棟のようですね」
「おい、君が出て・・」
「ユウキ先生は処置中です。ご用件は・・・?・・・・・・・・・」
彼女の眼球が微妙に動いている。情報を解析しているようだ。
「・・・・・なるほど。でね、カナさん。聞いてよ。確かにICUはいっぱいだけど・・いつまであんたんとこの患者、うちで寝かせるつもりなの?」
しばらく沈黙があった。
「・・・その患者一般病棟へ戻します。その患者をここに移して。見殺しはイヤだしね。あたしが納得できない。管理?あなたのとこで?無理でしょ」
なんか、かなりヤばそうな雰囲気。
彼女は電話を切った。話の途中だったようだが。
「腹痛の患者さんをこっちへ移します」
「ほ、ほんとに?あ、ありがとう・・・」
「患者さんのためです」
「あ、ああ」
「澤田先生は診察を?」
「いや、それが・・」
「やっぱりな・・あいつ!」
彼女は暗記した番号を連打した。
「あたしだけど!先生!きちんと診て診断して!飲み会に行きたいのは分かるけど!外科部長に報告してもいいんですか!」
物凄い迫力だ。若干20代のこの華奢な子が・・・。
「ダメ!今すぐ!患者さんは急変してますよ!」
「・・・」
「これでよし。帰ってくる。じゃ先生、あとはお願いします。私は引継ぎがありますので」
か、かっこええ・・・。
やがて患者はICUへ転送された。夜勤は2人。2人で16人を診ている・・・。そのうち人工呼吸器は7台。一部は電気が消えた
部屋で、まるで都会のジャングルのように無数の光が点等し続けている。
澤田先生が走ってやってきた。
「・・・循環不全っぽいな。試験開腹しようにも、オペの適応自体、難しいな」
こいつ・・・!
そのとき、外から家族が入ってきた。患者のご主人だ。
「オイ!あんた外科の先生やってな!」
澤田先生はサッと身をかわした。
「ちょっと、勝手に入らないで下さい!」
「内科の先生も困っとるやないか!いったい腹んなかで何が起きてんねん!」
「そ、それはまだ分かってないんだから・・精神科の病気かもしれないし」
「精神科?腹はどうすんねや、ハラは!あんた外科なんやったら、腹開けて、病気見つけて取ってえな!それが仕事ちゃうんか?」
「手術自体、そう簡単にできる状態では・・・」
「家族の希望や。家族がそう言うてるやないか!」
「あなたね、そう言うけど・・・」
しかし澤田先生の言葉は詰まった。
「じゃあ、試験開腹・・いいでしょう。ただし、危険はかなり大きいですよ」
「わかっとるわ。アイツが危ないのは前からやねん。死んでもおかしないねん」
「い、いいんですかそんなこと」
「あいつの残した借金とか、オレが背負ったりとか、その後のことが問題やねん。さ、ハッキリさせてえや!」
オペ室の「手術中」が点灯した。
僕はCCUのAMIの患者のベッドサイドにいた。どうやら完全な右室梗塞にはいたってなかったようだ。処置が早くてよかった。
あとはカルテの記入。
「バルーンで右冠動脈の起始部を拡張・・・3回目で、狭窄率・・25%。今後は再狭窄予防で、ACEIも追加、と」
時計をみると、もう晩の11時だ。0時には指示済みの心電図を確認しないといけない。6時間ごとの指示が多いから、寝れるのはその間の時間
ということになる。だから循環器の医者は、いつでもどこでも寝れる医者でないと勤まらない。
「しまった。一般内科の病棟の回診も・・・」
立ち上がり、エレベーターへ向った。
一般内科の詰所はモニター音だけ。ナースは部屋回りだ。
患者はもう寝ている。とりあえず、今日オーダーの検査結果をチェックする。
「血糖が433mg/dl・・?しまった。指示を・・・」
高血圧精査で入院した患者が、高血糖。予測してなかった。ここまで高いとインスリンか、せめて内服の指示がいる。しかし患者は寝ている。
どうしたら・・・。カルテを覗くと、今日の日付が記入してある。
「山城先生の字・・・」
彼のチェックはすでに入っていた。
〔 BS 433mg/dl ← こんな高血糖をほおっておくな!スケール指示出しておく。 by YAMASHIRO 〕
やられた。
『しかし、患者には有益でした・・・。先生はもう限界なのでは?』
「いいや、わしが診る!」
<つづく>
「もしもし。一般内科の先生の携帯番号を・・・はい」
ダイヤル押すが・・・
「出ろ、出ろ・・・・ダメだ!」
病棟へ戻ろうとしたところ、CCUのナースに出くわした。手にメモしてた子だ。
「先生、ちょうどよかった」
「な、なに?今は・・」
「PTCA終わりました。その後の指示を・・・」
「今は無理だよ。他の先生に」
「他の先生方は飲み会に出かけました」
「そうか。今日は院長らと・・」
「まさか先生は行きませんよね」
「行けるわけないだろ?」
「さあ、CCUで指示を」
「ダメダメ!わっ?」
彼女は細い腕ながら僕の腕を引っ張っていった。
「私はいいのですが、患者様にご迷惑がかかりますので」
「もっと優先すべきことが・・」
「ICU・CCUが最優先です」
「あ、あまり時間ないんだよ」
「さ、これに書いてください」
「尿量指示・・・不整脈指示・・・」
「裏面もあります」
「はいはい・・・」
僕のポケベルが鳴った。
「あたしが出ます。病棟のようですね」
「おい、君が出て・・」
「ユウキ先生は処置中です。ご用件は・・・?・・・・・・・・・」
彼女の眼球が微妙に動いている。情報を解析しているようだ。
「・・・・・なるほど。でね、カナさん。聞いてよ。確かにICUはいっぱいだけど・・いつまであんたんとこの患者、うちで寝かせるつもりなの?」
しばらく沈黙があった。
「・・・その患者一般病棟へ戻します。その患者をここに移して。見殺しはイヤだしね。あたしが納得できない。管理?あなたのとこで?無理でしょ」
なんか、かなりヤばそうな雰囲気。
彼女は電話を切った。話の途中だったようだが。
「腹痛の患者さんをこっちへ移します」
「ほ、ほんとに?あ、ありがとう・・・」
「患者さんのためです」
「あ、ああ」
「澤田先生は診察を?」
「いや、それが・・」
「やっぱりな・・あいつ!」
彼女は暗記した番号を連打した。
「あたしだけど!先生!きちんと診て診断して!飲み会に行きたいのは分かるけど!外科部長に報告してもいいんですか!」
物凄い迫力だ。若干20代のこの華奢な子が・・・。
「ダメ!今すぐ!患者さんは急変してますよ!」
「・・・」
「これでよし。帰ってくる。じゃ先生、あとはお願いします。私は引継ぎがありますので」
か、かっこええ・・・。
やがて患者はICUへ転送された。夜勤は2人。2人で16人を診ている・・・。そのうち人工呼吸器は7台。一部は電気が消えた
部屋で、まるで都会のジャングルのように無数の光が点等し続けている。
澤田先生が走ってやってきた。
「・・・循環不全っぽいな。試験開腹しようにも、オペの適応自体、難しいな」
こいつ・・・!
そのとき、外から家族が入ってきた。患者のご主人だ。
「オイ!あんた外科の先生やってな!」
澤田先生はサッと身をかわした。
「ちょっと、勝手に入らないで下さい!」
「内科の先生も困っとるやないか!いったい腹んなかで何が起きてんねん!」
「そ、それはまだ分かってないんだから・・精神科の病気かもしれないし」
「精神科?腹はどうすんねや、ハラは!あんた外科なんやったら、腹開けて、病気見つけて取ってえな!それが仕事ちゃうんか?」
「手術自体、そう簡単にできる状態では・・・」
「家族の希望や。家族がそう言うてるやないか!」
「あなたね、そう言うけど・・・」
しかし澤田先生の言葉は詰まった。
「じゃあ、試験開腹・・いいでしょう。ただし、危険はかなり大きいですよ」
「わかっとるわ。アイツが危ないのは前からやねん。死んでもおかしないねん」
「い、いいんですかそんなこと」
「あいつの残した借金とか、オレが背負ったりとか、その後のことが問題やねん。さ、ハッキリさせてえや!」
オペ室の「手術中」が点灯した。
僕はCCUのAMIの患者のベッドサイドにいた。どうやら完全な右室梗塞にはいたってなかったようだ。処置が早くてよかった。
あとはカルテの記入。
「バルーンで右冠動脈の起始部を拡張・・・3回目で、狭窄率・・25%。今後は再狭窄予防で、ACEIも追加、と」
時計をみると、もう晩の11時だ。0時には指示済みの心電図を確認しないといけない。6時間ごとの指示が多いから、寝れるのはその間の時間
ということになる。だから循環器の医者は、いつでもどこでも寝れる医者でないと勤まらない。
「しまった。一般内科の病棟の回診も・・・」
立ち上がり、エレベーターへ向った。
一般内科の詰所はモニター音だけ。ナースは部屋回りだ。
患者はもう寝ている。とりあえず、今日オーダーの検査結果をチェックする。
「血糖が433mg/dl・・?しまった。指示を・・・」
高血圧精査で入院した患者が、高血糖。予測してなかった。ここまで高いとインスリンか、せめて内服の指示がいる。しかし患者は寝ている。
どうしたら・・・。カルテを覗くと、今日の日付が記入してある。
「山城先生の字・・・」
彼のチェックはすでに入っていた。
〔 BS 433mg/dl ← こんな高血糖をほおっておくな!スケール指示出しておく。 by YAMASHIRO 〕
やられた。
『しかし、患者には有益でした・・・。先生はもう限界なのでは?』
「いいや、わしが診る!」
<つづく>
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