< オーベン&コベンダーズ 3-7 行けー!行かんかー! >
2004年8月12日オーベンが前に出た。
「ベッド稼働率は問題ありませんが、長期入院がまだ3人。これら3人は転院の方向で話を進めています
。症例別としては肺癌などmalignancy(悪性腫瘍)関連のものが最近伸び悩んでいます」
オーベンはOHPの画像を棒で指差す。
「他院からの紹介が少し減っているのも関連ありと思われます。そこで最近確認したのですが・・・
紹介していただいた病院への返事・報告を忘れているドクターが増えているようです」
助教授はピクンときたようだ。
「おい!今のは聞き捨てならんぞ!いったい誰だ?」
「外来主治医の・・・」
「待て!そうか!わかった!言うな!わしも一部、責任がある!でも・・」
助教授はすぐ開き直った。
「書記係の仕事だよ、それは。書記の奴がすぐに返事を書かないと。入院してからでも返事は出せるだろ?」
オーベンは報告を続けた。
「サマリーの未提出分も未だに多いです。ランキングしてみました」
みんな、口々にやめてくれよと声にしているのが分かる。
「レジデントは私が徹底させていますが、院生と助手の先生方が・・それと畑先生、松田先生」
助教授は目を凝らして見ている。
「畑に松田。ここを出た奴ら?」
「はい」
「連絡して呼び戻せ。夜間にワープロ持って来させろ。今週中にだ!」
「伝えます」
「あ、松田のほうは任せろ。草波君に伝えておく」
大学にいるうちに入院サマリーを完成させてないと、のちのち「お呼び」がかかる。
「それと、病名漏れが多数あります」
「なに?」
助教授が眉をしかめた。
「循環器系ではレニン・アルドステロン系に関するもの、呼吸器系では喀痰Tbc培養塗沫に関するもの」
「病棟医長は何をやっとるんだ?」
「私らにも責任が・・」
「いやいや。君は実によくやってくれとるじゃないか。ったく、恥ずかしいなあ、おい」
病棟医長の顔がひきつっている。
「ふん・・・で、検体のほうは順調か?」
「血清保存用の検体の回収率は悪いです。先週も紙を貼りだして呼びかけたんですが・・」
「提出が悪いドクターのリストも見せてくれるか?」
「はい。また持っていきます」
助教授が立ち上がった。
「みんな、たるんどるぞ、最近!野中君はまだレジデントだよ?そのレジデントに注意されたら、助手・院生の
立場もあってないようなものだよ?ん?違うか?水野君?」
「え?」
「わしの言う事は、間違ってる?」
「いいえ・・・正しいです」
「なら君、スタンドプレーはしちゃいかん!詰所からよく聞くぞ」
「は、はい・・」
「中には大学を離れてよその病院でやっとる者もいるが。なあに、そのうちシッポを巻いて帰ってくる。
外の病院は怖いんだぞ。容赦ない。雑巾みたいに使われる。故障したらポイだ。みじめなもんさ」
じゃあなぜ草波さんを追い出さないんだろうか。矛盾してるような・・・。
水野は顔を真っ赤にしたまま呟いていた。
「何様のつもりなんだよ・・・トシキももう、やめてくれないか?」
「やめるって、何を・・・」
助教授の演説は続いていた。
「だからここが一番安全なんだよ!君らが患者さんや医局のために働こうという意思がある限りね!
じゃ、終わろう!」
みんな荒っぽくイスを片付け、足早に会議室を去っていった。
あっという間に学会直前となった。
出勤早々の医局では、病棟医長が電話応対に迫られている。
「もしもし。学会でどうしても人手が・・はい。それは分かっているのですが」
どうやら患者を紹介してくるようだ。
グッチ先生がコツ、コツとハイヒールでやってきた。グレーのスーツが決まっている。
「学会、準備オッケーよ」
「先生、ではお気をつけて」
若い男性MRがやってきた。
「では先生、これがチケット・・・です。それとこれ、チケット。帝国ホテルです。乗車券は2枚」
「ごめんね。直前になって急に」
「いえいえ。2席空いてて、本当によかったです」
2席分・・?
「川口先生、マミー先生とでも?」
「う、うん。誘おうと思ってね」
「そうですか」
「病棟は大変?」
「病棟医長の電話、横から聞いてますけど・・どうやら重症が来るようですね」
「そう・・」
僕のポケベルが鳴りだした。
「もしもし・・・はい?あと3人紹介がある?はいはい」
「紹介患者があるの?」
「外来を閉めているので、直接こちらへ連絡が来たようです」
「そっか。どんな患者さん?」
「時々うちで共診している、不整脈と喘息と心不全です」
「再診?ならまだ気が楽ね」
「ええ」
ウソだ。グッチ先生に余計な心配をかけないための配慮だ。3人とも新患で、病名すら分からない。
状態が悪そうなので、早く見に来いと。
グッチ先生はずっとそこに立っている。
「どうしよう・・・あたし・・」
「先生。さあ早く。間に合いませんよ」
「で、でも・・・人手のことを考えると・・」
「先生は行かないとダメです!発表してもらわないと!」
「発表なんか、行かなくても・・」
「行かなくてはダメだ!」
「!」
「先生が一生懸命やってきたことじゃないですか!挫折してはいけません!」
僕はあらゆる限りの声を出して説得した。
「トシキくん・・」
「は、はい?」
「ちょっと声、下げてくれない・・・?」
「あ、はあ。す、すみません」
「わかった。行ってくるわ」
「急いでください!」
「ここからタクシーで」
「呼びます」
僕は携帯を発信した。
「番号知ってるの?」
「オーベンから教わりました。大事なことは覚えるか、手元におけと」
「そう・・」
「もしもし。1台。大学病院まで。大至急で・・・・これでよし!」
「先生らには迷惑かけるわね」
「僕らですか?僕らは・・心配ないです!」
心配で足が震えていた。
グッチ先生、道中、お気をつけて。
「ベッド稼働率は問題ありませんが、長期入院がまだ3人。これら3人は転院の方向で話を進めています
。症例別としては肺癌などmalignancy(悪性腫瘍)関連のものが最近伸び悩んでいます」
オーベンはOHPの画像を棒で指差す。
「他院からの紹介が少し減っているのも関連ありと思われます。そこで最近確認したのですが・・・
紹介していただいた病院への返事・報告を忘れているドクターが増えているようです」
助教授はピクンときたようだ。
「おい!今のは聞き捨てならんぞ!いったい誰だ?」
「外来主治医の・・・」
「待て!そうか!わかった!言うな!わしも一部、責任がある!でも・・」
助教授はすぐ開き直った。
「書記係の仕事だよ、それは。書記の奴がすぐに返事を書かないと。入院してからでも返事は出せるだろ?」
オーベンは報告を続けた。
「サマリーの未提出分も未だに多いです。ランキングしてみました」
みんな、口々にやめてくれよと声にしているのが分かる。
「レジデントは私が徹底させていますが、院生と助手の先生方が・・それと畑先生、松田先生」
助教授は目を凝らして見ている。
「畑に松田。ここを出た奴ら?」
「はい」
「連絡して呼び戻せ。夜間にワープロ持って来させろ。今週中にだ!」
「伝えます」
「あ、松田のほうは任せろ。草波君に伝えておく」
大学にいるうちに入院サマリーを完成させてないと、のちのち「お呼び」がかかる。
「それと、病名漏れが多数あります」
「なに?」
助教授が眉をしかめた。
「循環器系ではレニン・アルドステロン系に関するもの、呼吸器系では喀痰Tbc培養塗沫に関するもの」
「病棟医長は何をやっとるんだ?」
「私らにも責任が・・」
「いやいや。君は実によくやってくれとるじゃないか。ったく、恥ずかしいなあ、おい」
病棟医長の顔がひきつっている。
「ふん・・・で、検体のほうは順調か?」
「血清保存用の検体の回収率は悪いです。先週も紙を貼りだして呼びかけたんですが・・」
「提出が悪いドクターのリストも見せてくれるか?」
「はい。また持っていきます」
助教授が立ち上がった。
「みんな、たるんどるぞ、最近!野中君はまだレジデントだよ?そのレジデントに注意されたら、助手・院生の
立場もあってないようなものだよ?ん?違うか?水野君?」
「え?」
「わしの言う事は、間違ってる?」
「いいえ・・・正しいです」
「なら君、スタンドプレーはしちゃいかん!詰所からよく聞くぞ」
「は、はい・・」
「中には大学を離れてよその病院でやっとる者もいるが。なあに、そのうちシッポを巻いて帰ってくる。
外の病院は怖いんだぞ。容赦ない。雑巾みたいに使われる。故障したらポイだ。みじめなもんさ」
じゃあなぜ草波さんを追い出さないんだろうか。矛盾してるような・・・。
水野は顔を真っ赤にしたまま呟いていた。
「何様のつもりなんだよ・・・トシキももう、やめてくれないか?」
「やめるって、何を・・・」
助教授の演説は続いていた。
「だからここが一番安全なんだよ!君らが患者さんや医局のために働こうという意思がある限りね!
じゃ、終わろう!」
みんな荒っぽくイスを片付け、足早に会議室を去っていった。
あっという間に学会直前となった。
出勤早々の医局では、病棟医長が電話応対に迫られている。
「もしもし。学会でどうしても人手が・・はい。それは分かっているのですが」
どうやら患者を紹介してくるようだ。
グッチ先生がコツ、コツとハイヒールでやってきた。グレーのスーツが決まっている。
「学会、準備オッケーよ」
「先生、ではお気をつけて」
若い男性MRがやってきた。
「では先生、これがチケット・・・です。それとこれ、チケット。帝国ホテルです。乗車券は2枚」
「ごめんね。直前になって急に」
「いえいえ。2席空いてて、本当によかったです」
2席分・・?
「川口先生、マミー先生とでも?」
「う、うん。誘おうと思ってね」
「そうですか」
「病棟は大変?」
「病棟医長の電話、横から聞いてますけど・・どうやら重症が来るようですね」
「そう・・」
僕のポケベルが鳴りだした。
「もしもし・・・はい?あと3人紹介がある?はいはい」
「紹介患者があるの?」
「外来を閉めているので、直接こちらへ連絡が来たようです」
「そっか。どんな患者さん?」
「時々うちで共診している、不整脈と喘息と心不全です」
「再診?ならまだ気が楽ね」
「ええ」
ウソだ。グッチ先生に余計な心配をかけないための配慮だ。3人とも新患で、病名すら分からない。
状態が悪そうなので、早く見に来いと。
グッチ先生はずっとそこに立っている。
「どうしよう・・・あたし・・」
「先生。さあ早く。間に合いませんよ」
「で、でも・・・人手のことを考えると・・」
「先生は行かないとダメです!発表してもらわないと!」
「発表なんか、行かなくても・・」
「行かなくてはダメだ!」
「!」
「先生が一生懸命やってきたことじゃないですか!挫折してはいけません!」
僕はあらゆる限りの声を出して説得した。
「トシキくん・・」
「は、はい?」
「ちょっと声、下げてくれない・・・?」
「あ、はあ。す、すみません」
「わかった。行ってくるわ」
「急いでください!」
「ここからタクシーで」
「呼びます」
僕は携帯を発信した。
「番号知ってるの?」
「オーベンから教わりました。大事なことは覚えるか、手元におけと」
「そう・・」
「もしもし。1台。大学病院まで。大至急で・・・・これでよし!」
「先生らには迷惑かけるわね」
「僕らですか?僕らは・・心配ないです!」
心配で足が震えていた。
グッチ先生、道中、お気をつけて。
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