<ラスト・オブ・オーベン&コベンダーズ 6-20 新世界へ >
2004年10月31日守衛さんが歩いてきた。
「もう1台、消化器科の救急が来ますので・・」
島が慌てた。
「分かってるよ!移動するって!トシキ。あちこちあたったんだ。どうしたら・・」
「わ、分からない・・。とりあえず病棟へ」
「病棟は満床だ!」
「MRAの患者さんがCCUへ行くとこだ!その部屋に・・」
「お、俺は詰所へ約束したんだ。もう患者は入れないって」
「なに、勝手なことやってんだ!」
「俺が決めたから、それが決定だ!」
「病棟へもう一度、話をしろ!」
「できるか!」
「やれ!」
守衛さんが僕らの腕をつかんだ。
「ケンカはよそで、してもらえませんかな」
「守衛さん、自分は病棟医長ですが。彼、かなり興奮してまして」
島の言うとおりに、守衛さんは僕を廊下へと引っ張りだした。
「島、どうするんだ!」
僕は廊下へ放り出され、しりもちをついた。
「アテテテ・・・」
このままでは、不安定狭心症が心筋梗塞になるのも時間の問題だ。
詰所から携帯が鳴った。
「・・もしもし」
「先生、僕だ!西条!」
「なに?」
「今、胸腔ドレーン、抜けた人がいるんだ。また入れるの手伝ってもらえないか?」
「今、緊急外来で」
「その患者さんは落ち着いて、どっか送るんだろ?」
「それが、その・・」
座り込みの状態から、僕は立てなくなった。
「あいたた」
「トシキ!頼む!」
「す、鈴木先生は・・」
「前に話したあの胸痛の患者のとこに呼ばれてる!」
「・・・・・そっか」
「注射当番も全然回ってないし、消毒とか、まだまだいろいろ・・!」
「うん。分かった」
膝に手を思いっきり当てて、壁に手をついてようやく立ち上がった。
僕は携帯を鳴らした。
「三品です」
「先生。先生。助けてください」
「ああ?トシキか」
「僕らだけでは無理です」
「何言ってるんだ。お前らでやるって、島も言っただろ。電話なんかしてくんな!」
「みんなもう、6日ほど寝てません」
「救急でも入ったのか?」
「ええ。それもあります」
「断れと言っただろ!」
「島が受け入れて・・」
「ハハハ、ほらみろ!」
「先生。お願いします。お願いします」
僕は泣きながらお願いした。
「俺はもう、病棟医長じゃないんだ。責任者ではないし」
「・・・・・」
「医局長に聞け」
「医局長は海外旅行でして」
「な、なら院生か助手の適当なヤツに・・マミーは・・」
「県外の当直です。先生・・・」
「うーん。ま、そこは!病棟医長と話し合ってだな!」
「もういいです。切ります」
僕は横で支えている草波氏を見た。
「あ、どうも・・・」
「年末でも、容赦なしですね。白衣が血だらけだ。追い出されるわけだ。はっは」
「草波さんも、どうしてまた・・」
「私はヘビのようにしつこい性格でね」
「そ、そうだ。草波さんの病院・・」
「ん?救急の紹介ですか?」
「そ、そうです。うちはもう満床で」
「カテーテルが必要?」
お見通しだな。
「ええ。冠動脈がいつ詰まるか」
「できれば、もう1人。搬送したいのですが」
「?」
「うちの病院に搬送したい患者さんがもう1人。それは・・・・君ですよ。トシキ先生」
「は?僕は病気は・・」
「失礼失礼。患者としてでなく、新規職員として」
「また、そんな」
「いいですか。これは最後の警告だ」
「?」
「このままでは君は潰される。知ってるはずだ」
「・・・・・」
「患者への自己犠牲で潰れるのは本望だろう。しかし君は、
組織に潰されようとしてる」
「・・・・・」
「今なら、間に合う!」
「そこへ行ったら、もう変なしがらみは・・」
「あるものか。私がそうはさせない!」
僕は5分、考えた。
「草波さん。では・・・」
「・・・・・」
「お願いします」
草波氏は携帯を取り出した。
「・・・こちら真田」
「?」
草波という名前では・・?
「ドクターズ・カーで来てくれ。大至急。場所は・・・」
「・・・・・」
「新しいお客さんも、お目見えだ」
僕は救急外来へ入った。
「島。病院が見つかった」
「ホントか?」
「紹介状は僕が書く。病棟で西条先生の処置を手伝ってもらえないか」
「お前は?」
「紹介先への連絡・搬送をやる」
「そ、そうか。分かった」
島は引き上げていった。
間もなく小型トレーラーが到着した。
中から30代半ばのハンサムな医師が現れた。少年隊のリーダーといった感じだ。
「じゃあ、もらっていくよ」
「お、お願いします」
「血だらけだな。ああいいよ、僕らがやる」
数人の白衣男性が患者さんを運んでいった。
彼は後ろのドアを閉めた。
「何やってる?新入りさんよ」
「新入り?」
「そうだ。君は僕らの仲間だ」
促されるまま、僕はトレーラーに押し込まれた。
「よいしょっと・・・いてて」
「ハハ、大丈夫か?」
助手席から少年隊リーダーは振り向いた。
「ええ」
僕の横に草波氏が乗り込んだ。
「今日は、書類の契約もして、それから戻りましょう」
「契約・・・」
「大丈夫。先生。もう人を疑わなくていい」
「・・・・・」
「年が明けて大学とも手を切れば、君は自由だ」
「自由・・」
「新世界へ、ようこそ」
車は走り出した。
僕は患者さんの手をギュッと握った。
次回 完結。
「もう1台、消化器科の救急が来ますので・・」
島が慌てた。
「分かってるよ!移動するって!トシキ。あちこちあたったんだ。どうしたら・・」
「わ、分からない・・。とりあえず病棟へ」
「病棟は満床だ!」
「MRAの患者さんがCCUへ行くとこだ!その部屋に・・」
「お、俺は詰所へ約束したんだ。もう患者は入れないって」
「なに、勝手なことやってんだ!」
「俺が決めたから、それが決定だ!」
「病棟へもう一度、話をしろ!」
「できるか!」
「やれ!」
守衛さんが僕らの腕をつかんだ。
「ケンカはよそで、してもらえませんかな」
「守衛さん、自分は病棟医長ですが。彼、かなり興奮してまして」
島の言うとおりに、守衛さんは僕を廊下へと引っ張りだした。
「島、どうするんだ!」
僕は廊下へ放り出され、しりもちをついた。
「アテテテ・・・」
このままでは、不安定狭心症が心筋梗塞になるのも時間の問題だ。
詰所から携帯が鳴った。
「・・もしもし」
「先生、僕だ!西条!」
「なに?」
「今、胸腔ドレーン、抜けた人がいるんだ。また入れるの手伝ってもらえないか?」
「今、緊急外来で」
「その患者さんは落ち着いて、どっか送るんだろ?」
「それが、その・・」
座り込みの状態から、僕は立てなくなった。
「あいたた」
「トシキ!頼む!」
「す、鈴木先生は・・」
「前に話したあの胸痛の患者のとこに呼ばれてる!」
「・・・・・そっか」
「注射当番も全然回ってないし、消毒とか、まだまだいろいろ・・!」
「うん。分かった」
膝に手を思いっきり当てて、壁に手をついてようやく立ち上がった。
僕は携帯を鳴らした。
「三品です」
「先生。先生。助けてください」
「ああ?トシキか」
「僕らだけでは無理です」
「何言ってるんだ。お前らでやるって、島も言っただろ。電話なんかしてくんな!」
「みんなもう、6日ほど寝てません」
「救急でも入ったのか?」
「ええ。それもあります」
「断れと言っただろ!」
「島が受け入れて・・」
「ハハハ、ほらみろ!」
「先生。お願いします。お願いします」
僕は泣きながらお願いした。
「俺はもう、病棟医長じゃないんだ。責任者ではないし」
「・・・・・」
「医局長に聞け」
「医局長は海外旅行でして」
「な、なら院生か助手の適当なヤツに・・マミーは・・」
「県外の当直です。先生・・・」
「うーん。ま、そこは!病棟医長と話し合ってだな!」
「もういいです。切ります」
僕は横で支えている草波氏を見た。
「あ、どうも・・・」
「年末でも、容赦なしですね。白衣が血だらけだ。追い出されるわけだ。はっは」
「草波さんも、どうしてまた・・」
「私はヘビのようにしつこい性格でね」
「そ、そうだ。草波さんの病院・・」
「ん?救急の紹介ですか?」
「そ、そうです。うちはもう満床で」
「カテーテルが必要?」
お見通しだな。
「ええ。冠動脈がいつ詰まるか」
「できれば、もう1人。搬送したいのですが」
「?」
「うちの病院に搬送したい患者さんがもう1人。それは・・・・君ですよ。トシキ先生」
「は?僕は病気は・・」
「失礼失礼。患者としてでなく、新規職員として」
「また、そんな」
「いいですか。これは最後の警告だ」
「?」
「このままでは君は潰される。知ってるはずだ」
「・・・・・」
「患者への自己犠牲で潰れるのは本望だろう。しかし君は、
組織に潰されようとしてる」
「・・・・・」
「今なら、間に合う!」
「そこへ行ったら、もう変なしがらみは・・」
「あるものか。私がそうはさせない!」
僕は5分、考えた。
「草波さん。では・・・」
「・・・・・」
「お願いします」
草波氏は携帯を取り出した。
「・・・こちら真田」
「?」
草波という名前では・・?
「ドクターズ・カーで来てくれ。大至急。場所は・・・」
「・・・・・」
「新しいお客さんも、お目見えだ」
僕は救急外来へ入った。
「島。病院が見つかった」
「ホントか?」
「紹介状は僕が書く。病棟で西条先生の処置を手伝ってもらえないか」
「お前は?」
「紹介先への連絡・搬送をやる」
「そ、そうか。分かった」
島は引き上げていった。
間もなく小型トレーラーが到着した。
中から30代半ばのハンサムな医師が現れた。少年隊のリーダーといった感じだ。
「じゃあ、もらっていくよ」
「お、お願いします」
「血だらけだな。ああいいよ、僕らがやる」
数人の白衣男性が患者さんを運んでいった。
彼は後ろのドアを閉めた。
「何やってる?新入りさんよ」
「新入り?」
「そうだ。君は僕らの仲間だ」
促されるまま、僕はトレーラーに押し込まれた。
「よいしょっと・・・いてて」
「ハハ、大丈夫か?」
助手席から少年隊リーダーは振り向いた。
「ええ」
僕の横に草波氏が乗り込んだ。
「今日は、書類の契約もして、それから戻りましょう」
「契約・・・」
「大丈夫。先生。もう人を疑わなくていい」
「・・・・・」
「年が明けて大学とも手を切れば、君は自由だ」
「自由・・」
「新世界へ、ようこそ」
車は走り出した。
僕は患者さんの手をギュッと握った。
次回 完結。
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