ブレよろ 6
2004年12月28日僕はミナミ、道頓堀の繁華街をうろついていた。
「確か、ここら・・・」
待ち合わせ場所と思しき曲がり角で、待つこと15分。以前いた田舎とは違って、すれ違う人たちには全く気にされない。
時間のように流れていく人波の中、こちらへゆっくりと歩いてくる影あり。
コツ、コツ、コツ・・・
「ひょっとして、アカンティをお探しですか・・?」
近寄ってきたのは、ロングコートを着て帽子をかぶったヌボーとした中年だった。
僕は顔を確認した。
「松田先生!」
「ユウキ!太ったか?お前!」
僕とは対照的に、松田先生はやせ細っていた。大学で以前世話になったドクターの1人。
彼が退職後に送ってくれたFAXがきっかけで、僕は品川くんを通じて真田分院で働ける。
こういった縁は大事にしたいものだ。
「松田先生。しばらく声だけだったもんで・・」
「ささ、行こう」
僕らは「アカンティ」へと向った。
チリンチリンとドアをくぐると、中は雰囲気の良いバーだった。
「ユウキ、カウンターでもいいか?」
「ええ」
バーテンが近づいてきた。
「コンバンハ、オキャクサン。ゴチュウモンヲ」
僕らはカクテルを注文した。
「ユウキはマティーニだろ?ジェームズ・ボンド君よ」
「松田先生。どうですか、クリニックのほうは」
「クリニック?ああ、2年目に入ったがな。どうも・・」
「うまくいってないですか?」
「トントンかな。ま、いいけど」
「赤字でも黒字ともいかないってヤツですか」
「そうだな。まあ、今回はお前が決まってよかった」
「3年前に先生から送って頂いたFAXがなかったら、今頃・・」
「今頃って?今もお前、大学の犬だろ?」
「え、ええ。でも半年後から新天地です」
「大学の了解は?」
「・・・・・・・」
「その顔だともらってないな。今のうちに説得しとけ」
「ええ」
「今の大学医局はひどいらしいぞ」
彼の「ひどい」は、より徹底された封建制度を指してのことだった。
「でしょうね。いつもですよ」
「いやいや。俺たちがいた頃はまだよかった」
注文が来た。
「まだよかった。まだ節度があった。秩序がな。混沌としてるようで、大事な上下関係
などあっても、理性的にはまだいい関係だった」
「今は・・どうなんです?」
「ある意味、秩序は保たれてる。だがそれはな、少人数で支配しようとする奴らがいてな」
「独裁ですか」
「俺が辞めるとき、それに近かった。それで俺は・・・」
松田先生は早くも2杯目を注文した。
「松田先生。それで嫌気がさして実験も中途で?」
「ああ。でも辞めて正解だったよ」
「では先生。ズバリお聞きしますが」
「はあ?」
「真田分院を辞められて、開業されたのは・・」
「あ、ああ。その件な。よく聞かれる」
「2年前、びっくりしました。いきなり辞められたと聞いて」
「うん。まあ確かに忙しい病院だった。けどな、決してそれに負けたわけじゃない」
彼はどうやら話を逸らしたいようだった。
「俺が出たあと、後輩が1人来た」
「うちの医局からですか?それってトシキ・・」
「おうそうだ。知ってたか?」
「先日退職する日に、ある医者から聞きました。少年隊みたいな顔した医者です」
「少年隊・・・?新しいヤツだろな。トシキは今も働いてるんだってな」
「よく出来るヤツなんですか?」
「ああ、そりゃもう。2年目ですでに<下克上>だったな」
なんか、手ごわそうなヤツなんだろうな・・。
「ノナキーのもとコベンだよ。あいつが育てた」
「あいつか。やっぱりな。朱に交われば・・」
「他のヤツの話では、洗脳されたんじゃないかって」
「野中にですか?」
「ああ。あいつはカリスマ性がある」
「アイツは僕の同級ですけど、確かに不思議な力がありました」
「そりゃ大変だ。なら頑張ることだ」
「は?」
「だってオイ、今大学医局を仕切ってるのはノナキーなんだぜ」
「ええっ?」
おかしい。あいつは確か東京で「留学」していると聞いていたが・・。
「ノナキーは東京へ行ったんだが、そのあとなぜか医局員数が大激減したんだ」
「ああ、それ知ってます。入局希望者の数を読み間違えたと」
「15人くらい入るはずが、フタを開けたら2人」
「その1人は国家試験落ちましたね」
「でも1年後に来たよ」
「それで野中が呼び戻されたんですか・・・」
「ああ。タバコ、吸っても?」
「ええ」
「確か、ここら・・・」
待ち合わせ場所と思しき曲がり角で、待つこと15分。以前いた田舎とは違って、すれ違う人たちには全く気にされない。
時間のように流れていく人波の中、こちらへゆっくりと歩いてくる影あり。
コツ、コツ、コツ・・・
「ひょっとして、アカンティをお探しですか・・?」
近寄ってきたのは、ロングコートを着て帽子をかぶったヌボーとした中年だった。
僕は顔を確認した。
「松田先生!」
「ユウキ!太ったか?お前!」
僕とは対照的に、松田先生はやせ細っていた。大学で以前世話になったドクターの1人。
彼が退職後に送ってくれたFAXがきっかけで、僕は品川くんを通じて真田分院で働ける。
こういった縁は大事にしたいものだ。
「松田先生。しばらく声だけだったもんで・・」
「ささ、行こう」
僕らは「アカンティ」へと向った。
チリンチリンとドアをくぐると、中は雰囲気の良いバーだった。
「ユウキ、カウンターでもいいか?」
「ええ」
バーテンが近づいてきた。
「コンバンハ、オキャクサン。ゴチュウモンヲ」
僕らはカクテルを注文した。
「ユウキはマティーニだろ?ジェームズ・ボンド君よ」
「松田先生。どうですか、クリニックのほうは」
「クリニック?ああ、2年目に入ったがな。どうも・・」
「うまくいってないですか?」
「トントンかな。ま、いいけど」
「赤字でも黒字ともいかないってヤツですか」
「そうだな。まあ、今回はお前が決まってよかった」
「3年前に先生から送って頂いたFAXがなかったら、今頃・・」
「今頃って?今もお前、大学の犬だろ?」
「え、ええ。でも半年後から新天地です」
「大学の了解は?」
「・・・・・・・」
「その顔だともらってないな。今のうちに説得しとけ」
「ええ」
「今の大学医局はひどいらしいぞ」
彼の「ひどい」は、より徹底された封建制度を指してのことだった。
「でしょうね。いつもですよ」
「いやいや。俺たちがいた頃はまだよかった」
注文が来た。
「まだよかった。まだ節度があった。秩序がな。混沌としてるようで、大事な上下関係
などあっても、理性的にはまだいい関係だった」
「今は・・どうなんです?」
「ある意味、秩序は保たれてる。だがそれはな、少人数で支配しようとする奴らがいてな」
「独裁ですか」
「俺が辞めるとき、それに近かった。それで俺は・・・」
松田先生は早くも2杯目を注文した。
「松田先生。それで嫌気がさして実験も中途で?」
「ああ。でも辞めて正解だったよ」
「では先生。ズバリお聞きしますが」
「はあ?」
「真田分院を辞められて、開業されたのは・・」
「あ、ああ。その件な。よく聞かれる」
「2年前、びっくりしました。いきなり辞められたと聞いて」
「うん。まあ確かに忙しい病院だった。けどな、決してそれに負けたわけじゃない」
彼はどうやら話を逸らしたいようだった。
「俺が出たあと、後輩が1人来た」
「うちの医局からですか?それってトシキ・・」
「おうそうだ。知ってたか?」
「先日退職する日に、ある医者から聞きました。少年隊みたいな顔した医者です」
「少年隊・・・?新しいヤツだろな。トシキは今も働いてるんだってな」
「よく出来るヤツなんですか?」
「ああ、そりゃもう。2年目ですでに<下克上>だったな」
なんか、手ごわそうなヤツなんだろうな・・。
「ノナキーのもとコベンだよ。あいつが育てた」
「あいつか。やっぱりな。朱に交われば・・」
「他のヤツの話では、洗脳されたんじゃないかって」
「野中にですか?」
「ああ。あいつはカリスマ性がある」
「アイツは僕の同級ですけど、確かに不思議な力がありました」
「そりゃ大変だ。なら頑張ることだ」
「は?」
「だってオイ、今大学医局を仕切ってるのはノナキーなんだぜ」
「ええっ?」
おかしい。あいつは確か東京で「留学」していると聞いていたが・・。
「ノナキーは東京へ行ったんだが、そのあとなぜか医局員数が大激減したんだ」
「ああ、それ知ってます。入局希望者の数を読み間違えたと」
「15人くらい入るはずが、フタを開けたら2人」
「その1人は国家試験落ちましたね」
「でも1年後に来たよ」
「それで野中が呼び戻されたんですか・・・」
「ああ。タバコ、吸っても?」
「ええ」
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