< オーベン&コベンダーズ セカンド最終回 勝利の女神 >
2004年8月2日今年最後の医局会。医局長が司会。
「えー、今年もいろいろとありました。それでは注意事項を」
教授は寝ている。
「病院の冬休みは月末3日間。年明け3日間。長期の休暇となります」
助教授は後ろを見回している。
「原則として当直は講師のドクターを置きます。バイト先の調整も終わりました」
年末当直とかは通常業務の倍は出るらしい。日直帯だけで10万。丸1日だと20万。
しかしこういうおいしいのは全て院生たちに奪われていた。しかも経験の浅いレジデントにはまだできない内容だ。
「今年もいろいろありました。松田先生は退職されましたが、大阪市内の病院でかなり頑張っておられるそうです。」
宮川先生が寝そべったまま前の僕につぶいやいた。
「アイツ、外車買ったらしいな」
すいません宮川先生。僕、学生のときから乗ってます・・。
「魂を売ったんだ。アイツは」
「魂を?」
「背後霊がいるんだよ」
「霊ですか。僕は見た事がなくて」
「草波。お前も取り付かれないようにな」
「へ?」
医局長の話は続いた。
「それと、官公立の病院で、研修医が1人逃げ出したという話!ありましたね」
みな注目した。
「・・・僕がどうたらこうたら言ったからって指摘した人いるけど、違いますって。実際彼は風邪と疲労でダウンしていた、ということですよ。私、診察して診断書も書きましたしね」
助教授が呟いた。
「お前が診断書を?なら共犯だな。わっはは」
笑いが巻き起こった。多分助教授の、最初で最後の受けたジョークだろう。
「だが患者さんを放り出したらいけないよなあ。疲れてるのは分かるよ。でもそこはガッツで乗り切れ!」
また演説が始まった。
「やっぱり我慢っちゅうのを教えられなかった世代なのかな。わしらのときはもう、凄かったのなんのって!
わしが研修医のときは、家に帰ったことなんかなかったよ!下宿にあるのは服と冷蔵庫だけ。服を洗うヒマ
なんかなかった!冷蔵庫の中も全部ミイラになった!真菌を培養しとったわけだな。おいそこ、笑うなよ!」
みな苦笑いを隠しきれなかった。
「そういう苦労をしないと、人の痛みなんか理解できないぞ!ハイハイ、スンマセーンしかとりえのない人間にはなるな!」
宮川先生が後ろから囁く。
「自分のこと言うんじゃねえよ」
僕は笑いをこらえ続けるのがやっとだった。
「とにかく男はガッツだ!あ、女・・・女は・・・度胸!」
宮川先生が後ろから囁く。
「ガッツだぜ!お・と・こは、汗かいてベソかいて、ゴー!」
「何ですかそれは?」
「お前、ウルフルズ知らないのか?」
「ウルフ・・?」
「オオカミじゃない。オオカミ少年少女はお前らだろ!」
「わたしから、1点!」
助教授が手を挙げた。
「来年の内科学会だが。うちから2名、意欲的なレジデントが投稿した。他のヤツ、頑張れよな・・」
一同みな笑い出した。
「で、通ったのは1名!」
みんなの視線がマイ・オーベンに集中した。
「川口くん!やったな!」
みなオーッと一斉に拍手が巻き起こった。拍手は次第に大きくなり、教授は目を覚ました。
森さんも大きく手を叩き続けた。水野も微笑んでいる。呼吸器科のドクターは全員。みなグッチ先生を応援していたようだ。
僕もみんなに合わせた。しかし循環器の面々の拍手にはあまり活気がみられなかった。
おそるおそる、斜め後ろが気になり、ゆっくりと顔の向きを変えた。
オーベンは・・・かなり悔しそうだった。いや、顔は平静を保っているが・・僕には分かる。
オーベンの右手は、かなり強く握り締められていた。
拍手はまだ止まなかった。グッチ先生は目に涙をためていた。両手を頬に当てて。
でもグッチ先生。よく頑張りました!つらかったでしょうに。
教授・助教授は引き上げていく。
解散し、みな一斉におおあくび、背伸びした。
水野が僕に横から話しかけた。
「怒ってないか?トシキ・・」
「え?」
「今年もいろいろあった」
「ああ」
「俺、兵庫に帰るとか言ってたが・・」
「そうだったね。やっぱり帰るのかい?」
「いや。しばらくここでやってみようと思う」
「そうなのか!よかった!」
僕はグッチ先生のところへ駆けつけた。
「グッチ先生、発表で来年行かれますね!内科学会!」
「行くわ。でもポスター発表よ。大したことないわ」
「でも先生、天下の日本にゃいか学会ですよ」
「うん。ありがとう!」
再び呼吸器グループからの拍手が始まった。
循環器軍団は引き上げていく。
僕も心からの拍手を送り続けた。
オーベンの言うことは当たってると思う。
・・・やはり正しいものが、勝つのかもしれない。
「えー、今年もいろいろとありました。それでは注意事項を」
教授は寝ている。
「病院の冬休みは月末3日間。年明け3日間。長期の休暇となります」
助教授は後ろを見回している。
「原則として当直は講師のドクターを置きます。バイト先の調整も終わりました」
年末当直とかは通常業務の倍は出るらしい。日直帯だけで10万。丸1日だと20万。
しかしこういうおいしいのは全て院生たちに奪われていた。しかも経験の浅いレジデントにはまだできない内容だ。
「今年もいろいろありました。松田先生は退職されましたが、大阪市内の病院でかなり頑張っておられるそうです。」
宮川先生が寝そべったまま前の僕につぶいやいた。
「アイツ、外車買ったらしいな」
すいません宮川先生。僕、学生のときから乗ってます・・。
「魂を売ったんだ。アイツは」
「魂を?」
「背後霊がいるんだよ」
「霊ですか。僕は見た事がなくて」
「草波。お前も取り付かれないようにな」
「へ?」
医局長の話は続いた。
「それと、官公立の病院で、研修医が1人逃げ出したという話!ありましたね」
みな注目した。
「・・・僕がどうたらこうたら言ったからって指摘した人いるけど、違いますって。実際彼は風邪と疲労でダウンしていた、ということですよ。私、診察して診断書も書きましたしね」
助教授が呟いた。
「お前が診断書を?なら共犯だな。わっはは」
笑いが巻き起こった。多分助教授の、最初で最後の受けたジョークだろう。
「だが患者さんを放り出したらいけないよなあ。疲れてるのは分かるよ。でもそこはガッツで乗り切れ!」
また演説が始まった。
「やっぱり我慢っちゅうのを教えられなかった世代なのかな。わしらのときはもう、凄かったのなんのって!
わしが研修医のときは、家に帰ったことなんかなかったよ!下宿にあるのは服と冷蔵庫だけ。服を洗うヒマ
なんかなかった!冷蔵庫の中も全部ミイラになった!真菌を培養しとったわけだな。おいそこ、笑うなよ!」
みな苦笑いを隠しきれなかった。
「そういう苦労をしないと、人の痛みなんか理解できないぞ!ハイハイ、スンマセーンしかとりえのない人間にはなるな!」
宮川先生が後ろから囁く。
「自分のこと言うんじゃねえよ」
僕は笑いをこらえ続けるのがやっとだった。
「とにかく男はガッツだ!あ、女・・・女は・・・度胸!」
宮川先生が後ろから囁く。
「ガッツだぜ!お・と・こは、汗かいてベソかいて、ゴー!」
「何ですかそれは?」
「お前、ウルフルズ知らないのか?」
「ウルフ・・?」
「オオカミじゃない。オオカミ少年少女はお前らだろ!」
「わたしから、1点!」
助教授が手を挙げた。
「来年の内科学会だが。うちから2名、意欲的なレジデントが投稿した。他のヤツ、頑張れよな・・」
一同みな笑い出した。
「で、通ったのは1名!」
みんなの視線がマイ・オーベンに集中した。
「川口くん!やったな!」
みなオーッと一斉に拍手が巻き起こった。拍手は次第に大きくなり、教授は目を覚ました。
森さんも大きく手を叩き続けた。水野も微笑んでいる。呼吸器科のドクターは全員。みなグッチ先生を応援していたようだ。
僕もみんなに合わせた。しかし循環器の面々の拍手にはあまり活気がみられなかった。
おそるおそる、斜め後ろが気になり、ゆっくりと顔の向きを変えた。
オーベンは・・・かなり悔しそうだった。いや、顔は平静を保っているが・・僕には分かる。
オーベンの右手は、かなり強く握り締められていた。
拍手はまだ止まなかった。グッチ先生は目に涙をためていた。両手を頬に当てて。
でもグッチ先生。よく頑張りました!つらかったでしょうに。
教授・助教授は引き上げていく。
解散し、みな一斉におおあくび、背伸びした。
水野が僕に横から話しかけた。
「怒ってないか?トシキ・・」
「え?」
「今年もいろいろあった」
「ああ」
「俺、兵庫に帰るとか言ってたが・・」
「そうだったね。やっぱり帰るのかい?」
「いや。しばらくここでやってみようと思う」
「そうなのか!よかった!」
僕はグッチ先生のところへ駆けつけた。
「グッチ先生、発表で来年行かれますね!内科学会!」
「行くわ。でもポスター発表よ。大したことないわ」
「でも先生、天下の日本にゃいか学会ですよ」
「うん。ありがとう!」
再び呼吸器グループからの拍手が始まった。
循環器軍団は引き上げていく。
僕も心からの拍手を送り続けた。
オーベンの言うことは当たってると思う。
・・・やはり正しいものが、勝つのかもしれない。
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