ブレよろ 7
2004年12月28日気持ちの良いジャズが流れ始めた。
それとは裏腹に、僕は不安だった。半年後に転勤するにしても、この半年は大学病院だ。
またあの医局へ戻る。
民間病院でのことはおそらく拡がっていて、居づらい状況が続くだろう。
「ニホンハ、オイシャサンニナルマデデモタイヘンデスヨネ」
「へっ?」
バーテンが話しかけてきた。
「ワタシノコキョウデハ、イカダイガクハ、オカネガアレバ、イケル。デモソコカラ、イチニンマエニナルノガ、ムズカシイ」
「確かに、日本の国家試験の合格率自体、高すぎですよね」
「マアソノマエニ、ソツギョウシケントイウ、ナンカンガアルンデショウケド」
「いやあ、それでもそんなに落ちはしませんよ」
「ダカラ、ニホンノバアイ、ダイガクウカッタラ、モウソレデアンシンシテ、ダセイデイシャニナルヨウナヒトガ、オオイヨウナキガシマス」
「まあそれに、医師免許が取れたらもう失うことはないしね。よほどのことがないと」
松田先生は5杯目あたりだ。
「バーテンさんよ。医者は他にも来るかい?」
「エエ、モチロン。ココニコラレルオイシャサンハ、ミナイイヒトバカリデス」
「なんで分かるんだよ?」
「ワタクシダテニ、ナンネンモココデハタライテマセン。ヒトヲミルメハアリマス」
「なんかよう。お前。人を見下してねえか?」
酒で悪酔いしてしまうのが、松田先生の悪いとこでもあった。
「ったく・・・ユウキ!飲みが甘いぞ!」
「は、はい」
「なんでこう、俺の周りはそうやって人を見下すような奴らばっかなんだ?え?」
「先生、酒はもうこのくらいで・・」
「その点な、お前は違う。嬉しいよっと!おいボブ!酒!」
「ワタクシハ、ボブデハアリマヘン」
「大阪弁のつもりかよ、ボブ!」
僕は松田先生をなだめた。
「松田先生。まあ、もうこれくらいにしましょうよ」
「俺はよー、俺はよ・・・・」
彼は肩を落とし始めた。
「一生懸命やってんだ。プライドも捨ててやってきた」
「ええ・・」
「みんなはなあ、俺が根性ねえとか、使い物にならねえとか陰口たたきやがって」
「ええ・・」
「俺がいったいどんだけ日頃悩んでんのかも知らずになあ!」
「ええ・・」
「お前にさえ言えない、この気持ちが分かるかあ?こら!」
「わ、分かりませんよ。聞いてない限り」
「そこだ!」
「は?」
「そこがいけないんだ!お・ま・え・の!」
酔ってるわりに、内容のある言葉だった。
「ユウキ。俺はクリニックやってるから分かるんだけどな」
「はい」
「患者が入ってきてよお、さ、お前どうする?」
「外来でってこと?」
「あったりまえだろが。患者がさ、入ってきた!どうする?」
彼はサッと銃をかまえるフリをした。
「『これでテメエは、終わりだ。バーン』」
なんてことを・・・。
「ささ、第一声!」
「どうされましたか?ってまず一声・・」
「ダーメダーメ!そんなんじゃあ、患者の心は引き出せないぞ!」
「では先生は、どのように?」
「・・・・・いいか。ヒック。まずは患者の顔を一瞥・・・」
「・・・・・」
「そしてだな。『おい店長!悪ぃけどチェンジしていいか?』わっはははは!」
「・・・・・」
「ま、それは冗談として。患者を一瞥。ここで読まなきゃな」
「読むって・・?」
「その一瞬で読むんだ。表情、言葉。何でもいい」
「それで・・?」
「カルテの表紙も大事だぞ。何割負担なのか、住所はどうか。近所なのか・・」
「なるほど」
「聞けば患者は答えるだろう。だが全ての情報を与えてくれるかどうか。それを引き出すのが俺たちの仕事だ」
「ええ」
どうやら聞く価値のある内容だ。
「俺も患者みたいなもんだ。悩みをかかえてる。常にな。人に話すこともあるだろう。だが全て話すか?」
「・・・・」
「悩みを相談するときって、全部話してるか?お前?」
「・・・そういや、けっこう考えてから話しますね」
「そうだ。なぜか?心を開いてないからだ」
「なるほど」
「病院でもそう!患者の心を開かなければ、ホントの情報は得られない。よって診断・治療も不可能」
「では、松田先生は・・・」
「あん?」
「まだ治療をされてないので・・?」
しまったと思ったが、時間は過ぎていた。彼が実際にうつ症状で治療したことがあると聞いていたからだ。
「そうだ。話せないこともある。お前にも、あるだろ?」
そんなの・・・誰だってある。
それとは裏腹に、僕は不安だった。半年後に転勤するにしても、この半年は大学病院だ。
またあの医局へ戻る。
民間病院でのことはおそらく拡がっていて、居づらい状況が続くだろう。
「ニホンハ、オイシャサンニナルマデデモタイヘンデスヨネ」
「へっ?」
バーテンが話しかけてきた。
「ワタシノコキョウデハ、イカダイガクハ、オカネガアレバ、イケル。デモソコカラ、イチニンマエニナルノガ、ムズカシイ」
「確かに、日本の国家試験の合格率自体、高すぎですよね」
「マアソノマエニ、ソツギョウシケントイウ、ナンカンガアルンデショウケド」
「いやあ、それでもそんなに落ちはしませんよ」
「ダカラ、ニホンノバアイ、ダイガクウカッタラ、モウソレデアンシンシテ、ダセイデイシャニナルヨウナヒトガ、オオイヨウナキガシマス」
「まあそれに、医師免許が取れたらもう失うことはないしね。よほどのことがないと」
松田先生は5杯目あたりだ。
「バーテンさんよ。医者は他にも来るかい?」
「エエ、モチロン。ココニコラレルオイシャサンハ、ミナイイヒトバカリデス」
「なんで分かるんだよ?」
「ワタクシダテニ、ナンネンモココデハタライテマセン。ヒトヲミルメハアリマス」
「なんかよう。お前。人を見下してねえか?」
酒で悪酔いしてしまうのが、松田先生の悪いとこでもあった。
「ったく・・・ユウキ!飲みが甘いぞ!」
「は、はい」
「なんでこう、俺の周りはそうやって人を見下すような奴らばっかなんだ?え?」
「先生、酒はもうこのくらいで・・」
「その点な、お前は違う。嬉しいよっと!おいボブ!酒!」
「ワタクシハ、ボブデハアリマヘン」
「大阪弁のつもりかよ、ボブ!」
僕は松田先生をなだめた。
「松田先生。まあ、もうこれくらいにしましょうよ」
「俺はよー、俺はよ・・・・」
彼は肩を落とし始めた。
「一生懸命やってんだ。プライドも捨ててやってきた」
「ええ・・」
「みんなはなあ、俺が根性ねえとか、使い物にならねえとか陰口たたきやがって」
「ええ・・」
「俺がいったいどんだけ日頃悩んでんのかも知らずになあ!」
「ええ・・」
「お前にさえ言えない、この気持ちが分かるかあ?こら!」
「わ、分かりませんよ。聞いてない限り」
「そこだ!」
「は?」
「そこがいけないんだ!お・ま・え・の!」
酔ってるわりに、内容のある言葉だった。
「ユウキ。俺はクリニックやってるから分かるんだけどな」
「はい」
「患者が入ってきてよお、さ、お前どうする?」
「外来でってこと?」
「あったりまえだろが。患者がさ、入ってきた!どうする?」
彼はサッと銃をかまえるフリをした。
「『これでテメエは、終わりだ。バーン』」
なんてことを・・・。
「ささ、第一声!」
「どうされましたか?ってまず一声・・」
「ダーメダーメ!そんなんじゃあ、患者の心は引き出せないぞ!」
「では先生は、どのように?」
「・・・・・いいか。ヒック。まずは患者の顔を一瞥・・・」
「・・・・・」
「そしてだな。『おい店長!悪ぃけどチェンジしていいか?』わっはははは!」
「・・・・・」
「ま、それは冗談として。患者を一瞥。ここで読まなきゃな」
「読むって・・?」
「その一瞬で読むんだ。表情、言葉。何でもいい」
「それで・・?」
「カルテの表紙も大事だぞ。何割負担なのか、住所はどうか。近所なのか・・」
「なるほど」
「聞けば患者は答えるだろう。だが全ての情報を与えてくれるかどうか。それを引き出すのが俺たちの仕事だ」
「ええ」
どうやら聞く価値のある内容だ。
「俺も患者みたいなもんだ。悩みをかかえてる。常にな。人に話すこともあるだろう。だが全て話すか?」
「・・・・」
「悩みを相談するときって、全部話してるか?お前?」
「・・・そういや、けっこう考えてから話しますね」
「そうだ。なぜか?心を開いてないからだ」
「なるほど」
「病院でもそう!患者の心を開かなければ、ホントの情報は得られない。よって診断・治療も不可能」
「では、松田先生は・・・」
「あん?」
「まだ治療をされてないので・・?」
しまったと思ったが、時間は過ぎていた。彼が実際にうつ症状で治療したことがあると聞いていたからだ。
「そうだ。話せないこともある。お前にも、あるだろ?」
そんなの・・・誰だってある。
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