ブレよろ 8

2004年12月28日
「ユウキです。久しぶりに故郷へ戻ってきました。よろしくお願いします」
目の前の20人ほどの医局員は、ほとんどが知らない顔だ。
それだけ大学医局の人間の入れ替わりというのは激しい。

それに雰囲気もどことなく、違う。静粛というよりも、何かしら、しらけムード的なものが漂う。

クールな板垣医局長が時計を見上げ、立ち上がった。

「彼は3年間、民間で修行を重ねてきました。臨床面でわからない事があれば、彼に」
「せ、先生。自分は」
思わず声が出た。あの常勤先で学んだことなど、何もないからだ。

医局長は続ける。
「ではユウキ先生には、コベンの先生を1人お願いいたします」
「は?」
「ミタライ先生。どこ?挨拶を」

手を上げた先生は、ちょっと太目のメガネ女医だった。
「よろしくお願いしまーす」

立ち上がらないのはまあいいとして、全く緊張感のない自己アピールだな・・。

「ではユウキ先生。これから1年間、彼女の指導を」
「1年?」
「そうだが、何か・・・?」
「い、いえ」
「今年の研修医は女医が2人。彼女と、沢村くんだ」

もう1人が手を上げた。長い髪の日本女性風だ。

こっちのほうがよかったが・・・。

いきなり医局員が1人、入ってきた。
「遅れて失礼します」

野中だ。色黒でジャニーズ系。頭がオールバックになった以外は変わってない。

彼は壇上の僕を一瞥した。

「病棟医長より。いいですか?」

こいつ、病棟医長なのか・・・。

「院内でのPHS使用ですが、不具合とかありましたら私のほうまで。それと・・」

こいつが病棟医長なら、やりにくいな。今後・・。

「ウイルスメールの件ですが、感染がかなり拡がってるようですので医局内のパソコンを
一度すべて入れ換えます。データは各自、バックアップしておいて下さい。以上」

時代はもうインターネットなんだな。

解散し、みな散り散りとなった。僕はいちおう彼に挨拶する義務があった。
「野中・・」
彼はサッと無視するように廊下へ走っていった。

「野中・・」
「マイオーベン、お願いします」
コベンの子だ。しかし・・・・それにしても・・・・何食ってるんだ?

「俺に聞いても、何も答えれないよ」
「また、ご謙遜を。先生の武勇伝、聞きました」
「ああ、またあれ?オーベンを打ち負かしたって?」
「スゴイですよね」
「ま、そういうことにしておくか。疲れた」
「先生はいつでしたら、お時間空いてますか?」
「俺がいなかったら、別のヤツにでも・・」
「今、患者さん2人診てるんですけど」
「重症?」
「糖尿病+慢性腎不全、それと胸水精査」
「腎不全はクレアチニンでどの程度・・」
「今から病棟へお願いいたします」
「来いってこと?」
「ええ。まあ」

今日はもう夕方で時間も遅くなるし・・。

「また見ておくよ、明日の朝・・」
「明日の朝は回診です。なので」
「俺は今日、ここへ来たばっかだし」
「でも、医局長が今日聞いておけと」
「しようがねえなあ・・・」

僕らは病棟へ上がった。
婦長はまだいた。同じ婦長だ。

「あ〜ら。お久しぶりのご登場ですこと。少し・・」
「あ?なに?」
「太ったんじゃあ、ありませんですこと?」
「そうだよ。何か?」
「いいえ。まあまあ先生、新しい先生連れて。オーベンとは・・・先生も出世されたようね」

相変わらず一言一言がムカつくヤツだな。

「ミタライ先生、だったっけ?カルテは・・」
「これです」
「腎不全はクレアチニンで3.4mg/dlで、BSコントロールは良好。尿蛋白は2+が続く・・・
1日尿蛋白は?」
「まだ測定してません」
「蓄尿はしてもらってる?」
「それが、いいかげんな人で」
「それでも注意しないと」
「促してはいるんですが・・」
「今回の入院目的は?」
「教育入院です。心電図では・・あれ?心電図・・・」

時間が気になる。今日はもう野中に会うだけで疲れた。

ここの空気も悪い。

帰りたい。

「えっと・・・・・と・・・」
「何だよ。きちんと揃えとけよ」
「あったんだけどなあ・・」
「胸の痛みがあるからカテを?」
「いえ。その・・・何だったけな」
「ええ?」
「患者さんに直接聞いてみましょうか?」
「あのなあ・・」

この先、大変そうだ。こりゃ半年先でなく、1ヶ月先に前倒しできんものかな。

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