以後もモニター上の不整脈は続いた。というか、むしろ増えてきた。単発だけでなく、2・3連発も頻回に。
喘息の症状も悪化してきている。

3連発以上はキシロカイン、の指示を出した。

宮川先生が詰所へやってきた。
「発作がひどい。これは喘息と思っていいわけだな?」
「おそらく・・」
「先日の心臓超音波は正常だったんだよな?」
「ええ。先日のは」
「だよな。じゃ、ステロイドを追加する。感染がかぶってるのであまり使用したくはなかったが」
「はい・・・」

ステロイド追加。幸い高熱などはみられなかった。

だが若干、浮腫が増強しているようにも思える。

オーベンは僕のカルテをチェックしていた。
「トシキ、良くなったか?喘息の患者は?」
「それが・・悪化してまして」
「早く手を引け」
「不整脈も増えてまして」
「じゃあβ刺激剤もオフしろよ」
「しました」
「じゃあ喘息の低酸素で起こってるんだろ?」
「・・・わかりません」
「浮腫が増強か。ステロイドの使用しすぎだろ?」
「え?」
「ナトリウム貯留作用だよ。しかしこれで心不全にされたらたまらん!」
「今日も超音波で確認したほうがいいでしょうか」
「いいだろ。もうやりすぎだ。保険で削られるし。エコーの先生にも言いにくい」
「・・・・・」
「トシキ。俺と同じ循環器グループのほうがいいと思わんか?」
「え?」
「年明けからグループに正式に入れ」
「で、でも1年目ですし・・」
「大丈夫だ。お前はデキる」

ステロイドの大量投与により、喘息発作はやや軽快しつつあった。
しかし不整脈は頻回だ。浮腫もいっそう著明だ。

宮川先生は教授回診で教授に説明していた。教授は循環器しか知らない。

「この方は、喘息発作で・・」
「ウム?」
「ステロイドを末梢より持続投与中です」
「何ミリ?」
「ソルメドロールを、1日1500mg」
「ほお、そんなに要る?」
「サクシゾンやソルメド少量は全く効果なしでした。ですので」
「不整脈が出てるな。3連発もある」
「それに対してはキシロカインが持続でいってます」
「だがあまり変わらんな」
「トシキ先生の指示でして」
「トシキ先生はおるか?」

僕だ。

「はい!」
「アンタこれ、効いてないよ全然。基礎心疾患は?」
「ないです・・・と、思います」
「でもアンタ、この患者さん、浮腫が強いんじゃないのかね?」

教授は患者の両下肢の前面を軽く押した。少し跡が残る。

オーベンが僕の後ろから現れた。
「ステロイドによる塩分貯留作用もあるかと」
「そうじゃのう。こんなに多いからのう」
「超音波、今見てみます」

オーベンはポータブル超音波の機械を廊下から持ってきた。教授は部屋の出口で見つめている。

オーベンはサッと左心室を描写した。
「容量負荷です。左室径が拡張期で60mm・・やはり容量負荷とステロイドの影響かと」
宮川先生が悔しそうに見ている。
「本気で喘息抑えるときは、これくらい使わないといけないこともあるんだ!」
「しかし心不全にしてしまってはいけませんなあ」
教授が呟いた。
「容量を減らしなさい。それとスワンガンツカテーテルでモニタリングしときなさいな」
宮川先生は感染を恐れて、カテーテル挿入は反対だった。
しかし教授の意見だ。逆らえない。

患者はCCUへ移された。

主治医は変更で僕。共診ドクターが宮川先生と、逆の立場になってしまった。
宮川先生はスワンガンツカテのモニター表示を見ている。
「喘息はおさまってきてる。不整脈のほうと心不全の治療、頼む」
「宮川先生。ステロイドは減量を・・?」
「ああ。指示は書いた。お前も指示、書いとけよ」
「はい」
「トシキ、お前。呼吸器グループに来いよ」
「え?」
「循環器の奴ら、せっかちなヤツ多いだろ?うちがいいぞ、絶対に。野中に洗脳されるな」
「ま、まだ1年目ですし・・」
「カテーテルなんか年取ったらできないぞ。俺についてきたら、内視鏡の神様にしてやる」

そ、そこまで・・・。

「呼吸器だったら1人ですべてやれるぞ。うさんくさいチームなど組まなくてもな。どうだ?」
「先生、今はまだ・・・考え中です」
「考えておいてくれ」

症状の消失とともに、不整脈は減少していった。利尿剤の反応もみられはじめ、浮腫も軽減しているようだ。

モニター表示もだんだん正常化し、カテーテルは4日で抜去できた。

患者は一般病棟に内服コントロール開始。食事摂取。やっと共診が解除された。

やっと・・・・。

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