ブレよろ 19

2004年12月29日
今度は47歳女性。
「あら?今日はあのハンサムな先生とちゃいまんの?看護婦さん?」
「今日はあの先生は出張でしてね」
ナースが柔らかく対応した。しかし石丸先生は憂鬱だった。

「じゃあまた今度にしてください」
「クスリが切れてるんでね。診察はしてもらおうっと」
患者はいきなり服をよいしょっとと捲り上げた。

「・・・必要ないです」
「はあ?」
患者は顔を真っ赤にして驚いた。
「コレステロールが高いままですよね。こっちのほうに専念を」
「いつもの先生は診てくれるのに・・」
「診るべきなのはコレステロールの数字ですよ!」
「それ、なかなか下がらんのよね。口がいやしいから」

「治すつもりあるんですか?」

患者は黙ってしまった。

「いつもの出しといて」
患者は去っていった。

PHSがまた鳴ってる。
「はい!詰所・・?」
「呼吸が止まりました。お願いします」
「え?ちょ・・・」
電話は切られた。隣ではハヤブサ先生がのんびり診察している。

「看護婦さん。急変なんで、上がります」
「いつここへ?」
「分かるわけないですよ!」

足早に彼は第4詰所へと向かった。

個室ではアンビューマスクによる手動換気が続けられていた。
「挿管の準備は・・・!」
「まだやってませんけど」
「3人も部屋に居るんなら、誰かが準備できるだろ!」

2人のナースは出て行き、1人だけ残った。
「なんだよこの詰所は?2人はいないと困るよ!」
ナースは無反応だ。

石丸先生は挿管チューブを入れにかかった。だがどうもチューブが真っ直ぐすぎる。
たわみが全くない。
「くそ、中のスタイレットはどうなってんだ!」
彼はそれを取り出し、適度に曲げた。また挿入。

「・・・・・吸引の準備してるの?」
「まだです」
「やってよ!」
ナースは無言で吸引の準備を始めた。

「入った・・・!カフの空気を入れて、と!看護婦さん!レントゲンの連絡を・・」
「今、吸引してるので手は空いてません」
「他のナースはどこ行った?」
「さあ」

どう考えても彼へのいじめであるのは明白だった。

なんとか一命を取りとめ、石丸先生はベッドサイドに腰掛けた。
しかし間髪与えず別のナースが入ってきた。
「先生、外来!呼んでる!」
「あ、ああ」

朝の10時半。こうしてる間にも患者はどんどん増えていく。

トドロキ医長先生が病室へ入ってきた。
「2人ほど、指示聞かれたぞ!」
「あ、ありがとうございます」
「昨日の夜中に入った腹痛の患者、先生まだ診てもないのか?」
「は、はい。またこのあと」
「点滴もせずに!」
「し、指示は出したのですが・・」
「そうか?ナースは知らないって言ってたぞ?」
「点滴の指示を書いて渡したんですが・・」
「君は1人になったらいつもこうだな。頼りない・・・!」

トドロキ医長先生はさらに手招きする。
「ささ、その患者の指示とかいろいろやってくれ!看護婦さんたち困ってるんだから!」
「はい。先生、外来のほうをしてきていいですか・・」
「僕が一応、内科医長なんだ。僕からの注意を最優先してもらわないと困る」
「え。ええ。ですけど」
「いつも誰かのオンブにダッコはダメだよ!」

石丸先生はナースの渦に投げ込まれた。
「先生!腹痛まだおさまってないんですけど!指示は?」
「胃カメラするって患者さんに説明されたんですか?いつ?」
「胃カメラは1週間ほどあいてないんですけど!」
「患者さんの家族が説明をって待たれてるんですけど!」

ここは修羅場だ。

ようやく波をかいくぐり、病室へ。昨日の当直医が入院させた患者の情報としては・・
腹痛、発熱、下痢。感染性腸炎との診断。たしかに他は考えにくい。ていうか浮かばない。

「なんか、昨日の当直の先生はじきに治るって言うてたが・・」
30代の男性の横には過保護な母親がついていた。
「ずっと点滴されて、これで4本目!いったいいつになったら・・」
石丸先生は採血結果を眺めた。

「じゃあ、食事をそろそろ・・」
「ああよかった!このまま兵糧攻めかと思った!」
患者は大喜びだ。
「ではまた夕方・・」
「ちょっと先生!」
母親が呼び止めた。
「いったいどんだけ先生が忙しいか、私らにはわからんけども」
「はい?」
「患者さんたちは素人さんなんだから!お金もきちんと支払ってる!だから納得いく説明をしてやね!それで・・」
「よ、呼ばれたので失礼します」

石丸先生は階段を急ピッチで降りだした。しかしやがて、それは緩やかなものとなった。

≪ な、なんだ・・?どういうことなんだ?

 僕は大学を離れて、ここに数年勤めてきた・・・

誰の下っ端でもなく、1人の独立した医師としてだ!精一杯やってる!

それなのに、なぜこんな仕打ちを・・? ≫

1階が近くなり、彼は再び急ぎ足で診察室へ戻った。

ナースは怒り心頭だった。
「先生!患者さんたちはみな怒ってしまって・・!」
「え?」
「処方だけにしておきました!」
「い、いいのかい?」
「先生のペースがのろいからですよ!」
「のろい?僕が?」
「なんかこう、うまく切り抜けられないんですか?他の先生はきちんとやりはるのに・・」
「そうかい。わかったよ。僕はもうやらない!」

品川君が走ってきたが、もう遅かった。

「せ、先生。風邪の初診が3名」
「ダメだよ!無理だ!こんなスタッフで自分は診れない!」
「失礼なことがあったんですね。先生・・・申し訳ありません」
「ふだん診てる院長や消化器のやつらがあんなんだ!話にならない!」
「・・・・・・」

横から一段落終えたハヤブサ先生が出てきた。
「足手まといなんだよ、坊主」

丁寧語からタメ口に変わった。

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