「救急が来る!AMIだ!」

(『ギミー・サム・ラヴィン』持ってる人は聴きながら読んでください)

みんな即座に立ち上がった。
お互い顔を見合わせたかと思うと、みなダッシュでカンファ室を飛び出した。

僕は4番手だ。

(『ヘイ!』)

前方の3人はエレベーターへ。
僕は階段を使った。7階から1階まで、なぞるように降りる。

専用運転ならエレベーターが早いかもしれない。

滝のように落ちてくる汗をぬぐいながら、なんとか1階へと降りた。
続いて降りてきた石丸君が、僕の後ろでずっこけ、しりもちを打った。

(『ヘイ!』)

長谷川さんが介助している。

僕は確信したが、絶対みんな『センター』を狙っている。

申し訳ないが、僕はひたすら救急室へ急いだ。
横目でエレベーターを見たが、まだ1階まで来てない。

(『音楽終了』)

救急室へ辿り着くと、マーブル先生が待っていた。
「ははは、遅い遅い!」
「ま!槙原先生!も!もう着かれてたんですか、ハアハア」
「お前はもう疲れたのか、わっはは」
「先生1番に着きましたので、主治医ですね」
「ああそうだ!そういうルールだろ?」
「僕らで決めたルールなので・・そうですね。では主治医、お願いします」
「患者が来ないな」
「もう来るかと・・」

医局員が1人ずつ、走ってきた。
石丸君は長谷川さんの肩に手を廻していた。
「石丸君。大丈夫かい?さっきは見捨ててゴメンね」
「とんでもない。打撲ですので大丈夫です」
「それにしても。みんな、凄い勢いだな・・」

サイレンが聞こえてきた。
僕は病棟医長に連絡した。
「オ-べ・・いえ、野中先生。主治医はとりあえず槙原先生です。あとでまたかけます」

みな患者さんをベッドに移した。
大勢で手分けして検査・処置にかかる。
まるでお祭り忍者だ。

槙原先生が早くも超音波を見ている。
「心電図、のろいから先にコレするぞ!」
せっかくこれから心電図を記録しようとした石丸・長谷川さんは足止めを喰らった。

超音波では長軸像が映し出されている。
どうやら左室後壁の運動が低下しているようだ。
「RCAだな・・・いつから胸、痛かったですか?」
患者さんは目をつぶったまま呟く。
「昨日2時間あって、それからようなって・・・と思ったら5分あって・・それで・・」
「え?なんかよく分からないな」
「それも痛かったというよりも、こう・・・気持ち悪いような」
「え?痛かったんじゃなくて?」
「痛くなかったような・・なんていえばいいか」
「訳がわからんな。もういいです」

せっかちな上に、どこか冷たい先生なんだな・・。

槙原先生は病棟医長に連絡した。
「病変、RCAです。はい、AMIですね、これは。採血?まだですが」

僕らはバルーン挿入などその他の処置を済ませた。
主治医は電話を切った。
「よし、病棟へ上げよう!石丸と長谷川は、データが出たら持って来い!その他の先生は・・ありがとう!」

まるで懸賞の当選発表のよう・・・。

僕の指図で、島先生ら3人は心カテ室へ準備に走った。
術衣を着て、注射器など物品の準備にかかる。
僕はモバイルの予定表を見た。

もう午後で、病棟の気管支鏡がある。
「島先生。君ら3人のうち1人は病棟へ行ってもらえないかな?」
島先生は黙々と準備している。
「島先生!」
「はいっ!すまないが、僕はカテを見たいし・・」
「スズキ先生、西条先生は?」
2人とも首を横に振った。
「じゃあ、僕が行くってことか・・!」

僕は気管支鏡の介助のため、病棟へ上がった。
個室にはさきほど入院の患者が入室していた。
モニターではSTが上昇したまま。

野中先生がモニターを見ている。
「野中先生、ダイレクトPTCAで?」
「ああ。うちの施設ではそっちのほうが成績いいからな」
「自分は呼吸器グループの手伝いを」
「ダメだ。お前は今日、手伝う番だろ!」
「ですが、ほかの2年目はカテを見学したいと」
「生意気な!」
「いえ、僕がいいと言ったんで」
「お前にそんな許可する資格があるか!」
「い。いえ」
「そんなにトップになりたいのかよ。どいつもこいつも!おおっと」

みんなの視線が一瞬、注がれた。

カテ室で血管造影。

窪田先生が造影。野中先生がセカンド。
「右冠動脈の#3に狭窄発見!」

詰まっていたと思われていた右冠動脈は完全な閉塞ではなく、90%の狭窄だった。
血液検査ではCPKが3000台と異常に高かった。
おそらく早期再灌流のためだ。梗塞巣が大きかったからではない。
「マーブル。カテ室に来る前に何か治療を?」
「ヘパリンと亜硝酸剤です」
「アスピリンは飲ませた?」
「はい」
「グッドね。じゃ、左も造影!」

よく見ると、右冠動脈の末梢から細い血管が上に伸びている。
いわゆるコラテ=側副血行路だ。

同様に思ったのか、マーブル先生は意見した。
「左のコロナリー、前下行枝にも狭窄あると思います。『ジャパダイズ』かと」
「そうかもしれないわね」

造影すると、左冠動脈#7にも75%狭窄が見つかった。指摘の通り、左冠動脈からも細い血管が右冠動脈に向って伸びていた。

「今回はこれで引き上げ。後日、拡張術を施行するわ」
窪田先生はマスクを取った。
「じゃ、あとお願い」
「はい」
主治医のマーブル先生が止血にかかった。

総統は繰り返し流れるプレイバック画面を見ていた。
「こうやって離れた同士でも助け合えるにねえ・・」
僕はカテ記録を清書していた。

「うちの2つのグループも、コラテ出し合って協力したらいいのにねえ。ま、助教授からすると『それはコラエテくれ』ってことかな?」

総統は出て行った。

先生、そのギャグ。笑えません。

文先生風に言うと・・『勘弁して下さい』

<つづく>

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