<ラスト・オブ・オーベン&コベンダーズ 6-12 重症ダブルパンチ! >
2004年10月25日コメント (2)病棟詰所では三品病棟医長が待っていた。
「どこ行ってた?」
「身内の不幸で・・」
「で、もういいのか?」
「はい」
「入院が3人入った。午前中だけでな。呼吸不全2人に喀血1人」
「ICUですか・・?」
「その前提でこの病棟に入れたんだが、どうやらICUが満床になったんだ」
婦長が腕組みして聞いている。
「で、どのように・・・」
「だから俺がこうしてお前に相談してるんだ!」
この先生、都合が悪くなるとすぐ・・・!
「呼吸不全は人工呼吸器までは必要ないんでしょうか」
「知らん」
「え?」
「写真もどっか行ってて行方不明だし。患者診てこい、とりあえず」
「部屋は・・」
「知るか!ホラホラ、これ外来カルテ!」
僕は外来カルテを持ったまま病室へ入った。
重症部屋の2人個室に呼吸不全が2人。2人とも中年で酸素マスク付き。
左の肥満男性はカルテによると・・・ダメだ。教授の字だ。読めない。
問診と診察でしか分からない。
中年ナースが入ってきた。
「先生。指示を早く出してください」
「主治医は決まってないの?」
「え?主治医は先生でしょ?」
「輪番で決めてるんだけど。この表では・・・そうか。僕だ」
「指示は昼の1時までに」
「3時まででは?」
「話し合いで変更になりましたので」
「無理だよ」
聴診で両肺のcoarseラ音。心不全か。
「看護婦さん、モニターは?」
「もう一杯です」
「軽症の人についているのか。たしか島の患者さんで・・」
「島先生はモニターは外すなと指示が」
「脳梗塞で慢性期に近いのに」
「さあ、それは私達には・・」
「心電図も行方不明か。ここで記録しよう」
afだ。心房細動で頻脈。以前からあるのか、最近なのか・・。
「看護婦さん。三品先生を・・」
「詰所からは引き上げたようですよ」
「あまりここを離れたくないんだけど・・」
「カンファレンス室ももぬけの殻でしたね」
「みんな、バイトか・・?」
僕は個室の内線を回した。医局へ。
「もしもし、医局です」
秘書さんが出た。
「トシキです。誰か、医局員は・・」
「緒方先生ならいます」
「ええ。お願いします」
ちょうど循環器の先生でよかった。
「・・・はい」
「緒方先生?トシキです」
「あ、お前・・」
「病室に呼吸不全が2人・・」
「お前この前、なぜ逃げたとよ」
「え?」
「動脈瘤の患者の家族にわしがムンテラするって勝手に伝えて、
なぜ消えたとよ!」
「・・・・ああ、あのとき」
「あのあとかなり揉めたとよ!みんなもかなり怒っとると!」
「・・・すみません。先生、1人どうやら心不全で。できれば超音波で見ていただ・・」
「もうお前の相談など聞かんとよ!別のドクターに相談するとよ!」
電話が切られた。やはり病棟医長に聞くしかないか。
中年ナースが冷めた表情で待っている。
「先生。もう2時回るんですよ!」
「指示?待ってよ。まだ診断すらついてない!外来での検査はどこへ・・」
「知りません。急いでくださいね!」
ナースは去っていった。
僕はもう1人の人を診察した。痩せた中年女性。右下背部にパイピング音。
熱っぽいし、肺炎か?
外来へ電話。
「三品病棟医長は?」
「三品先生?さっき、昼ごはんに行くって・・」
「何ですか?それ!」
「はあ?」
事務員はヒトゴトだった。当然だろうが。
三品先生がいつも行く食堂は知っている。病院内でなく、外の喫茶店だ。
ポケベルも反応ないので、その店に電話した。
「そこに、病院の先生が。三品先生といいまして」
「ああ、はいはい」
マスターはためらわず電話を回してくれた。
「なんだおい?こんな店まで」
「三品先生。外来カルテしかなくて、詳細が不明です」
「カルテの記載を見りゃいいだろが」
「自分には、読めなくて」
「外来主治医に問い合わせたか?」
「外来まだやってて、電話出れないらしいです」
「外来検査はどこなんだ?」
「詰所で今、パソコン見てますが、結果が・・・」
端末にやっと結果が表示された。
「af心不全疑いの患者さんは・・低ナトリウムとCRP高度」
「感染が契機か?レントゲンは?」
「パソコン画面だと限界ありですが、両肺とも透過性が低下」
「ふだんの内服は?」
「処方箋が・・・ない」
「外来カルテに、ふつう入ってるだろ?」
「いや、それが・・・」
詰所を通り過ぎる白衣を3人、見かけた。
僕は彼らを追っかけた。島とその仲間2人だ。
「島!」
「トシキ。いったいどこへ・・?」
「あ?」
島はレントゲン袋や心電図などの資料袋を掲げていた。
「島。それ、探したんだぞ!」
「何を怒ってるんだよ。教授からもらっただけだ」
「外来へ直接?」
「そうだ。それが一番早いだろ?」
「そ、そうだが」
「教授のとこ行くのが気まずいのか?」
「心房細動は心不全か?」
「ああ。主治医はお前だ。横の気管支拡張症もな」
「いっぺんに2人?」
「喀血は結核疑いでもある。主治医は俺。もうすぐ転院だけどな」
「重症、いっぺんに2人か。それって島が決めたのか?」
「?そうだけど。医局長から聞かなかったか?」
「来年から、病棟医長を・・」
「そうそう。三品っちにはまだナイショだけどね」
僕はこれ以上逆らうことなく、資料を確認の上病室へ戻った。
af心不全は5%TZ持続とし、利尿剤を適宜追加の指示を、と。
気管支拡張症は吸入・抗生剤の指示。
af心不全のほうも抗生剤。2人とも第3世代セフェム。同時に皮内テストを。
抗生剤開始前に、培養の提出。家族への連絡。
指示を詰所にやっと出せたのが夕方5時。三品先生に超音波を依頼していたが、
彼はとうとう現れなかった。
だが何とか今日を乗り切れた。
<つづく>
「どこ行ってた?」
「身内の不幸で・・」
「で、もういいのか?」
「はい」
「入院が3人入った。午前中だけでな。呼吸不全2人に喀血1人」
「ICUですか・・?」
「その前提でこの病棟に入れたんだが、どうやらICUが満床になったんだ」
婦長が腕組みして聞いている。
「で、どのように・・・」
「だから俺がこうしてお前に相談してるんだ!」
この先生、都合が悪くなるとすぐ・・・!
「呼吸不全は人工呼吸器までは必要ないんでしょうか」
「知らん」
「え?」
「写真もどっか行ってて行方不明だし。患者診てこい、とりあえず」
「部屋は・・」
「知るか!ホラホラ、これ外来カルテ!」
僕は外来カルテを持ったまま病室へ入った。
重症部屋の2人個室に呼吸不全が2人。2人とも中年で酸素マスク付き。
左の肥満男性はカルテによると・・・ダメだ。教授の字だ。読めない。
問診と診察でしか分からない。
中年ナースが入ってきた。
「先生。指示を早く出してください」
「主治医は決まってないの?」
「え?主治医は先生でしょ?」
「輪番で決めてるんだけど。この表では・・・そうか。僕だ」
「指示は昼の1時までに」
「3時まででは?」
「話し合いで変更になりましたので」
「無理だよ」
聴診で両肺のcoarseラ音。心不全か。
「看護婦さん、モニターは?」
「もう一杯です」
「軽症の人についているのか。たしか島の患者さんで・・」
「島先生はモニターは外すなと指示が」
「脳梗塞で慢性期に近いのに」
「さあ、それは私達には・・」
「心電図も行方不明か。ここで記録しよう」
afだ。心房細動で頻脈。以前からあるのか、最近なのか・・。
「看護婦さん。三品先生を・・」
「詰所からは引き上げたようですよ」
「あまりここを離れたくないんだけど・・」
「カンファレンス室ももぬけの殻でしたね」
「みんな、バイトか・・?」
僕は個室の内線を回した。医局へ。
「もしもし、医局です」
秘書さんが出た。
「トシキです。誰か、医局員は・・」
「緒方先生ならいます」
「ええ。お願いします」
ちょうど循環器の先生でよかった。
「・・・はい」
「緒方先生?トシキです」
「あ、お前・・」
「病室に呼吸不全が2人・・」
「お前この前、なぜ逃げたとよ」
「え?」
「動脈瘤の患者の家族にわしがムンテラするって勝手に伝えて、
なぜ消えたとよ!」
「・・・・ああ、あのとき」
「あのあとかなり揉めたとよ!みんなもかなり怒っとると!」
「・・・すみません。先生、1人どうやら心不全で。できれば超音波で見ていただ・・」
「もうお前の相談など聞かんとよ!別のドクターに相談するとよ!」
電話が切られた。やはり病棟医長に聞くしかないか。
中年ナースが冷めた表情で待っている。
「先生。もう2時回るんですよ!」
「指示?待ってよ。まだ診断すらついてない!外来での検査はどこへ・・」
「知りません。急いでくださいね!」
ナースは去っていった。
僕はもう1人の人を診察した。痩せた中年女性。右下背部にパイピング音。
熱っぽいし、肺炎か?
外来へ電話。
「三品病棟医長は?」
「三品先生?さっき、昼ごはんに行くって・・」
「何ですか?それ!」
「はあ?」
事務員はヒトゴトだった。当然だろうが。
三品先生がいつも行く食堂は知っている。病院内でなく、外の喫茶店だ。
ポケベルも反応ないので、その店に電話した。
「そこに、病院の先生が。三品先生といいまして」
「ああ、はいはい」
マスターはためらわず電話を回してくれた。
「なんだおい?こんな店まで」
「三品先生。外来カルテしかなくて、詳細が不明です」
「カルテの記載を見りゃいいだろが」
「自分には、読めなくて」
「外来主治医に問い合わせたか?」
「外来まだやってて、電話出れないらしいです」
「外来検査はどこなんだ?」
「詰所で今、パソコン見てますが、結果が・・・」
端末にやっと結果が表示された。
「af心不全疑いの患者さんは・・低ナトリウムとCRP高度」
「感染が契機か?レントゲンは?」
「パソコン画面だと限界ありですが、両肺とも透過性が低下」
「ふだんの内服は?」
「処方箋が・・・ない」
「外来カルテに、ふつう入ってるだろ?」
「いや、それが・・・」
詰所を通り過ぎる白衣を3人、見かけた。
僕は彼らを追っかけた。島とその仲間2人だ。
「島!」
「トシキ。いったいどこへ・・?」
「あ?」
島はレントゲン袋や心電図などの資料袋を掲げていた。
「島。それ、探したんだぞ!」
「何を怒ってるんだよ。教授からもらっただけだ」
「外来へ直接?」
「そうだ。それが一番早いだろ?」
「そ、そうだが」
「教授のとこ行くのが気まずいのか?」
「心房細動は心不全か?」
「ああ。主治医はお前だ。横の気管支拡張症もな」
「いっぺんに2人?」
「喀血は結核疑いでもある。主治医は俺。もうすぐ転院だけどな」
「重症、いっぺんに2人か。それって島が決めたのか?」
「?そうだけど。医局長から聞かなかったか?」
「来年から、病棟医長を・・」
「そうそう。三品っちにはまだナイショだけどね」
僕はこれ以上逆らうことなく、資料を確認の上病室へ戻った。
af心不全は5%TZ持続とし、利尿剤を適宜追加の指示を、と。
気管支拡張症は吸入・抗生剤の指示。
af心不全のほうも抗生剤。2人とも第3世代セフェム。同時に皮内テストを。
抗生剤開始前に、培養の提出。家族への連絡。
指示を詰所にやっと出せたのが夕方5時。三品先生に超音波を依頼していたが、
彼はとうとう現れなかった。
だが何とか今日を乗り切れた。
<つづく>
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