< フィフス・レジデント 13 チーム >
2004年5月19日 連載 月1回の医局会だ。医師総勢30余名が座っている。なかなか姿を見せない院長が正面に腰掛けた。
「・・・皆さん、お疲れのところを、どうも」
みんなが一斉に立ち上がった。
「いや、いい。座んなさい」
みなゆっくりと各人、席についた。
「では、山城君」
「はい。先月の売り上げから。総合して3億8千万。科別に見ますと・・・循環器内科がこのように、かなりの割合を占めてます。3割程度」
院長も投影画面をじっくり見入っている。かなり険しい表情だ。
「先月は心カテが90件。うち緊急が12件」
院長が少し手を上げた。
「うん、そこでいったん止めてくれ。循環器は先々月に引き続き、先月も活躍は目覚しい。これもひとえに山城君の存在があってのことだ」
山城先生も表情ひとつ変えない。
「だが外来患者の推移をみると、少し頭打ちのようにも見える。待ち時間がかなり長いという患者からの不満も、背景にあると思う」
午前中に50人枠なんて、とうてい無理な話だ。さらにその中に新患が入るってのに。
「それと病診連携も少し手薄のようにも思う。紹介された患者はより丁寧に扱い、返事も抜かりなく対応して頂きたい・・・それと、一般内科。
どうしたんだ、この数字は?」
みな自動的に一般内科の先生に目線が行った。
「長井くん。君には今年からもう1人つけてやってる。わしが県に直接お願いしたのだ。なのに病棟の回転は落ちている。これは・・・」
長井先生は困惑していた。
「じゅ、重症の患者が多かったのと・・・」
「重症にしてもこの回転率はあんまりだ。県職員も不思議がってる。重症ならICUへ廻すか山城くんに相談しろ。軽症はとっとと退院か転院だ」
「は、はい・・・」
「脳梗塞後遺症とやらも、もう1ヶ月になるぞ。早く離床させるように」
「ええ、この患者は・・」
「君の後輩がトラブル起こしたからといって、病院にずっと居れます、って約束したわけじゃないぞ」
「かしこまりました」
「大学には報告しておいた」
これだ。関連病院の院長の子殺し文句だ。やれやれ。
院長がこちらを向いた。気持ち悪いが、笑顔だ。
「どうだい?慣れた?」
「え?いいえ・・・」
「ハッハ。山城くんのマネをすればいいよ。彼を見習えば間違いない」
「はい、そうさせていただき・・」
「もう3ヶ月経つのかな?」
「そうです」
「皆と仲良くな。特に循環器はチームや」
重い言葉だった。会は終わり、みな席を立った。院長は何か思い出したようだ。
「ああ、ネズちゃん!こっちへ!君だけ残ってて!」
「は、はい」
畑先生が呼び止められた。最後尾の僕は横目で見ながら外へ出て、ゆっくりと・・・ドアを閉めた。
閉まる一瞬だが、確かに聞こえた。さっきと全く違う院長の声。
「おまえな・・・!」
戦慄を感じながら、循環器病棟へ歩いた。詰所へ入ろうとしたが、カナさんが腕組みして遮った。
「ちょっと先生!」
「あ?」
「先生がCCUから無理矢理上げてきた人!もう落ち着いたんでしょ!」
「この人・・・そうだよ。歩けてる?」
「指示がないから、ベッド上のままです!」
「ああ、もういいよ、少しずつ動いても・・」
「ルート抜いて内服オンリーでしょ。それなのに5日も寝たきりで・・・」
「昨日は病室にいなかったけど」
「検査で出てたんです!そのあと先生、顔出しましたか?」
「いや・・・」
ICU/CCUに入りびたりだった。
「患者さんは主治医の先生どこやって、怒り出すし・・・こちらの対応も大変なんです!」
「す、すまな・・」
「謝るんだったら患者さんに謝って!」
ツバ飛ばす勢いで怒り狂った彼女は、顔面紅潮のまま廊下へと出て行った。
婦長がジーッと見送っていた。
「あの子があんなに怒るなんてねえ。先生ねえ、CCUの都合ばかりで患者をこっちに廻さないでちょうだいな」
「・・・」
「こっちは軽症が多いけど、こっちの意向も聞いてもらわないと」
「じゅ、重症が入院になってしまったらCCUに入院になる。そしたら誰かをここに上げないといけないし」
「そんなときは救急患者を断るとか」
「無理だ。県の要望で、救急は必ず受けろと」
「さあそこは、私は詳しくないから・・・」
婦長はまた彼方を見やった。
「あの子がねえ・・・」
確かに最近、軽症に手薄になりがちだ。気がつくとICU/CCUにいる。重症患者のみ見たいのか。
それとも・・・・。
「・・・皆さん、お疲れのところを、どうも」
みんなが一斉に立ち上がった。
「いや、いい。座んなさい」
みなゆっくりと各人、席についた。
「では、山城君」
「はい。先月の売り上げから。総合して3億8千万。科別に見ますと・・・循環器内科がこのように、かなりの割合を占めてます。3割程度」
院長も投影画面をじっくり見入っている。かなり険しい表情だ。
「先月は心カテが90件。うち緊急が12件」
院長が少し手を上げた。
「うん、そこでいったん止めてくれ。循環器は先々月に引き続き、先月も活躍は目覚しい。これもひとえに山城君の存在があってのことだ」
山城先生も表情ひとつ変えない。
「だが外来患者の推移をみると、少し頭打ちのようにも見える。待ち時間がかなり長いという患者からの不満も、背景にあると思う」
午前中に50人枠なんて、とうてい無理な話だ。さらにその中に新患が入るってのに。
「それと病診連携も少し手薄のようにも思う。紹介された患者はより丁寧に扱い、返事も抜かりなく対応して頂きたい・・・それと、一般内科。
どうしたんだ、この数字は?」
みな自動的に一般内科の先生に目線が行った。
「長井くん。君には今年からもう1人つけてやってる。わしが県に直接お願いしたのだ。なのに病棟の回転は落ちている。これは・・・」
長井先生は困惑していた。
「じゅ、重症の患者が多かったのと・・・」
「重症にしてもこの回転率はあんまりだ。県職員も不思議がってる。重症ならICUへ廻すか山城くんに相談しろ。軽症はとっとと退院か転院だ」
「は、はい・・・」
「脳梗塞後遺症とやらも、もう1ヶ月になるぞ。早く離床させるように」
「ええ、この患者は・・」
「君の後輩がトラブル起こしたからといって、病院にずっと居れます、って約束したわけじゃないぞ」
「かしこまりました」
「大学には報告しておいた」
これだ。関連病院の院長の子殺し文句だ。やれやれ。
院長がこちらを向いた。気持ち悪いが、笑顔だ。
「どうだい?慣れた?」
「え?いいえ・・・」
「ハッハ。山城くんのマネをすればいいよ。彼を見習えば間違いない」
「はい、そうさせていただき・・」
「もう3ヶ月経つのかな?」
「そうです」
「皆と仲良くな。特に循環器はチームや」
重い言葉だった。会は終わり、みな席を立った。院長は何か思い出したようだ。
「ああ、ネズちゃん!こっちへ!君だけ残ってて!」
「は、はい」
畑先生が呼び止められた。最後尾の僕は横目で見ながら外へ出て、ゆっくりと・・・ドアを閉めた。
閉まる一瞬だが、確かに聞こえた。さっきと全く違う院長の声。
「おまえな・・・!」
戦慄を感じながら、循環器病棟へ歩いた。詰所へ入ろうとしたが、カナさんが腕組みして遮った。
「ちょっと先生!」
「あ?」
「先生がCCUから無理矢理上げてきた人!もう落ち着いたんでしょ!」
「この人・・・そうだよ。歩けてる?」
「指示がないから、ベッド上のままです!」
「ああ、もういいよ、少しずつ動いても・・」
「ルート抜いて内服オンリーでしょ。それなのに5日も寝たきりで・・・」
「昨日は病室にいなかったけど」
「検査で出てたんです!そのあと先生、顔出しましたか?」
「いや・・・」
ICU/CCUに入りびたりだった。
「患者さんは主治医の先生どこやって、怒り出すし・・・こちらの対応も大変なんです!」
「す、すまな・・」
「謝るんだったら患者さんに謝って!」
ツバ飛ばす勢いで怒り狂った彼女は、顔面紅潮のまま廊下へと出て行った。
婦長がジーッと見送っていた。
「あの子があんなに怒るなんてねえ。先生ねえ、CCUの都合ばかりで患者をこっちに廻さないでちょうだいな」
「・・・」
「こっちは軽症が多いけど、こっちの意向も聞いてもらわないと」
「じゅ、重症が入院になってしまったらCCUに入院になる。そしたら誰かをここに上げないといけないし」
「そんなときは救急患者を断るとか」
「無理だ。県の要望で、救急は必ず受けろと」
「さあそこは、私は詳しくないから・・・」
婦長はまた彼方を見やった。
「あの子がねえ・・・」
確かに最近、軽症に手薄になりがちだ。気がつくとICU/CCUにいる。重症患者のみ見たいのか。
それとも・・・・。
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