< レジデント・SICKS 14 最終EMERGENCY ? おかん戦慄! >
2004年6月11日 連載「60代男性。高所から転倒して、胸部を強く打ちました。1時間前」
マイルドな救急隊員は僕へ申し送り続けた。後ろでは別の隊員が叫ぶ。
「14歳女性!突然の頭痛!」
じゅ、14歳?中学生か?救急隊員は少し気まずそうだった。
「スミマセン・・・今日は学会などが重なってまして。小児救急のとこも手薄なんです」
さらにその後ろには母親らしき人物。かなり慌てている。
「入らないでください!」
と言う救急隊員を振り払って、教育ママっぽい母親が入ってきた。
「先生!この子の病名は?」
「これから診るとこなので」
「重いんですか?」
「出てください」
「脳の病気は?」
キンキンが得意の追い出しにかかった。
「シンリョオオノージャマニナリマスノデーーーー!」
「32歳男性!右背部痛!」
その患者はなんとか歩行できていた。
「俺が見よう、その患者!」
すかさず三井先生がその患者を捕まえた。
「ささ、こっちへ!」
尿路結石とかが浮かんだのか、余裕のポーズで挑んでいる。
胸部打撲は村中が診察中。ということは・・・。
それにしてもあのドモリ事務員・・・搬入前の情報が違いすぎる。
横になった女の子に話しかけた。
「頭、痛い?」
「だから来たのよ!」
そう答えたのは、知らない間に戻ってきた母親だった。
「本人に聞いてるんですよ」
「私はこの子の母親ですからっ!」
「みれいちゃん、っていうのか。頭のどこらへんが・・」
「みれいの『み』は、美しい、の『み』!」
「黙っててください!キンキン!頼む!」
しかしキンキンは採血・点滴処置にかかっている。
「瞳孔は・・・問題ないな。バイタルも・・・」
「どうですか?どうですか?」
こんな母親は必要なとき以外は、無視。ペースを乱されるな。
フォースを使え。
「項部硬直、ケルニッヒも陰性・・お母さん」
「ハイッ!」
「最近、風邪気味だったとか・・・」
「いや、何もなかった。ふつうやった!でもよく怒ってた」
「怒ってた?」
「私に。やれ話がくどいだの、うっとうしいだの・・・!」
この母親だからな。それは分かるような気がする・・・。
「頭のCTを撮ります。採血も。点滴も一応」
「脳炎とか髄膜炎では?」
証拠がそろってないときのムンテラは無理がある。
「お待ちを」
机には鬼のようにカルテが山積み。ほとんどが初診だ。
他の2人は対応に追われているため、僕が座った。
そうか。僕が呼ばなければ・・。
廊下の方を見ると、もう、人、人・・・人の山。
「杉本さーん!」
40代の男性はすぐそこに座っていた。
「ここや」
「どうされました?」
「そこに書いとるがな」
「あ・・・・すんません。脈がとぶ?」
「今はそうでもない」
「は・・・」
「今はちがうんや。でもさっきはとんでた」
「脈、みてますが・・・規則的ですね」
「なんか点滴してえな」
「今の時点で、薬は・・・」
「してえな!って言うてんのじゃ!」
「・・・キンキン!5%TZ 200ml。終わったら帰宅でいい」
キンキンは驚いた。
「(え?それだけ・・・?)」
患者は満足げだった。
「おおっしゃああ!点滴やテンテキやあ!」
次、39度の熱発。20代女性。風邪っぽい。
こういうのは僕にとって一種の休息時間だ。
「リンパ腺、喉はかなり腫れてますね」
ペンライトを消し、胸の聴診をしようとした。
が・・・・彼女のガードが固すぎて・・・みぞおちから上は診察不可能。
「じゃ、いいやこれで。おいこれ!処方!」
40代喘息発作の男性。
「熱もありますね・・・37.8度」
「喘息やなくて、風邪かいな」
「もともと喘息ある、と書いてますね」
「ああ」
「治療したことがあるわけですね」
「ああ。スプレーな。親戚からもらっとった」
「親戚?」
「おうそうや」
「じゃあ、病院で診断を受けたわけでは・・・」
「わしがそう診断したわけや」
あきれた・・・。だが喘鳴はある。今回は
急性気管支炎か、喘息の感染による増悪、といったところか。
無難に抗生剤はじめ感冒関連の処方と、喘息の処方。
「これで。また平日に来て」
「そこ、座ってもいいかな?」
余裕の三井先生が見下ろしていた。
「ええ、どうぞ」
「さっきのは尿管結石かな。エコーではよく分からなかった。看護婦さんよ!検尿は?」
キンキンはまた搬入される救急の迎えに出かけようとしていた。
「痛くてそれどころではないそうでーす!」
「ブスコパンは注射したのか!」
「しましたよ!とっくに!」
「検尿!はやく!急いで!それとCT!DIPも!忙しいよ!ふふ・・・はっはは・・・!」
村中は写真を持ってきた。10枚はある。
「胸の打撲と聞いたが、他も打ってるかもしれないと思って」
彼は写真を次々にシャーカステンに吊るした。
「村中先生、この写真は・・・手?」
「手、肘、膝。被曝を最小限にするために両手・両足同時に撮ってある」
「そ、そうだけど・・」
こいつもどうやら危ないな。
「で、メインの肋骨。胸骨2方向。骨折は見当たらない」
「胸部は?」
「え?」
「胸部単純だよ。気胸になってないか・・・できればCTも」
「それは君の専門だったね!じゃあバトンタッチで」
「おい!」
声が少しかすれ気味で、彼には届かなかった。
キンキンが僕を新患の救急患者へ引っ張った。救急隊員が待ってる。
「よろしいですか。84歳女性。2週間何も食べてないそうです」
「なんだそれ?食欲が?」
「どうやら家でほったらかされてたようで」
「同居人は?」
「1人暮らしです。近所の人が不審に思ってドアをこじ開けたそうです」
「近所の人も、やるな・・・」
「家族はいないようです!では!」
「しかしこれは・・・脱水を通り越して、衰弱だ。キンキン、一般病棟へ。検査には目を通すけど、入院」
「クレーム来ますよ」
僕の置きみやげ、ってことで・・・
小杉が頭部CTをヒラヒラさせながらやってきた。
「はいよ!もうパンク寸前!もう1人、応援呼んじゃったー!」
「異常は・・ないな」
「ていうか、出血がないってことでしょ、断言できるのは」
「採血も戻ってるが、これも異常ない・・・」
「あんだけ痛がってるのに。ヘンな頭痛・・・」
「・・今、何と?」
「え?なんと?南斗・すいちょうけん?」
アホか、こいつは。
「そうか。片頭痛ね・・・おかあさん!」
母親はすでに入室していた。
「はい?」
「私の印象では片頭痛の可能性もあると・・」
「はああ!やはりそうでしたか!」
「いや、そう確定したわけでは」
「え?では何ですか!」
「休日でもありますから、今日は入院・・・」
「しょ、小児科の先生は?表の看板に『小児科』とあるのに!」
「うちの救急外来の場合、小児科医を呼ぶ制度になってなくて・・」
「それはおかしい!院長先生に連絡を取って!」
その声は待合室にもこだまし、皆の注目の的になった。
「・・・では・・・小児救急の受け入れ可能な病院を探してもらいます」
「そりゃそうよ!急いで!」
このまま関わると、トラブルになる。
僕は歯を喰いしばって搬送の手続きをした。
救急車がさらに2台、到着してくるようだ。
アラモの砦とは、このことだ。
<つづく>
マイルドな救急隊員は僕へ申し送り続けた。後ろでは別の隊員が叫ぶ。
「14歳女性!突然の頭痛!」
じゅ、14歳?中学生か?救急隊員は少し気まずそうだった。
「スミマセン・・・今日は学会などが重なってまして。小児救急のとこも手薄なんです」
さらにその後ろには母親らしき人物。かなり慌てている。
「入らないでください!」
と言う救急隊員を振り払って、教育ママっぽい母親が入ってきた。
「先生!この子の病名は?」
「これから診るとこなので」
「重いんですか?」
「出てください」
「脳の病気は?」
キンキンが得意の追い出しにかかった。
「シンリョオオノージャマニナリマスノデーーーー!」
「32歳男性!右背部痛!」
その患者はなんとか歩行できていた。
「俺が見よう、その患者!」
すかさず三井先生がその患者を捕まえた。
「ささ、こっちへ!」
尿路結石とかが浮かんだのか、余裕のポーズで挑んでいる。
胸部打撲は村中が診察中。ということは・・・。
それにしてもあのドモリ事務員・・・搬入前の情報が違いすぎる。
横になった女の子に話しかけた。
「頭、痛い?」
「だから来たのよ!」
そう答えたのは、知らない間に戻ってきた母親だった。
「本人に聞いてるんですよ」
「私はこの子の母親ですからっ!」
「みれいちゃん、っていうのか。頭のどこらへんが・・」
「みれいの『み』は、美しい、の『み』!」
「黙っててください!キンキン!頼む!」
しかしキンキンは採血・点滴処置にかかっている。
「瞳孔は・・・問題ないな。バイタルも・・・」
「どうですか?どうですか?」
こんな母親は必要なとき以外は、無視。ペースを乱されるな。
フォースを使え。
「項部硬直、ケルニッヒも陰性・・お母さん」
「ハイッ!」
「最近、風邪気味だったとか・・・」
「いや、何もなかった。ふつうやった!でもよく怒ってた」
「怒ってた?」
「私に。やれ話がくどいだの、うっとうしいだの・・・!」
この母親だからな。それは分かるような気がする・・・。
「頭のCTを撮ります。採血も。点滴も一応」
「脳炎とか髄膜炎では?」
証拠がそろってないときのムンテラは無理がある。
「お待ちを」
机には鬼のようにカルテが山積み。ほとんどが初診だ。
他の2人は対応に追われているため、僕が座った。
そうか。僕が呼ばなければ・・。
廊下の方を見ると、もう、人、人・・・人の山。
「杉本さーん!」
40代の男性はすぐそこに座っていた。
「ここや」
「どうされました?」
「そこに書いとるがな」
「あ・・・・すんません。脈がとぶ?」
「今はそうでもない」
「は・・・」
「今はちがうんや。でもさっきはとんでた」
「脈、みてますが・・・規則的ですね」
「なんか点滴してえな」
「今の時点で、薬は・・・」
「してえな!って言うてんのじゃ!」
「・・・キンキン!5%TZ 200ml。終わったら帰宅でいい」
キンキンは驚いた。
「(え?それだけ・・・?)」
患者は満足げだった。
「おおっしゃああ!点滴やテンテキやあ!」
次、39度の熱発。20代女性。風邪っぽい。
こういうのは僕にとって一種の休息時間だ。
「リンパ腺、喉はかなり腫れてますね」
ペンライトを消し、胸の聴診をしようとした。
が・・・・彼女のガードが固すぎて・・・みぞおちから上は診察不可能。
「じゃ、いいやこれで。おいこれ!処方!」
40代喘息発作の男性。
「熱もありますね・・・37.8度」
「喘息やなくて、風邪かいな」
「もともと喘息ある、と書いてますね」
「ああ」
「治療したことがあるわけですね」
「ああ。スプレーな。親戚からもらっとった」
「親戚?」
「おうそうや」
「じゃあ、病院で診断を受けたわけでは・・・」
「わしがそう診断したわけや」
あきれた・・・。だが喘鳴はある。今回は
急性気管支炎か、喘息の感染による増悪、といったところか。
無難に抗生剤はじめ感冒関連の処方と、喘息の処方。
「これで。また平日に来て」
「そこ、座ってもいいかな?」
余裕の三井先生が見下ろしていた。
「ええ、どうぞ」
「さっきのは尿管結石かな。エコーではよく分からなかった。看護婦さんよ!検尿は?」
キンキンはまた搬入される救急の迎えに出かけようとしていた。
「痛くてそれどころではないそうでーす!」
「ブスコパンは注射したのか!」
「しましたよ!とっくに!」
「検尿!はやく!急いで!それとCT!DIPも!忙しいよ!ふふ・・・はっはは・・・!」
村中は写真を持ってきた。10枚はある。
「胸の打撲と聞いたが、他も打ってるかもしれないと思って」
彼は写真を次々にシャーカステンに吊るした。
「村中先生、この写真は・・・手?」
「手、肘、膝。被曝を最小限にするために両手・両足同時に撮ってある」
「そ、そうだけど・・」
こいつもどうやら危ないな。
「で、メインの肋骨。胸骨2方向。骨折は見当たらない」
「胸部は?」
「え?」
「胸部単純だよ。気胸になってないか・・・できればCTも」
「それは君の専門だったね!じゃあバトンタッチで」
「おい!」
声が少しかすれ気味で、彼には届かなかった。
キンキンが僕を新患の救急患者へ引っ張った。救急隊員が待ってる。
「よろしいですか。84歳女性。2週間何も食べてないそうです」
「なんだそれ?食欲が?」
「どうやら家でほったらかされてたようで」
「同居人は?」
「1人暮らしです。近所の人が不審に思ってドアをこじ開けたそうです」
「近所の人も、やるな・・・」
「家族はいないようです!では!」
「しかしこれは・・・脱水を通り越して、衰弱だ。キンキン、一般病棟へ。検査には目を通すけど、入院」
「クレーム来ますよ」
僕の置きみやげ、ってことで・・・
小杉が頭部CTをヒラヒラさせながらやってきた。
「はいよ!もうパンク寸前!もう1人、応援呼んじゃったー!」
「異常は・・ないな」
「ていうか、出血がないってことでしょ、断言できるのは」
「採血も戻ってるが、これも異常ない・・・」
「あんだけ痛がってるのに。ヘンな頭痛・・・」
「・・今、何と?」
「え?なんと?南斗・すいちょうけん?」
アホか、こいつは。
「そうか。片頭痛ね・・・おかあさん!」
母親はすでに入室していた。
「はい?」
「私の印象では片頭痛の可能性もあると・・」
「はああ!やはりそうでしたか!」
「いや、そう確定したわけでは」
「え?では何ですか!」
「休日でもありますから、今日は入院・・・」
「しょ、小児科の先生は?表の看板に『小児科』とあるのに!」
「うちの救急外来の場合、小児科医を呼ぶ制度になってなくて・・」
「それはおかしい!院長先生に連絡を取って!」
その声は待合室にもこだまし、皆の注目の的になった。
「・・・では・・・小児救急の受け入れ可能な病院を探してもらいます」
「そりゃそうよ!急いで!」
このまま関わると、トラブルになる。
僕は歯を喰いしばって搬送の手続きをした。
救急車がさらに2台、到着してくるようだ。
アラモの砦とは、このことだ。
<つづく>
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