< オーベン&コベンダーズ 2-9 医局内 共診>
2004年7月30日循環器カンファレンス。
司会はマイ・オーベン。横には講師の窪田先生だ。
「じゃあ始めます。川口先生!」
「・・・」
返事することもなく、グッチ先生は症例提示。
「心筋炎疑いです。64歳の女性」
水野・森がシャーカステンへ次々と写真をかざっていく。
「今のところ疑いです。上気道炎が1週間前よりあり、呼吸困難を自覚」
「処方とかはなし?」
オーベンが言葉を挟んだが、グッチ先生はムッと顔をしかめた。
「ありません!かかりつけ医もなし!・・・・で、当院外来を受診。採血で逸脱酵素の上昇、
炎症所見、胸部レントゲンでの胸水貯留、心拡大より、急性心筋炎が疑われました」
「既往歴は何か?」
「まだ途中でしょ!」
シーンと空気が騒然となった。あのおしとやかで冷静なグッチ先生が、怒っている。
「既往歴には、変形性の膝関節症」
「NSAIDを?」
「内服してます」
「量は?」
「量までは・・」
「大事だろ?失礼。大事だと思いますが。窪田先生」
「う、うん。そうだね」
「心エコーは本日午後の予定です」
「グッチ先生は昨日、自分で見たんですか?」
「あたしがですか?エコーはまだ・・」
「でも先生。心筋炎って怖いですよ。その日に確認したほうが・・」
窪田先生が制止した。
「うん、まあ昨日は病棟もけっこう大変だったしね。本人も検査嫌がってたから」
「レントゲン撮れるぐらいなんだったら、できたと思いますが」
「うん。でもねえ」
グッチ先生は不服そうに席へ戻っていった。
オーベンは勝ち誇った様子だった。
「次!我こそはという人!」
オーベンは今の忙しさから、入院患者は持っていない。
「じゃ、俺が」
宮川先生がやってきた。呼吸器グループからの症例提示だ。
「呼吸器グループからなんだけどな。コンサルトしろって、安井先生から言われたもんで」
「どうぞ」
「54歳女性。喘息疑いで入ったんだが。心臓喘息のほうの疑いもあってね。不整脈もある」
「トシキ、心電図こっちへ持って来い」
僕はオーベン・窪田先生へ心電図を献上した。
宮川先生は続ける。
「コントロールがいま1つ。ピークフローは正常の半分。内服はこれだ。テオフィリン製剤、ステロイド吸入、β刺激剤」
オーベンは心電図を見ている。
「VPC、けっこう出てますね」
「心エコーはオーダー出してやってもらったが、異常なしだ」
「あ、それはもうされたんですね」
「コントロールがいまいちなんでな。ステロイド増やす前に、心臓関連も聞いておこうと思ってな」
「宮川先生。つまり不整脈の治療を、ということですか?」
オーベンはかなり大胆だ。
「ああ、そうだ。文句あるか?」
宮川先生もどうやらオーベンを嫌ってるようだ。
窪田先生が写真などチェックした。
「心エコーの再検は必要ですね。でも不整脈のほうもなんとかしたいですね」
オーベンは口を挟んだ。
「テオフィリンにβ刺激剤。こっちに原因があるかもしれませんね」
宮川先生は少し不機嫌そうだ。
「中止しろってのか?」
「どうでしょうか?窪田先生」
「ウーン・・・でも喘息にはあったほうがいいですよねえ。宮川君、テオフィリン血中濃度は?」
「11.0で正常範囲内」
「いったん、中止できるかい?」
「中止して、様子見ですかい」
「そうですね。それでも出るなら・・β刺激剤を中止して・・」
「じゃあこの患者には2度と出せないってことだな」
「いや、そこまでは言ってないが」
「なんかよく分からねえな。不整脈のことは俺もよく分からんから、誰か共診になってくれないかな?」
みんな顔を見合わせた。
オーベンは僕を指差した。
「トシキ、いけ」
「はい。宮川先生。輸液は今、どのくらい・・」
「1日2200だ。うちポタコールが1本」
オーベンが眉をしかめた。
「メシが食べれてないわけか。だとしても多い」
宮川先生も険しい表情だ。
「痰の喀出が思うように出来ない。水分は多めに必要だ」
「容量負荷ってことも」
「じゃあハッキリさせろよ、それを!」
宮川先生は教壇の机を蹴った。
窪田先生が立ち上がった。
「やめなさいって!あんたたち!野中君。どうしたの?」
オーベンは平然と頭の後ろで両手を組んでいた。
「トシキ、あとは頼んだぞ」
気が重い・・。
僕は宮川先生にひっついて医局へ向った。
「おいトシキ。お前まで染まるなよ」
「染まるってそんな」
「とりあえず、今が心不全でないことをまず確認してもらおう」
「検査は明日、入れました」
「すまん。不整脈の指示は・・」
「自分がオーベンと話し合って出します。薬剤の中止の指示も」
「とりあえず不整脈がなくなるまで、共診頼むぞ」
「はい」
翌日の超音波検査では左室収縮力は正常だった。肺高血圧も胸水もなし。
「はい。結果伝票。これでもう循環器は関係ない」
「三品先生、どうも。ただ不整脈がありまして」
「ああ。あったな、検査中も。でも許容範囲の数のVPCだぞ」
「だと思うのですが。不整脈のほうのフォローを依頼されてまして」
「テオフィリンとβ刺激剤、やめりゃいいだろ?」
「1つずつやめます」
「1日2リットル輸液。経口水分けっこう摂ってるなら多すぎだな」
「でも今回、容量負荷はなかったんですね」
「ああ、ない。薬剤中止で、変わらなかったら再受診でいいんじゃないか?」
「実はそうしたいんですけど。どうしても共診をと」
「そんなふうに共診共診になってくと、自分が潰されるぞ。不整脈がちょっと出ただけでコールだ。本当の主治医は起こされなくて済む」
「気が重いです・・!」
<つづく>
司会はマイ・オーベン。横には講師の窪田先生だ。
「じゃあ始めます。川口先生!」
「・・・」
返事することもなく、グッチ先生は症例提示。
「心筋炎疑いです。64歳の女性」
水野・森がシャーカステンへ次々と写真をかざっていく。
「今のところ疑いです。上気道炎が1週間前よりあり、呼吸困難を自覚」
「処方とかはなし?」
オーベンが言葉を挟んだが、グッチ先生はムッと顔をしかめた。
「ありません!かかりつけ医もなし!・・・・で、当院外来を受診。採血で逸脱酵素の上昇、
炎症所見、胸部レントゲンでの胸水貯留、心拡大より、急性心筋炎が疑われました」
「既往歴は何か?」
「まだ途中でしょ!」
シーンと空気が騒然となった。あのおしとやかで冷静なグッチ先生が、怒っている。
「既往歴には、変形性の膝関節症」
「NSAIDを?」
「内服してます」
「量は?」
「量までは・・」
「大事だろ?失礼。大事だと思いますが。窪田先生」
「う、うん。そうだね」
「心エコーは本日午後の予定です」
「グッチ先生は昨日、自分で見たんですか?」
「あたしがですか?エコーはまだ・・」
「でも先生。心筋炎って怖いですよ。その日に確認したほうが・・」
窪田先生が制止した。
「うん、まあ昨日は病棟もけっこう大変だったしね。本人も検査嫌がってたから」
「レントゲン撮れるぐらいなんだったら、できたと思いますが」
「うん。でもねえ」
グッチ先生は不服そうに席へ戻っていった。
オーベンは勝ち誇った様子だった。
「次!我こそはという人!」
オーベンは今の忙しさから、入院患者は持っていない。
「じゃ、俺が」
宮川先生がやってきた。呼吸器グループからの症例提示だ。
「呼吸器グループからなんだけどな。コンサルトしろって、安井先生から言われたもんで」
「どうぞ」
「54歳女性。喘息疑いで入ったんだが。心臓喘息のほうの疑いもあってね。不整脈もある」
「トシキ、心電図こっちへ持って来い」
僕はオーベン・窪田先生へ心電図を献上した。
宮川先生は続ける。
「コントロールがいま1つ。ピークフローは正常の半分。内服はこれだ。テオフィリン製剤、ステロイド吸入、β刺激剤」
オーベンは心電図を見ている。
「VPC、けっこう出てますね」
「心エコーはオーダー出してやってもらったが、異常なしだ」
「あ、それはもうされたんですね」
「コントロールがいまいちなんでな。ステロイド増やす前に、心臓関連も聞いておこうと思ってな」
「宮川先生。つまり不整脈の治療を、ということですか?」
オーベンはかなり大胆だ。
「ああ、そうだ。文句あるか?」
宮川先生もどうやらオーベンを嫌ってるようだ。
窪田先生が写真などチェックした。
「心エコーの再検は必要ですね。でも不整脈のほうもなんとかしたいですね」
オーベンは口を挟んだ。
「テオフィリンにβ刺激剤。こっちに原因があるかもしれませんね」
宮川先生は少し不機嫌そうだ。
「中止しろってのか?」
「どうでしょうか?窪田先生」
「ウーン・・・でも喘息にはあったほうがいいですよねえ。宮川君、テオフィリン血中濃度は?」
「11.0で正常範囲内」
「いったん、中止できるかい?」
「中止して、様子見ですかい」
「そうですね。それでも出るなら・・β刺激剤を中止して・・」
「じゃあこの患者には2度と出せないってことだな」
「いや、そこまでは言ってないが」
「なんかよく分からねえな。不整脈のことは俺もよく分からんから、誰か共診になってくれないかな?」
みんな顔を見合わせた。
オーベンは僕を指差した。
「トシキ、いけ」
「はい。宮川先生。輸液は今、どのくらい・・」
「1日2200だ。うちポタコールが1本」
オーベンが眉をしかめた。
「メシが食べれてないわけか。だとしても多い」
宮川先生も険しい表情だ。
「痰の喀出が思うように出来ない。水分は多めに必要だ」
「容量負荷ってことも」
「じゃあハッキリさせろよ、それを!」
宮川先生は教壇の机を蹴った。
窪田先生が立ち上がった。
「やめなさいって!あんたたち!野中君。どうしたの?」
オーベンは平然と頭の後ろで両手を組んでいた。
「トシキ、あとは頼んだぞ」
気が重い・・。
僕は宮川先生にひっついて医局へ向った。
「おいトシキ。お前まで染まるなよ」
「染まるってそんな」
「とりあえず、今が心不全でないことをまず確認してもらおう」
「検査は明日、入れました」
「すまん。不整脈の指示は・・」
「自分がオーベンと話し合って出します。薬剤の中止の指示も」
「とりあえず不整脈がなくなるまで、共診頼むぞ」
「はい」
翌日の超音波検査では左室収縮力は正常だった。肺高血圧も胸水もなし。
「はい。結果伝票。これでもう循環器は関係ない」
「三品先生、どうも。ただ不整脈がありまして」
「ああ。あったな、検査中も。でも許容範囲の数のVPCだぞ」
「だと思うのですが。不整脈のほうのフォローを依頼されてまして」
「テオフィリンとβ刺激剤、やめりゃいいだろ?」
「1つずつやめます」
「1日2リットル輸液。経口水分けっこう摂ってるなら多すぎだな」
「でも今回、容量負荷はなかったんですね」
「ああ、ない。薬剤中止で、変わらなかったら再受診でいいんじゃないか?」
「実はそうしたいんですけど。どうしても共診をと」
「そんなふうに共診共診になってくと、自分が潰されるぞ。不整脈がちょっと出ただけでコールだ。本当の主治医は起こされなくて済む」
「気が重いです・・!」
<つづく>
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