「ささ、時間がないので駆け足で。トシキ先生!」
「はい!」
思わず返事が出た。
「返事は不要。確かに君も、生真面目ですね。君は2年目にしていながら病棟医長の片腕、副病棟医長として
実質的には病棟での中心的存在でした」
「・・・・・」
「その上に、1年目ドクターへの個人指導、実験の手伝いなど、あらゆる方面で君を見かけなかったことはない」
「・・・・・」
「1度、大変なときもありましたね。しかし君はめげることなく、あの患者さんを助けました。今は・・リハビリ中?」
「はい。車椅子で」
「食事も食べれているんですよね?」
「ええ」
「先生のその忍耐力、気力をみんな、見習わないといけませんね」

水野が嬉しそうに僕のほうを振り向いている。僕は小さくピースした。

「では急ぎます。3年目の・・間宮先生・川口先生はセンター希望なしですね。田島先生から」
あちこちから小さなバスケスコールが飛んできた。田島先生は中指を立てて対抗した。

「君は他の3人とともに、わが医局の救世主として勤務して頂いているわけですが。その内容は期待以上のものです」
またバスケスコールが飛んだ。

「手技には多少煩雑な点もみられますが、いえ決して下手とかいうわけではないですよ」
傭兵達が爆笑した。
「一見大胆ではありますが、何をも恐れないその姿勢。何にも動じない度胸。臨床医としてのこれからも楽しみです」
田島先生は浮かない顔になった。

「次、同じく呼吸器の塩見先生。ボーッとしてるなこの先生、というのが私の第一印象でしたが。とんでもありません、
非常に見事に、クールに仕事をこなす。写真の読影、カルテの記入も正確」

確かに、ロボットみたいな先生だものな。

「次、男おいどんの、緒方先生」
「うい!」
「最近おとなしいですね」

緒方先生は最初につまづいてから、いまいち存在感がなくなった。というか、マーブル先生と徒党を組んで巡回している
のは見かけていた。

「槙原先生といっしょにカテを・・何例?」
「昨日のを合わせて・・・40例くらい」
「頑張りますね、先生。一般病院なら重宝されますよ、先生の腕なら。ですが・・」
「?」
「ここは大学病院ですからね。他の業務も大事です」
「・・・・・」
「病棟の患者さんも診ないといけませんし」
「・・・・・」
「決められた書類も素早く提出しないといけません」

緒方先生のルーズさは最近顕著だった。教授のゴーストライターも、最近降ろされた。

「槙原先生」
みんなマーブル先生に注目した。
「君はカテ室での中心的存在、外来・実験室でもその場を仕切りそうなほどの迫力ですね」
マーブル先生はニンマリ微笑んだ。
「ですが・・・」

そらきた。

「当医局はあくまでも、循環器だけでなく呼吸器内科も含めてやってます」
マーブル先生の顔がひきつった。
「先生が循環器専門ということで症例を選びたい気持ちは分かります。しかし・・」

島先生が小さく「行け!行け!」とパンチしている。

「本来、患者さんは選ぶものではないのです」
マーブル先生は大きく揺さぶられた。
「どんな患者さんがくるかなど、本来分かるものではありません。自分の専門だと思っていたのが
そうでなかったりする。そんなとき、ああこれは自分の出番でないからと突っぱねるのは言語道断です」

言語道断、か・・。医局長、キツイな・・。

「君はもう少し、考えを改めなさい」

教授、助教授もふんふんと頷いていた。
マーブル先生は不安そうに、真横の草波氏を覗き込んでいた。
草波氏は肘を机について、自分の細いアゴをむんずと掴んだ。

「以上、私からコメントしたわけですが。これらの内容からするともう決まりのようですが」

ぼ、僕なのか・・。たぶん。いや、まず間違いない・・。

「数日前、状況が変わりまして」

みなお互い、顔を見合わせた。言ってる内容の意味がよく分からない。

「新たな希望者が出たことで、私たちも再考する必要に迫られました」

新たな希望者・・・?僕は周囲を見回した。水野・・・間宮先生・・・・。

「これが結論です。その希望者に、センター行きの切符を渡すことにしました」



なんだと?

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