< オーベン&コベンダーズ 5-15 見えない火花 >
2004年9月28日「日曜日は見送りに?」
「見送り・・ああ、野中先生のか」
「そりゃ行くだろな。お前のもとオーベンだ。あ、ところでさ」
「?」
「草波っていただろう?」
「ドクターバンクかい、あの人?」
「知ってたか?あいつ、4人の傭兵の誰かをセンターに行かせるために、
この医局に介入してきたんだぜ」
「なんだそれ?」
「最初は医局とそういう契約をしていたんだが、こんな意外な結果になってしまった」
「医局が裏切ったってこと?」
「ああそうだ。ここだけの話だ」
「そうなると、大丈夫かなあ・・」
「何が?」
「その傭兵たちだよ。ここにいる意味がないだろう?」
「そうだな・・・」
島・・・。この男、なんでこんな話まで・・。
そういえば気になることがあった。
「島。ちょっと話が変わるが」
「?」
「この前、週1バイトの病院の院長にまた呼ばれてな」
「ああ、例の話、出たのか?後継者の」
「出た。で、常勤の医者がクビになった」
「癖のある常勤だからな」
「僕が夜間に彼に怒鳴られた話・・・・君にしたよな。以前」
島は目を逸らした。
「ああ、うん」
「院長が知ってたんだよ。不思議なことに」
「ふーん・・・。誰かがチクったんだろか?」
「ひょっとして君が・・」
「おいおい!」
島はあわてて両手を振った。
「人聞きの悪いことを言うなよ!人をスパイみたいに・・」
「そこまでは言ってない。だが・・」
「なんだよ、センター行けなかったのがそんなに悔しいか」
「なに?」
無言のまま、僕らの間に火花が走った。
日曜日、見送りの日。
朝の9時、詰所へ。数時間後に空港へ向う計算。
「おはようございます・・」
詰所の中のナース5人は黙って雑用中だ。そのうち1人がやっと気づいてこちらへやってきた。
「肺癌で化学療法の患者さん」
「それ、僕の患者じゃない」
「熱が40度ありまして」
「・・・で?」
「発熱時の指示を」
「・・・・なんだよ。カルテにちゃんと書いてあるじゃないか!」
僕はかなり短気な、というかイライラ癖がついていた。
「え?ああ、はあ・・・」
「ちゃんと確認してくださいよ!」
返事もなくナースはイスに腰掛けた。
僕はふと気づいた。
「注射当番、まだ来てないのか・・!」
ナースも知らないといった素振りだ。というか無関心だ。
「今日の当番は・・・・」
島か。あいつ・・・!
僕は詰所から携帯にコールした。
「もしもし」
「島!何やってんだよ」
「え?ああ、注射当番だろ?」
「朝の9時、回ってるぞ!朝8時の指示だってあるのに!」
「怒るな怒るな・・・もう行くから」
「すぐ来てくれよ。僕はしないから」
ナースが1人やってきた。
「先生。患者さんから早く注射来てくれとクレームが」
「島が今から来る!そう伝えてよ!」
「そ、それは先生から患者さんに直接おっしゃっていただかないと・・」
「僕だってこれから回診とかムンテラとかあるんだ!」
僕は部屋廻りを始めた。
大部屋に入ると、心不全治療中の中年女性がいた。
心不全は軽症で、酸素吸入と利尿剤のみだ。
「どうですか?眠れましたか?」
「眠れん眠れん。横のオバアのイビキがうるさくて」
「息苦しさは?」
「ちっとも変わらん。いつ退院できるんかの?」
「入院してまだ3日ですし・・」
「ん?」
ゴミ箱に目をやると、大量のジュース空き缶が入っている。
「これは・・・?」
「?ああこれ・・?」
中年女性はむくっと起き上がった。
「これな・・・・これ、親戚がやってきて皆ここで飲んでいったんやわ」
「・・・・・」
「ちゃうで先生、騙されんといてやあ」
そう呟いたのは、カーテン越しに隣り合わせの「オバア」だった。
影だけ見える。
「あんたあ、先生に1日の水分制限されとるくせに、夜中にグビグビグビグビ、
何本も飲みあさりよったじゃないかあ」
中年女性も反撃する。
「見てもないのにあんたあ、ようそんな事が言えるわい!」
「親戚なんか来とらんだろが!」
「先生!部屋代えてちょうだい!このオバアうっとうしい」
「部屋はないって看護婦さん、言うとったぞ!」
「お前が帰ったらええんじゃ!どうせやったら地下室から帰れ!」
なんて会話だ・・。でもオバアの言う事が当たってそうだ。
こっちが一生懸命計画たてて治療してても、本人に治す気がなけりゃダメだ。
僕は別の部屋へ移った。
30代男性の心臓神経症だ。刑事をやっている。
「おはようございます」
「お、こりゃどうも!」
「動悸は減りましたか?」
「あれ何の薬ですか?」
「不整脈のです」
「すごくよく効いてますね!服用して5分も経ってないのに」
腸に吸収されるまで15分はかかるのに・・。
「そうですか、ま、よかったじゃないですか」
「でもそれだけ効くってことは、強力な副作用があるってことやな?」
「え?それは・・」
「いやな、わし。刑事やってていろいろ怖い経験しとるさかい。薬に
関してもかなり偏見みたいなの持ってるわけよ」
「え、ええ・・」
「それがそのうち癖になってやなあ、どっかそこらでのたれ死にしたりとか、
ほら、ようあるやんか」
よく喋る人だ・・。
「じゃ、明日には退院やな!」
「え?まだです。いちおう負荷試験をして・・」
「あはは、そうやったそうやった。病院におるんだから、病院のルールに従わんとな!」
「ええ、まあ」
「そうせんと先生に逮捕されてしまうわ!あっはは!」
「ちょ、ちょっと・・」
患者は僕の手首を握って、手錠のフリをした。
検査で負荷をかけられ過ぎで「アレスト」にならないように・・。
「あっはは、すまんすまん。じゃ、よろしく!」
やっと開放された。
どうやら、向精神薬が効きすぎているようだ・・。
廊下へ出ると、島が眠そうに点滴台を引っ張っていた。
「島・・・」
「ちゃんとやってるから、いいだろ?」
「大丈夫なのか?」
「ああ。ほっといてくれ」
島はそのまま個室へと入っていった。
僕は回診を終えてカルテ記入し詰所へ戻り、見送りの出発にさしかかった。
「見送り・・ああ、野中先生のか」
「そりゃ行くだろな。お前のもとオーベンだ。あ、ところでさ」
「?」
「草波っていただろう?」
「ドクターバンクかい、あの人?」
「知ってたか?あいつ、4人の傭兵の誰かをセンターに行かせるために、
この医局に介入してきたんだぜ」
「なんだそれ?」
「最初は医局とそういう契約をしていたんだが、こんな意外な結果になってしまった」
「医局が裏切ったってこと?」
「ああそうだ。ここだけの話だ」
「そうなると、大丈夫かなあ・・」
「何が?」
「その傭兵たちだよ。ここにいる意味がないだろう?」
「そうだな・・・」
島・・・。この男、なんでこんな話まで・・。
そういえば気になることがあった。
「島。ちょっと話が変わるが」
「?」
「この前、週1バイトの病院の院長にまた呼ばれてな」
「ああ、例の話、出たのか?後継者の」
「出た。で、常勤の医者がクビになった」
「癖のある常勤だからな」
「僕が夜間に彼に怒鳴られた話・・・・君にしたよな。以前」
島は目を逸らした。
「ああ、うん」
「院長が知ってたんだよ。不思議なことに」
「ふーん・・・。誰かがチクったんだろか?」
「ひょっとして君が・・」
「おいおい!」
島はあわてて両手を振った。
「人聞きの悪いことを言うなよ!人をスパイみたいに・・」
「そこまでは言ってない。だが・・」
「なんだよ、センター行けなかったのがそんなに悔しいか」
「なに?」
無言のまま、僕らの間に火花が走った。
日曜日、見送りの日。
朝の9時、詰所へ。数時間後に空港へ向う計算。
「おはようございます・・」
詰所の中のナース5人は黙って雑用中だ。そのうち1人がやっと気づいてこちらへやってきた。
「肺癌で化学療法の患者さん」
「それ、僕の患者じゃない」
「熱が40度ありまして」
「・・・で?」
「発熱時の指示を」
「・・・・なんだよ。カルテにちゃんと書いてあるじゃないか!」
僕はかなり短気な、というかイライラ癖がついていた。
「え?ああ、はあ・・・」
「ちゃんと確認してくださいよ!」
返事もなくナースはイスに腰掛けた。
僕はふと気づいた。
「注射当番、まだ来てないのか・・!」
ナースも知らないといった素振りだ。というか無関心だ。
「今日の当番は・・・・」
島か。あいつ・・・!
僕は詰所から携帯にコールした。
「もしもし」
「島!何やってんだよ」
「え?ああ、注射当番だろ?」
「朝の9時、回ってるぞ!朝8時の指示だってあるのに!」
「怒るな怒るな・・・もう行くから」
「すぐ来てくれよ。僕はしないから」
ナースが1人やってきた。
「先生。患者さんから早く注射来てくれとクレームが」
「島が今から来る!そう伝えてよ!」
「そ、それは先生から患者さんに直接おっしゃっていただかないと・・」
「僕だってこれから回診とかムンテラとかあるんだ!」
僕は部屋廻りを始めた。
大部屋に入ると、心不全治療中の中年女性がいた。
心不全は軽症で、酸素吸入と利尿剤のみだ。
「どうですか?眠れましたか?」
「眠れん眠れん。横のオバアのイビキがうるさくて」
「息苦しさは?」
「ちっとも変わらん。いつ退院できるんかの?」
「入院してまだ3日ですし・・」
「ん?」
ゴミ箱に目をやると、大量のジュース空き缶が入っている。
「これは・・・?」
「?ああこれ・・?」
中年女性はむくっと起き上がった。
「これな・・・・これ、親戚がやってきて皆ここで飲んでいったんやわ」
「・・・・・」
「ちゃうで先生、騙されんといてやあ」
そう呟いたのは、カーテン越しに隣り合わせの「オバア」だった。
影だけ見える。
「あんたあ、先生に1日の水分制限されとるくせに、夜中にグビグビグビグビ、
何本も飲みあさりよったじゃないかあ」
中年女性も反撃する。
「見てもないのにあんたあ、ようそんな事が言えるわい!」
「親戚なんか来とらんだろが!」
「先生!部屋代えてちょうだい!このオバアうっとうしい」
「部屋はないって看護婦さん、言うとったぞ!」
「お前が帰ったらええんじゃ!どうせやったら地下室から帰れ!」
なんて会話だ・・。でもオバアの言う事が当たってそうだ。
こっちが一生懸命計画たてて治療してても、本人に治す気がなけりゃダメだ。
僕は別の部屋へ移った。
30代男性の心臓神経症だ。刑事をやっている。
「おはようございます」
「お、こりゃどうも!」
「動悸は減りましたか?」
「あれ何の薬ですか?」
「不整脈のです」
「すごくよく効いてますね!服用して5分も経ってないのに」
腸に吸収されるまで15分はかかるのに・・。
「そうですか、ま、よかったじゃないですか」
「でもそれだけ効くってことは、強力な副作用があるってことやな?」
「え?それは・・」
「いやな、わし。刑事やってていろいろ怖い経験しとるさかい。薬に
関してもかなり偏見みたいなの持ってるわけよ」
「え、ええ・・」
「それがそのうち癖になってやなあ、どっかそこらでのたれ死にしたりとか、
ほら、ようあるやんか」
よく喋る人だ・・。
「じゃ、明日には退院やな!」
「え?まだです。いちおう負荷試験をして・・」
「あはは、そうやったそうやった。病院におるんだから、病院のルールに従わんとな!」
「ええ、まあ」
「そうせんと先生に逮捕されてしまうわ!あっはは!」
「ちょ、ちょっと・・」
患者は僕の手首を握って、手錠のフリをした。
検査で負荷をかけられ過ぎで「アレスト」にならないように・・。
「あっはは、すまんすまん。じゃ、よろしく!」
やっと開放された。
どうやら、向精神薬が効きすぎているようだ・・。
廊下へ出ると、島が眠そうに点滴台を引っ張っていた。
「島・・・」
「ちゃんとやってるから、いいだろ?」
「大丈夫なのか?」
「ああ。ほっといてくれ」
島はそのまま個室へと入っていった。
僕は回診を終えてカルテ記入し詰所へ戻り、見送りの出発にさしかかった。
コメント