< オーベン&コベンダーズ 2-8 魔王 >
2004年7月30日月曜日の深夜。
ヘンな夢を見た。
オーベンと2人で馬に乗っていると、後ろから音がする。
後ろの僕が叫ぶ。
「オーベン。何か後ろでざわめきが」
「気にするな。ナースがお喋りしてるだけだ」
「なるほど」
しばらくすると、ピロピロ音が鳴ってくる。モニター音だ。
「オーベン、モニターが鳴ってます」
「コベン、気にするな。ただのVPCだ。経過観察でいい」
またしばらくすると、コール音が鳴った。
「マイオーベン。今度はコールが頻回に鳴ってます!」
「気にするな。便秘薬をいつも気にしてくる、あの爺さんだ」
突然、点滴が詰まってピーと鳴る警報音が聞かれた。
「マイオーベン、マイオーベン。今度はほら!点滴のつまる音が!」
「コベン。大丈夫。IVHの位置は写真でちゃんと、確認した」
するとベッドがガタガタいう音が聞こえてきた。
「マイオオオオベン!マイオーベン!今度はほらああ!おおお大きな!てんかん発作が?」
「なに?ああ!」
オーベンと僕はドスンと落馬し、その場に這いつくばった。
「そ、挿管挿管!」
「ひい!」
飛び起きたそこは、真っ暗なカンファレンス室だ。隣の詰所では、様々な音が聞こえてくる。
中学校のときに聞いたクラシックとごっちゃになっていたようだ。
珍しく呼ばれることもなく、その日の副直業務は終わった。火曜日。
昼過ぎ、入院したばかりの肺線維症の患者を回診。呼吸不全は悪化傾向にあった。
挿管はするレベルではないが。治療は抗生剤くらい。ただの肺炎合併であることを祈る。
レジデント3人が内職する中、カンファレンス室にオーベンが入ってきた。
「待て待て。質問は順番でだ」
オーベンは僕のところへ。
「トシキ。MCTDの転院は聞いたよ。病棟医長から」
「そうでしたか」
「せっかく治験にいい1例、と思ってたのに・・」
「あす水曜日に転院ですってね」
「もう一度、オレが説得してみる」
「え?」
「今日の晩、家族が来る予定らしいんだ。家族が納得すれば・・」
「晩、ですか・・」
グッチ先生が近くで地面を見ている。こっちの話、聞いたのか・・・?
「俺は時間がない。何かあるか?質問事項」
やっとヒマになったかと思われたオーベンは、データの解析を教授より早々に急かされていた。
「狭心症の方ですが・・カテ前のムンテラをお願いしたくて」
「お前やっとけ!俺はデータ解析で、時間がないんだって!」
「は、はい」
「いいか、メモしろ。狭心症が疑わしい。冠動脈に狭窄が疑われる。そのためカテーテルを行う」
「はい」
「これは検査であって、治療ではない」
「そうですね」
「お前に説明してるんじゃない。ムンテラ内容だ。黙って書け!」
「はい」
「ただし合併症として次のものが起こりうる。?出血、?感染、?解離」
「不整脈もいいでしょうか」
「いいが、あまりそんなことばかり言って、不安にさせるなよ!」
「はい!」
昼間、学食で食事。最近オーベンもかなり多忙で、いっしょに食事するのは皆無だ。
僕自身、週に2回昼食とれたらいいほうで、時間も昼の2時とかギリギリのことが多い。
何がギリギリかって・・?
「お兄ちゃん、ランチはもう終わったよ」
ということだ。
後ろからいきなり首をつままれた。
「うわ!」
「びっくらこいた?」
グッチ先生だ。この先生が学食だなんて。全く似合わない。
「川口先生・・?」
「探してたのよ。先生を」
「僕をですか?そりゃあ・・・光栄です」
「どこでも空いてるから、そこ座りましょ」
「はい」
がら空きの長机に僕らは向かい合った。これって周りからみると、怪しくないだろうか。
「ねえ先生。食べてるところ悪いけど」
「・・・はい」
「野中君は何か言ってる?」
そうか。やっぱりそのことで来たんだ。
「いいえ。先生のことは何も」
「あたしの悪口言ってるのはわかってるわよ。MCTDの・・」
「ああ。その件ですね」
「何かたくらんでない?」
「たくらむなんて、そんな・・!ただオーベンは、早く治療をしてあげて・・」
「わかってる。それならまあ。いいわ」
「けど・・」
「?」
「今日の晩にですね。家族の方がこられたら、一度話をしたいとか・・」
「何よそれ」
「治験の話とか」
「治験は転院先でやるのよ。なんで野中君がここでするのよ?」
「前フリとか・・」
「バカじゃない?あ、ごめん。彼、なんとかしてこの病院へ彼女を置こうとしてるのよ」
「そうでしょうか、僕には分かりかねますが・・」
グッチ先生は3口くらい食べただけで、食器を片付けにかかった。
「あなたは食べていて。あたし、ちょっと用事を思い出したから。そう、実験実験。松田っちのやりかけを終わらさなきゃ!」
「松田先生の実験を・・」
「そう。あたしがやってるの。今度はうまくいくかも・・」
「手伝いましょうか?」
「ここにいなさい!さっきの話はナイショ!」
「は、はい」
昼の回診が終わって詰所へ。
「あれ、このカルテ・・・MCTDの子のじゃないか」
カルテがカバーから外され、まとめて閉じられてある。ってことは退院したということか?退院は明日のはず。
しかも今日の晩には、野中オーベンから家族に話をされるはず・・・
ひょっとして?
婦長が入ってきた。
「センセ。指示はもうこれ以上出さないでよ」
「婦長さん。あの子は・・ユリちゃんって子・・退院したの?」
「え?今しがた、行きましたよ」
「もう?なんでまた・・」
「さあ。私は知らないけど」
カルテの中に紹介状のコピーが挟んである。
「急な連絡、申し訳ありません。病床の都合・家族・本人の希望もあり本日午後の転院をお願いしました・・」
そうか。グッチ先生、野中先生を避けるために、ここまでしたのか。
紹介状のあて先は、ユウキ主治医殿。
しかしグッチ先生。よくこんな先生に紹介するよな・・・。
ヘンな夢を見た。
オーベンと2人で馬に乗っていると、後ろから音がする。
後ろの僕が叫ぶ。
「オーベン。何か後ろでざわめきが」
「気にするな。ナースがお喋りしてるだけだ」
「なるほど」
しばらくすると、ピロピロ音が鳴ってくる。モニター音だ。
「オーベン、モニターが鳴ってます」
「コベン、気にするな。ただのVPCだ。経過観察でいい」
またしばらくすると、コール音が鳴った。
「マイオーベン。今度はコールが頻回に鳴ってます!」
「気にするな。便秘薬をいつも気にしてくる、あの爺さんだ」
突然、点滴が詰まってピーと鳴る警報音が聞かれた。
「マイオーベン、マイオーベン。今度はほら!点滴のつまる音が!」
「コベン。大丈夫。IVHの位置は写真でちゃんと、確認した」
するとベッドがガタガタいう音が聞こえてきた。
「マイオオオオベン!マイオーベン!今度はほらああ!おおお大きな!てんかん発作が?」
「なに?ああ!」
オーベンと僕はドスンと落馬し、その場に這いつくばった。
「そ、挿管挿管!」
「ひい!」
飛び起きたそこは、真っ暗なカンファレンス室だ。隣の詰所では、様々な音が聞こえてくる。
中学校のときに聞いたクラシックとごっちゃになっていたようだ。
珍しく呼ばれることもなく、その日の副直業務は終わった。火曜日。
昼過ぎ、入院したばかりの肺線維症の患者を回診。呼吸不全は悪化傾向にあった。
挿管はするレベルではないが。治療は抗生剤くらい。ただの肺炎合併であることを祈る。
レジデント3人が内職する中、カンファレンス室にオーベンが入ってきた。
「待て待て。質問は順番でだ」
オーベンは僕のところへ。
「トシキ。MCTDの転院は聞いたよ。病棟医長から」
「そうでしたか」
「せっかく治験にいい1例、と思ってたのに・・」
「あす水曜日に転院ですってね」
「もう一度、オレが説得してみる」
「え?」
「今日の晩、家族が来る予定らしいんだ。家族が納得すれば・・」
「晩、ですか・・」
グッチ先生が近くで地面を見ている。こっちの話、聞いたのか・・・?
「俺は時間がない。何かあるか?質問事項」
やっとヒマになったかと思われたオーベンは、データの解析を教授より早々に急かされていた。
「狭心症の方ですが・・カテ前のムンテラをお願いしたくて」
「お前やっとけ!俺はデータ解析で、時間がないんだって!」
「は、はい」
「いいか、メモしろ。狭心症が疑わしい。冠動脈に狭窄が疑われる。そのためカテーテルを行う」
「はい」
「これは検査であって、治療ではない」
「そうですね」
「お前に説明してるんじゃない。ムンテラ内容だ。黙って書け!」
「はい」
「ただし合併症として次のものが起こりうる。?出血、?感染、?解離」
「不整脈もいいでしょうか」
「いいが、あまりそんなことばかり言って、不安にさせるなよ!」
「はい!」
昼間、学食で食事。最近オーベンもかなり多忙で、いっしょに食事するのは皆無だ。
僕自身、週に2回昼食とれたらいいほうで、時間も昼の2時とかギリギリのことが多い。
何がギリギリかって・・?
「お兄ちゃん、ランチはもう終わったよ」
ということだ。
後ろからいきなり首をつままれた。
「うわ!」
「びっくらこいた?」
グッチ先生だ。この先生が学食だなんて。全く似合わない。
「川口先生・・?」
「探してたのよ。先生を」
「僕をですか?そりゃあ・・・光栄です」
「どこでも空いてるから、そこ座りましょ」
「はい」
がら空きの長机に僕らは向かい合った。これって周りからみると、怪しくないだろうか。
「ねえ先生。食べてるところ悪いけど」
「・・・はい」
「野中君は何か言ってる?」
そうか。やっぱりそのことで来たんだ。
「いいえ。先生のことは何も」
「あたしの悪口言ってるのはわかってるわよ。MCTDの・・」
「ああ。その件ですね」
「何かたくらんでない?」
「たくらむなんて、そんな・・!ただオーベンは、早く治療をしてあげて・・」
「わかってる。それならまあ。いいわ」
「けど・・」
「?」
「今日の晩にですね。家族の方がこられたら、一度話をしたいとか・・」
「何よそれ」
「治験の話とか」
「治験は転院先でやるのよ。なんで野中君がここでするのよ?」
「前フリとか・・」
「バカじゃない?あ、ごめん。彼、なんとかしてこの病院へ彼女を置こうとしてるのよ」
「そうでしょうか、僕には分かりかねますが・・」
グッチ先生は3口くらい食べただけで、食器を片付けにかかった。
「あなたは食べていて。あたし、ちょっと用事を思い出したから。そう、実験実験。松田っちのやりかけを終わらさなきゃ!」
「松田先生の実験を・・」
「そう。あたしがやってるの。今度はうまくいくかも・・」
「手伝いましょうか?」
「ここにいなさい!さっきの話はナイショ!」
「は、はい」
昼の回診が終わって詰所へ。
「あれ、このカルテ・・・MCTDの子のじゃないか」
カルテがカバーから外され、まとめて閉じられてある。ってことは退院したということか?退院は明日のはず。
しかも今日の晩には、野中オーベンから家族に話をされるはず・・・
ひょっとして?
婦長が入ってきた。
「センセ。指示はもうこれ以上出さないでよ」
「婦長さん。あの子は・・ユリちゃんって子・・退院したの?」
「え?今しがた、行きましたよ」
「もう?なんでまた・・」
「さあ。私は知らないけど」
カルテの中に紹介状のコピーが挟んである。
「急な連絡、申し訳ありません。病床の都合・家族・本人の希望もあり本日午後の転院をお願いしました・・」
そうか。グッチ先生、野中先生を避けるために、ここまでしたのか。
紹介状のあて先は、ユウキ主治医殿。
しかしグッチ先生。よくこんな先生に紹介するよな・・・。
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