< レジデント・SICKS 16 最終EMERGENCY ? もう限界! >
2004年6月14日 連載「循環、循環器のてんていも、げげげ、外科のせせせんせいも、つかかまりません」
「みんな学会?外科関連の学会は・・ないよね、村中先生?」
「さあ、僕にはなんとも・・上司のことに関しては」
いや、恐らく口裏くらい打ち合わせているはずだ。
僕も疑う癖がついてしまったな。
「じゃあ、行ってきます」
キンキンが戸口に立ちふさがった。
「ダメですって!大声出しますよ!」
「どいてくれ!」
キンキンは2倍の空気を吸い込みにかかった。
「キュウキュウヲホッタラカサナイデエーーーーーー!」
「うわっ?」
鼓膜が破れそうな声だ。しかし問題は解決しない。
振り切ってICU/CCU行きのエレベーターに乗り込んだ。
キンキンにつかまる寸前のとこでドアが閉まった。
「ナメトンノカアアーーーー!」
3階に行ってもその声はけたたましく響いてくる。
ICU/CCUではしびれをきらした角さんが待ち構えていた。
「あー、やっと来た」
「どの患者?」
「あれ。まず鎮静してよ」
60代男性、角刈りの患者が大暴れしている。抑制しているが抑えきれて
おらず、上半身はベッドの両脇に押し出せるくらいの勢いだ。
「前にもあったな。こんなの」
角さんは僕の陰に隠れた。
「あの手紙、読んだ?」
「ああ・・・」
「秘密ってことになってるけど・・」
「今はそれについては言わないでくれ。落ち込む」
「はあ・・・で、どうします?」
「アタP 25mgを筋注してくれ」
「え?先生がでしょ?」
「筋注はナースだろ?終わったら呼んでくれ!」
「先生!以前だったらやってくれたのに!」
「もう便利屋じゃない!おとなしくなったら呼んでくれ」
「戻るの?・・・血圧低めなのに!」
「あんだけ元気だったら大丈夫!」
結局すぐ1階へと舞い戻った。キンキンは胃カメラ介助中だ。
画面には胃の内部が映っている。赤い海に水面・・・・時々嵐になる。
洗浄しているようだ、どうやら。
村中先生は完全に集中している。
「うん、だいぶ見え始めたぞ!だが・・・全体が赤っぽい以外は・・・」
「出血しているところは?」
「見当たらないな、それが」
「十二指腸まで見たんだけど、分からない」
「・・・・なら・・・AGMLかな?前にそんな経験があった」
「え?あ、そうか」
「そういうことにしよう」
「じゃ、入院。キンキンさん、一般病棟へよろしく!」
Hb 12.0g/dlで問題なく思えるが、急な出血の場合あまりすぐには数値上に反映されない
ことあり。要注意。
「アイシーユーカラ、カンジャオトナシクナッタッテ!」
キンキンはかなりヒステリーづいている。
「じゃ、また行ってくる」
幸い、三井先生が外来を対応してくれている。
ICU/CCUでは・・・例の患者は眠っているようだ。そこまで効くとは・・。
角さんがガッツポーズしている。
「角さん、じゃあサーフロー・・あ、僕が持ってる」
「そんなのポケットに入れるー?」
「じゃ、本体は・・あるね」
角さんがベッドサイドでエア抜きしていた、そのとき・・・
患者はカッと両目を見開き、思いっきりパンチを腹部に喰らわせた。
「ふんっ!」
「ぎゃああ!」
角さんはバネのようにのけぞった。
「おい、寝たふりしてるだけじゃないか?」
角さんはなんとか立ち上がった。
「アタP、効いてないじゃない!」
「じゃ、セレネースで・・!」
「あたしもうイヤ!先生がやって!」
「時間がないな。するから、貸して!」
患者は角さんの腕をとらえ、抱きついてきた。
「いやああ!」
すかさず注射が打ち込まれた。
「じゃ。ほかには?」
「はいっ!」
色の白い新人が手を上げた。
「DCMの患者さん」
「ああ、この人」
「尿がかなり出すぎて眠れないって」
「利尿剤の指示は・・」
「芝先生の指示では、6時間ごとなんです」
「バルーンは入ってるんじゃあ・・」
「抜いたのにまだそんな指示が出ていて・・」
「内服に変えよう。尿量指示は・・これでよし」
「よかった!先生で!」
「なぜに?」
「先生だと言いやすくって」
「あ、そう・・」
「あたし先生の大ファンだったんですー」
「は、はあ?そ、それは・・・」
「本田さんと仲よさそうだったからー、ちょっぴり悔しかったりしてー」
「ああ、はあ・・じゃあ」
「はい・・・」
・・・・まあまあ可愛い子だったな。なんか損した・・。
救急外来はごった返していた。夕方のようだが患者の勢いはとどまるところを知らない。
喀血の患者の胸部CTでは右上肺の腫瘤像と出血像。
村中先生は困惑していた。
「家族がかかりつけ医に連絡したら、Tbcの治療中断してたんだってね」
「そうなのか。本人も教えてくれたらよかったのに・・」
「また入院するのがイヤだったんだろね」
「じゃ、決まりだ。結核病棟のあるところへ搬送だ」
あとは事務任せ。キンキンも声がかすれ気味だ。
「血圧高かった患者さん、落ち着きましたので、帰ります」
「ああ・・頼む」
三井先生は何度も顔をさすっていた。
「あー、しんどいしんどい!外来、代わってくれるか?」
夜中の1時。残った患者は僕が呼ぶことにした。
イスに座った途端、めまいがした。悪寒もする。全身に力が入りにくい。
緊張が長らく走っていたのが取れてしまうと、一気に症状が増悪してきた。
「つ・・・つぎの・・人・・ゴホゴホ」
カルテにざっと目を通すと、主訴的には緊急性はなさそうだ。
事務が走ってきた。
「きょきょ、胸痛・呼吸困難が来ます!46歳男性!」
三井先生がまた戻ってきた。
「外来、やっぱ僕がやるよ!救急、診てちょうだい!」
村中先生はナート中だ。
「そうですね・・・そうします」
どうやら心不全の患者っぽい。
即、救急車は到着した。寒気が強く、外には出ず部屋で待つことにした。
だが体が少し震え始めた。鼻水も出始めたようだ。
救急隊は凄い勢いで扉を開け、一目散に駆け込んだ。
「心肺停止状態!アンビュー10リットル!酸素、つないでください!」
キンキンが焦りながら酸素をつなぎかえる。
僕はハッと我に返った。
「キンキン!挿管の用意は?」
「まさかこんな状態なんて知らなかったから・・・」
「手伝ってくれ!」
喉頭鏡とチューブを取り出した。そのまま挿管しようとした。
キンキンが慌ててやってきた。
「先生!スタイレット、チューブに通さないと!」
「?・・ああ、そうだったな・・・ゲホッ!」
「大丈夫?」
「吸引じてぐれ!」
「ああ、はいはい!」
これまたクビの短い患者で、声門が見えない。とりあえず真ん中を狙って、
そのまま挿入・・・。村中先生が音の確認。キンキンが心臓マッサージ。
「ダメだユウキ先生、胃だよ!」
「くそ!ぼう一度・・・」
指先に力が入らない。適当に押し込んでいるような感覚だ。
「ユウキ先生・・・やっぱり胃だ!僕が代わろうか?」
「くく・・・ずまない」
彼に代わったところ、一瞬でカタがついた。
「村中・・・先生、どうも。キンキン、ルートがらボずミンを・・」
振り返った途端、僕はそのままよろめいた。何歩かつまずきながら、壁にそのまま体が叩きつけられた。手が放せないキンキンらはただ見てるしかなかった。
「キャアーーーーー!」
僕はそのまま部屋の隅にズルズルと・・倒れこんでしまった。
<つづく>
「みんな学会?外科関連の学会は・・ないよね、村中先生?」
「さあ、僕にはなんとも・・上司のことに関しては」
いや、恐らく口裏くらい打ち合わせているはずだ。
僕も疑う癖がついてしまったな。
「じゃあ、行ってきます」
キンキンが戸口に立ちふさがった。
「ダメですって!大声出しますよ!」
「どいてくれ!」
キンキンは2倍の空気を吸い込みにかかった。
「キュウキュウヲホッタラカサナイデエーーーーーー!」
「うわっ?」
鼓膜が破れそうな声だ。しかし問題は解決しない。
振り切ってICU/CCU行きのエレベーターに乗り込んだ。
キンキンにつかまる寸前のとこでドアが閉まった。
「ナメトンノカアアーーーー!」
3階に行ってもその声はけたたましく響いてくる。
ICU/CCUではしびれをきらした角さんが待ち構えていた。
「あー、やっと来た」
「どの患者?」
「あれ。まず鎮静してよ」
60代男性、角刈りの患者が大暴れしている。抑制しているが抑えきれて
おらず、上半身はベッドの両脇に押し出せるくらいの勢いだ。
「前にもあったな。こんなの」
角さんは僕の陰に隠れた。
「あの手紙、読んだ?」
「ああ・・・」
「秘密ってことになってるけど・・」
「今はそれについては言わないでくれ。落ち込む」
「はあ・・・で、どうします?」
「アタP 25mgを筋注してくれ」
「え?先生がでしょ?」
「筋注はナースだろ?終わったら呼んでくれ!」
「先生!以前だったらやってくれたのに!」
「もう便利屋じゃない!おとなしくなったら呼んでくれ」
「戻るの?・・・血圧低めなのに!」
「あんだけ元気だったら大丈夫!」
結局すぐ1階へと舞い戻った。キンキンは胃カメラ介助中だ。
画面には胃の内部が映っている。赤い海に水面・・・・時々嵐になる。
洗浄しているようだ、どうやら。
村中先生は完全に集中している。
「うん、だいぶ見え始めたぞ!だが・・・全体が赤っぽい以外は・・・」
「出血しているところは?」
「見当たらないな、それが」
「十二指腸まで見たんだけど、分からない」
「・・・・なら・・・AGMLかな?前にそんな経験があった」
「え?あ、そうか」
「そういうことにしよう」
「じゃ、入院。キンキンさん、一般病棟へよろしく!」
Hb 12.0g/dlで問題なく思えるが、急な出血の場合あまりすぐには数値上に反映されない
ことあり。要注意。
「アイシーユーカラ、カンジャオトナシクナッタッテ!」
キンキンはかなりヒステリーづいている。
「じゃ、また行ってくる」
幸い、三井先生が外来を対応してくれている。
ICU/CCUでは・・・例の患者は眠っているようだ。そこまで効くとは・・。
角さんがガッツポーズしている。
「角さん、じゃあサーフロー・・あ、僕が持ってる」
「そんなのポケットに入れるー?」
「じゃ、本体は・・あるね」
角さんがベッドサイドでエア抜きしていた、そのとき・・・
患者はカッと両目を見開き、思いっきりパンチを腹部に喰らわせた。
「ふんっ!」
「ぎゃああ!」
角さんはバネのようにのけぞった。
「おい、寝たふりしてるだけじゃないか?」
角さんはなんとか立ち上がった。
「アタP、効いてないじゃない!」
「じゃ、セレネースで・・!」
「あたしもうイヤ!先生がやって!」
「時間がないな。するから、貸して!」
患者は角さんの腕をとらえ、抱きついてきた。
「いやああ!」
すかさず注射が打ち込まれた。
「じゃ。ほかには?」
「はいっ!」
色の白い新人が手を上げた。
「DCMの患者さん」
「ああ、この人」
「尿がかなり出すぎて眠れないって」
「利尿剤の指示は・・」
「芝先生の指示では、6時間ごとなんです」
「バルーンは入ってるんじゃあ・・」
「抜いたのにまだそんな指示が出ていて・・」
「内服に変えよう。尿量指示は・・これでよし」
「よかった!先生で!」
「なぜに?」
「先生だと言いやすくって」
「あ、そう・・」
「あたし先生の大ファンだったんですー」
「は、はあ?そ、それは・・・」
「本田さんと仲よさそうだったからー、ちょっぴり悔しかったりしてー」
「ああ、はあ・・じゃあ」
「はい・・・」
・・・・まあまあ可愛い子だったな。なんか損した・・。
救急外来はごった返していた。夕方のようだが患者の勢いはとどまるところを知らない。
喀血の患者の胸部CTでは右上肺の腫瘤像と出血像。
村中先生は困惑していた。
「家族がかかりつけ医に連絡したら、Tbcの治療中断してたんだってね」
「そうなのか。本人も教えてくれたらよかったのに・・」
「また入院するのがイヤだったんだろね」
「じゃ、決まりだ。結核病棟のあるところへ搬送だ」
あとは事務任せ。キンキンも声がかすれ気味だ。
「血圧高かった患者さん、落ち着きましたので、帰ります」
「ああ・・頼む」
三井先生は何度も顔をさすっていた。
「あー、しんどいしんどい!外来、代わってくれるか?」
夜中の1時。残った患者は僕が呼ぶことにした。
イスに座った途端、めまいがした。悪寒もする。全身に力が入りにくい。
緊張が長らく走っていたのが取れてしまうと、一気に症状が増悪してきた。
「つ・・・つぎの・・人・・ゴホゴホ」
カルテにざっと目を通すと、主訴的には緊急性はなさそうだ。
事務が走ってきた。
「きょきょ、胸痛・呼吸困難が来ます!46歳男性!」
三井先生がまた戻ってきた。
「外来、やっぱ僕がやるよ!救急、診てちょうだい!」
村中先生はナート中だ。
「そうですね・・・そうします」
どうやら心不全の患者っぽい。
即、救急車は到着した。寒気が強く、外には出ず部屋で待つことにした。
だが体が少し震え始めた。鼻水も出始めたようだ。
救急隊は凄い勢いで扉を開け、一目散に駆け込んだ。
「心肺停止状態!アンビュー10リットル!酸素、つないでください!」
キンキンが焦りながら酸素をつなぎかえる。
僕はハッと我に返った。
「キンキン!挿管の用意は?」
「まさかこんな状態なんて知らなかったから・・・」
「手伝ってくれ!」
喉頭鏡とチューブを取り出した。そのまま挿管しようとした。
キンキンが慌ててやってきた。
「先生!スタイレット、チューブに通さないと!」
「?・・ああ、そうだったな・・・ゲホッ!」
「大丈夫?」
「吸引じてぐれ!」
「ああ、はいはい!」
これまたクビの短い患者で、声門が見えない。とりあえず真ん中を狙って、
そのまま挿入・・・。村中先生が音の確認。キンキンが心臓マッサージ。
「ダメだユウキ先生、胃だよ!」
「くそ!ぼう一度・・・」
指先に力が入らない。適当に押し込んでいるような感覚だ。
「ユウキ先生・・・やっぱり胃だ!僕が代わろうか?」
「くく・・・ずまない」
彼に代わったところ、一瞬でカタがついた。
「村中・・・先生、どうも。キンキン、ルートがらボずミンを・・」
振り返った途端、僕はそのままよろめいた。何歩かつまずきながら、壁にそのまま体が叩きつけられた。手が放せないキンキンらはただ見てるしかなかった。
「キャアーーーーー!」
僕はそのまま部屋の隅にズルズルと・・倒れこんでしまった。
<つづく>
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