ブレよろ 13

2004年12月28日
医局長も立ち上がった。
「き、今日から本格勤務のドクターです。山の上の民間病院から戻ってきました・・」
「山の上・・あの国営だった病院か?」
「そうです」
「ああ!あそこか。同級は・・」
「自分です」

野中が名乗り出た。

「野中君と同級・・ほお。なら、期待できるな」
「いえ」
思わず言葉が出た。
「思い出した。君な・・・ああ、わかった」

なんか、まずいな。

「アンタ、民間の病院の神谷くんから聞いたけど。ありゃいかんよ」
「・・・・・・」

周囲はもう知っているのか、無反応だ。

「ああいったことは慎みなさいよ。上の許可も得ずに行動したら誰でも怒る」
「はい・・・すみません」
「そういう医者は、うちの医局には相応しくない。この医局もここ数年、統制がやっと取れ始めたのだ」
「はい」
「その秩序を乱してはいかんぞ」
http://www5.hokkaido-np.co.jp/italk/medical/medical_lifetime.html
「はい・・」

野中が僕の横に腰掛けた。次のプレゼンは始まっている。

「ユウキ」
「野中。バーで飲んで以来・・」
「俺は驚いたぞ。あれはいかん」
「もう聞いたって」
「自分が職場を去るからって、自分の患者をよそへ放る人間がいるか?」
「患者の希望だったんだ」
「ここへ連れてくるなら分かるが」
「リハビリ目的でもか?」
「そうは言ってない。昨日も勝手なことをしたと聞いた」

だんだんイライラしてきた。

「野中。島ってヤツ。あれなんだ?あんな態度・・」
「人のこと言う前に、我がフリを治すんだよ」
「俺の本音も汲み取れっての」
「俺は立場が違う。病棟の責任を負ってる」
「いつからそんなヤツに・・・・もともとそうだったな」
「お前も同じだよ。一言多い」

彼はゆっくり立ち上がり、教授の横へ戻っていった。

回診は無難に終わり、みな散らばった。
僕はコベンを食事に誘った。オーベンがコベンにおごるのは原則だ。

「おい、ミタライさん」
「はい」
「ご苦労さん。あれでいいと思うよ。何人かで食べに行こうよ」
「これから朝のデータを見ないと・・」
「ちょっと、ちょっと行くだけだし、な!」
「それと他科受診の最中なので」
「糖尿病の人の眼科受診か?別に関係ないだろ?」
「私も眼科外来へ・・」
「返事だけ待ってればいいだろ?」
「それはいけないと」
「誰が?」
「島先生が」
「そんなおい、ストーカーみたいにつきまとうのが主治医じゃないぞ」
「ストーカー?」

やがて数人の集団がいくつか出来上がり、それぞれが食事へ出かけていった。

「そっか。じゃ、俺行って来るわ」
「先生。いつここへ戻られます?」
「夕方にまた」
「あたし、そのあとも文献検索があるので・・・その後で」
「じゃあかなり遅くなる?」
「夜の9時・・」
「おいおい。カンベンしてくれよ・・・」
「一度先生、戻られて出直すとか」
「よくそこまで言えるな・・・」

オーベンの宿命だ。仕方ない。コベンのボディガードだもんな・・。

「わーった。はいはい。じゃ、また晩にね」
僕は階段を降り、走ってやっと医局員の集団に追いついた。

同級生は野中しかいない。野中はその群れにはいない。むしろそれでよかった。

だが・・・島先生・沢村先生以外は、みな知らぬ顔ばかりだ。

「おい、君君」
「はい?」
2,3年目っぽいドクターを捕まえた。
「ユウキだけど、知ってるだろ?」
「ええ、まあ・・」
「生協行くのか?」
「はい・・・」

周囲の4人は喋るのをやめ、黙々と歩き始めた。

「あそこはイマイチだぞ。病院前の喫茶店はどうだ?」
「僕らは生協へ行くんですけど・・」
http://www.yamagata.u-coop.or.jp/common/shokudo/story/
「そっか・・・ついてくよ」

僕は無理矢理彼らの側に腰掛けた。
「セルフサービスは久しぶりだな・・」
「先生は、今までどちらの病院に?」
さきほどの彼がやっと自発的に口を開いた。

「国営から民間に変わった、山の上の病院だよ」
「ああ、あそこ。じゃあ、先生がそうなんですか?」
「な、なんだよ。悪かったな」
「三品先生と講演会で会いましたけど、かなり切れてましたよ」
「アイツは嫌なヤツだったな」
「アイツって先生。それはないでしょう」
「名前は?」
「僕ですか?重田です」
「シゲタ先生。ここに何年・・」
「2年経ちますけど」
「僕の同級は元気だった?間宮、川口・・」
「?いえ、僕が入ったときは、そのような名前の先生は・・」
「そっかそっか。まあいい。大学の医局の出入りは激しいもんな」

周囲の医者どもは知らん顔して聞き耳を立てている。

「ユウキ先生は、ご専門は何を?」
「両方やってた」
「循環器と呼吸器を?」
「ああ。でも外来は寂しかった。週1回のバイト先は別だったけど」
「月、いくらもらってました?」
「いきなりそんな話かよ」

最近の若者は、ナイフでもなんでもすぐに刺す。
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/tv/seisyo01.html

「自分も、近いうち大学を出ると思うので」
「45万。手取りでね。ただし週1回は当直だよ。時間外はもらえない」

周囲の医者どもは完全に聞き入っていた。

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