ブレよろ 12
2004年12月28日教授回診前のプレゼン。
「沢村です。よろしくお願いしまーす!」
人を舐めてるような幼い声のレジデント女医は、マイペースでプレゼンを始めた。
「患者さんは、47歳。主訴は、胸部異常陰影で入院されました」
「違うでしょ・・」
「はっ?」
教授がまたつまらんストップをかけた。言葉の揚げ足だ。
「主訴が胸部異常陰影?日本語ではないですな」
「はい・・・」
「オーベンはそれでいいと?」
「島先生は・・」
あいつがオーベンなのか・・。
「胸部異常陰影をどうしたいから、入院したのかね?」
「ええっと・・・調べたいからです」
ドバッと溢れるように、笑いの渦が彼女を飲み込んだ。
「ま、そうだわな。もっと適当な日本語で言いなさいよ」
「主訴は・・胸部異常陰影を・・・調べて欲しい?あっ?えっ?」
また笑いが巻き起こった。
島先生は後部の座席から立ち上がった。
「沢村!俺、ちゃんと教えたじゃん!」
「あ、はい・・・」
助教授は芝居と思えるくらい受けっぱなしだ。
「主訴は・・・胸部異常陰影を・・・知りたい?え?」
「え?じゃないよ。君?誰に聞いてるの?」
教授は半分真剣になってきた。それを察知した周囲はだんだん冷めてきた。
「胸部異常陰影の精査目的!でしょうが!」
「はい。経過は・・」
「待ちなさいって!」
教授はだんだん不機嫌になってきた。もう誰も止められない。
「島先生。こんな態度も、君の影響か?」
島先生はよろめきながら立ち上がった。
「すみません!今後、注意しときます!」
「島先生がもっと成長せんかったら、今度は・・・野中病棟医長の責任だよ」
教授の真横の野中が静かに頷いた。
「もっともでございます」
こいつ。完全にイエスマンだな。
「もういい。君は下がりなさい。オーベンがあとは代わりに」
「はは、はい!」
島先生は勢いよく前へ飛び出してきた。僕と一瞬、目が合った。
「3ヶ月前の健康診断で、右下肺の胸部異常影を指摘。当院の外来へ紹介されました」
「ふむ・・」
「それから3ヵ月後のレントゲンということになりますが、サイズは同じく長径1.5cm。わわ、すみません。長径は同じく1.5cmでした」
「CTは?」
「これです。かか、掛けます」
なんだこいつ、意外と気が小さいな・・・。体格はすごいが、タマは小さそうだ。
「右の・・・・S7!」
「クイズ番組みたいだな。わっはは」
周囲はまた機嫌を察知、少し笑いが復活した。
「マーカーは結果未です。私の予想では、男性で喫煙者・・・3ヶ月でほぼ変わらない。進行がそこまで急でない・・」
「・・・・・」
「Squamous(扁平上皮癌)だと思います」
「誰もそこまで聞いとらんよ」
数人の助手が大爆笑した。他のドクターは固まっている。なんという光景だ。
完全な上下関係、封建社会は健在だった。
教授の機嫌は戻ったようだ。
「喀痰の細胞診もまだか。とにかく早く気管支鏡をやって、確定診断・・」
「VATSを予定しようかと」
「バッツ?ああ、バッツね」
「S7の末梢に近い部分で、気管支鏡は届きにくいと・・」
「君の判断か?」
「は、はい。呼吸機能も悪い患者さんでして」
「君が判断できるようになったのか?」
「は、はい」
「自分に自信が?」
「い、いえ。そこまでは・・」
「なら勝手に判断してはいかん。ちゃんと呼吸器グループと相談してやれ」
「は、はい!」
島先生は完全に形無しだった。
医局長は後ろを見回した。
「次・・・・・ミタライ先生!」
「はい!」
彼女が尻で押した椅子が、後ろの院生の長いすをズドン!と直撃した。
それに目もくれず、彼女はドスドスと前へ歩いていった。
「よろしくお願いします。58歳男性。糖尿病コントロール目的です」
「ふん。それで?」
「平成6年より糖尿病による慢性腎不全があり、近医でインスリンによる血糖コントロールを行っておりました。
空腹時血糖80-110mg/dl前後、HbA1c 6.0%前後で比較的安定していましたが、ここ半年間は300mg/dl前後が続き、改めてコントロールの見直しが必要と考えられ、当科外来へ紹介され・・・」
「おいおい。文章が長すぎるよ」
「はい。血糖コントロールおよび全身精査の目的で当科に入院となりました」
「全身精査ね。他には何を?」
「心電図でSTの低下が若干みられ、SMI(無症候性心筋虚血)の精査」
「これね。そうだな。他には?」
彼女はカルテを置いて、教授を見つめ話し始めた。
「腎機能の評価です」
「合併症としてのな。では糖尿病の合併症は・・他には?」
「眼病変、末梢神経障害。前者はHS分類と後者は伝導速度を」
「腎臓と足して3大病変だな。他は先ほどの虚血性の心疾患・・・あと2つあるとしたら?」
「ASOと脳血管障害です」
「わしの授業をちゃんと聞いてたとみえるな」
教授は嬉しそうだった。
彼女・・すごいな。
「この子は優秀だな。オーベンは?」
「は、はい」
僕は立ち上がった。
「君・・・・」
「・・・・・・」
「誰だっけ?」
「沢村です。よろしくお願いしまーす!」
人を舐めてるような幼い声のレジデント女医は、マイペースでプレゼンを始めた。
「患者さんは、47歳。主訴は、胸部異常陰影で入院されました」
「違うでしょ・・」
「はっ?」
教授がまたつまらんストップをかけた。言葉の揚げ足だ。
「主訴が胸部異常陰影?日本語ではないですな」
「はい・・・」
「オーベンはそれでいいと?」
「島先生は・・」
あいつがオーベンなのか・・。
「胸部異常陰影をどうしたいから、入院したのかね?」
「ええっと・・・調べたいからです」
ドバッと溢れるように、笑いの渦が彼女を飲み込んだ。
「ま、そうだわな。もっと適当な日本語で言いなさいよ」
「主訴は・・胸部異常陰影を・・・調べて欲しい?あっ?えっ?」
また笑いが巻き起こった。
島先生は後部の座席から立ち上がった。
「沢村!俺、ちゃんと教えたじゃん!」
「あ、はい・・・」
助教授は芝居と思えるくらい受けっぱなしだ。
「主訴は・・・胸部異常陰影を・・・知りたい?え?」
「え?じゃないよ。君?誰に聞いてるの?」
教授は半分真剣になってきた。それを察知した周囲はだんだん冷めてきた。
「胸部異常陰影の精査目的!でしょうが!」
「はい。経過は・・」
「待ちなさいって!」
教授はだんだん不機嫌になってきた。もう誰も止められない。
「島先生。こんな態度も、君の影響か?」
島先生はよろめきながら立ち上がった。
「すみません!今後、注意しときます!」
「島先生がもっと成長せんかったら、今度は・・・野中病棟医長の責任だよ」
教授の真横の野中が静かに頷いた。
「もっともでございます」
こいつ。完全にイエスマンだな。
「もういい。君は下がりなさい。オーベンがあとは代わりに」
「はは、はい!」
島先生は勢いよく前へ飛び出してきた。僕と一瞬、目が合った。
「3ヶ月前の健康診断で、右下肺の胸部異常影を指摘。当院の外来へ紹介されました」
「ふむ・・」
「それから3ヵ月後のレントゲンということになりますが、サイズは同じく長径1.5cm。わわ、すみません。長径は同じく1.5cmでした」
「CTは?」
「これです。かか、掛けます」
なんだこいつ、意外と気が小さいな・・・。体格はすごいが、タマは小さそうだ。
「右の・・・・S7!」
「クイズ番組みたいだな。わっはは」
周囲はまた機嫌を察知、少し笑いが復活した。
「マーカーは結果未です。私の予想では、男性で喫煙者・・・3ヶ月でほぼ変わらない。進行がそこまで急でない・・」
「・・・・・」
「Squamous(扁平上皮癌)だと思います」
「誰もそこまで聞いとらんよ」
数人の助手が大爆笑した。他のドクターは固まっている。なんという光景だ。
完全な上下関係、封建社会は健在だった。
教授の機嫌は戻ったようだ。
「喀痰の細胞診もまだか。とにかく早く気管支鏡をやって、確定診断・・」
「VATSを予定しようかと」
「バッツ?ああ、バッツね」
「S7の末梢に近い部分で、気管支鏡は届きにくいと・・」
「君の判断か?」
「は、はい。呼吸機能も悪い患者さんでして」
「君が判断できるようになったのか?」
「は、はい」
「自分に自信が?」
「い、いえ。そこまでは・・」
「なら勝手に判断してはいかん。ちゃんと呼吸器グループと相談してやれ」
「は、はい!」
島先生は完全に形無しだった。
医局長は後ろを見回した。
「次・・・・・ミタライ先生!」
「はい!」
彼女が尻で押した椅子が、後ろの院生の長いすをズドン!と直撃した。
それに目もくれず、彼女はドスドスと前へ歩いていった。
「よろしくお願いします。58歳男性。糖尿病コントロール目的です」
「ふん。それで?」
「平成6年より糖尿病による慢性腎不全があり、近医でインスリンによる血糖コントロールを行っておりました。
空腹時血糖80-110mg/dl前後、HbA1c 6.0%前後で比較的安定していましたが、ここ半年間は300mg/dl前後が続き、改めてコントロールの見直しが必要と考えられ、当科外来へ紹介され・・・」
「おいおい。文章が長すぎるよ」
「はい。血糖コントロールおよび全身精査の目的で当科に入院となりました」
「全身精査ね。他には何を?」
「心電図でSTの低下が若干みられ、SMI(無症候性心筋虚血)の精査」
「これね。そうだな。他には?」
彼女はカルテを置いて、教授を見つめ話し始めた。
「腎機能の評価です」
「合併症としてのな。では糖尿病の合併症は・・他には?」
「眼病変、末梢神経障害。前者はHS分類と後者は伝導速度を」
「腎臓と足して3大病変だな。他は先ほどの虚血性の心疾患・・・あと2つあるとしたら?」
「ASOと脳血管障害です」
「わしの授業をちゃんと聞いてたとみえるな」
教授は嬉しそうだった。
彼女・・すごいな。
「この子は優秀だな。オーベンは?」
「は、はい」
僕は立ち上がった。
「君・・・・」
「・・・・・・」
「誰だっけ?」
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