< オーベン&コベンダーズ 4-9 対・消化器レジデント >
2004年8月30日医局長からの症例提示。
「また消化器科からの紹介です。心不全だからそちらで取ってくれと。67歳男性。では、主治医!」
石丸君が立ち上がった。
「もともとは胃癌でフォローを受けていたようです。オペは15年前で、以後はstable」
レントゲンを提示。
みんなが次々に立ち上がり、前方へ歩み寄った。
野中先生が呆然としていた。
「肺水腫じゃないか!」
心拡大と両側のバタフライシャドウ。しかし仰臥位の写真だ。
野中先生は腕を組んで後ずさりし始めた。
「こんな段階になって、紹介してきやがって!石丸、入院はいつ?」
「1週間前です」
「呼吸困難で入院か?」
「・・・倦怠感だそうです」
「主治医はレジデントか?」
「ええ。1年目。私のもとクラスメートです」
「連れてこい!」
「は?」
「連れてこい、ってんだよ!こんな手遅れの症例、『はいそうですか』、と引き受けるわけにはいかねえんだよ!」
「申し送りはさきほど私が医局長と・・・」
野中先生は石丸君のむなぐらを掴んだ。
「うるさい!とにかく連れてこい!」
石丸君は動揺しまくり、ネクタイを直しながらカンファ室を出た。
総統が野中先生の肩を叩いた。
「ノナキー、今のはまあ、許す。あたしも同意見」
みんな席についた。
「医局長、どうも。では今のうちに次の人!」
「ウッス」
角刈り先生だ。
「43歳。サルの患者。呼吸器から」
窪田先生は顔をしかめた。
「猿?それともアンタ?」
「サル」
「ウッキッキー?」
「?」
「日本語で説明しなさいよ」
「日本語・・?サルコイドーシスはサルコイドーシスでしょが?」
「はいいいよ、続けて」
「?呼吸器科でフォロー。今回労作時に呼吸困難あり。レントゲンで心拡大」
「胸水は?」
「なし」
「超音波所見は?」
「中隔が一部薄いのと・・・」
「教科書どおりか、なるへそ・・・で?肝心の基礎疾患のコントロールは?」
「主治医は田島が」
「そうじゃなくて。基礎疾患のコントロールはどんな感じ?」
「活動性っか?」
「そうよ」
「高い、と聞いとると」
「じゃなくて。経過がどうか教えてほしいの!」
「田島からは・・・」
「あんたの意見を聞いてるの!」
窪田先生は両手を天井に上げた。
「循環器が循環器だけやってればいい、っていうもんじゃないわよ・・」
すると石丸君がさっそく消化器科のレジデントを連れて来た。
「おい、早く入れって!」
がり勉っぽい背の低い新米ドクターが入ってきた。メガネは牛乳瓶の底のようだ。
「・・・・・」
彼は無言で教壇のほうへ進んだ。
「経過は、石丸先生にお伝えしたとおり・・」
野中先生が足を組み、手で机をポンと叩いた。
「俺たちにも教えてくださいよ!せ・ん・せ・い!」
笑顔が逆に恐ろしかった。
「何にしましょう?」
「何に?」
「病歴ですか?それとも既往歴を・・?」
「入院してからの治療経過をお願いします」
野中先生の右の顔面が不随意運動している。
「・・・・・倦怠感で入院後、胃カメラを施行しました。点滴はポタコールを1日3本ペース。1500cc」
「いきなり胃カメラをされたのは、MKのリカレンス(再発)を疑ってのことですか?」
「そうです。便潜血は陰生でタール便なしでしたがヘモグロビン9.2g/dl」
「貧血あったんですか?」
「それはもう以前から・・失礼しました。5年前からです」
「ほっとったんですか?」
教室中が笑いにつつまれた。
「バイタルも変動ないし、症状もなかったですし・・吸収障害かと」
「吸収障害ねえ・・・?胃カメラのフォローは・・?」
「半年に1回してました。最終は5ヶ月前。残胃癌の再発はなし」
「メタ(他臓器への転移)とかは疑いましたか?」
「CTはこれですが・・」
石丸君はCTを掲げだした。
「これ、いつの?」
「よ、4年前。こ、今回のはまだ予約中で」
「・・・・・」
異様な雰囲気が流れ出した。
野中先生は足を組み替えた。
「で、入院時の胃カメラは?」
「やはり慢性胃炎でした」
「・・・で?」
「大腸ファイバーも施行しました。ポリープがありポリペク(ポリープ切除)」
「入院時の胸部レントゲンではすでに心臓が拡大してますね」
「はい」
「以前のは?」
「腹部は撮ってますが、胸部は全く」
「全くって?」
「記録にありません。かなり以前のは処分されてまして」
「古いカルテにも所見は?」
「ありません」
「で、1週間して呼吸苦があるから写真を撮ったら、この通り肺水腫になっていた、とでも?」
「はい。食事は昨日から開始しましたが、うけつけません」
「でしょうね・・」
「ですので、今もポタコールの点滴を続けています」
「・・・・・1日3本?」
「はい。3日前にブドウ糖に変えようとオーベンが言ってましたが、循環器にコンサルトしてからに
しようと思いまして」
「先生がですか・・?」
「はい!私が!」
エヘンとレジデントが反り返った。
次回、この医者の予後・・・極めて悪し。
<つづく>
「また消化器科からの紹介です。心不全だからそちらで取ってくれと。67歳男性。では、主治医!」
石丸君が立ち上がった。
「もともとは胃癌でフォローを受けていたようです。オペは15年前で、以後はstable」
レントゲンを提示。
みんなが次々に立ち上がり、前方へ歩み寄った。
野中先生が呆然としていた。
「肺水腫じゃないか!」
心拡大と両側のバタフライシャドウ。しかし仰臥位の写真だ。
野中先生は腕を組んで後ずさりし始めた。
「こんな段階になって、紹介してきやがって!石丸、入院はいつ?」
「1週間前です」
「呼吸困難で入院か?」
「・・・倦怠感だそうです」
「主治医はレジデントか?」
「ええ。1年目。私のもとクラスメートです」
「連れてこい!」
「は?」
「連れてこい、ってんだよ!こんな手遅れの症例、『はいそうですか』、と引き受けるわけにはいかねえんだよ!」
「申し送りはさきほど私が医局長と・・・」
野中先生は石丸君のむなぐらを掴んだ。
「うるさい!とにかく連れてこい!」
石丸君は動揺しまくり、ネクタイを直しながらカンファ室を出た。
総統が野中先生の肩を叩いた。
「ノナキー、今のはまあ、許す。あたしも同意見」
みんな席についた。
「医局長、どうも。では今のうちに次の人!」
「ウッス」
角刈り先生だ。
「43歳。サルの患者。呼吸器から」
窪田先生は顔をしかめた。
「猿?それともアンタ?」
「サル」
「ウッキッキー?」
「?」
「日本語で説明しなさいよ」
「日本語・・?サルコイドーシスはサルコイドーシスでしょが?」
「はいいいよ、続けて」
「?呼吸器科でフォロー。今回労作時に呼吸困難あり。レントゲンで心拡大」
「胸水は?」
「なし」
「超音波所見は?」
「中隔が一部薄いのと・・・」
「教科書どおりか、なるへそ・・・で?肝心の基礎疾患のコントロールは?」
「主治医は田島が」
「そうじゃなくて。基礎疾患のコントロールはどんな感じ?」
「活動性っか?」
「そうよ」
「高い、と聞いとると」
「じゃなくて。経過がどうか教えてほしいの!」
「田島からは・・・」
「あんたの意見を聞いてるの!」
窪田先生は両手を天井に上げた。
「循環器が循環器だけやってればいい、っていうもんじゃないわよ・・」
すると石丸君がさっそく消化器科のレジデントを連れて来た。
「おい、早く入れって!」
がり勉っぽい背の低い新米ドクターが入ってきた。メガネは牛乳瓶の底のようだ。
「・・・・・」
彼は無言で教壇のほうへ進んだ。
「経過は、石丸先生にお伝えしたとおり・・」
野中先生が足を組み、手で机をポンと叩いた。
「俺たちにも教えてくださいよ!せ・ん・せ・い!」
笑顔が逆に恐ろしかった。
「何にしましょう?」
「何に?」
「病歴ですか?それとも既往歴を・・?」
「入院してからの治療経過をお願いします」
野中先生の右の顔面が不随意運動している。
「・・・・・倦怠感で入院後、胃カメラを施行しました。点滴はポタコールを1日3本ペース。1500cc」
「いきなり胃カメラをされたのは、MKのリカレンス(再発)を疑ってのことですか?」
「そうです。便潜血は陰生でタール便なしでしたがヘモグロビン9.2g/dl」
「貧血あったんですか?」
「それはもう以前から・・失礼しました。5年前からです」
「ほっとったんですか?」
教室中が笑いにつつまれた。
「バイタルも変動ないし、症状もなかったですし・・吸収障害かと」
「吸収障害ねえ・・・?胃カメラのフォローは・・?」
「半年に1回してました。最終は5ヶ月前。残胃癌の再発はなし」
「メタ(他臓器への転移)とかは疑いましたか?」
「CTはこれですが・・」
石丸君はCTを掲げだした。
「これ、いつの?」
「よ、4年前。こ、今回のはまだ予約中で」
「・・・・・」
異様な雰囲気が流れ出した。
野中先生は足を組み替えた。
「で、入院時の胃カメラは?」
「やはり慢性胃炎でした」
「・・・で?」
「大腸ファイバーも施行しました。ポリープがありポリペク(ポリープ切除)」
「入院時の胸部レントゲンではすでに心臓が拡大してますね」
「はい」
「以前のは?」
「腹部は撮ってますが、胸部は全く」
「全くって?」
「記録にありません。かなり以前のは処分されてまして」
「古いカルテにも所見は?」
「ありません」
「で、1週間して呼吸苦があるから写真を撮ったら、この通り肺水腫になっていた、とでも?」
「はい。食事は昨日から開始しましたが、うけつけません」
「でしょうね・・」
「ですので、今もポタコールの点滴を続けています」
「・・・・・1日3本?」
「はい。3日前にブドウ糖に変えようとオーベンが言ってましたが、循環器にコンサルトしてからに
しようと思いまして」
「先生がですか・・?」
「はい!私が!」
エヘンとレジデントが反り返った。
次回、この医者の予後・・・極めて悪し。
<つづく>
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