<オーベン&コベンダーズ 4-19 名誉教授登場! >
2004年9月4日「ダメです。自分で調べるように」
みな笑いながら出て行った。
マーブル先生が後ろからやってきた。
「なあトシキ。ところでアレって何?」
「さあ・・」
田島先生がフィルム袋を持ったまま走っていく。
「あんたらアタマ、大丈夫!」
後日、PIE症候群と診断。こんな教科書程度の話が分からなかったりするようでは・・・。
僕の患者さんはもう1人、いた。
「66歳女性。甲状腺機能低下」
「ハイポ、ですかな・・循環器系のほうは?」
「心電図はこれです。特徴的な低電位もありません。ブロックもなし」
「ふうむ・・・カテのデータは・・」
「今回はカテは予定はなく・・」
「治療はこれからですな?」
「はい」
「治療の前後で、右心カテのデータを。三品君に協力してもらって」
「はい・・・」
またカテーテルか。イヤだな・・。
三品先生がしぶしぶと近づいてきた。
「トシキ、あのな・・・もういいよ。しなくても」
「え?でも・・」
「意味がない」
「でも今、教授から・・」
「次の回診からは、『解析中です』とか言っとけ」
「?」
「教授のことだから大丈夫。明日にはもう忘れてる。それにお前・・スランプだろ?」
「・・・・・」
教授は学生さんに質問している。リーダー格の男子学生が答える。
「甲状腺機能低下は、血圧は・・・」
「はい、上がります」
「それは、何がどうなるから上がるんかいな?」
「・・・心臓の、拍出量が・・」
「それはむしろ、下がるでしょ?」
「あ・・・」
「じゃあもう1つの因子が増えるから、ということになりますな」
「っと・・・・・」
「血圧を決める、もう1つの因子ですよ」
「血管抵抗・・」
「そう!このグループはよくできるね」
教授は出て行った。
学生達はフーッとため息をついていた。
「怖かったよー。対策ノート、やっぱいいわ、これ」
回診が終わり、みなカンファ室へ集まった。
医局長が入ってきた。
「あ、みんな。そのまま聞いてください」
みな一斉に注目した。
「これから地方会の準備に出かけます!レジデントの方々は・・・大丈夫ですか?時間と場所?」
僕らはもう打ち合わせていた。
「車2台で行きます」
「そうか。偉い先生方にもご挨拶しないといけないので。服装もきちんと!」
みなそのためにスーツを用意していた。
約束の時間。駐車場では次々と車が出て行く。学会自体は明日からで、僕らはその準備を手伝いに近隣の会場まで出向く。医師会の会場であり、そこにはOBの先生方が多数常勤している。
水野が機材を背負って車に近づいてきた。石丸君も荷物をかかえている。
「トランク、入るか?」
「入れて。ただしCDチェンジャーには入れないように!」
「この車は土禁か?」
「いや」
「長谷川・・・何やってる?」
「トイレだろ。女のトイレは長い」
「まったくだ。じゃ、先に乗る」
やっと長谷川さんが来た。
「じゃ、行くよ」
クラッチをゆっくりずらしながら、アクセルをふかした。
車は街を抜け、海が少し見える国道へ出た。周りにほとんど車はない。
「海か。久しぶりだ」
みんな眠っている。
この前、あのままデートしていたらこの海まで来ているはずだった。のに・・。
「いけないいけない!」
そうだ。今はあの患者さんを治さないと・・!
僕は雑念を振り払った。
車はすぐに会場へ到着した。
荷物を持って、入り口へ。
すでに宴会が始まっているようだ。
大きな会議室には40人くらいが長いすに腰掛けていた。
弁当も食べ終わって、びんビールが無数に置いてある。
大きな笑い声が響く。
僕らは助教授を見つけた。
「あ、先生・・・」
助教授は顔を真っ赤にして笑っていた。
「はっはは、は?おう!来た来た!レジデント諸君!」
すると周囲の3,4人がいきなりその場を立ち上がって席を譲り始めた。
みんな気遣いが過ぎるのか、それとも助教授から逃れたいのか。
「そこ、座れ!」
助教授は会議室の隅まで歩き、かなり年老いた老人を連れて来た。
アタマは完全に禿げており、杖歩行だ。
「ささ、どうぞ!」
僕らは助教授とその老人と向かい合った。
「ほら、立って挨拶しないか!自己紹介!」
僕らは誰かも知らないまま、1人ずつ挨拶した。
「すわれ!この方は、君らのOBでわしの恩師でもある名誉教授だ!」
名誉教授は少し微笑んだ。
「いやあ、今は名誉も何も・・」
「何をおっしゃいますか、先生。先生は貴重な方ですから。こうしてわざわざ残っていただいたのが
申し訳ないくらいで」
「それは気にしとらんよ。ただ・・」
「ただ・・?」
「晩ご飯がこの『から揚げ弁当』っちゅうのがのう!わっはは!」
「から・・・?あああ!失礼をばいたしましたあ!」
助教授は真っ青だ。空中で土下座までしている。
「わっはは。いい、いい。そう頭下げなさんな。病院ではいつも上げとるくせに!
ハゲ隠して?それはわしか?わっははは!」
「は・・・はっはは!」
助教授も少しずつ笑い始めた。
「レジデントの君らにも分かると思うが、この男は気が小さくて臆病でな」
僕らは冷や汗加減で頭を小刻みに横に振った。
「ついでにタマもな!うわっははははは!」
知らない間に会場が爆笑の渦に包まれていた。豪快な人だ。
僕は名誉教授にお願いした。
「ではこれより、2階の会場で準備を・・」
「ああ、ありがとう。なんなら・・」
名誉教授は助教授の腰に後ろから杖でたたいた。
「この男も使っていいぞ!うわっはははははは!」
また爆笑の渦になる中、僕らは2階まで上がっていった。
次回、完結。
みな笑いながら出て行った。
マーブル先生が後ろからやってきた。
「なあトシキ。ところでアレって何?」
「さあ・・」
田島先生がフィルム袋を持ったまま走っていく。
「あんたらアタマ、大丈夫!」
後日、PIE症候群と診断。こんな教科書程度の話が分からなかったりするようでは・・・。
僕の患者さんはもう1人、いた。
「66歳女性。甲状腺機能低下」
「ハイポ、ですかな・・循環器系のほうは?」
「心電図はこれです。特徴的な低電位もありません。ブロックもなし」
「ふうむ・・・カテのデータは・・」
「今回はカテは予定はなく・・」
「治療はこれからですな?」
「はい」
「治療の前後で、右心カテのデータを。三品君に協力してもらって」
「はい・・・」
またカテーテルか。イヤだな・・。
三品先生がしぶしぶと近づいてきた。
「トシキ、あのな・・・もういいよ。しなくても」
「え?でも・・」
「意味がない」
「でも今、教授から・・」
「次の回診からは、『解析中です』とか言っとけ」
「?」
「教授のことだから大丈夫。明日にはもう忘れてる。それにお前・・スランプだろ?」
「・・・・・」
教授は学生さんに質問している。リーダー格の男子学生が答える。
「甲状腺機能低下は、血圧は・・・」
「はい、上がります」
「それは、何がどうなるから上がるんかいな?」
「・・・心臓の、拍出量が・・」
「それはむしろ、下がるでしょ?」
「あ・・・」
「じゃあもう1つの因子が増えるから、ということになりますな」
「っと・・・・・」
「血圧を決める、もう1つの因子ですよ」
「血管抵抗・・」
「そう!このグループはよくできるね」
教授は出て行った。
学生達はフーッとため息をついていた。
「怖かったよー。対策ノート、やっぱいいわ、これ」
回診が終わり、みなカンファ室へ集まった。
医局長が入ってきた。
「あ、みんな。そのまま聞いてください」
みな一斉に注目した。
「これから地方会の準備に出かけます!レジデントの方々は・・・大丈夫ですか?時間と場所?」
僕らはもう打ち合わせていた。
「車2台で行きます」
「そうか。偉い先生方にもご挨拶しないといけないので。服装もきちんと!」
みなそのためにスーツを用意していた。
約束の時間。駐車場では次々と車が出て行く。学会自体は明日からで、僕らはその準備を手伝いに近隣の会場まで出向く。医師会の会場であり、そこにはOBの先生方が多数常勤している。
水野が機材を背負って車に近づいてきた。石丸君も荷物をかかえている。
「トランク、入るか?」
「入れて。ただしCDチェンジャーには入れないように!」
「この車は土禁か?」
「いや」
「長谷川・・・何やってる?」
「トイレだろ。女のトイレは長い」
「まったくだ。じゃ、先に乗る」
やっと長谷川さんが来た。
「じゃ、行くよ」
クラッチをゆっくりずらしながら、アクセルをふかした。
車は街を抜け、海が少し見える国道へ出た。周りにほとんど車はない。
「海か。久しぶりだ」
みんな眠っている。
この前、あのままデートしていたらこの海まで来ているはずだった。のに・・。
「いけないいけない!」
そうだ。今はあの患者さんを治さないと・・!
僕は雑念を振り払った。
車はすぐに会場へ到着した。
荷物を持って、入り口へ。
すでに宴会が始まっているようだ。
大きな会議室には40人くらいが長いすに腰掛けていた。
弁当も食べ終わって、びんビールが無数に置いてある。
大きな笑い声が響く。
僕らは助教授を見つけた。
「あ、先生・・・」
助教授は顔を真っ赤にして笑っていた。
「はっはは、は?おう!来た来た!レジデント諸君!」
すると周囲の3,4人がいきなりその場を立ち上がって席を譲り始めた。
みんな気遣いが過ぎるのか、それとも助教授から逃れたいのか。
「そこ、座れ!」
助教授は会議室の隅まで歩き、かなり年老いた老人を連れて来た。
アタマは完全に禿げており、杖歩行だ。
「ささ、どうぞ!」
僕らは助教授とその老人と向かい合った。
「ほら、立って挨拶しないか!自己紹介!」
僕らは誰かも知らないまま、1人ずつ挨拶した。
「すわれ!この方は、君らのOBでわしの恩師でもある名誉教授だ!」
名誉教授は少し微笑んだ。
「いやあ、今は名誉も何も・・」
「何をおっしゃいますか、先生。先生は貴重な方ですから。こうしてわざわざ残っていただいたのが
申し訳ないくらいで」
「それは気にしとらんよ。ただ・・」
「ただ・・?」
「晩ご飯がこの『から揚げ弁当』っちゅうのがのう!わっはは!」
「から・・・?あああ!失礼をばいたしましたあ!」
助教授は真っ青だ。空中で土下座までしている。
「わっはは。いい、いい。そう頭下げなさんな。病院ではいつも上げとるくせに!
ハゲ隠して?それはわしか?わっははは!」
「は・・・はっはは!」
助教授も少しずつ笑い始めた。
「レジデントの君らにも分かると思うが、この男は気が小さくて臆病でな」
僕らは冷や汗加減で頭を小刻みに横に振った。
「ついでにタマもな!うわっははははは!」
知らない間に会場が爆笑の渦に包まれていた。豪快な人だ。
僕は名誉教授にお願いした。
「ではこれより、2階の会場で準備を・・」
「ああ、ありがとう。なんなら・・」
名誉教授は助教授の腰に後ろから杖でたたいた。
「この男も使っていいぞ!うわっはははははは!」
また爆笑の渦になる中、僕らは2階まで上がっていった。
次回、完結。
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