ブレよろ 18

2004年12月29日
「きちんと飲んでもらわないと困ります」
「ああ、そうでっかそうでっか」
「検査する以前の話です!」
「じゃ、今の薬でよろしいわけですな」
「ですけど・・」
「じゃあなんでこんな動悸ばっか打つんでっしゃろか」
「きちんと飲めてないからです」
「でも1週間はちゃんと飲んでるよ」
「どっちなんですか?もう!!!」

石丸先生は立ち上がって机にパンチし、事務室へ入った。

「事務長さん!事務長さん!」
「あ、はいはい!」
品川君が大汗かきながら振り向いた。
「カルテ、あんな数・・処理できませんよ!」
「すみません。消化器外来へ何冊か回しましょうか・・」
「頼むよ。僕は循環器で来てるんだから!」
「まことに申し訳ありません・・・!」

品川君は深々とおじぎをし、石丸先生を見送った。

病棟からまたPHS。
「もしもし。石丸」
「シロー先生?消化器の轟です」
「トドロキ医長・・」
「あのさ、呼吸不全の患者、診てくれっていわれて診てるんだけど・・・」
「あ、はい」
「どうしたらいいわけ?」
「そ、そうですね・・・今は酸素マスクを?」
「追いつかなかったから、リザーバーに変えたよ」
「ありがとうございます・・」

石丸先生の机の上には容赦なくカルテが積み上がっていく。

「で、どこまでする人なわけ?この患者」
「ど、どこまでとは・・・まだ決めてなくて」
「家族の意見は?」
「それもまだ・・」
「困るよ先生。入院のときにハッキリ決めておいてくれないと」
「す、すみません」
「あとは知らないよ。挿管は先生がやってよ」
「せ、先生。もしものときお願いを・・」
「昼にはもう僕は帰る。そういう契約なんだし」
「え、ええ・・」

冷たい医者だ。このトドロキ内科医長はハヤブサとやってきた2人コンビだ。

次の患者のカルテ。36歳の不安神経症。精神科の医師は週2回しか来ず、
今日は休診。

「困ったな。専門外だよ。ふだんはデパスを処方・・」
患者が入ってきた。神経質そうな男性だ。
「おはようございます。今日はふだんと・・」
「まあ変わりないといえば、変わりないかな・・・待てよ」
「?」

こりゃまた、えらく時間がかかりそうだ。

「この、首の周りかな。この辺がときどきイガラッぽい、ていうか締め付けられる」
「はい・・」
「動悸もする。これが確か5日前、いや、4日前かな・・」
「デパスは内服を?」
「それは飲んでる。症状があれば2ついっしょにしたりするけどな」
「それは担当の先生の指示で?」
「いや。僕の経験から。でな、もっとよく効くのがほしいわけ」

カルテを見ると、ひととおりのは出てる。もう出すネタがないと片隅に書いてある。

「そうですね。今の段階では・・」
「じゃ、この首が締め付けられるのはいいわけ?どうなっても」
「いえ。そんなわけでは」
「じゃあ何か出してよ。ハルシオンとか」
「ハルシオンは睡眠薬ですけど・・」

カルテにはこの患者にはハルシオン禁、とある。

「なあ先生、出したってえな!」
「た、担当の先生の許可がないと。困ったな・・」
「別に先生が困らんでもええがな!」
「今日はいつもの処方にさせてもらいます」
「先生!まあ待て!患者がな。ここで1人困ってるわけや!」

患者の顔が変貌した。カルテ表紙には〔要注意人物〕とある。遅かった。
ナースのヤツも、教えてくれよ。

「その患者さんがな!つらいから薬出してくれって頼んでるわけや!せやのに
いつもの効かんクスリ出すとは・・どういうこっちゃ?おお?」

その声は病院中に響きわたった。

石丸先生はとにかく時間がなかった。

「でで・・・では、はい、処方します。ハハ、ハルシオンですね」
彼は震える手で処方を書いた。

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