マーブル先生を撃退して、みな盛り上がっていた。

「凄いぞトシキ。頑張ってセンターへ行け!」

僕は返事もなく部屋を出て、ARDSの患者さんの病室へ向った。
詰所の中ではマーブル先生が血相を変えて電話している。というか吼えまくっている。

血の気の多い先生だな・・。循環器グループがピッタリだ。

重症個室部屋に入ると、後ろから引き続きナースが数人やってきた。

僕の患者のベッドを横にずらしていく。
「おいおい!ここは個室だよ・・?」
「入院がここに入るんです!」
「え?ここにもう1人?」

やがてベッドとマーブル先生がやってきた。
「野中の野郎・・・!」
酸素マスクを吸っている患者。高齢者だ。重症肺炎の方だろう。
「部屋、ここしかねえじゃねえかよ・・!」

患者さんはゴフゴフ、咳き込んでいる。マーブル先生は腕組みで指示を始めた。

「おいナース!吸引だよ吸引!」
ナースは無言で吸引を開始した。
「どうした?出てないぞ!しっかりやれ!」
ナースは奥深くまでチューブを突っ込んでいるが、かなりネバイ痰のようだ。
「貸せ!」
マーブル先生が吸引。しかし痰はいっこうに出てこない。
「なんでだよ・・・!」

患者の首が嫌がったと思ったとたん、少し喀血した。正確には口腔内からの出血か。咽頭かも。

「おおっとこりゃあ・・・ベッド上げて上げて!ベッドベッド!」
患者さんは肩で呼吸をし始めている。

「酸素全開で!酸素酸素酸素!おいトシキ!こういうとき、気切とかするのか?気切は?」
「いや・・・しないと思います」
「ふん、そうか。だろうな」

モニターではSpO2 85%。

「トシキ、お前もうちょっとここに居るか?」
「ええ、しばらくは」
「酸素は今、リザーバマスク全開でいってる。オレは1時間したら様子見に来る」
「1時間?」
「次のカテ当番に行かないといけないんだよ!」
「先生。酸素化の指標は10分後だと思い・・」
「痰は少しは出たし。マシになるだろう?」
「ですが先生、場合によっては挿管を・・」
「あ、ああ。悪くなったらな」
「?」
「ま、そこは臨機応変にな。頼んだぞ!」

マーブル先生は出て行った。これでは・・患者さんが危ない。
僕は側の血ガスキットを取り出した。

廊下で島先生が顔を出している。
「取れた?持って行くよ」
「頼んだ!」

僕は自分の患者さんの確認にかかった。

そうだ。気管支鏡したときのBALの結果、出てないかな・・。

細菌検査室へ問い合わせ。
「結果を。ええ。そうですか。待ちます」
どうやらじきに分かるようだ。

島先生が血ガス結果を持ってきた。
「トシキ!これじゃいかんぜよ!」
「はあ?pCO2 79mmHg?」
「挿管だよ!全員集合?」
「・・・・僕らでやろう」
「よしきた!用意する!」

近くの廊下に置いてある救急カートを島先生は持ってきた。
「サイズは7.5Fr?」
「ああ」

『焦るな。トシキ・・・』

声が聞こえてくるドクターがいるって聞いてたな。僕もなんとなく。

これってお得?それとも・・・病気?

喉頭鏡で、患者の喉を注視。
「見える!島先生!チューブを!」
「ほい!」
チューブをゆっくり挿入・・・。

島先生がモニターを監視。
「徐脈だよ・・・」
「焦るな!大丈夫!必ず助ける!」

目線をずらすことなく、僕は確実にチューブを挿入した。

「島!アンビューを!」
「そ、そうだったな!すまん!」
「・・・・入ってる!固定する!島!吸引を!」
「わかった!」


ようやく処置が終わった。脈はまた正常に復した。
人工呼吸器は鎮静を要さずSIMVで換気している。

「島先生、ありがとう」
「こちらこそ。また言えよ」
「成長したよな」
「お前だって。なんか男らしくなった」

ドカン、という勢いで部屋のドアが開けられた。
「おい!これは・・・?」
マーブル先生が術衣のまま大汗でやってきた。
「どういうことだ?」

島先生が悪戯っぽくマーブル先生を見上げた。
「先生、思いっきりナルコーシスでしたよ」
「なに?データはこれか?」
「僕ら2人で挿管しました」
「息は止まってたのか?」
「いや、浅促性でした」
「なんとかできなかったのか?」
「だから。なんとかしましたわけです。ハイ」
「何だ貴様。その口のききかたは!」
「?」
「痰をもうちょっと引くとか、ドプラムを使ってCO2を減らすとか・・!」

僕は呆れてものが言えなかった。

「ま、今言ってもしょうがないか」
マーブル先生はマスクを外し、呼吸器の条件設定を確認した。

これで個室に2人、呼吸器ついた患者さんが揃ったわけだ。
マーブル先生は部屋を見渡した。
「トシキと2人3脚みたいで、イヤだな」

僕ら2人は廊下へ出た。

「島先生。今の聞いたかい?2人3脚だって」
「てめえ1人で頑張れってんだ!」
「そうだな。手は貸したが・・・脚まではな」
「そうだそうだ!もっといけ!いてまえ!」

詰所でナースから連絡。

「細菌研究室からです」
「はい。もしもし」
「カリニ、出ました。あとバクテロイデス」
「仮に?」
「カリニですよ、カリニ。カリニ肺炎の!」
「ああ、カリニ!」

僕は医局まで走った。
「田島先生と塩見先生は?」
「いないよ。帰った」
医局長が出てきた。
「BALのときの培養で出ました!カリニとバクテロイデスが!」
「そうか!では抗生剤、変更だな!」
「ええ!」

病棟のカンファ室で、抗生剤変更の指示。
「まさかカリニまでいたとは・・」
僕は指示を書き終えた。

島先生が覗く。
「今日は大ハッスルだな」
「よく働いたよ。給料足りないよ」
「肺炎が軽快したら、今度は・・・気管切開か?」
「いや・・・・」
「?」

ウイニングだ!

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