<ラスト・オブ・オーベン&コベンダーズ 6-13 4人しかいない! >
2004年10月25日くたくたでカンファ室へ戻ると、島と仲間2人が雑談していた。
「お疲れ!トシキ!」
島は機嫌よく話しかけてきた。
「afは治ったか?」
「不整脈よりも、心不全の治療だよ」
「afは今までなかったようだぞ」
「なら教えてくれよ」
「ICMで、心臓の動きはかなり悪いってな」
島、こいつ自分だけ。知ってたら教えろよ。
「何だよ。こっちが指示出す前に教えてよ」
「早く治せよ。不整脈」
「だから、心不全の治療が優先だって!」
「ワソランとか使わなくていいのか?」
「心不全が悪化すると思う」
「じゃあリスモダンとか・・」
「Ia薬は逆に頻脈になったりもするだろ?」
島は余裕の表情だ。
「でもトシキ。ちゃんと上のドクターには通せよ」
「誰にだよ・・」
「緒方先生とバスケス先生がオーベンだろ?病棟医長もいるけど」
「緒方先生には相談したけど、断られた」
「ハア・・・?嫌われてんじゃないの?」
「・・・・・」
ナースがカンファ室へやってきた。
「あの、失礼します。島先生」
「はいよ」
「ナース側からまだいろいろと申し送り事項が」
「トシキには伝えなかったのか?」
「え、ええ。先生が病棟医長だと医局長から・・」
「うん。だけど来年からだよ」
「そうですか。ではトシキ先生にでも・・」
ナースは僕の前でポツンと立ち、淡々と申し送り文を読み始めた。
「田島先生の患者さんで・・」
「え?待ってよ。バスケ・・・田島先生に直接連絡したの?」
「いえ。まだ詰所に来られていないし。トシキ先生にお伝えするのが確実かと」
「主治医じゃないのに」
婦長がドーンと入ってきた。
「おかしいじゃありませんこと?」
「は?」
「先生方、きちんと連携して仕事してちょうだいな!」
「でも主治医の田島先生にまず伝えるべきでしょう?」
「先生たち2年目が、病棟の主役なんでしょ?」
「そ、そんなこと言ってないでしょう」
「以前、何かあったら僕らだけででもやりますって、トシキ先生。あなた、野中先生とつるんでよく言ってたじゃないの」
つるんで、だと。
「婦長さん。それはあのときの話です。医局員は大勢いましたし」
「あたしにとっては以前も今も同じよ!」
「婦長さん。いいですか」
僕は立ち上がった。
「病棟には正味、これだけしか医者がいないんです。僕ら2年目の4人。まだ研修医です。全部しろって言われても・・」
「じゃあ先生方がきちんと主治医に連絡して、来てもらうようにしてもらわないとっ!」
「ナース側から連絡してください!」
「先生たちがするのよ!」
「そんなことぐらい、何ですか!」
「まま、婦長さん」
島は落ち着き払っていた。
「僕が来年から仕切っていこうと思ってるんですが。ま、今日からやってみますよ」
「・・・・・そう」
「先生方には僕らがきちんと連絡しますので」
「フン。じゃあ責任は先生方で取ってもらえるわけね?」
「ええ。僕らで」
何が僕らだ。巻き込むなよ。
島、何を婦長にそんなアタマ下げるんだ。
「あたしの言い分をきちんと聞いてくれるのは、島先生だけのようね」
婦長はキョロキョロ目線を投げかけ、バタンと廊下へ出た。
島はフーとため息をついた。
「よし、やるか」
彼はポケットから連絡メモを取り出した。
「病棟医長はもう僕だ。おい西条!」
「うん?」
「上の先生方に電話を。バスケスと緒方っちへ」
「僕が・・?」
「そうだよ。分業だ」
「あ、ああ・・・」
「鈴木!」
「へい」
「ナースからのさっきの申し送り、聞いといて」
「あ、うん」
「さてと。トシキ」
「なんだ?」
「怒ってるのか?噂で聞いたけど、いよいよ後継者だろ?」
「いや。あれは断った」
「え?」
島と仲間2人が固まった。
「トシキ。断ったのか?」
「そうだよ」
「医局に残るのかよ?マジで?」
「なんだよ、いけないか?」
「いや、別に・・・・グループは?」
「そうだな。循環器グループになるだろな」
「は・・・俺と一緒か・・・それでな、トシキ」
「ああ?」
「これからは俺たち4人で病棟回さないか」
「無理だ、そんなの・・・!」
「バスケスや緒方っちはどうせ辞めるんだぜ」
「ダメだ。院生や助手のドクターたちを駆り出してもらわないと」
「それはダメだ。却下」
「お前が決めるなよ!」
「院生や助手の先生方には、研究という大事な使命があるんだ!」
「病棟の使命も果たしてもらわないといけないだろ?」
島は頑なに首を振り続けた。
「今年の医局会はもう終わったし、話し合いの機会はない」
「それでも。僕が医局長に駆け寄ってくる」
「ダメだ。俺はもう医局長と相談して、決めたんだよ」
「?」
「僕たちで病棟、守りますって!」
「それ、いいのか?」
島は重症を立て続けにもった経験がなく、地獄も見ていない。
僕は他の2人を見つめた。2人は自信なげだった。
「島。レジデント1人が15人も常に患者持ったら・・」
「いやいや。3ヶ月でいいんだよ。3ヶ月の間だけで。俺たちならできる。また医局が有名になれるぞ」
「しかし・・誰に相談したらいいんだ」
「相談だったら、院生や助手の先生方は適宜受けてくださるそうだ」
「適宜・・・都合のいい言葉だ」
島は奇妙な野心に心をときめかせているようだった。
CCUはまだ3床空いている。ICUの空床も可能性がある。
これ以上忙しくなると、少なくとも僕自身、押しつぶされる。
僕は助けを求めるため、年末で閑散とした医局の周辺を彷徨いはじめた。
<つづく>
「お疲れ!トシキ!」
島は機嫌よく話しかけてきた。
「afは治ったか?」
「不整脈よりも、心不全の治療だよ」
「afは今までなかったようだぞ」
「なら教えてくれよ」
「ICMで、心臓の動きはかなり悪いってな」
島、こいつ自分だけ。知ってたら教えろよ。
「何だよ。こっちが指示出す前に教えてよ」
「早く治せよ。不整脈」
「だから、心不全の治療が優先だって!」
「ワソランとか使わなくていいのか?」
「心不全が悪化すると思う」
「じゃあリスモダンとか・・」
「Ia薬は逆に頻脈になったりもするだろ?」
島は余裕の表情だ。
「でもトシキ。ちゃんと上のドクターには通せよ」
「誰にだよ・・」
「緒方先生とバスケス先生がオーベンだろ?病棟医長もいるけど」
「緒方先生には相談したけど、断られた」
「ハア・・・?嫌われてんじゃないの?」
「・・・・・」
ナースがカンファ室へやってきた。
「あの、失礼します。島先生」
「はいよ」
「ナース側からまだいろいろと申し送り事項が」
「トシキには伝えなかったのか?」
「え、ええ。先生が病棟医長だと医局長から・・」
「うん。だけど来年からだよ」
「そうですか。ではトシキ先生にでも・・」
ナースは僕の前でポツンと立ち、淡々と申し送り文を読み始めた。
「田島先生の患者さんで・・」
「え?待ってよ。バスケ・・・田島先生に直接連絡したの?」
「いえ。まだ詰所に来られていないし。トシキ先生にお伝えするのが確実かと」
「主治医じゃないのに」
婦長がドーンと入ってきた。
「おかしいじゃありませんこと?」
「は?」
「先生方、きちんと連携して仕事してちょうだいな!」
「でも主治医の田島先生にまず伝えるべきでしょう?」
「先生たち2年目が、病棟の主役なんでしょ?」
「そ、そんなこと言ってないでしょう」
「以前、何かあったら僕らだけででもやりますって、トシキ先生。あなた、野中先生とつるんでよく言ってたじゃないの」
つるんで、だと。
「婦長さん。それはあのときの話です。医局員は大勢いましたし」
「あたしにとっては以前も今も同じよ!」
「婦長さん。いいですか」
僕は立ち上がった。
「病棟には正味、これだけしか医者がいないんです。僕ら2年目の4人。まだ研修医です。全部しろって言われても・・」
「じゃあ先生方がきちんと主治医に連絡して、来てもらうようにしてもらわないとっ!」
「ナース側から連絡してください!」
「先生たちがするのよ!」
「そんなことぐらい、何ですか!」
「まま、婦長さん」
島は落ち着き払っていた。
「僕が来年から仕切っていこうと思ってるんですが。ま、今日からやってみますよ」
「・・・・・そう」
「先生方には僕らがきちんと連絡しますので」
「フン。じゃあ責任は先生方で取ってもらえるわけね?」
「ええ。僕らで」
何が僕らだ。巻き込むなよ。
島、何を婦長にそんなアタマ下げるんだ。
「あたしの言い分をきちんと聞いてくれるのは、島先生だけのようね」
婦長はキョロキョロ目線を投げかけ、バタンと廊下へ出た。
島はフーとため息をついた。
「よし、やるか」
彼はポケットから連絡メモを取り出した。
「病棟医長はもう僕だ。おい西条!」
「うん?」
「上の先生方に電話を。バスケスと緒方っちへ」
「僕が・・?」
「そうだよ。分業だ」
「あ、ああ・・・」
「鈴木!」
「へい」
「ナースからのさっきの申し送り、聞いといて」
「あ、うん」
「さてと。トシキ」
「なんだ?」
「怒ってるのか?噂で聞いたけど、いよいよ後継者だろ?」
「いや。あれは断った」
「え?」
島と仲間2人が固まった。
「トシキ。断ったのか?」
「そうだよ」
「医局に残るのかよ?マジで?」
「なんだよ、いけないか?」
「いや、別に・・・・グループは?」
「そうだな。循環器グループになるだろな」
「は・・・俺と一緒か・・・それでな、トシキ」
「ああ?」
「これからは俺たち4人で病棟回さないか」
「無理だ、そんなの・・・!」
「バスケスや緒方っちはどうせ辞めるんだぜ」
「ダメだ。院生や助手のドクターたちを駆り出してもらわないと」
「それはダメだ。却下」
「お前が決めるなよ!」
「院生や助手の先生方には、研究という大事な使命があるんだ!」
「病棟の使命も果たしてもらわないといけないだろ?」
島は頑なに首を振り続けた。
「今年の医局会はもう終わったし、話し合いの機会はない」
「それでも。僕が医局長に駆け寄ってくる」
「ダメだ。俺はもう医局長と相談して、決めたんだよ」
「?」
「僕たちで病棟、守りますって!」
「それ、いいのか?」
島は重症を立て続けにもった経験がなく、地獄も見ていない。
僕は他の2人を見つめた。2人は自信なげだった。
「島。レジデント1人が15人も常に患者持ったら・・」
「いやいや。3ヶ月でいいんだよ。3ヶ月の間だけで。俺たちならできる。また医局が有名になれるぞ」
「しかし・・誰に相談したらいいんだ」
「相談だったら、院生や助手の先生方は適宜受けてくださるそうだ」
「適宜・・・都合のいい言葉だ」
島は奇妙な野心に心をときめかせているようだった。
CCUはまだ3床空いている。ICUの空床も可能性がある。
これ以上忙しくなると、少なくとも僕自身、押しつぶされる。
僕は助けを求めるため、年末で閑散とした医局の周辺を彷徨いはじめた。
<つづく>
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