< オーベン&コベンダーズ 3-12 ドロップアウト >
2004年8月14日再び、カテ室へ。
マイオーベンは気難しそうに、シャーカステンのCT画像を見ている。
「血栓・・・両方ですね。左右の肺動脈主幹部。ともに閉塞はないですが・・」
窪田先生はもう次の準備にとりかかっていた。
「森ちゃんと水野くん!向こうのイレウス管入れた患者、上に上げといて!」
「はい!」
窪田先生はスワンガンツカテの準備をしている。
「これ使って、動注しましょうか」
オーベンも準備にとりかかった。
僕はカテーテルの記録係。
三品先生がやってきた。
「肺血流シンチ。左右とも広汎だ。間違いない」
教科書で習ったような区域性のものでなく、び慢性といった感じだ。
「同意は得た。t-PAを用意しろ。窪田先生、お願いします」
技師さんが受話器を持ってきた。
「トシキ先生。病棟から」
「もしもし」
「病棟医長だ。そっちはヒマか?」
「肺血栓塞栓で、カテがありまして」
「大変だな。だがこっちもそうなんだ。今度は胸水まで貯まってきてて、ドレーン入れたところだ。胸水はやはり血性だな。ステロイドパルス1回目はいったんだが」
「出血か炎症なのか・・」
「根本的には血漿交換だ。ICUへ連絡手配する」
「お願いします。先生、ちょうどレジデントが2人そちらへ行きましたので」
「助かる。1人は病棟の待機係にするぞ」
「はい!」
カテは窪田先生・オーベンに任せるとして・・・僕もICUへ応援に行く予定とした。
「コベンちゃん、ありがとう」
「僕ですか?」
「あんたはよく働くよ」
「いえ・・」
「でも先生、自分の限界は知っときなさいよ」
「限界ですか・・」
「過労でくたばらないようにってこと」
オーベンが首を横に振っていた。
「窪田先生。私にはキレイ事にしか思えません」
「そうかねえ?」
「サボってる人間と、頑張ってる人間の落差が大きすぎます。ここは」
「うーん・・」
「先生もご存知のはずです。こういう差をなくさないと」
「そうだねー・・でもアンタ、その取り締まり方。たちが悪いっていうウワサも・・」
「そういう差をなくさないと、耐性勤務医が蔓延します」
「耐性菌ね・・じゃあ治療はなし?」
「究極的には隔離でしょう。僻地病院とかの」
「島流しとか?」
「でないと医局員や患者さんに失礼でしょう?」
「僻地ねえ・・」
「ユウキも1年後はかわいそうですね」
「あたしは見込んでたんだけどね・・」
「まだ芽が出るのは早すぎるんじゃ?」
「遅くてもいいでしょ?たちの悪い芽は、しょせん悪い実しかならないしね」
「え?」
一瞬オーベンの笑いが止まった。
携帯が鳴り出した。病棟医長からか。
「もしもし?」
「MRAの患者が!」
病棟医長がかなりパニクっている。急いで僕はICUへ向った。
行くと、病棟医長が挿管しようとしている。
「押さえてくれ!」
森さんと水野は押さえていて精一杯。
僕はパニックにならないようにした。
「ち、鎮静を?」
病棟医長は口腔内を睨んでいて手が放せない。
「そ、そうだな。セルシンを!」
「セルシン・・5mgのほうで?」
「いや、10mgでいってくれ!静脈から!」
セルシンで体動はおさまった。当然、呼吸も停止に近くなってきた。
「・・・よし、入った!と思う。アンビューを」
ひとまず挿管チューブが入って一安心だ。
森さんは人工呼吸器を引っ張ってきた。
「じゃあ、つなぎます」
病棟医長は呼吸器の基本設定。
「よし、これでいってくれ・・・!あ!」
一瞬、チューブの中が黒くなったと思ったとたん、出血が逆流、さらに蛇管に血液が大量に逆流した。
「喀血だ!」
水野は吸引を取り出した。
「吸います!」
「気管に傷をつけないようにな!」
「はい・・・!」
カルテをみると、血小板が2万。これだけでもう易出血性だ。DICってことか。
水野が吸引を終えた。
「血小板を追加しましょう」
「ダメだ!DICだぞ。粉砕されてしまう」
病棟医長が怒鳴った。
「しかし、この数では・・」
「FOYは投与してる。MAPとFFPももう来る」
「先生、クロスしてる間に・・」
バイタルは次第に悪化傾向にあった。
シャーカステンのレントゲンは両肺ともに真っ白に近い。
僕は治療がもう手遅れであると、内心実感した。
「ステロイドも使用したんですよね、病棟医長」
「ああ。パルスいったってさっき言ったろう?」
「免疫抑制剤は・・」
「有意差のある報告は聞かないが・・」
「このまま見ますか・・」
「宮川のヤツ!あいつが最初の主治医だろ?置き土産しやがって!アイツは・・・呼吸器のヤツはだからキライなんだよ!」
「先生。落ち着いてください」
「な、なにを?」
「頼みます、先生・・・」
森さんも頭を下げにいった。
「あたしからもです、先生。どうか仲良くしてください」
「仲良くだと?」
「そうです。呼吸器と循環器の先生方が争うのを、あたしたちは見たくないし・・・」
「そ、そんなの言われる覚えはない・・」
血圧は80/60mmHgと低下しているが、酸素化はなんとか落ち着いてきたようだ。
病棟医長は退去する準備にかかった。
「じゃあ、あとは頼むぞ」
「先生、指示を書きましたので、これでいいかどうか・・」
僕はカルテを差し出した。
「知らん。オーベンに見てもらえ」
「先生、オーベンは手が離せなくて」
「オーベンの用事が済んだら見てもらえ!主治医はお前だろ!」
僕は許せなかった。
「先生・・・今、見てほしいのです」
「なに・・・」
「病棟医長でしょう?先生」
「ぬう・・・」
病棟医長はしぶしぶカルテを確認した。
「・・・ここはこう直しておく」
「ありがとうございました」
「俺はもう病棟医長はコリゴリだ。辞める」
「先生・・・」
「これからまた実験せにゃいかん。お前らはまだいい。患者だけ見てればいいじゃないか」
森さんは歩み寄った。
「先生、見捨てないでください」
「・・・・・」
病棟医長は無言で立ち去った。実質的にはドロップアウトだ。
マイオーベンは気難しそうに、シャーカステンのCT画像を見ている。
「血栓・・・両方ですね。左右の肺動脈主幹部。ともに閉塞はないですが・・」
窪田先生はもう次の準備にとりかかっていた。
「森ちゃんと水野くん!向こうのイレウス管入れた患者、上に上げといて!」
「はい!」
窪田先生はスワンガンツカテの準備をしている。
「これ使って、動注しましょうか」
オーベンも準備にとりかかった。
僕はカテーテルの記録係。
三品先生がやってきた。
「肺血流シンチ。左右とも広汎だ。間違いない」
教科書で習ったような区域性のものでなく、び慢性といった感じだ。
「同意は得た。t-PAを用意しろ。窪田先生、お願いします」
技師さんが受話器を持ってきた。
「トシキ先生。病棟から」
「もしもし」
「病棟医長だ。そっちはヒマか?」
「肺血栓塞栓で、カテがありまして」
「大変だな。だがこっちもそうなんだ。今度は胸水まで貯まってきてて、ドレーン入れたところだ。胸水はやはり血性だな。ステロイドパルス1回目はいったんだが」
「出血か炎症なのか・・」
「根本的には血漿交換だ。ICUへ連絡手配する」
「お願いします。先生、ちょうどレジデントが2人そちらへ行きましたので」
「助かる。1人は病棟の待機係にするぞ」
「はい!」
カテは窪田先生・オーベンに任せるとして・・・僕もICUへ応援に行く予定とした。
「コベンちゃん、ありがとう」
「僕ですか?」
「あんたはよく働くよ」
「いえ・・」
「でも先生、自分の限界は知っときなさいよ」
「限界ですか・・」
「過労でくたばらないようにってこと」
オーベンが首を横に振っていた。
「窪田先生。私にはキレイ事にしか思えません」
「そうかねえ?」
「サボってる人間と、頑張ってる人間の落差が大きすぎます。ここは」
「うーん・・」
「先生もご存知のはずです。こういう差をなくさないと」
「そうだねー・・でもアンタ、その取り締まり方。たちが悪いっていうウワサも・・」
「そういう差をなくさないと、耐性勤務医が蔓延します」
「耐性菌ね・・じゃあ治療はなし?」
「究極的には隔離でしょう。僻地病院とかの」
「島流しとか?」
「でないと医局員や患者さんに失礼でしょう?」
「僻地ねえ・・」
「ユウキも1年後はかわいそうですね」
「あたしは見込んでたんだけどね・・」
「まだ芽が出るのは早すぎるんじゃ?」
「遅くてもいいでしょ?たちの悪い芽は、しょせん悪い実しかならないしね」
「え?」
一瞬オーベンの笑いが止まった。
携帯が鳴り出した。病棟医長からか。
「もしもし?」
「MRAの患者が!」
病棟医長がかなりパニクっている。急いで僕はICUへ向った。
行くと、病棟医長が挿管しようとしている。
「押さえてくれ!」
森さんと水野は押さえていて精一杯。
僕はパニックにならないようにした。
「ち、鎮静を?」
病棟医長は口腔内を睨んでいて手が放せない。
「そ、そうだな。セルシンを!」
「セルシン・・5mgのほうで?」
「いや、10mgでいってくれ!静脈から!」
セルシンで体動はおさまった。当然、呼吸も停止に近くなってきた。
「・・・よし、入った!と思う。アンビューを」
ひとまず挿管チューブが入って一安心だ。
森さんは人工呼吸器を引っ張ってきた。
「じゃあ、つなぎます」
病棟医長は呼吸器の基本設定。
「よし、これでいってくれ・・・!あ!」
一瞬、チューブの中が黒くなったと思ったとたん、出血が逆流、さらに蛇管に血液が大量に逆流した。
「喀血だ!」
水野は吸引を取り出した。
「吸います!」
「気管に傷をつけないようにな!」
「はい・・・!」
カルテをみると、血小板が2万。これだけでもう易出血性だ。DICってことか。
水野が吸引を終えた。
「血小板を追加しましょう」
「ダメだ!DICだぞ。粉砕されてしまう」
病棟医長が怒鳴った。
「しかし、この数では・・」
「FOYは投与してる。MAPとFFPももう来る」
「先生、クロスしてる間に・・」
バイタルは次第に悪化傾向にあった。
シャーカステンのレントゲンは両肺ともに真っ白に近い。
僕は治療がもう手遅れであると、内心実感した。
「ステロイドも使用したんですよね、病棟医長」
「ああ。パルスいったってさっき言ったろう?」
「免疫抑制剤は・・」
「有意差のある報告は聞かないが・・」
「このまま見ますか・・」
「宮川のヤツ!あいつが最初の主治医だろ?置き土産しやがって!アイツは・・・呼吸器のヤツはだからキライなんだよ!」
「先生。落ち着いてください」
「な、なにを?」
「頼みます、先生・・・」
森さんも頭を下げにいった。
「あたしからもです、先生。どうか仲良くしてください」
「仲良くだと?」
「そうです。呼吸器と循環器の先生方が争うのを、あたしたちは見たくないし・・・」
「そ、そんなの言われる覚えはない・・」
血圧は80/60mmHgと低下しているが、酸素化はなんとか落ち着いてきたようだ。
病棟医長は退去する準備にかかった。
「じゃあ、あとは頼むぞ」
「先生、指示を書きましたので、これでいいかどうか・・」
僕はカルテを差し出した。
「知らん。オーベンに見てもらえ」
「先生、オーベンは手が離せなくて」
「オーベンの用事が済んだら見てもらえ!主治医はお前だろ!」
僕は許せなかった。
「先生・・・今、見てほしいのです」
「なに・・・」
「病棟医長でしょう?先生」
「ぬう・・・」
病棟医長はしぶしぶカルテを確認した。
「・・・ここはこう直しておく」
「ありがとうございました」
「俺はもう病棟医長はコリゴリだ。辞める」
「先生・・・」
「これからまた実験せにゃいかん。お前らはまだいい。患者だけ見てればいいじゃないか」
森さんは歩み寄った。
「先生、見捨てないでください」
「・・・・・」
病棟医長は無言で立ち去った。実質的にはドロップアウトだ。
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