< オーベン&コベンダーズ 4-8 愛はトシキのように? >
2004年8月30日※のところ・・『愛は吐息のように』の前奏のみ流してください。
動悸を隠せないまま、僕は入り口まで歩いた。
※
彼女は勤務中の固い表情からは到底想像もつかない、爽やかな笑顔で迎えてくれた。
服装も今どきだ。ここに来る前に予習してきた、雑誌の中のコのような・・・。
「こんばんはー」
「ごめん。遅くなったよ」
「では・・」
「うん、入ろう入ろう!」
夜9時だというのに、中はほとんど人でいっぱいだ。
店員も忙しいのか、出てこない。
「あ!あそこへ座ろうよ」
「はい・・・」
僕らは腰掛けた。
僕はメニューを取り出した。
「おごるから、何でも」
「え?あたしは・・・」
「このコースとかさ!」
「あたしは、ドリンクでいいです」
「倒れてしまうよ、食べないと」
彼女がわずかに微笑んだ。
「じゃあ、このスパゲティーで」
「じゃあ僕も」
「いいですよ、先生。ご自分の好きなのを」
「これでいいって」
※ しばらく沈黙が流れた。
どうやら僕から話しかけないといけないようだ。
「新人ナースも大変?」
「え?あたし?・・・そうですね」
「婦長さんは怖いだろ?」
「怖いです。病院で一番怖いって聞いてます」
「勉強する時間とかあるの?」
「全然。帰ったら寝るだけです」
「そうか・・それはいけないな」
「何を読んだらいいか・・」
「僕も元オーベンに相談したことがあるけど、読むより耳学問、だって」
「先輩には聞きにくいし・・」
「1回の聞き恥は、100回の読み積もり、に匹敵する」
「?」
「つまり・・自分で本を100回ふんふん、って分かったふりするよりも、恥を忍んででも
1回上司に聞くことのほうが尊い、ってこと」
「そっか・・」
「恥ずかしい思いして聞いた事は、絶対忘れないしね」
「そうなんですね」
「本に赤線引いて、わかったフリしてるのが一番危ない!」
「・・・・」
「ああ、ゴメンゴメン」
僕のこの言い方も、元オーベンの影響か・・。
※ またしばらく沈黙が続いた。
彼女は周りをキョロキョロしはじめた。
「僕らの雰囲気って、どう?」
「ふんいき?ぼ、僕ら・・?」
「これが理想の医者!みたいなドクター、いる?」
「あ、ああ。そういう意味。理想のドクター・・・」
「こういう人なら、診てほしいっていう」
「そうですねー・・野中先生でしょうか」
僕はかなり深く傷ついた。
「あの先生を手本にしてるドクターは多いよ」
「でしょうね!うらやましい!」
彼女は笑顔ではじけている。糸がぷつんと切れたように。
「オーベンが、いや、野中先生が目指しているのは、呼吸器と循環器の統一なんだ」
「トウイツ?」
「グループどうし、犬猿の中なんだ。学閥ってヤツ。ナースの中にでも、そんな世界ない?」
「ありませんね・・・でも、小さいグループはいくつかあるような」
「だろう?それを1つにまとめようっていう考えがあるんだ」
「ハイ。野中先生ならできると思います!」
また少し傷ついた。なぜだろう・・・。
「でね、僕もそれに加わっていろいろやろうとしてるんだ」
「統一って、1つにまとめるんですよね」
「そうだよ」
「話し合って、ですか?」
「そうだね。双方のグループに行き来する人物がいて、その人物が互いに困ってるところを
感知して、補充していく・・」
「野中先生は循環器ですよね。そしたら、トシキ先生が・・・?」
「そう!そうだよね!その役回りを僕が・・!」
「それってなんか・・スパイみたいですよね」
※ また沈黙が流れた。会話が続かない。
「ス・・・スパイ?そういう歌があったね」
「あ、あたしマッキーの大ファンなんです!」
「末期?」
「マッキーですよ。槙原」
「マーブル先生?」
「違いますよ!大違い!いっしょにしないで!」
このコ、半分本気で怒っているような・・。
僕は本題に入った。
「でね、でね。もう夏休み期間に入るよね」
「はい」
「よかったら、どっか行く予定とか?」
「え?」
「車で、その・・・出かけたり。もちろん日帰り日帰り!そうそう、花火大会とか!」
「うーん・・」
彼女は気難しそうに考え出した。
「この前久しぶりに海を見たんだけど。そういやあれからしばらく行ってないなーと思って」
「うーん・・・・・・」
※ 彼女は黙ってしまった。
「予定が今は・・・」
「そうか、いいよいいよ」
深く傷ついたまま、僕は返事を遠慮した。
「じゃ、病棟へ戻るんで」
「大変ですね・・・では・・・ごちそうさまでした」
僕はレジで清算した。
「あの、あたしの分、これで・・」
「いいって!ホントに」
「でも・・・あ、すみません」
彼女は自分の車のほうへ向っていった。
「ではまた、病棟で」
「は・・・はい」
僕は車に乗り込んで、助手席の雑誌『ホットドッグ』を見た。
マニュアル通りにやったつもりなんだが・・。
※
最初のアプローチは、あえなく黒こげ。
2度目は・・?
医局長からの症例提示。
「また消化器科からの紹介です。心不全だからそちらで取ってくれと。67歳男性」
僕にとって、運命の症例だった。
動悸を隠せないまま、僕は入り口まで歩いた。
※
彼女は勤務中の固い表情からは到底想像もつかない、爽やかな笑顔で迎えてくれた。
服装も今どきだ。ここに来る前に予習してきた、雑誌の中のコのような・・・。
「こんばんはー」
「ごめん。遅くなったよ」
「では・・」
「うん、入ろう入ろう!」
夜9時だというのに、中はほとんど人でいっぱいだ。
店員も忙しいのか、出てこない。
「あ!あそこへ座ろうよ」
「はい・・・」
僕らは腰掛けた。
僕はメニューを取り出した。
「おごるから、何でも」
「え?あたしは・・・」
「このコースとかさ!」
「あたしは、ドリンクでいいです」
「倒れてしまうよ、食べないと」
彼女がわずかに微笑んだ。
「じゃあ、このスパゲティーで」
「じゃあ僕も」
「いいですよ、先生。ご自分の好きなのを」
「これでいいって」
※ しばらく沈黙が流れた。
どうやら僕から話しかけないといけないようだ。
「新人ナースも大変?」
「え?あたし?・・・そうですね」
「婦長さんは怖いだろ?」
「怖いです。病院で一番怖いって聞いてます」
「勉強する時間とかあるの?」
「全然。帰ったら寝るだけです」
「そうか・・それはいけないな」
「何を読んだらいいか・・」
「僕も元オーベンに相談したことがあるけど、読むより耳学問、だって」
「先輩には聞きにくいし・・」
「1回の聞き恥は、100回の読み積もり、に匹敵する」
「?」
「つまり・・自分で本を100回ふんふん、って分かったふりするよりも、恥を忍んででも
1回上司に聞くことのほうが尊い、ってこと」
「そっか・・」
「恥ずかしい思いして聞いた事は、絶対忘れないしね」
「そうなんですね」
「本に赤線引いて、わかったフリしてるのが一番危ない!」
「・・・・」
「ああ、ゴメンゴメン」
僕のこの言い方も、元オーベンの影響か・・。
※ またしばらく沈黙が続いた。
彼女は周りをキョロキョロしはじめた。
「僕らの雰囲気って、どう?」
「ふんいき?ぼ、僕ら・・?」
「これが理想の医者!みたいなドクター、いる?」
「あ、ああ。そういう意味。理想のドクター・・・」
「こういう人なら、診てほしいっていう」
「そうですねー・・野中先生でしょうか」
僕はかなり深く傷ついた。
「あの先生を手本にしてるドクターは多いよ」
「でしょうね!うらやましい!」
彼女は笑顔ではじけている。糸がぷつんと切れたように。
「オーベンが、いや、野中先生が目指しているのは、呼吸器と循環器の統一なんだ」
「トウイツ?」
「グループどうし、犬猿の中なんだ。学閥ってヤツ。ナースの中にでも、そんな世界ない?」
「ありませんね・・・でも、小さいグループはいくつかあるような」
「だろう?それを1つにまとめようっていう考えがあるんだ」
「ハイ。野中先生ならできると思います!」
また少し傷ついた。なぜだろう・・・。
「でね、僕もそれに加わっていろいろやろうとしてるんだ」
「統一って、1つにまとめるんですよね」
「そうだよ」
「話し合って、ですか?」
「そうだね。双方のグループに行き来する人物がいて、その人物が互いに困ってるところを
感知して、補充していく・・」
「野中先生は循環器ですよね。そしたら、トシキ先生が・・・?」
「そう!そうだよね!その役回りを僕が・・!」
「それってなんか・・スパイみたいですよね」
※ また沈黙が流れた。会話が続かない。
「ス・・・スパイ?そういう歌があったね」
「あ、あたしマッキーの大ファンなんです!」
「末期?」
「マッキーですよ。槙原」
「マーブル先生?」
「違いますよ!大違い!いっしょにしないで!」
このコ、半分本気で怒っているような・・。
僕は本題に入った。
「でね、でね。もう夏休み期間に入るよね」
「はい」
「よかったら、どっか行く予定とか?」
「え?」
「車で、その・・・出かけたり。もちろん日帰り日帰り!そうそう、花火大会とか!」
「うーん・・」
彼女は気難しそうに考え出した。
「この前久しぶりに海を見たんだけど。そういやあれからしばらく行ってないなーと思って」
「うーん・・・・・・」
※ 彼女は黙ってしまった。
「予定が今は・・・」
「そうか、いいよいいよ」
深く傷ついたまま、僕は返事を遠慮した。
「じゃ、病棟へ戻るんで」
「大変ですね・・・では・・・ごちそうさまでした」
僕はレジで清算した。
「あの、あたしの分、これで・・」
「いいって!ホントに」
「でも・・・あ、すみません」
彼女は自分の車のほうへ向っていった。
「ではまた、病棟で」
「は・・・はい」
僕は車に乗り込んで、助手席の雑誌『ホットドッグ』を見た。
マニュアル通りにやったつもりなんだが・・。
※
最初のアプローチは、あえなく黒こげ。
2度目は・・?
医局長からの症例提示。
「また消化器科からの紹介です。心不全だからそちらで取ってくれと。67歳男性」
僕にとって、運命の症例だった。
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