< オーベン&コベンダーズ 2-3 珍入者 >
2004年7月29日今月から外来検査のトレッドミル係になった。
目の前に操作する機械があり、横にトレーニング様のベルト式歩行機がある。
僕がここで操作して、ベルトの速度・傾斜を変えていく。心電図に変化があったり患者がバテればアウトだ。
だがたまに高校生の陸上部みたいなのがいて、最大速度でも15分くらい走り続ける者もいる。
僕はベッドに横になった患者さんの胸に、電極を1個ずつつけていた。
「失礼します・・」
女性の場合、胸にはいちおうタオルを置いて配慮している。この人も20歳くらいの女性だ。
心電図で著明な右軸偏位・V1のR>Sがあり右心負荷を指摘され、超音波検査。ドプラーで肺高血圧を認めた。外来主治医の指示により、今回6分間限定の負荷。
そもそも受診したきっかけは・・『体がだるい』。つまり全身倦怠感。
採血でRNP抗体陽性。本日検査して、入院予定、か。二重丸してる箇所がある。
結婚式;来年の春。そうなのか・・。
こうしてカルテを後ろからさかのぼって読んだほうが記憶に残りやすい。
「じゃあ、ベルトの上へ。動きますよ・・」
ボタンを押すと、グ−ンとベルトがゆっくり流れ出した。少し傾斜もついた。
「下を見ないで。正面を」
「はい・・」
「手はこう、前方の手すりに」
気がつくと、後ろにドクターが数人。
「ど、どうかしました?」
「いや・・・」
宮川先生ら3人の先生が僕の後ろに立っている。データが心配で見に来たのか?
「今、運動を始めたところです」
「あ、そ・・」
宮川先生は彼女のほうへ歩み寄って行った。
「大丈夫?」
「はい」
他の2人もゆっくり近づいていった。1人が電極コードを踏みそうになった。
「先生方。申し訳ないのですが。今は離れて・・」
3分が経過。若干スピードがついた。傾斜も少し。モニターは脈が120台。だがサイナスだ。
不整脈なし、虚血性変化も・・なし。
「少し速くなります、頑張って。あと3分!」
「はーい」
彼女は少し駆け出し様の歩行になってきた。
「苦しくない?」
「大丈夫」
うしろから小走りに走ってくる先生がいた。
「ちょっと宮川先生!他の先生も!」
グッチ先生だ。かなり息切れしている。
「なんでここにいるのよ!外来が探してますよ!」
宮川先生は焦って戻りだした。
グッチ先生は冷たい視線で訴えかけた。
「主治医じゃないでしょ?先生たち!この・・・(スケベ!)」
3人はとぼとぼ戻っていった。まだ負荷は終わっていない。
グッチ先生は記録を観察している。
「PH(肺高血圧)があるわ。だから急な血圧低下に注意して!」
「はい。血圧は今のところ・・いけてます」
時間が来た。
「終了します!いきなり止まらないで!」
グッチ先生が手をつなぎにいった。
「大丈夫、終わったわよ」
「ハア、苦しかった」
「無理しなくていいのよ。かわいそうに・・よしよし」
グッチ先生、まるで過保護な母親みたいに・・。
全記録がプリントアウトされていく。
「ありがと!じゃ、主治医の助教授のとこへ持っていくわ!」
「はい。ではお願いします」
「ユリちゃん、また後でねー!主治医のあたしがまた、病室行くから!」
「うん!」
彼女は呼吸機能検査室へ。
1人になったとき、本に目を通す。さっそくMCTDのところを。
PH合併群は、予後不良・・。そうだ、国家試験のときそう習った。
ダメだ。目が疲れてきた。最近、集中力がない。カンファの準備の時とかは手が動くからいいものの。
本読みはまるで面倒になってしまった。
またレジデント3人で内職。
森さんは不明熱の患者のデータまとめにとりかかる。あと3冊カルテがあるがすべて軽症。
水野も肺線維症の患者の所見まとめ。他4人は軽症。
水野への干渉は全くしてなかった。小さい疑問が出たときだけ話し合う仲だ。
というか、水野は森さんとお互い質問しあっており、互いにいい刺激になっているようだ。
僕の出る幕などなし。
ハサミで切る音、のりで貼る音、ワープロを打つ音・・・。無限の時間が過ぎていく。
夜9時。いつものようにピザが届く。
「お待たせしました!」
とりあえず僕がお金を払う。そして・・
「医局ですか?ピザが届きました」
院生たちその他が入ってくる。
宮川先生がソファに腰掛ける。
「遅くまでご苦労さんだなあ!」
彼はライターをつけ、タバコに灯した。
水野が壁の『禁煙』をペンで指差す。
「ああ、禁煙ね?気にしてないよ」
僕がピザを均等に分けて差し出す。
「トシキ先生、いつもすまんな」
「とんでもない。内視鏡の際はまた・・」
「ああ。いつでもいいぜ。時間内ならな」
「先生、今日は遅いですね」
「抄読会の準備だ。英文だから大変だ」
「またですか?この前も・・」
「ああいうのは1-2月に1度は廻ってくる。ホント早いよ。うまいな、これ」
「ジャーマンポテトです」
「ほう」
「全部で4800円です」
「高いな?頼みすぎだ。あ、待ってろよ・・」
宮川先生はポケットをまさぐっている。
「あれ・・?」
どうやら持ち合わせがないようだ。
「ま、また今度にするわ!」
「ええ、いつでも」
「まとめて払うよ。これまでの分もあったよな」
「はい。ほんとにいつでも・・」
宮川先生のツケだけで3万強。他の先生たちの分を足すと合計は9-10万にものぼっていた。
「ごちそうさん。じゃ!頑張れよ!夜は長いし!」
宮川先生は口の周りを汚したまま帰っていった。
目の前に操作する機械があり、横にトレーニング様のベルト式歩行機がある。
僕がここで操作して、ベルトの速度・傾斜を変えていく。心電図に変化があったり患者がバテればアウトだ。
だがたまに高校生の陸上部みたいなのがいて、最大速度でも15分くらい走り続ける者もいる。
僕はベッドに横になった患者さんの胸に、電極を1個ずつつけていた。
「失礼します・・」
女性の場合、胸にはいちおうタオルを置いて配慮している。この人も20歳くらいの女性だ。
心電図で著明な右軸偏位・V1のR>Sがあり右心負荷を指摘され、超音波検査。ドプラーで肺高血圧を認めた。外来主治医の指示により、今回6分間限定の負荷。
そもそも受診したきっかけは・・『体がだるい』。つまり全身倦怠感。
採血でRNP抗体陽性。本日検査して、入院予定、か。二重丸してる箇所がある。
結婚式;来年の春。そうなのか・・。
こうしてカルテを後ろからさかのぼって読んだほうが記憶に残りやすい。
「じゃあ、ベルトの上へ。動きますよ・・」
ボタンを押すと、グ−ンとベルトがゆっくり流れ出した。少し傾斜もついた。
「下を見ないで。正面を」
「はい・・」
「手はこう、前方の手すりに」
気がつくと、後ろにドクターが数人。
「ど、どうかしました?」
「いや・・・」
宮川先生ら3人の先生が僕の後ろに立っている。データが心配で見に来たのか?
「今、運動を始めたところです」
「あ、そ・・」
宮川先生は彼女のほうへ歩み寄って行った。
「大丈夫?」
「はい」
他の2人もゆっくり近づいていった。1人が電極コードを踏みそうになった。
「先生方。申し訳ないのですが。今は離れて・・」
3分が経過。若干スピードがついた。傾斜も少し。モニターは脈が120台。だがサイナスだ。
不整脈なし、虚血性変化も・・なし。
「少し速くなります、頑張って。あと3分!」
「はーい」
彼女は少し駆け出し様の歩行になってきた。
「苦しくない?」
「大丈夫」
うしろから小走りに走ってくる先生がいた。
「ちょっと宮川先生!他の先生も!」
グッチ先生だ。かなり息切れしている。
「なんでここにいるのよ!外来が探してますよ!」
宮川先生は焦って戻りだした。
グッチ先生は冷たい視線で訴えかけた。
「主治医じゃないでしょ?先生たち!この・・・(スケベ!)」
3人はとぼとぼ戻っていった。まだ負荷は終わっていない。
グッチ先生は記録を観察している。
「PH(肺高血圧)があるわ。だから急な血圧低下に注意して!」
「はい。血圧は今のところ・・いけてます」
時間が来た。
「終了します!いきなり止まらないで!」
グッチ先生が手をつなぎにいった。
「大丈夫、終わったわよ」
「ハア、苦しかった」
「無理しなくていいのよ。かわいそうに・・よしよし」
グッチ先生、まるで過保護な母親みたいに・・。
全記録がプリントアウトされていく。
「ありがと!じゃ、主治医の助教授のとこへ持っていくわ!」
「はい。ではお願いします」
「ユリちゃん、また後でねー!主治医のあたしがまた、病室行くから!」
「うん!」
彼女は呼吸機能検査室へ。
1人になったとき、本に目を通す。さっそくMCTDのところを。
PH合併群は、予後不良・・。そうだ、国家試験のときそう習った。
ダメだ。目が疲れてきた。最近、集中力がない。カンファの準備の時とかは手が動くからいいものの。
本読みはまるで面倒になってしまった。
またレジデント3人で内職。
森さんは不明熱の患者のデータまとめにとりかかる。あと3冊カルテがあるがすべて軽症。
水野も肺線維症の患者の所見まとめ。他4人は軽症。
水野への干渉は全くしてなかった。小さい疑問が出たときだけ話し合う仲だ。
というか、水野は森さんとお互い質問しあっており、互いにいい刺激になっているようだ。
僕の出る幕などなし。
ハサミで切る音、のりで貼る音、ワープロを打つ音・・・。無限の時間が過ぎていく。
夜9時。いつものようにピザが届く。
「お待たせしました!」
とりあえず僕がお金を払う。そして・・
「医局ですか?ピザが届きました」
院生たちその他が入ってくる。
宮川先生がソファに腰掛ける。
「遅くまでご苦労さんだなあ!」
彼はライターをつけ、タバコに灯した。
水野が壁の『禁煙』をペンで指差す。
「ああ、禁煙ね?気にしてないよ」
僕がピザを均等に分けて差し出す。
「トシキ先生、いつもすまんな」
「とんでもない。内視鏡の際はまた・・」
「ああ。いつでもいいぜ。時間内ならな」
「先生、今日は遅いですね」
「抄読会の準備だ。英文だから大変だ」
「またですか?この前も・・」
「ああいうのは1-2月に1度は廻ってくる。ホント早いよ。うまいな、これ」
「ジャーマンポテトです」
「ほう」
「全部で4800円です」
「高いな?頼みすぎだ。あ、待ってろよ・・」
宮川先生はポケットをまさぐっている。
「あれ・・?」
どうやら持ち合わせがないようだ。
「ま、また今度にするわ!」
「ええ、いつでも」
「まとめて払うよ。これまでの分もあったよな」
「はい。ほんとにいつでも・・」
宮川先生のツケだけで3万強。他の先生たちの分を足すと合計は9-10万にものぼっていた。
「ごちそうさん。じゃ!頑張れよ!夜は長いし!」
宮川先生は口の周りを汚したまま帰っていった。
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