年末の循環器カンファ。

窪田先生とオーベンが司会。オーベンは少し落ち込んでるようだ。やっぱりさっきのショックが・・。

「俺からいきますね」
助手の三品先生が症例を提示。

「DCM疑いの患者。心筋バイオプシーの結果は・・・リンパ球浸潤あり」
窪田先生がおやっという表情。
「じゃあ、心筋炎ってこと?」
「そこまで言えるかどうか分かりませんが、慢性炎症後の変化ってことですね」
「その症例は大事よね。また来年入院させて、生検やりましょう」
「はいはい。検体は先生に?」
「そう、僕にね。頼みますよ」

窪田先生は実に嬉しそうだ。
「次は川口くん、どうぞ」
「はい。WPWの方です。ホルターは上室性の連発があります」
「連発。激しいわね」
「6連発が最大です」
「時間的には?」
「昼間、労作時です。症状はありまへん。あ!ごめんなさい!あ、ありません」
「おお!女王様でも方言を使いなさるのか!」

クスクスとしたたかな笑いが起きた。

「投薬は特に要らないね。この患者さんはPSVTをよく併発するんですよね」
「はい」
「アデホスですぐ効くみたいね。でも使うときは心停止に気をつけてね」
「はい」
「大蔵君。聞いてる?アンタ寝てない?」

この先生、新興宗教の青年幹部らしいな。放射線科の先生が言ってたけど。

レジデントでローテ中の大蔵君がハッと飛び起きた。
「す、すいません」
「やれやれ。そんなに僕の話、つまらない?」
「いえ・・」
お経のしすぎだろうか。

「お尻ペンペンするよ!じゃ、次。トシキ君!」
「はい!」

僕は手ぶらでプレゼンするのに慣れていた。

「54歳男性、ICMの方です。心臓カテーテル検査施行しました。全体的に血管は不規則な狭窄
だらけでして・・・主幹部内部には血栓像も」
「これはひどいね・・・」

DMの人に多いが、血管が全体的に細くギザギザしている。動脈硬化のなれの果てを見ているかのようだ。
「トシキくん。これ、どうする?」
「バイパス術を」
「でもアンタ、これ、どことどこを結ぶわけ・・?」
「そ、そうですね・・ま、こういうのはもう心臓外科に廻しましょう」

結局、主幹部を避けたバイパス術を依頼するための心外紹介となったものの、収縮力の著しい低下などが理由で保存的療法となった。

「それとAMIがまた入院されました。病変部が回旋枝の方」
閉塞が回旋枝であったため積極的な拡張術は施行しなかった。
「リハビリもけっこう進みまして、歩行中です。RIでRDありました。入院時のピロリン酸シンチで
陽性だった部分ですが。viabilityありと思われ、やはり拡張術は必要と思われます」

窪田先生がうなずいている。
「うん。コベンちゃん、あんたはやっぱ優秀よね。何も見ずに説明する練習、やってるの?」
「はい。オーベンの影響で」
オーベンは少し苦笑いしている。
「ぜひアンタがうちに欲しいんだけどねぇ。おいオーベン!頼みますよ」
「この前言い聞かせましたし」
「そう言ってるよ、アンタのオーベンは!」

カンファレンスは終了した。

引き続き、注射当番。かなり要領も得て、スピードアップしてきた。
廊下で次々と助手・院生の先生方とすれ違う。

「トシキ!俺・・・から揚げ弁当!」
「焼肉弁当大盛り!」
「のり弁とから揚げのおかず!」
弁当の依頼を集めて、注文。注射当番のときの定番となった。

到着した弁当を抱え、医局へ。各先生の机に弁当と代金のメモ。
廊下でずっと待ってるメガネの紳士がいる。この人、以前見たような・・。

「あの、誰か・・お探しですか?」
「え?あ、あの・・宮川先生は?」
「宮川先生は動物実験棟ですね。かなり遅くなるかと」
「そうですか・・」
「何か、お伝えしましょうか?」
「よろしいですか?では、これを・・」

1枚の紙を渡された。

「では、お願いいたします」
「は、はい。机に置いておきます」

メガネの人は帰った。そうだ。松田先生が辞めるとき、横にひっついてた人だ。
草波とかいう名前だ。紙を宮川先生の机の上に置いた。ひっくり返すとき、部分的に見えてしまった。
半分意図的なところがあったのは否定できない。

病棟管理部とかやってて、個人の情報まで気にするようになったか。

『 例の病院の件ですが、1400-1600の線でいかがでしょうか、ということです。
連絡お願いします   草波 』

1400-1600。なんなんだこれは?まあ深く考えないことにした。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索