< オーベン&コベンダーズ 5-16 陰口 >
2004年9月30日空港入り口に入るその手前で、後ろからポンと肩をたたかれた。
「窪田先生?」
総統は川口先生を従えてやってきていた。彼らは「公認の」でなく「暗黙の」
カップルということになっている。どこまで進んでいるのかは知らないが・・。
「アンタ、目にクマが出来てるよ。大丈夫?」
総統は僕の顔を両手で補正するように押さえた。
「はい。いけます」
僕らは無言で空港のロビーまで歩いた。待ち合わせの空港名と時間しか聞いておらず、
いったいどこへ行けばいいのか・・。
総統は携帯を鳴らした。
「三品?みんな、どこよ?・・・はいはい。喫茶。例のね。はいはい」
どうやらお決まりの場所があるようだ。
僕らは小さなレストランに入った。そこでは10人ほどの人間が待っていた。
みなすでに注文して、ほぼ食べ終わっている。総統は残念そうだった。
「あら?ボクたちの分は?」
奥から人懐っこく手を振ってる先生がいた。僕は思わず叫んだ。
「ネズ・・・畑先生じゃないですか!」
「おう!」
みんなスーツ姿の中、彼だけジーンズだった。でもそこが彼らしい。
「畑先生。久しぶりですね」
「呼吸器グループはオレと、グッチゃんだけか?」
そうだ。ほとんどが循環器グループだ。同僚の見送りぐらい、みな
総出で来ればいいのに・・・。
窪田先生は腕時計を見やった。
「出発まで1時間半か。ちょっと早く来すぎたね」
三品先生は飲みすぎで顔が真っ赤だ。
「野中の野郎!ギリギリまで来ねえのかな?くそっ。おい!もう1杯頼め!」
三品先生は大ジョッキをおもいっきり叩きつけた。
窪田先生は畑先生の横に座った。
「なんか・・・ずいぶんな処罰を受けられるそうで?」
「も、やめましょ!そんな話!」
畑先生はホントに気まずそうだった。
「だから、言ったのに!外の病院は厳しいのよって!もうちょっと大学で学んでから出るべき!」
「今さら、しょうがないッスよ!」
僕には事情がよく分からなかった。
窪田先生は1杯目のジョッキを飲み干した。
「岐阜かぁ・・・。遠いなあ」
僕は驚いた。
「岐阜・・・転勤ですか?畑先生?」
畑先生はタバコに火をつけ、短く天井に煙した。
「そうだよ。だからなんだっての?」
「岐阜にも関連病院があったんですね・・」
「へっ!」
三品先生が覗き込んだ。
「でもいいじゃねえか。好きなように任せてくれるんだからよ!」
畑先生は無視した。
しかし畑先生は大学から出て半年くらいのはずだ。もう転勤とは・・。
何かあったんだろうか。
畑先生がトイレに向った直後、いきなり皆、彼の話題に入った。
窪田先生が首をかしげ、僕に話しかけてきた。
「ま、あれじゃあどこでも使えないだろうけどね」
「そ、そうなんですか?」
「教授は今年から、デキナイ医者の一掃化を図るつもりらしいわよ」
「一掃化?」
「医局の人数が増えてきたでしょ。だから、いらんヤツはポイ!」
「し、しかし・・・」
傭兵達がみな辞めてしまう危険もあるのに・・。
「教授はずっと言いたかったらしいよ。デキナイ医者はこうなるって!」
「し、しかし・・・」
「何アンタ。しかししかしって・・・。もしかしてシカシ男?モシカシテシカシ男?
これ早口言葉で言える?」
「それじゃまるで、見せしめのような・・」
「いや、いいのよ。それで」
総統からそんな冷酷な言葉が出るとは・・。
「医局の理念に従わない人間は、みなそうなるの!」
「理念・・・」
「医局員として恥ずかしくない医師!」
僕は皆を見てて、恥ずかしくてしようがないんだが・・。
「あたしは一見、温厚に見えるだろうけど。ま、タテマエは大事。それも世渡り」
「え?」
「医局を守るためなら、何だってやる。そうよね、みんな!」
三品先生ら助手・院生はみな首を縦に振っている。
「次はあのユウキが、春に例の病院へ飛ばされて・・・」
「国営から民間になる病院ですね?」
「そ。あそこは療養病棟扱い。何もさせてはくれないよ」
「・・・・・」
「何かされたら困るからね」
「その先生も、医局の理念を・・?」
「ダメダメ。最初はまあできるヤツかと思ったけど。病院からは飛び出すし、先輩には
殴りかかったらしいし・・」
「あ、それはいけませんね」
「だから、これからはそういう医者をつるし上げておかないと、これからどんどん増えるわけ」
「なるほど・・・」
「分かりましたか?シカシ男。バットマン!」
総統の横のグッチ先生は無表情で聞いているが・・。総統のどこがよかったんだろう・・。
三品先生が腕時計を見た。
「おい。そろそろ搭乗準備にかかる時間だぞ」
みな立ち上がり、イスをしまいはじめた。
搭乗口近くで、彼を待ち伏せることになった。
「トシキよ!」
「は?」
畑先生が気まずそうに話しかけてきた。
「お前さ。いろいろ聞くよ。噂で」
「なんです?どうせろくでもない・・」
「おうおう、怒るな怒るな。怒ったことない奴なのに」
「岐阜は遠いですね」
「ああ、一応行くよ。だがな・・」
「あまりいい病院ではないんですか?」
「ズバリ聞く奴だな。正直、ここだけの話・・」
ヒソヒソ声に変わった。
「窪田先生?」
総統は川口先生を従えてやってきていた。彼らは「公認の」でなく「暗黙の」
カップルということになっている。どこまで進んでいるのかは知らないが・・。
「アンタ、目にクマが出来てるよ。大丈夫?」
総統は僕の顔を両手で補正するように押さえた。
「はい。いけます」
僕らは無言で空港のロビーまで歩いた。待ち合わせの空港名と時間しか聞いておらず、
いったいどこへ行けばいいのか・・。
総統は携帯を鳴らした。
「三品?みんな、どこよ?・・・はいはい。喫茶。例のね。はいはい」
どうやらお決まりの場所があるようだ。
僕らは小さなレストランに入った。そこでは10人ほどの人間が待っていた。
みなすでに注文して、ほぼ食べ終わっている。総統は残念そうだった。
「あら?ボクたちの分は?」
奥から人懐っこく手を振ってる先生がいた。僕は思わず叫んだ。
「ネズ・・・畑先生じゃないですか!」
「おう!」
みんなスーツ姿の中、彼だけジーンズだった。でもそこが彼らしい。
「畑先生。久しぶりですね」
「呼吸器グループはオレと、グッチゃんだけか?」
そうだ。ほとんどが循環器グループだ。同僚の見送りぐらい、みな
総出で来ればいいのに・・・。
窪田先生は腕時計を見やった。
「出発まで1時間半か。ちょっと早く来すぎたね」
三品先生は飲みすぎで顔が真っ赤だ。
「野中の野郎!ギリギリまで来ねえのかな?くそっ。おい!もう1杯頼め!」
三品先生は大ジョッキをおもいっきり叩きつけた。
窪田先生は畑先生の横に座った。
「なんか・・・ずいぶんな処罰を受けられるそうで?」
「も、やめましょ!そんな話!」
畑先生はホントに気まずそうだった。
「だから、言ったのに!外の病院は厳しいのよって!もうちょっと大学で学んでから出るべき!」
「今さら、しょうがないッスよ!」
僕には事情がよく分からなかった。
窪田先生は1杯目のジョッキを飲み干した。
「岐阜かぁ・・・。遠いなあ」
僕は驚いた。
「岐阜・・・転勤ですか?畑先生?」
畑先生はタバコに火をつけ、短く天井に煙した。
「そうだよ。だからなんだっての?」
「岐阜にも関連病院があったんですね・・」
「へっ!」
三品先生が覗き込んだ。
「でもいいじゃねえか。好きなように任せてくれるんだからよ!」
畑先生は無視した。
しかし畑先生は大学から出て半年くらいのはずだ。もう転勤とは・・。
何かあったんだろうか。
畑先生がトイレに向った直後、いきなり皆、彼の話題に入った。
窪田先生が首をかしげ、僕に話しかけてきた。
「ま、あれじゃあどこでも使えないだろうけどね」
「そ、そうなんですか?」
「教授は今年から、デキナイ医者の一掃化を図るつもりらしいわよ」
「一掃化?」
「医局の人数が増えてきたでしょ。だから、いらんヤツはポイ!」
「し、しかし・・・」
傭兵達がみな辞めてしまう危険もあるのに・・。
「教授はずっと言いたかったらしいよ。デキナイ医者はこうなるって!」
「し、しかし・・・」
「何アンタ。しかししかしって・・・。もしかしてシカシ男?モシカシテシカシ男?
これ早口言葉で言える?」
「それじゃまるで、見せしめのような・・」
「いや、いいのよ。それで」
総統からそんな冷酷な言葉が出るとは・・。
「医局の理念に従わない人間は、みなそうなるの!」
「理念・・・」
「医局員として恥ずかしくない医師!」
僕は皆を見てて、恥ずかしくてしようがないんだが・・。
「あたしは一見、温厚に見えるだろうけど。ま、タテマエは大事。それも世渡り」
「え?」
「医局を守るためなら、何だってやる。そうよね、みんな!」
三品先生ら助手・院生はみな首を縦に振っている。
「次はあのユウキが、春に例の病院へ飛ばされて・・・」
「国営から民間になる病院ですね?」
「そ。あそこは療養病棟扱い。何もさせてはくれないよ」
「・・・・・」
「何かされたら困るからね」
「その先生も、医局の理念を・・?」
「ダメダメ。最初はまあできるヤツかと思ったけど。病院からは飛び出すし、先輩には
殴りかかったらしいし・・」
「あ、それはいけませんね」
「だから、これからはそういう医者をつるし上げておかないと、これからどんどん増えるわけ」
「なるほど・・・」
「分かりましたか?シカシ男。バットマン!」
総統の横のグッチ先生は無表情で聞いているが・・。総統のどこがよかったんだろう・・。
三品先生が腕時計を見た。
「おい。そろそろ搭乗準備にかかる時間だぞ」
みな立ち上がり、イスをしまいはじめた。
搭乗口近くで、彼を待ち伏せることになった。
「トシキよ!」
「は?」
畑先生が気まずそうに話しかけてきた。
「お前さ。いろいろ聞くよ。噂で」
「なんです?どうせろくでもない・・」
「おうおう、怒るな怒るな。怒ったことない奴なのに」
「岐阜は遠いですね」
「ああ、一応行くよ。だがな・・」
「あまりいい病院ではないんですか?」
「ズバリ聞く奴だな。正直、ここだけの話・・」
ヒソヒソ声に変わった。
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