< オーベン&コベンダーズ 5-17 NO ESCAPE >
2004年9月30日ヒソヒソ声に変わった。
「もう医局を離れようと思ってるんだよ」
「辞められる・・?」
「ああ。実はあの、草波さんって人と」
「またあの人ですか・・」
「松田に連絡して、いろいろ相談してるんだよ」
「ええ・・・で、他の病院へ?」
「いい条件の病院を紹介してくれるようだしさ!」
「何者なんですか?あの人・・」
「お前も医局にはかなり愛想を尽かしてるんだろ?」
「な、なにを先生おっしゃい・・」
図星を突っ込まれて思わず否定しそうになった。
「この医局は腐ってるぞ。ていうか、大学病院そのものがな」
「・・・・・」
「何のために医局の命じるまま動かなきゃいけないんだよ!」
「ええ。自分も悩んではいます」
「みたいだな。でも名誉教授の息子のとこは・・」
「な、なんでそこまで」
「ま。いろいろ情報はあるんだよ」
草波さんだ。間違いない。
「トシキ。あそこへは絶対に行くな」
「なぜです?」
「とにかくだ」
「?」
みな、一斉に歓声を上げた。
野中先生がやってきたのだ。彼の姿を見たのは、あの人事決定の日以来だ。
しかし・・・どうやら。横の美女が付き添いのようだ。
そのモデルのような美女は全く動ずることなく、彼の手首を掴んだまま離さなかった。
それどころか、僕らを物色するかのように見ている。
「みんな・・・見送りまで、いいのに」
野中先生は茶色のスーツが決まっていた。
総統が歩み出た。
「先生、これ。私達からのラブレターと、金一封」
「あ、こりゃどうも・・」
「その横の女性は・・」
「え?誰って・・」
「あ?はは・・」
みんな固まってしまった。どうやら野中先生の本命なんだろう。
ナースの新人も可愛そうに・・。
窪田先生はサッと敬礼した。
「では野中大臣!君の栄えあるこれからの前途を祝して!」
打ち合わせどおり、みな一斉に敬礼した。
「おいトシキ」
野中先生が僕のほうへ寄ってきた。
「頑張れよ」
「え、ええ・・」
「それと・・・すまなかったな。だが分かれよ。オレもいろいろ悩んでいた」
「は、はあ」
「半年前かな、あるヤツに言われたんだ。このまま大学院に行って、博士取って・・
で、それだけの人生になるのはゴメンだと」
「そ、そうですか・・」
「オレも羽ばたきたい」
野中先生は振り向いて搭乗口へ向った。彼女も待っている。
「野中先生!」
「?」
彼が振り向き、僕はかなり近寄った。
「ご帰還を、お待ちしています」
「フフ・・・トシキ!」
「え?」
「だからお前は好きなんだよ」
「ど、どうして?」
「ハハ・・・トシキ。お前本気でオレが・・」
「?」
「帰ってくるとでも?」
僕は呆気に取られ、そのままゲートを通過していく野中先生を見守った。
会話は誰にも悟られなかったが・・。何か物凄い敗北感を感じた。
みな散り散りになっていった。
いつの間にか草波氏だけが残っている。ていうか、いつの間に現れたんだ?
「今日は美女はご一緒ではないんですね」
「ええ・・」
「例の4人はやはり来られなかったですね」
「そのようで」
「ま、そういう人たちですよね」
「で、どうです?少しは・・」
「草波さん。すみませんが、今はそういう話は・・」
「時間がありませんよ。トシキ君」
「え?」
「畑先生も心配してます。君も早く決断なさい」
「そんな。余計なお世話です」
「彼から聞いたでしょう?名誉教授の家族の病院など・・」
「言いふらしますよ!」
草波氏は僕を追いかけるのをやめ、立ち止まった。
「先生。先生の医局は、もう救えない」
「え?なにを・・」
「救いません」
「草波さん。例の4人は・・」
「それはもう分かってるでしょう。医局は、私との約束を破ったのです」
「そんなことで・・?」
「君も悔しかったでしょうに」
「そ、そんなことないです」
「いいですか。例の4人だけと思ったら大間違いですよ」
彼はクルッと振り向き、遠ざかっていった。
なんだ?他にもドロップアウトする人間がいるっていうのか・・?
気がつくと、僕は高速道路を猛スピードで走っていた。
頭上には航空機がゆっくりと高度を上げていくのが見える。
彼は去った。もう戻ってこないのか・・・。だが、彼の心配などするどころでは
なかった。
ハンドルが汗ばんでいる。このままでは・・・
『医局が潰れてしまう・・!』
「もう医局を離れようと思ってるんだよ」
「辞められる・・?」
「ああ。実はあの、草波さんって人と」
「またあの人ですか・・」
「松田に連絡して、いろいろ相談してるんだよ」
「ええ・・・で、他の病院へ?」
「いい条件の病院を紹介してくれるようだしさ!」
「何者なんですか?あの人・・」
「お前も医局にはかなり愛想を尽かしてるんだろ?」
「な、なにを先生おっしゃい・・」
図星を突っ込まれて思わず否定しそうになった。
「この医局は腐ってるぞ。ていうか、大学病院そのものがな」
「・・・・・」
「何のために医局の命じるまま動かなきゃいけないんだよ!」
「ええ。自分も悩んではいます」
「みたいだな。でも名誉教授の息子のとこは・・」
「な、なんでそこまで」
「ま。いろいろ情報はあるんだよ」
草波さんだ。間違いない。
「トシキ。あそこへは絶対に行くな」
「なぜです?」
「とにかくだ」
「?」
みな、一斉に歓声を上げた。
野中先生がやってきたのだ。彼の姿を見たのは、あの人事決定の日以来だ。
しかし・・・どうやら。横の美女が付き添いのようだ。
そのモデルのような美女は全く動ずることなく、彼の手首を掴んだまま離さなかった。
それどころか、僕らを物色するかのように見ている。
「みんな・・・見送りまで、いいのに」
野中先生は茶色のスーツが決まっていた。
総統が歩み出た。
「先生、これ。私達からのラブレターと、金一封」
「あ、こりゃどうも・・」
「その横の女性は・・」
「え?誰って・・」
「あ?はは・・」
みんな固まってしまった。どうやら野中先生の本命なんだろう。
ナースの新人も可愛そうに・・。
窪田先生はサッと敬礼した。
「では野中大臣!君の栄えあるこれからの前途を祝して!」
打ち合わせどおり、みな一斉に敬礼した。
「おいトシキ」
野中先生が僕のほうへ寄ってきた。
「頑張れよ」
「え、ええ・・」
「それと・・・すまなかったな。だが分かれよ。オレもいろいろ悩んでいた」
「は、はあ」
「半年前かな、あるヤツに言われたんだ。このまま大学院に行って、博士取って・・
で、それだけの人生になるのはゴメンだと」
「そ、そうですか・・」
「オレも羽ばたきたい」
野中先生は振り向いて搭乗口へ向った。彼女も待っている。
「野中先生!」
「?」
彼が振り向き、僕はかなり近寄った。
「ご帰還を、お待ちしています」
「フフ・・・トシキ!」
「え?」
「だからお前は好きなんだよ」
「ど、どうして?」
「ハハ・・・トシキ。お前本気でオレが・・」
「?」
「帰ってくるとでも?」
僕は呆気に取られ、そのままゲートを通過していく野中先生を見守った。
会話は誰にも悟られなかったが・・。何か物凄い敗北感を感じた。
みな散り散りになっていった。
いつの間にか草波氏だけが残っている。ていうか、いつの間に現れたんだ?
「今日は美女はご一緒ではないんですね」
「ええ・・」
「例の4人はやはり来られなかったですね」
「そのようで」
「ま、そういう人たちですよね」
「で、どうです?少しは・・」
「草波さん。すみませんが、今はそういう話は・・」
「時間がありませんよ。トシキ君」
「え?」
「畑先生も心配してます。君も早く決断なさい」
「そんな。余計なお世話です」
「彼から聞いたでしょう?名誉教授の家族の病院など・・」
「言いふらしますよ!」
草波氏は僕を追いかけるのをやめ、立ち止まった。
「先生。先生の医局は、もう救えない」
「え?なにを・・」
「救いません」
「草波さん。例の4人は・・」
「それはもう分かってるでしょう。医局は、私との約束を破ったのです」
「そんなことで・・?」
「君も悔しかったでしょうに」
「そ、そんなことないです」
「いいですか。例の4人だけと思ったら大間違いですよ」
彼はクルッと振り向き、遠ざかっていった。
なんだ?他にもドロップアウトする人間がいるっていうのか・・?
気がつくと、僕は高速道路を猛スピードで走っていた。
頭上には航空機がゆっくりと高度を上げていくのが見える。
彼は去った。もう戻ってこないのか・・・。だが、彼の心配などするどころでは
なかった。
ハンドルが汗ばんでいる。このままでは・・・
『医局が潰れてしまう・・!』
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