< フィフス・レジデント 11 カウンター・ショック! >
2004年5月18日 連載号令通り、『あさひ』へ到着。循環器グループ5人はタクシーから1人ずつ降りていった。芝先生と僕が
花束を抱えている。山城先生のみスーツ姿だ。この体型で、よく合うのがあったな。
「ごめんくださーい」
ただの飲み屋だ。カウンターに7人くらいは座れるか。ママさんは30後半くらいだろうが、けっこう美人だ。
「ああ、いらっしゃい!待ってたわよー!」
みなカウンターに腰掛けた。
「ユウキは山城先生の左横に座れ」
芝先生の命令で、空席と僕が山城先生を囲んだ。嫌な上司がいるときなど、よくこういう目にあう。
山城先生は酒・スナックの注文を始めた。
「それとな、ケーキ・・・MRが持ってくるはずだがな。約束の時間、近いんだが」
ナンバー3と4のサブセットが何やら囁きあっている。星野先生はママに話しかけている。
僕はただボーッとしらけてるしかなかった。
山城先生はしびれを切らした。約束の時間を過ぎた。
「彼女、来るよな?」
僕に言ったみたいだが、主任さんがどんな女性かもよく知らないのに、分かるはずもない。
「山城先生。連絡しましょうか」
「いや、いい。昨日もちゃんと伝えてあるしな。すっぽかしなどあり得ん」
しばらくして、男性が2名現れた。年配と若年のMRのようだ。
「申しありません・・・」
山城先生の鬱積は彼らに飛び火した。
「バカモン!こんなに遅れおって!」
年配がひたすら謝る。
「先生。誠に申し訳ありません!ケーキのほうがですね、店のミスで出来上がりに時間がかかりまして」
「言い訳は聞いとらん」
「確かにお持ち致しております・・・」
「お前んとこの降圧薬・・・何のために使ってるのか分かってんのか!」
「はああ!それはもう!おかげさまで!」
後ろの新人MRもただただ赤面、会釈するしかなかった。
「先月1万錠!今月はそれを越えてやったのに・・・それがこれか!」
「お、お許しください!」
だが、肝心の彼女が来ていない。老年MRもそれに気づいたようだ。
「・・・?主任さまは、いずこに?」
それがまた油を注いだ。
「貴様に干渉される覚えはない!帰れ!」
「はっ?」
「帰れ!もう来るな!医局へも立ち入り禁止!」
「先生、先生!」
「上司にも言っておくからな!もうその薬も使わん!」
「ひいい!そ、それだけは・・・」
星野先生が少し見かねたようだ。
「山ちゃん、落ち着け。もうそのくら・・」
「貴様!貴様までオレを侮辱するつもりか?」
「な、何言って・・」
他の客がそろそろと席を外し始めた。
ものすごく重たい空気が辺りを支配している。
「何が山ちゃんだ!オレより年下のお前が!いつからなあなあ言葉にしていいと言った!」
「・・・・・」
「お前のために論文書いて、大学院出してやったのはこの俺だ!そうだろ横田!」
ナンバー3はグラスを飲みかけたままうつむいていた。
「・・・ええ、そうです」
「それで、わしがこの病院に拾ってやったんだぞ。いつまでもわしの足を引きずってるくせに・・・!」
こいつは子供だ。
「オイ星野!こいつら皆の前で、謝れ!私が悪うございました、ってな!さあ!」
「・・・・・」
「オレの一存で人事はどうとでもなるんだぞ」
「・・・・・」
「それとも僻地の民間病院へ行くか?家族もろともだ」
「・・・わ、私が・・・」
「・・・・私が?それで?」
「私が・・わるうございま・・した」
「分かればそれでいい」
深刻な気持ちを押し殺しながら、ママは水割りの氷を足し続けた。約束の時間から30分が過ぎた。
しばらく沈黙が続いていた。
「クソあの女!人をなめやがって!」
山城先生は花束をブンブン廻し始めた。花は僕の顔に何度も当たった。少し掠り傷が出来た。
「半年前もせっかくわしらが企画した温泉旅行も、途中でキャンセルしやがって・・・!」
それはもう単に、避けられてるんじゃないのか・・?
「フン!こんなもん!ママ!やるよ、これ!」
僕らが金を集めて買ったプレゼントの箱が・・・!ママに投げられた。
「わ!これ・・・いいの?」
「ああ!ママは俺のあこがれの人だからな」
「う、うれしいわ、山ちゃ・・・先生」
「ンー、君はいんだよ、山ちゃん呼ばわりでも。いくぞ!」
僕らは店を退散した。山城先生は1人、タクシーで帰っていった。
僕は医局へ戻った。飲み会が長引かず、スライド作りの時間はなんとか確保できた。
あとで知ったのだが、ユキちゃんと呼ばれている主任には既に婚約者がいて、この仕事もあと1年内に辞める、という
ものだった。数年前から山城先生に付きまとわれており、今回のパーティーも一方的な誘いだったという。
彼にも思い通りにならないものは、あったのだ・・・。
かわいそうな老年MRさんは、あのあと県外へ飛ばされた。
<つづく>
花束を抱えている。山城先生のみスーツ姿だ。この体型で、よく合うのがあったな。
「ごめんくださーい」
ただの飲み屋だ。カウンターに7人くらいは座れるか。ママさんは30後半くらいだろうが、けっこう美人だ。
「ああ、いらっしゃい!待ってたわよー!」
みなカウンターに腰掛けた。
「ユウキは山城先生の左横に座れ」
芝先生の命令で、空席と僕が山城先生を囲んだ。嫌な上司がいるときなど、よくこういう目にあう。
山城先生は酒・スナックの注文を始めた。
「それとな、ケーキ・・・MRが持ってくるはずだがな。約束の時間、近いんだが」
ナンバー3と4のサブセットが何やら囁きあっている。星野先生はママに話しかけている。
僕はただボーッとしらけてるしかなかった。
山城先生はしびれを切らした。約束の時間を過ぎた。
「彼女、来るよな?」
僕に言ったみたいだが、主任さんがどんな女性かもよく知らないのに、分かるはずもない。
「山城先生。連絡しましょうか」
「いや、いい。昨日もちゃんと伝えてあるしな。すっぽかしなどあり得ん」
しばらくして、男性が2名現れた。年配と若年のMRのようだ。
「申しありません・・・」
山城先生の鬱積は彼らに飛び火した。
「バカモン!こんなに遅れおって!」
年配がひたすら謝る。
「先生。誠に申し訳ありません!ケーキのほうがですね、店のミスで出来上がりに時間がかかりまして」
「言い訳は聞いとらん」
「確かにお持ち致しております・・・」
「お前んとこの降圧薬・・・何のために使ってるのか分かってんのか!」
「はああ!それはもう!おかげさまで!」
後ろの新人MRもただただ赤面、会釈するしかなかった。
「先月1万錠!今月はそれを越えてやったのに・・・それがこれか!」
「お、お許しください!」
だが、肝心の彼女が来ていない。老年MRもそれに気づいたようだ。
「・・・?主任さまは、いずこに?」
それがまた油を注いだ。
「貴様に干渉される覚えはない!帰れ!」
「はっ?」
「帰れ!もう来るな!医局へも立ち入り禁止!」
「先生、先生!」
「上司にも言っておくからな!もうその薬も使わん!」
「ひいい!そ、それだけは・・・」
星野先生が少し見かねたようだ。
「山ちゃん、落ち着け。もうそのくら・・」
「貴様!貴様までオレを侮辱するつもりか?」
「な、何言って・・」
他の客がそろそろと席を外し始めた。
ものすごく重たい空気が辺りを支配している。
「何が山ちゃんだ!オレより年下のお前が!いつからなあなあ言葉にしていいと言った!」
「・・・・・」
「お前のために論文書いて、大学院出してやったのはこの俺だ!そうだろ横田!」
ナンバー3はグラスを飲みかけたままうつむいていた。
「・・・ええ、そうです」
「それで、わしがこの病院に拾ってやったんだぞ。いつまでもわしの足を引きずってるくせに・・・!」
こいつは子供だ。
「オイ星野!こいつら皆の前で、謝れ!私が悪うございました、ってな!さあ!」
「・・・・・」
「オレの一存で人事はどうとでもなるんだぞ」
「・・・・・」
「それとも僻地の民間病院へ行くか?家族もろともだ」
「・・・わ、私が・・・」
「・・・・私が?それで?」
「私が・・わるうございま・・した」
「分かればそれでいい」
深刻な気持ちを押し殺しながら、ママは水割りの氷を足し続けた。約束の時間から30分が過ぎた。
しばらく沈黙が続いていた。
「クソあの女!人をなめやがって!」
山城先生は花束をブンブン廻し始めた。花は僕の顔に何度も当たった。少し掠り傷が出来た。
「半年前もせっかくわしらが企画した温泉旅行も、途中でキャンセルしやがって・・・!」
それはもう単に、避けられてるんじゃないのか・・?
「フン!こんなもん!ママ!やるよ、これ!」
僕らが金を集めて買ったプレゼントの箱が・・・!ママに投げられた。
「わ!これ・・・いいの?」
「ああ!ママは俺のあこがれの人だからな」
「う、うれしいわ、山ちゃ・・・先生」
「ンー、君はいんだよ、山ちゃん呼ばわりでも。いくぞ!」
僕らは店を退散した。山城先生は1人、タクシーで帰っていった。
僕は医局へ戻った。飲み会が長引かず、スライド作りの時間はなんとか確保できた。
あとで知ったのだが、ユキちゃんと呼ばれている主任には既に婚約者がいて、この仕事もあと1年内に辞める、という
ものだった。数年前から山城先生に付きまとわれており、今回のパーティーも一方的な誘いだったという。
彼にも思い通りにならないものは、あったのだ・・・。
かわいそうな老年MRさんは、あのあと県外へ飛ばされた。
<つづく>
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