2月の大学病院。ここんところ、かなり寒くなった。
しかし病院は今日も例外なく通常勤務で始まった。

入院患者さんの独り回診を終えて、早朝の呼吸器カンファレンス。
外は雪が降っており、みな足を少しガタガタさせている。

いつも司会で進行係であるはずののマイオーベンは見当たらない。
宮川先生とカンファで揉めて以来顔を出さなくなった。
したがって司会は医局長の安井先生のみ。

宮川先生がプレゼン。
「またRAで肺線維症疑い。炎症軽度あるけど、リウマチのほうでしょ」
「呼吸苦があるようだが?」
「Hugh-Jones ?かな。%肺活量は64%」
「太っててレントゲンは分かりにくいな。乳房で両肺が白っぽい。CTは?」
「2週間後の予約。捻髪音はしっかり両側下肺にある」
「血液ガスは?」
「やってません。このあとする予定」
「貧血があるのか?」
「リウマチででしょうね。Hb 7.8g/dl」
「低いな。リウマチってことは・・正球性か?」
「正球性に近い小球性ってとこ」
「だが呼吸器症状を助長してるかも」
「今は安静のまま経過を見る予定。膠原病内科コンサルト。終わり!」
「検体を頼むぞ」

宮川先生、どこか投げやりだな。気のせいか。

「ではトシキ先生?どうぞ!」
「はい!患者さんは67歳のCOPD」
「またCOPDか。もう権威だな」
「いえ。この方は1年前にHOT(在宅酸素療法)導入を勧められていましたが、reject(拒否)」
「うちではないな」
「近医です。内服も自己中止していました。2週間前から労作時、4日前より安静時でも息切れ」
「じゃあやっとうちでホット導入か。助教授なら『ホッとしたな』ってところか」
「これがCTです。FEV1.0%(1秒率)は・・」
「1秒量を見せてくれ。そっちのほうが重要なんだ」
「かなり低下してます。CTはブラブラです」
「喫煙は?」
「60本X45年」
「ヘビーだな。こういう患者は増えるな今後。バイト先でもヘビースモーカーがいたら、調べて送ってくれ」
「CTを撮ればいいですか?」
「そこまではいい。スパイログラム(呼吸機能検査)で。スパイロはCOPDの簡易なスクリーニング検査だ」

水野。
「58歳男性、両側胸水。低アルブミンがあります」
「呼吸器科に入院か、それで?」
「はい。初診がうちなもので」
「胸水は多いのか?」
「写真はこれです」
「バタフライだな。酸素マスクか?」
「リザーバーです。循環器はコンサルトしましたが関係ないと」
「ネフローゼ?」
「低蛋白以外は何も」
「水を早く抜いてあげろよ。検査にも出して!」
「これからドレーン入れます」
「オーベンにちゃんと教えてもらえ」
「はい。でも1人でできま・・」
「その油断がいかんのだ。ちゃんとオーベンについてもらうべし!で、今日はどれくらい排液を?」
「えっと・・」
「何だ。それも知らない?」
「いえ。息が楽になるまで」
「?じゃあ3リットルも4リットルも出していいのか?」
「はい。必要によっては」
「君、頭は大丈夫か?」
「頭部CTはまだ・・」
「君のアタマだよ。はっはは」
「?」
「1日の排液量は多くても1.5リットルまでとどめろ。もちろん状態を見ながらだ。いいかい?」
「はい」
「水が出て、せき止めるまで患者さんの横についておけ」

医局長がすごく親身になっている。多分水野を呼吸器科へ入れるためだろう・・。
「医局から詰所へ連絡するようなスタンドプレーはするなよ」
「は、はい」
どうやら看護部からのクレームがあったようだ。

「次はあたし」
森さんが分厚いカルテ・フィルム袋を持参した。
「不明熱の方。もうかなり長いです」
医局長はすっとんだ。
「まだいるんだな?」
「だって・・・まだ原因が分からないんです」
「今度は何を調べたの?」
「出血シンチです。小腸に病変がないかを疑いまして」
「で?やっぱ陰性所見なんでしょ?」
「はい」

みな呆れ顔で笑っている。

「全部調べつくしたような気がするなあ。で、熱は少しはマシ?」
「38℃以上がバンバン出てます」
「尿は異常ないんだったよね。細胞診も」
「培養も細胞診も3回ずつしましたが、陰性」
「副鼻腔は?」
「え?それはまだ・・」
「副鼻腔炎ってことはないか?」
「それらしい所見は・・」
「今度はこれで調べてみろ!」
「ほかには・・?」
「消化器内科や血液内科とかに相談してみろ」
「え?何と書けば・・」
「君がその科のカンファレンスに飛び込むんだよ」
「え?それイヤ・・」
「レジデントのときに、好き嫌いはダメだよ、森ちゃん!大海原に突っ込め!」

声のかけかたなどから感じるが、心なしか優しい対応だ。自分のグループへ引き込むための画策と思われる。
「昨年はユウキくんが消化器カンファにいきなり飛びこんだそうだ。だがこの場合、不謹慎にもオーベンの許可なしだ。
いいか。必ずオーベンと打ち合わせすること。ほか・・連絡事項などは?・・・・・・・よし、終わる!」

循環器のセカセカしたカンファと違い、紳士的に終了した。

外来業務開始まであと10分ある。手帳を取り出し、今日の外来業務表、予定されている検査、カンファなどを確認。
今日も予定がビッシリだ。

最近、テレビではわけのわからない、非現実的なドラマが人気あるようだ。特に医療系。
そのためか外科系の入局希望者が増えていると聞く。何か勘違いしている人が多いような。
1回見たが、何も心に響かなかった。

「よし!外来外来!」

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