< レジデント・SICKS 17 最終EMERGENCY ? ラストエムアイ >
2004年6月15日 連載 目を開けると両脇には外来患者が点滴を受けている。僕もだ。
気絶したわけでなく、少し眠っていたようだ。だが時計を見ると・・1時間しか経ってない。
されど1時間だ。
少し遠く離れた場所で村中・三井先生が頑張っている。どうやらまたDOAが来たようだ。
キンキンがこちらへやってきた。
「ふーっ、ダメだったみたいね」
「ダメだったとは・・・さっき僕が挿管しかけた患者?」
「あの人はCCUへ行ったわ」
「あ、やっぱり・・その後に入った人か」
「休んでてよ。しばらく」
「分かってるんだが、外来患者はあとどのくらい・・」
上につるしてあるポタ以外に、ロセフィン、ビタメジン、ガスターが入っている。
キンキンはまた修羅場へ戻っていった。
僕はゆっくり上体を起こした。なんとか起き上がれた。こっそり飲んでいたNSAIDが効き始めたのか、発汗と爽快感がやってきた。
点滴台ごと、僕は1歩1歩前に進んだ。目の前の診察机がかなり遠いものに感じられた。点滴のラインは白衣の中に隠した。診察ぐらいはなんとかできそうだ。
「よし・・・」
マイクを取り出し、1人ずつ呼ぶことに。
「宮村さん、どうぞ、診察室へ」
ドクター達は死後の処置に追われている。キンキンはさきほど入院した患者の申し送り中。
今は朝の3時だ。あと6時間・・・。
「はい」
中年男性がドカッと腰掛けた。
「血糖高いねん。クスリおくれ」
「高い・・どうして分かるんです?」
カルテをみると、もう2ヶ月取りにきてない。2種類飲んでいる。
こんな救急のときに限って・・・。
「体、だるいですか」
「めっちゃしんどい」
「血糖測ります」
「採血したら、薬もらって帰るわな」
「待っていただかないと・・」
「何時間待たせたと思ってんねや!」
患者は近くにある処置台を蹴飛ばした。たくさんの医療器具が床にガシャガシャ散乱していった。
その音は内耳のさらに奥まで轟いた。
思わず僕はうずくまった。
次の患者は・・肺気腫で内服・HOT中のばあさんだ。年に1回、人工呼吸がつくという。今回も
増悪か。見るからに・・起座呼吸だ。
「ちょっと胸の音を・・・肺気腫だからな。よく分からん・・・」
というより耳が麻痺状態なのだ。
「もしもし、小杉?胸部CTを」
患者は車椅子で検査へ。しまった、SpO2測定するの、忘れた。
朝6時、あと3時間。なんとか座ったままの体制でやってけそう。
事務が走ってきた。
「ハア、ハア・・・ごご、5分後に胸痛の60歳男性!」
「キンキン、ベッドはある?」
「あと1床だけ」
「そうか・・・受け入れなきゃな」
「CCUがちょうど空いてます。よかったですね」
「よくない・・・。できれば逃げ切りたかったのに・・・」
最悪の事象は最悪のタイミングでやってくるものだ。
三井先生は点滴患者の『回診』から戻ってきた。
「じゃ、ユウキ先生!出番だね!ああ、疲れたー・・」
救急車が到着。事務員が僕を見て心配そうだ。
「だだだ・・・大丈夫ですか・・・」
「大丈夫じゃない。でももう、これ以上重症は取れない」
「わわ・・・わかりまじだ」
胸を押さえて痛がっている患者がストレッチャーに座位で運ばれてきた。
「ぐががが・・・」
キンキンも疲れ果てている。
「なんか、AMIとかって、やたら早朝が多くない?」
「交感神経が活動しだす時期だからさ」
僕はイスに座ったまま、イスの下の車でサーッと移動しベッドサイドへ。
三井先生は遠巻きに見ている。
「その心電図からすると・・・AMIだね」
「そのようで。血圧は130/80mmHgか。キンキン、ミオコールを」
三井先生も聴診している。
「ふむう・・・?音はないかな?キリップ分類は・・」
「さあ。参考にしたことないんで」
「あ、そう」
「発症から2時間・・・・・ダイレクトに拡張したいところだが・・・事務員さん?」
「ははは、はいっ!」
「もう一度コンタクトを取って!循環器グループ!」
「ははい!」
キンキンが点滴を調節。
「彼ら、戻ってくるの早朝よね」
「今日は月曜日なんだが、午前中は休診なんだよ」
「最悪なら昼ってこと?」
「どうしよう。どっか送ろうか・・・」
エコー・心電図からすると前壁の梗塞。中隔基部は動いているので、♯6以下の病変か。
血圧、下がらなければいいが・・・。
家族へのムンテラ。治療はこの病院でお願いします、ということになった。よその病院でのダイレクトでのカテはしないことになった。
「t-PAをいこう!CCUへ!」
また少し熱っぽくなってきたようだ。村中先生が戻ってきた。
「ユウキ先生、あとは僕らがやるよ。重症ももう取れないわけだし」
「そ、そうか・・・しかし今AMI入ったんで。できればじゃあ、僕もCCUへ」
「ああ。そこで休んどいたらいい。三井先生にも言っておく」
「じゃ、これで・・」
村中先生はいきなり気を付けをした。
「先生・・。どうも、ありがとう。またいつか」
僕らは握手した。キンキンはCCUまで着いてきてくれた。
「じゃあ先生、たぶんこれでお別れね」
「ああ。今までありがとう」
「彼女を大切に」
「・・そうだな」
「本田じゃなくてね」
「ああ」
ICU/CCUの控え室に入った。やはり彼女はいない。
どうやら・・・本当に会う事はないんだな。
やはり熟睡はできず、先ほど入院した患者のところへ歩いていった。
しかし・・・患者はいない。というか、ベッドがない。
「遅かったのか・・・?」
新人ナースに聞いてみた。
「何だって?」
気絶したわけでなく、少し眠っていたようだ。だが時計を見ると・・1時間しか経ってない。
されど1時間だ。
少し遠く離れた場所で村中・三井先生が頑張っている。どうやらまたDOAが来たようだ。
キンキンがこちらへやってきた。
「ふーっ、ダメだったみたいね」
「ダメだったとは・・・さっき僕が挿管しかけた患者?」
「あの人はCCUへ行ったわ」
「あ、やっぱり・・その後に入った人か」
「休んでてよ。しばらく」
「分かってるんだが、外来患者はあとどのくらい・・」
上につるしてあるポタ以外に、ロセフィン、ビタメジン、ガスターが入っている。
キンキンはまた修羅場へ戻っていった。
僕はゆっくり上体を起こした。なんとか起き上がれた。こっそり飲んでいたNSAIDが効き始めたのか、発汗と爽快感がやってきた。
点滴台ごと、僕は1歩1歩前に進んだ。目の前の診察机がかなり遠いものに感じられた。点滴のラインは白衣の中に隠した。診察ぐらいはなんとかできそうだ。
「よし・・・」
マイクを取り出し、1人ずつ呼ぶことに。
「宮村さん、どうぞ、診察室へ」
ドクター達は死後の処置に追われている。キンキンはさきほど入院した患者の申し送り中。
今は朝の3時だ。あと6時間・・・。
「はい」
中年男性がドカッと腰掛けた。
「血糖高いねん。クスリおくれ」
「高い・・どうして分かるんです?」
カルテをみると、もう2ヶ月取りにきてない。2種類飲んでいる。
こんな救急のときに限って・・・。
「体、だるいですか」
「めっちゃしんどい」
「血糖測ります」
「採血したら、薬もらって帰るわな」
「待っていただかないと・・」
「何時間待たせたと思ってんねや!」
患者は近くにある処置台を蹴飛ばした。たくさんの医療器具が床にガシャガシャ散乱していった。
その音は内耳のさらに奥まで轟いた。
思わず僕はうずくまった。
次の患者は・・肺気腫で内服・HOT中のばあさんだ。年に1回、人工呼吸がつくという。今回も
増悪か。見るからに・・起座呼吸だ。
「ちょっと胸の音を・・・肺気腫だからな。よく分からん・・・」
というより耳が麻痺状態なのだ。
「もしもし、小杉?胸部CTを」
患者は車椅子で検査へ。しまった、SpO2測定するの、忘れた。
朝6時、あと3時間。なんとか座ったままの体制でやってけそう。
事務が走ってきた。
「ハア、ハア・・・ごご、5分後に胸痛の60歳男性!」
「キンキン、ベッドはある?」
「あと1床だけ」
「そうか・・・受け入れなきゃな」
「CCUがちょうど空いてます。よかったですね」
「よくない・・・。できれば逃げ切りたかったのに・・・」
最悪の事象は最悪のタイミングでやってくるものだ。
三井先生は点滴患者の『回診』から戻ってきた。
「じゃ、ユウキ先生!出番だね!ああ、疲れたー・・」
救急車が到着。事務員が僕を見て心配そうだ。
「だだだ・・・大丈夫ですか・・・」
「大丈夫じゃない。でももう、これ以上重症は取れない」
「わわ・・・わかりまじだ」
胸を押さえて痛がっている患者がストレッチャーに座位で運ばれてきた。
「ぐががが・・・」
キンキンも疲れ果てている。
「なんか、AMIとかって、やたら早朝が多くない?」
「交感神経が活動しだす時期だからさ」
僕はイスに座ったまま、イスの下の車でサーッと移動しベッドサイドへ。
三井先生は遠巻きに見ている。
「その心電図からすると・・・AMIだね」
「そのようで。血圧は130/80mmHgか。キンキン、ミオコールを」
三井先生も聴診している。
「ふむう・・・?音はないかな?キリップ分類は・・」
「さあ。参考にしたことないんで」
「あ、そう」
「発症から2時間・・・・・ダイレクトに拡張したいところだが・・・事務員さん?」
「ははは、はいっ!」
「もう一度コンタクトを取って!循環器グループ!」
「ははい!」
キンキンが点滴を調節。
「彼ら、戻ってくるの早朝よね」
「今日は月曜日なんだが、午前中は休診なんだよ」
「最悪なら昼ってこと?」
「どうしよう。どっか送ろうか・・・」
エコー・心電図からすると前壁の梗塞。中隔基部は動いているので、♯6以下の病変か。
血圧、下がらなければいいが・・・。
家族へのムンテラ。治療はこの病院でお願いします、ということになった。よその病院でのダイレクトでのカテはしないことになった。
「t-PAをいこう!CCUへ!」
また少し熱っぽくなってきたようだ。村中先生が戻ってきた。
「ユウキ先生、あとは僕らがやるよ。重症ももう取れないわけだし」
「そ、そうか・・・しかし今AMI入ったんで。できればじゃあ、僕もCCUへ」
「ああ。そこで休んどいたらいい。三井先生にも言っておく」
「じゃ、これで・・」
村中先生はいきなり気を付けをした。
「先生・・。どうも、ありがとう。またいつか」
僕らは握手した。キンキンはCCUまで着いてきてくれた。
「じゃあ先生、たぶんこれでお別れね」
「ああ。今までありがとう」
「彼女を大切に」
「・・そうだな」
「本田じゃなくてね」
「ああ」
ICU/CCUの控え室に入った。やはり彼女はいない。
どうやら・・・本当に会う事はないんだな。
やはり熟睡はできず、先ほど入院した患者のところへ歩いていった。
しかし・・・患者はいない。というか、ベッドがない。
「遅かったのか・・・?」
新人ナースに聞いてみた。
「何だって?」
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