ブレよろ 21
2004年12月29日病棟では石丸先生が再び業務に追われていた。
「先生。挿管チューブの入れ換えはいつ?詰まりかけなんですけど」
「採血、取れませんので先生がしてください」
「熱がいっこうに下がらないんですけど」
「バルーンの挿入部から出血が」
「待ってくれ!聖徳太子じゃない!」
彼は15冊ほどの入院カルテを抱えていた。
婦長はひとり端っこに座り、勤務表作りに励んでいる。
「ぜえんぶ、石丸先生の患者ですよ」
「わかってますよ」
「キッズ」が2人、入ってきた。
トドロキ医長は妙に深刻そうだ。
「みんな注目!アイツが帰ってきたぞ!」
いきなり職場の動きが慌しくなってきた。
婦長でさえも立ち上がった。
石丸先生も猫背から気をつけの姿勢に。表情もよみがえった。
「助かった!」
水を差すように、廊下から40代の整形外科の医者が現れた。
「石丸先生!」
「はい!」
「オペ後の患者、これ心不全じゃないのかね?」
整形の医者はレントゲンを天井にかざした。
たしかに両肺の透過性が低下している。
「これだけでは・・」
「術後管理はくれぐれもお願いします、と言ったはずだが。君は≪はい、わかりました≫と」
「きょ、今日はまだ診てなくて・・」
「おい。オペはうまくいったがその後がこんなんじゃ、僕のメンツが!」
「すみません」
「どうするんだ?え?」
「もも、申し訳ありません・・・!」
「研修医上がりでこんな忙しい病院に来るからだよ!はっははは」
周囲のざわめきが、一瞬にして止んだ。それでもその整形の医者は面白がった。
「なに?ちょっと怖かった?これでもまだ昔は・・」
彼の持っていたレントゲンが、突然奪われた。
「あっ?」
後ろでトシキ先生がレントゲンを天井にかざした。
「・・・・・輸液は?先生」
「はう・・・」
ビビッた整形の医者は、カルテを震えた手で差し出した。
「こ、これ・・」
トシキ先生はカルテを空中で一回転させ、表紙と裏を逆にした。
「・・・・・栄養不足だよ。単に」
「栄養不足・・」
石丸先生は嬉しそうにトシキ先生を見上げていた。
「輸液を決めたのは整形の側ですよね」
「え、ええ」
「先生はオペ以外、今後指示は出さないほうがいいと思う」
「こ、このレントゲンは・・」
「もういい。話にならない。やりますから、あとは」
「おお、お願いしますよ」
「ただし家族にはきっちり話はしておきます」
トシキ先生はしっかりと釘を刺した。
整形の医者は足早に去っていった。
トシキ先生は就任3年目で、病院の売り上げ2年連続ナンバー1を誇っていた。
内科医長ではなくとも、実際の病棟の権限は彼が握っていた。
「シロー。しばらく」
「先生!先生!よくぞお帰りで!」
石丸先生は抱きつかんばかりに歩み寄った。
「急変とか、あったか?」
「当直帯で何件かありました。先生の患者では1件も」
「だろうな。指示は出してた」
「さすがです」
「外来は?」
「そ、それが・・」
彼は言葉を濁した。
「ま、最初はそうだ。俺もそうだったし」
「すみません」
「その癖、やめなよ」
「は、はい」
「謝るのは自分を不利にするだけだ」
「大事な言葉です」
「俺のもとオーベンだった医者が言ってた」
「いくつか先生、ご相談よろしいでしょうか」
「ああ。聞こう」
病棟業務を終えて、彼らは医局へ戻った。
「先生。挿管チューブの入れ換えはいつ?詰まりかけなんですけど」
「採血、取れませんので先生がしてください」
「熱がいっこうに下がらないんですけど」
「バルーンの挿入部から出血が」
「待ってくれ!聖徳太子じゃない!」
彼は15冊ほどの入院カルテを抱えていた。
婦長はひとり端っこに座り、勤務表作りに励んでいる。
「ぜえんぶ、石丸先生の患者ですよ」
「わかってますよ」
「キッズ」が2人、入ってきた。
トドロキ医長は妙に深刻そうだ。
「みんな注目!アイツが帰ってきたぞ!」
いきなり職場の動きが慌しくなってきた。
婦長でさえも立ち上がった。
石丸先生も猫背から気をつけの姿勢に。表情もよみがえった。
「助かった!」
水を差すように、廊下から40代の整形外科の医者が現れた。
「石丸先生!」
「はい!」
「オペ後の患者、これ心不全じゃないのかね?」
整形の医者はレントゲンを天井にかざした。
たしかに両肺の透過性が低下している。
「これだけでは・・」
「術後管理はくれぐれもお願いします、と言ったはずだが。君は≪はい、わかりました≫と」
「きょ、今日はまだ診てなくて・・」
「おい。オペはうまくいったがその後がこんなんじゃ、僕のメンツが!」
「すみません」
「どうするんだ?え?」
「もも、申し訳ありません・・・!」
「研修医上がりでこんな忙しい病院に来るからだよ!はっははは」
周囲のざわめきが、一瞬にして止んだ。それでもその整形の医者は面白がった。
「なに?ちょっと怖かった?これでもまだ昔は・・」
彼の持っていたレントゲンが、突然奪われた。
「あっ?」
後ろでトシキ先生がレントゲンを天井にかざした。
「・・・・・輸液は?先生」
「はう・・・」
ビビッた整形の医者は、カルテを震えた手で差し出した。
「こ、これ・・」
トシキ先生はカルテを空中で一回転させ、表紙と裏を逆にした。
「・・・・・栄養不足だよ。単に」
「栄養不足・・」
石丸先生は嬉しそうにトシキ先生を見上げていた。
「輸液を決めたのは整形の側ですよね」
「え、ええ」
「先生はオペ以外、今後指示は出さないほうがいいと思う」
「こ、このレントゲンは・・」
「もういい。話にならない。やりますから、あとは」
「おお、お願いしますよ」
「ただし家族にはきっちり話はしておきます」
トシキ先生はしっかりと釘を刺した。
整形の医者は足早に去っていった。
トシキ先生は就任3年目で、病院の売り上げ2年連続ナンバー1を誇っていた。
内科医長ではなくとも、実際の病棟の権限は彼が握っていた。
「シロー。しばらく」
「先生!先生!よくぞお帰りで!」
石丸先生は抱きつかんばかりに歩み寄った。
「急変とか、あったか?」
「当直帯で何件かありました。先生の患者では1件も」
「だろうな。指示は出してた」
「さすがです」
「外来は?」
「そ、それが・・」
彼は言葉を濁した。
「ま、最初はそうだ。俺もそうだったし」
「すみません」
「その癖、やめなよ」
「は、はい」
「謝るのは自分を不利にするだけだ」
「大事な言葉です」
「俺のもとオーベンだった医者が言ってた」
「いくつか先生、ご相談よろしいでしょうか」
「ああ。聞こう」
病棟業務を終えて、彼らは医局へ戻った。
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