< オーベン&コベンダーズ 3-9 オーベン・ネバー・大 >
2004年8月13日向こうから救急車の音。
「いくぞ!1,2・・」
「3!」
患者さんをストレッチャーへ。息苦しそうだ。
森さんは酸素マスクを被せた。
「ええい!」
患者は腕を振り上げ、森さん・マスクもろとも1メートル向こうの壁まで叩きつけられた。
「森さん!大丈夫か?」
と一応声をかけ、僕はラインを確保した。
水野はモニターをつけたところだ。
画面に頻脈が映し出された。
「サイナスか。これは?誘導だよね?QSパターンだ」
水野は僕のほうを振り返った。
「AMI起こして、時間けっこう経ってるってことか?12誘導、取ろう」
水野は心電図の電極を取り出した。
患者さんは両手で胸をかきむしり、電極を次々と外し始めた。
「水野、押さえて!」
水野は両腕をつかんだ。しかしかなりの力のようだ。
「す、すごい力・・!」
森さんは何やら救急カートからアンプルを取り出した。
「アタP、筋注を」
僕は焦った。
「ダメだよ!筋注はダメ!CPKが狂う!」
「静脈から?」
「セレネースを静脈からいこう!」
「三品先生を待つ?」
「待てない!」
セレネースが静注された。水野は心電図を破って僕に見せた。
「下壁梗塞!見ろ。II , III , aVFのQSパターン。それと・・・おい!V1-3もQSだぞ!」
「II , III , aVFに変化あるなら、右誘導も取らなきゃ」
「そうなの?」
「右室梗塞の合併もあるかも」
森さんはバイタルを記入している。
「BP 78/42mmHg。何これ、低い」
水野は手帳を見ている。
「そうだな。右室梗塞の場合血圧下がるよな」
「でもV1-3領域の梗塞のせいかも」
「前壁広範囲・・・心源性ショック?」
「ありうる」
「下壁+右室梗塞、前壁梗塞・・・どっちなんだ?」
「さあ」
「両方同時はないよな」
「ないだろ」
「どっちかが新しいのかな」
「さあ」
森さんが血ガス準備。
「通常の採血もやるわ」
森さんは2つの注射器と1つの三方活栓を組み合わせた。
「これで1回で採るわ」
僕は次のことを考えた。
「胸部症状を聞いて、ニトロペンを」
水野が突っ込む。
「こんな血圧で、いいの?」
「あそうか、ダメだ、ダメ!」
「それにもうQSだし・・・今は心不全を何とかしないと」
「利尿?」
「血圧下がってしまうんじゃ・・」
「ば、バルーンを」
「そうしよう!」
三品先生、何やってるんだろう。
大蔵君も超音波の機械、早く!
しかしこの血圧。IABPが要るようになるかも。
森さんが検体を持っていって帰ってきた。
「CCUに入れましょうよ!」
僕はカテ室で待機している2人を思い出した。
「カテ室へ連絡しよう!水野、超音波はまだだよな」
「アイツ、また宗教の勧誘か?」
「とりあえず、連絡する」
連絡しようとしたところ、病棟から電話。
「もしもし?」
「トシキか、教えてくれ!」
「え?」
病棟医長だ。
「カンファレンスの紙、なくしたんだが・・」
「患者は誰です?」
「以前宮川が持ってて、お前が主治医になった肺線維症・関節リウマチの・・」
「はい!その方が・・?」
「呼吸困難だ。レントゲン撮ったんだが、いつもと違う」
「いつもと?」
「コンソリ(浸潤影)が部分的にある。どうやら葉間胸水でもない。これは・・」
「?」
「わからん。呼吸器の人間に聞いてみる」
「すみません」
「ん?それに貧血も進んでるぞ。Hb 5.4g/dl」
「?間違いないですか?溶血では・・」
「生化学ではASTやLDHは上がってない」
「出血が・・?」
「そうだ。この影は・・・出血かもしれん」
「喀血を?」
「いや、それはしてないが。やっぱり呼吸器と相談する」
肺の中の出血・・・。もしかして!
カテ室に連絡がつながった。
「オーベンいますか?」
「トシキ、いつまで待たせる」
「すみません。バイタルが悪くて」
「悪い?そんな表現あるか?」
「血圧が低いんです」
「梗塞部位は?」
「下壁と前壁です」
「なに?STはどうなんだ?」
「上がっても・・・下がってもないです」
「そんなはずないだろ?」
「けっこう以前に心筋梗塞を起こしてしまって、今回心不全だけってことも・・」
「ありうるが、紹介先の病院は2日前のは正常と言ってたぞ」
「開業医ですよね」
「そうだ。なんだ?信用できないのか」
「鵜呑みにはできないと」
「どうして?」
「お、オーベンからいつも教えられてましたので」
「俺が?そんなこと言ったか?で、採血は?」
「もう出ます」
「出たら教えろ。三品先生はどう言ってる?」
「先生それが・・クソッ!切られた!」
もう一度かけると、技師さんが出た。
「オーベンは?」
「便所。大のようだよ」
「ダイ?」
森さんがパソコン画面を開いた。
「あ、もう出てるわ!」
画面にはほとんどのデータが打ち出されていた。
水野が真っ先に覗き込んだ。
「トロポニンTは陰性。陰性?」
森さんはメモしている。
「でもASTやLDHも上がってる。トロポニンTは・・・擬陰性?」
僕は困った。
「いや。この検査で擬陰性なんて、まずほとんどないと聞いてる」
森さんは画面を指差した。
「ごめん。血ガスデータがいまさら出てるわ」
水野はSpO2モニターを見ている。
「やばいよ。リザーバーで10Lなのに91%しかないよ」
森さんはこちらを見上げた。
「挿管する?」
僕はパソコンの血ガスデータを眺めていた。
「これはひょっとして・・・」
「?」
僕は手帳を見て、計算式を書き始めた。
「そうかも?」
手帳に書いた式を、水野に見せた。
「トシキ、それ・・・」
「そうかも」
<つづく>
「いくぞ!1,2・・」
「3!」
患者さんをストレッチャーへ。息苦しそうだ。
森さんは酸素マスクを被せた。
「ええい!」
患者は腕を振り上げ、森さん・マスクもろとも1メートル向こうの壁まで叩きつけられた。
「森さん!大丈夫か?」
と一応声をかけ、僕はラインを確保した。
水野はモニターをつけたところだ。
画面に頻脈が映し出された。
「サイナスか。これは?誘導だよね?QSパターンだ」
水野は僕のほうを振り返った。
「AMI起こして、時間けっこう経ってるってことか?12誘導、取ろう」
水野は心電図の電極を取り出した。
患者さんは両手で胸をかきむしり、電極を次々と外し始めた。
「水野、押さえて!」
水野は両腕をつかんだ。しかしかなりの力のようだ。
「す、すごい力・・!」
森さんは何やら救急カートからアンプルを取り出した。
「アタP、筋注を」
僕は焦った。
「ダメだよ!筋注はダメ!CPKが狂う!」
「静脈から?」
「セレネースを静脈からいこう!」
「三品先生を待つ?」
「待てない!」
セレネースが静注された。水野は心電図を破って僕に見せた。
「下壁梗塞!見ろ。II , III , aVFのQSパターン。それと・・・おい!V1-3もQSだぞ!」
「II , III , aVFに変化あるなら、右誘導も取らなきゃ」
「そうなの?」
「右室梗塞の合併もあるかも」
森さんはバイタルを記入している。
「BP 78/42mmHg。何これ、低い」
水野は手帳を見ている。
「そうだな。右室梗塞の場合血圧下がるよな」
「でもV1-3領域の梗塞のせいかも」
「前壁広範囲・・・心源性ショック?」
「ありうる」
「下壁+右室梗塞、前壁梗塞・・・どっちなんだ?」
「さあ」
「両方同時はないよな」
「ないだろ」
「どっちかが新しいのかな」
「さあ」
森さんが血ガス準備。
「通常の採血もやるわ」
森さんは2つの注射器と1つの三方活栓を組み合わせた。
「これで1回で採るわ」
僕は次のことを考えた。
「胸部症状を聞いて、ニトロペンを」
水野が突っ込む。
「こんな血圧で、いいの?」
「あそうか、ダメだ、ダメ!」
「それにもうQSだし・・・今は心不全を何とかしないと」
「利尿?」
「血圧下がってしまうんじゃ・・」
「ば、バルーンを」
「そうしよう!」
三品先生、何やってるんだろう。
大蔵君も超音波の機械、早く!
しかしこの血圧。IABPが要るようになるかも。
森さんが検体を持っていって帰ってきた。
「CCUに入れましょうよ!」
僕はカテ室で待機している2人を思い出した。
「カテ室へ連絡しよう!水野、超音波はまだだよな」
「アイツ、また宗教の勧誘か?」
「とりあえず、連絡する」
連絡しようとしたところ、病棟から電話。
「もしもし?」
「トシキか、教えてくれ!」
「え?」
病棟医長だ。
「カンファレンスの紙、なくしたんだが・・」
「患者は誰です?」
「以前宮川が持ってて、お前が主治医になった肺線維症・関節リウマチの・・」
「はい!その方が・・?」
「呼吸困難だ。レントゲン撮ったんだが、いつもと違う」
「いつもと?」
「コンソリ(浸潤影)が部分的にある。どうやら葉間胸水でもない。これは・・」
「?」
「わからん。呼吸器の人間に聞いてみる」
「すみません」
「ん?それに貧血も進んでるぞ。Hb 5.4g/dl」
「?間違いないですか?溶血では・・」
「生化学ではASTやLDHは上がってない」
「出血が・・?」
「そうだ。この影は・・・出血かもしれん」
「喀血を?」
「いや、それはしてないが。やっぱり呼吸器と相談する」
肺の中の出血・・・。もしかして!
カテ室に連絡がつながった。
「オーベンいますか?」
「トシキ、いつまで待たせる」
「すみません。バイタルが悪くて」
「悪い?そんな表現あるか?」
「血圧が低いんです」
「梗塞部位は?」
「下壁と前壁です」
「なに?STはどうなんだ?」
「上がっても・・・下がってもないです」
「そんなはずないだろ?」
「けっこう以前に心筋梗塞を起こしてしまって、今回心不全だけってことも・・」
「ありうるが、紹介先の病院は2日前のは正常と言ってたぞ」
「開業医ですよね」
「そうだ。なんだ?信用できないのか」
「鵜呑みにはできないと」
「どうして?」
「お、オーベンからいつも教えられてましたので」
「俺が?そんなこと言ったか?で、採血は?」
「もう出ます」
「出たら教えろ。三品先生はどう言ってる?」
「先生それが・・クソッ!切られた!」
もう一度かけると、技師さんが出た。
「オーベンは?」
「便所。大のようだよ」
「ダイ?」
森さんがパソコン画面を開いた。
「あ、もう出てるわ!」
画面にはほとんどのデータが打ち出されていた。
水野が真っ先に覗き込んだ。
「トロポニンTは陰性。陰性?」
森さんはメモしている。
「でもASTやLDHも上がってる。トロポニンTは・・・擬陰性?」
僕は困った。
「いや。この検査で擬陰性なんて、まずほとんどないと聞いてる」
森さんは画面を指差した。
「ごめん。血ガスデータがいまさら出てるわ」
水野はSpO2モニターを見ている。
「やばいよ。リザーバーで10Lなのに91%しかないよ」
森さんはこちらを見上げた。
「挿管する?」
僕はパソコンの血ガスデータを眺めていた。
「これはひょっとして・・・」
「?」
僕は手帳を見て、計算式を書き始めた。
「そうかも?」
手帳に書いた式を、水野に見せた。
「トシキ、それ・・・」
「そうかも」
<つづく>
コメント