< フィフス・レジデント 21 決闘 >
2004年5月26日 連載 辺りが静まり返った。
「辞めさせたいんなら、やってみろ!それでも人間なのかよ!・・・CCUでは容赦しないぞ!」
鈴木さんは号泣しだした。横田先生がまあまあと抱きしめた。
「わしも容赦せんからな」
山城先生はブツッとつぶやいた。
「こうやって非難を浴びるってことはな、何か問題があるんや。これまでのレジデントもそうやが、
全会一致が得らんのは・・・少なくともこの仕事場には向いてないっちゅうことや」
「・・・・・」
「自分の気に入ったとこだけ出入りして、どうすんねや。ったく、毎年毎年、いや半年半年、こんな奴らや」
口を閉ざしていた芝先生も話し始めた。
「お前は今はうちのグループなんだろ?循環器グループにいる以上、他の疾患には関わるな!
でないと、俺たちまで巻き添えをくらう」
「ですが、実際の病態は単独ではないし・・」
「腸間膜動脈閉塞のときもそうだが、ああいう専門外には一切タッチしてはいかんのだ!外科にふる、
一般内科へふる!お前は押しの力がないから共診とかになってしまうんだ!」
「・・・そうかな」
「何だと?おい!今・・・」
チリンチリンと、次の客が現れた。MRさんが驚きと歓喜で迎えた。
「ああ、三田先生!どうぞ!」
この中心性肥満の先生が、三田先生。ところでどういう関係の先生なんだ?
三田先生は僕の右側へ案内された。
「三田です、よろしく」
「ゆ、ユウキです」
「ああ、君がユウキ先生ね」
どこかで聞いたような声だ。
山城先生が左から深く頭を下げ始めた。
「三田先生!申し訳ありませんでした!」
な、何だ?
三田先生は少し驚いたようだ。
「おいおい、もう済んだことじゃないか」
「いえ!とんでもありません!この男が失礼なことを・・・オイ!頭を下げろ!」
山城先生は僕の頭頂部を垂直に押し始めた。
「今後、気をつけるよう私のほうから指導しておきますので!」
「いいっていいって・・・」
そうか。この前僕が電話で救急を断った・・。あの駅前クリニックの先生か。
世界は狭いな。
「まあ何かあったら山城の病院へ紹介してくれって、芝くんらに頼まれてたんでね」
芝先生がやってきた。
「三田先生、どうかお許しください!」
「やあ先生。いいんだって。彼も反省しているようだし」
反省だと?
「ま、ベッドが満床だって彼が言うんだから。仕方ないだろ」
芝先生の顔がギョッとなった。
「満床?」
鈴木さんはストローでカクテルをクルクル回しながらつぶやいた。
「あいてましたよーだ。ICUもCCUも!」
開業医の顔つきが変わった。
「何?話が違う!」
開業医は僕に軽くエルボーしてきた。
「どういうことなんだ!」
「・・・・・」
「もういい!もう紹介などするか!」
開業医は立ち上がった。山城先生も立ち上がった。
「ま、待ってください!もう彼には・・」
「山城!毎年毎年、こんな生意気なレジデントばかり連れてきやがって!
こいつもどうやら、CCUの例のナースに入れ知恵されたんじゃないのか?」
僕は何も言えなかった。
でも例のナースって・・・。
「まったく!ナースに仕切られるとは、お前はそれでも男か!」
いちもくさんに開業医は帰っていった。MRさんが後に続いた。
芝先生が僕へ駆け寄った。
「おい!お前も追いかけるんだよ!」
僕は動かなかった。
「来いってんだよ!」
両腕で抱きかかえられるように、僕は引きずられた。鈴木さんや
カナさんからの冷たい視線が浴びせられ続けた。
芝先生と僕は非常階段の踊り場に出た。外に解放されていて、
雨が降っている。車が1台走っていく音が聞こえた。
「間に合わなかったじゃねえか!この!」
右足を蹴られ、僕は少しうずくまった。
「うちのカテーテル紹介患者の、大事なパイプなんだぞ!
俺らの大学病院の、もと循環器講師だ!」
「ててて・・・」
「本田の犬め!おおっと、今のは失言」
「・・・犬とは・・」
「?」
「・・・イヌとは何だ・・・」
「何?オレに向って何だそれ、その口のきき方はあ!」
「あんたらよりは、マシだ」
「てめえ!」
芝先生は僕の首を横から片手でしめにかかった。反射的に僕の手も伸びた。
僕の手は下から持ち上げるように掴み上げた。
彼の力も止まなかった。しかし息がしにくい様子だ。僕は痛いが、呼吸はできる。
「このや・・・先輩に向っでで・・・」
「先輩なんかじゃ、ない・・・!」
後ろからママさんが現れた。
「きゃあ!なに・・・何をやってるの!ちょっとユウキ先生!どうせあんたが悪いのに、
年上の先生に向って何を・・・・!」
ママが方々から止めようとするが、全くかなわない。みんなずぶ濡れになってきた。
ママは階段を駆け上がり応援を呼びに行こうとしたが、階段でこけた。
上から、のっしのっしと大御所が現れた。
「・・・・・おやおや。こいつら・・」
ハッと芝先生が気づき、手を離した。僕も同時に離した。
「まるで子供のケンカだな」
僕はもう冷静だった。もうこれでこの職場は終わりだ。他のレジデント同様の運命だ。
僕ら2人は階段の下から見上げていた。
「お前がとうとう怒るとはな・・・だいたい内容の想像はつく。芝!」
「はい!」
「明日は仕事に来なくていい」
「そんな!だってこいつが・・」
「暴力ふるうやつの手先に、カテーテルは持たせたくない」
「うう・・・」
「ユウキ!」
「・・・・」
僕は改めて向きなおす振りだけした。
「この件も含めて・・院長と今後の処分を話し合う。大学医局ともな」
「・・・ええ」
「かなり厳しい処分となると思うがな。処分は近いうち行う」
2次会には参加せず、僕だけ外へ出た。ずぶ濡れでタクシーに乗った直後、携帯が鳴る。
「もしもし?」
「あ、あたしあたし。今トイレ」
何をいまさら、鈴木さんだ。
「何だ?」
「さっきはゴメンね」
「なに?」
「ちょっと酔っちゃって。すごく心配したんだけど、大丈夫?あたしって酔いが回るとこうなの。ね、どっか個人的に・・・」
僕はそのまま、セルラーの電源を・・・消した。
「辞めさせたいんなら、やってみろ!それでも人間なのかよ!・・・CCUでは容赦しないぞ!」
鈴木さんは号泣しだした。横田先生がまあまあと抱きしめた。
「わしも容赦せんからな」
山城先生はブツッとつぶやいた。
「こうやって非難を浴びるってことはな、何か問題があるんや。これまでのレジデントもそうやが、
全会一致が得らんのは・・・少なくともこの仕事場には向いてないっちゅうことや」
「・・・・・」
「自分の気に入ったとこだけ出入りして、どうすんねや。ったく、毎年毎年、いや半年半年、こんな奴らや」
口を閉ざしていた芝先生も話し始めた。
「お前は今はうちのグループなんだろ?循環器グループにいる以上、他の疾患には関わるな!
でないと、俺たちまで巻き添えをくらう」
「ですが、実際の病態は単独ではないし・・」
「腸間膜動脈閉塞のときもそうだが、ああいう専門外には一切タッチしてはいかんのだ!外科にふる、
一般内科へふる!お前は押しの力がないから共診とかになってしまうんだ!」
「・・・そうかな」
「何だと?おい!今・・・」
チリンチリンと、次の客が現れた。MRさんが驚きと歓喜で迎えた。
「ああ、三田先生!どうぞ!」
この中心性肥満の先生が、三田先生。ところでどういう関係の先生なんだ?
三田先生は僕の右側へ案内された。
「三田です、よろしく」
「ゆ、ユウキです」
「ああ、君がユウキ先生ね」
どこかで聞いたような声だ。
山城先生が左から深く頭を下げ始めた。
「三田先生!申し訳ありませんでした!」
な、何だ?
三田先生は少し驚いたようだ。
「おいおい、もう済んだことじゃないか」
「いえ!とんでもありません!この男が失礼なことを・・・オイ!頭を下げろ!」
山城先生は僕の頭頂部を垂直に押し始めた。
「今後、気をつけるよう私のほうから指導しておきますので!」
「いいっていいって・・・」
そうか。この前僕が電話で救急を断った・・。あの駅前クリニックの先生か。
世界は狭いな。
「まあ何かあったら山城の病院へ紹介してくれって、芝くんらに頼まれてたんでね」
芝先生がやってきた。
「三田先生、どうかお許しください!」
「やあ先生。いいんだって。彼も反省しているようだし」
反省だと?
「ま、ベッドが満床だって彼が言うんだから。仕方ないだろ」
芝先生の顔がギョッとなった。
「満床?」
鈴木さんはストローでカクテルをクルクル回しながらつぶやいた。
「あいてましたよーだ。ICUもCCUも!」
開業医の顔つきが変わった。
「何?話が違う!」
開業医は僕に軽くエルボーしてきた。
「どういうことなんだ!」
「・・・・・」
「もういい!もう紹介などするか!」
開業医は立ち上がった。山城先生も立ち上がった。
「ま、待ってください!もう彼には・・」
「山城!毎年毎年、こんな生意気なレジデントばかり連れてきやがって!
こいつもどうやら、CCUの例のナースに入れ知恵されたんじゃないのか?」
僕は何も言えなかった。
でも例のナースって・・・。
「まったく!ナースに仕切られるとは、お前はそれでも男か!」
いちもくさんに開業医は帰っていった。MRさんが後に続いた。
芝先生が僕へ駆け寄った。
「おい!お前も追いかけるんだよ!」
僕は動かなかった。
「来いってんだよ!」
両腕で抱きかかえられるように、僕は引きずられた。鈴木さんや
カナさんからの冷たい視線が浴びせられ続けた。
芝先生と僕は非常階段の踊り場に出た。外に解放されていて、
雨が降っている。車が1台走っていく音が聞こえた。
「間に合わなかったじゃねえか!この!」
右足を蹴られ、僕は少しうずくまった。
「うちのカテーテル紹介患者の、大事なパイプなんだぞ!
俺らの大学病院の、もと循環器講師だ!」
「ててて・・・」
「本田の犬め!おおっと、今のは失言」
「・・・犬とは・・」
「?」
「・・・イヌとは何だ・・・」
「何?オレに向って何だそれ、その口のきき方はあ!」
「あんたらよりは、マシだ」
「てめえ!」
芝先生は僕の首を横から片手でしめにかかった。反射的に僕の手も伸びた。
僕の手は下から持ち上げるように掴み上げた。
彼の力も止まなかった。しかし息がしにくい様子だ。僕は痛いが、呼吸はできる。
「このや・・・先輩に向っでで・・・」
「先輩なんかじゃ、ない・・・!」
後ろからママさんが現れた。
「きゃあ!なに・・・何をやってるの!ちょっとユウキ先生!どうせあんたが悪いのに、
年上の先生に向って何を・・・・!」
ママが方々から止めようとするが、全くかなわない。みんなずぶ濡れになってきた。
ママは階段を駆け上がり応援を呼びに行こうとしたが、階段でこけた。
上から、のっしのっしと大御所が現れた。
「・・・・・おやおや。こいつら・・」
ハッと芝先生が気づき、手を離した。僕も同時に離した。
「まるで子供のケンカだな」
僕はもう冷静だった。もうこれでこの職場は終わりだ。他のレジデント同様の運命だ。
僕ら2人は階段の下から見上げていた。
「お前がとうとう怒るとはな・・・だいたい内容の想像はつく。芝!」
「はい!」
「明日は仕事に来なくていい」
「そんな!だってこいつが・・」
「暴力ふるうやつの手先に、カテーテルは持たせたくない」
「うう・・・」
「ユウキ!」
「・・・・」
僕は改めて向きなおす振りだけした。
「この件も含めて・・院長と今後の処分を話し合う。大学医局ともな」
「・・・ええ」
「かなり厳しい処分となると思うがな。処分は近いうち行う」
2次会には参加せず、僕だけ外へ出た。ずぶ濡れでタクシーに乗った直後、携帯が鳴る。
「もしもし?」
「あ、あたしあたし。今トイレ」
何をいまさら、鈴木さんだ。
「何だ?」
「さっきはゴメンね」
「なに?」
「ちょっと酔っちゃって。すごく心配したんだけど、大丈夫?あたしって酔いが回るとこうなの。ね、どっか個人的に・・・」
僕はそのまま、セルラーの電源を・・・消した。
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